福井県にみる、働く女性の多さが女性の生きやすさと直結しない理由

共働きも正社員も多い。だけど……

少し前に福井県に行く機会があったので、福井の働く女性の状況を調べてみた。

興味深いことがいくつかあった。

福井県は働く女性が多く、共働きも多い。だからといって、ジェンダーの観点から福井県が進んでいるというわけでもなさそうなのだ。

特にひっかかったのが、「結婚応援企業」という、福井県が力を入れている施策だった。

 

女性の労働力人口比率全国トップ(52.2%)、共働き率全国トップ(56.8%)、女性の正規雇用比率2位(54.8%)、育児中の女性の有業率3位(72.1%)……。

今年3月、県がまとめた第3次福井県男女共同参画計画(http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/joseikatuyaku/danjoplan3.html)にはすばらしい数字が並んでいる。

福井県は、働きながら子育てしたい女性にとっては理想的な場所のように見える。

 

だが、意外な数字もある。

企業の管理職に占める女性の割合は11.3%で、全国36位にすぎない(2012年総務省就業構造基本調査)。

女性がたくさん働いているなら管理職も多そうだが、決してそうはなっていない。

 

 

少ない女性管理職、賃金格差も大きく

賃金格差も大きい。

金井郁埼玉大学准教授の論文によると、基本給を男女で比べたところ、全国平均は女性が男性の69.1%なのに福井県は 67.4%で、全国平均より低い。

女性の平均賃金が低いのは、一般的には非正規雇用の割合が高いことが大きな要因とされるので、福井県のように女性の正社員比率が高ければ賃金格差も小さくなりそうだが、実際は逆なのだ。

性別役割分業意識の内閣府調査をみても、福井県民の意識は全国平均とほぼ同レベルだ。

 

一方で、こんな数字もある。

女性の生涯未婚率は5.64%で、全国で最も低い。

合計特殊出生率は1.63で全国10位。三世代同居率は17.5%、全国2位と高い。

 

つまり、こういうことらしい。

福井県の産業構造は、第2次産業の割合が高い。工場などでの働き口がたくさんあり、女性の正社員比率が高い。

結婚する人が多く、子どもが生まれても三世代同居が多いので子どもの祖父母(おそらく多くは祖母)に面倒を見てもらえる。

女性が世帯の稼ぎ手の一人としてあてにされているということかもしれない。

ただ、女性が男性並み(?)に働いて同じ程度に賃金を稼ぎ、出世することは期待されていないし、企業組織がそのような構造にはなっていない。

表面的には男女の差別が少ないように見えても、構造的な差別が岩盤のように存在しているということではないだろうか。

 

 

気になる施策「結婚応援企業」

そこで気になるのが、福井県が力を入れている「結婚応援企業」という施策だ。

県庁のエントランスホールには、登録企業200社の社名がずらっと掲示されている。

社内に「職場の縁結びさん」をおき、希望する独身社員に婚活イベントを紹介したり、県が提供する結婚に関するポスターを社内に掲示したりする制度だ。

https://www.fukui-konkatsucafe.jp/support-list.php

 

「結婚応援企業」

「結婚応援企業」

 

県の取り組みは、政府が少子化対策で婚活を奨励し、自治体の婚活イベントに交付金を出したりしているのを受けたものだろう。

だが、言うまでもないことだが、職場には独身でいたい人もいるだろうし、性的志向の違いにより異性との結婚を望まない人もいるだろう。

そういう人たちの中には結婚への圧力を感じ、居心地の悪さを感じる人もいるだろう。

現に、私の福井県在住の知人は、強い違和感を口にしていた。

 

職場というのは上下関係が存在し、簡単には逃げ場のない組織だ。

そこでの結婚圧力を強めるのは、東京都議会での2014年のセクハラヤジ事件を持ち出すまでもなく、「結婚する・しないは自分で決める」という、これまでの女性運動が獲得してきた成果を後退させるものではないだろうか。

それに、女性の生涯未婚率が全国最下位なのに、そもそも独身の女性がそんなにたくさんいるのかとも思う。

 

 

「パパの子育て」CMへの疑問

なお、県の「いいね!結婚ふくい」というキャンペーンのCMには「パパの子育てエピソード編」がある。

15秒の短いCMで、「パパの子育て」といいつつセリフで出てくるのは「ママの手料理」なのが不思議である。

https://www.fukui-konkatsucafe.jp/movie-list-s.php?id=00000003

 

「パパの子育て」CM

「パパの子育て」CM

 

福井県はもちろん、女性活躍推進や女性リーダーの育成にも施策として取り組んでいる。

だがもう一つ気になるのは、県の男女共同参画計画で目指す目標として描く「職業生活において、男女が互いに優れた特性を認め合い、その能力を最大限に発揮することのできる社会」という文章である。

 

ここでは男女に「特性」の違いがあることが前提となっている。

「これが女性の特性だ」といった言葉に、女性たちがどれほど苦しみ、可能性を狭められてきたかを考えると、「特性」という言葉はめったなことでは使えないはずである。

 

念のために書き添えると、福井県の取り組みを批判することがこのコラムの狙いではない。

他県でも多かれ少なかれ似たような取り組みをしていることだろう。

強調したいのは、男女差別の解消を考える時、一部の数字を見るだけでは不十分だということと、どのような視点を持って施策にあたるのかが重要だということである。

女性一人ひとりが本当に生き生きと自分らしく暮らし、その能力を発揮しているかを、それぞれの場でていねいに考えていかなければならないと痛感している。

ジャーナリスト 林 美子(はやし よしこ)

2016年まで朝日新聞記者。労働やジェンダーの分野を中心に取材、執筆活動を続ける。早稲田大学ジャーナリズム研究所招聘研究員。