「この記事、ヘン」をなくすために

動画やCMの「炎上」続く

 

自治体や企業の広告が、ジェンダーの視点から問題があるとして批判を集める事例が相次いでいる。宮城県が壇蜜さんを起用した観光PR動画や、サントリービールのCMが炎上した件は記憶に新しい。新聞や雑誌の記事でも、「この表現なんかヘン」「視点がおかしい」と感じることが時々ある。一方で、それらの批判に対する「表現の自由に枠をはめるな」といった反発も少なくない。

9月9日、東京都内で、「ジェンダーとメディア ステレオタイプを超えて」というシンポジウムが朝日新聞ジャーナリスト学校の主催で開かれた。以前から強い関心を抱いているテーマで、親しくしている元同僚たちが企画に関わっていたこともあり、のぞいてみた。

朝日新聞は、ジェンダー表現については早くから取り組んでいるメディアの一つである。2002年には社内向けの「ジェンダーガイドブック」を作成し、男女のどちらかに偏ったり性別役割分業を固定化したりする表現や言葉への注意を促した。その後、「女医」「内助の功」といった言葉や「夫が家事に『協力』」といった表現はかなり姿を消した。

 

「パパさんアスリート」とは言わない

 

だが、問題になるような表現はまだまだ続いている。たとえば、私が朝日新聞を辞める1、2年前のこと。育児を経て現役復帰をした女性のスポーツ選手に関する記事の見出しに「ママさんアスリート」という言葉があったのに驚き、筆者に問い合わせたことがある。「スポーツ記事ではよく使っている」との返事だったが、「『パパさんアスリート』とは決して言わないのでは」と指摘すると納得してくれた。

2016年8月にも、朝日新聞読書面で、壇蜜さんが女子中学生の悩みに回答した内容が問題になった。回答は「困った男子には『大人』な対応で」の見出しで、「悪ふざけには貴女の『大人』を見せるのが一番だと考えます。次に見せて触らせてと言ってきたら、思いきってその手をぎゅっと握り『好きな人にしか見せないし触らせないの。ごめんね』とかすかに微笑んでみてはどうでしょうか」と記している。

「セクハラは人権侵害である」という視点がここにはない。「文章が面白ければいい」といった次元の話ではない。セクハラ被害に困っている女性がこの回答を読んだら、「大人な対応」ができない自分を責めることになりかねない。私自身も、若い時にセクハラを受けて、「大人な対応」をすべきなのかとうじうじ悩んだことがあるのでひとごとではない。問題は、壇蜜さんがそのような回答を書いたことではなく、その回答を掲載した朝日新聞の判断である。

 

朝日新聞が「ジェンダーガイドブック」を作成

 

朝日新聞は今年、新たなガイドブックを作成し、9日のシンポジウムで概要版を公開した。「女性ならではの目線」といった「その性が持っている特質」を限定するような表現は避ける、対談形式の記事でいつも「教えるのは年長の男性で教わるのは若い女性」という構図にならないようにする、といった実例が並んでいる。

概要版は10ページ程度で、やや物足りない。せっかく作ったガイドブックなので、ぜひ全体版を公開してほしい。一度世に出た記事は読者のものであり(著作権は新聞社にあるが)、それをもとに議論を深めるのは望ましいことだと思う。また、このガイドブックは様々な実例を分類しているものの、「なぜこのような表現が記事になってしまったのか」という分析はない。記者や編集者個人の考え方に分け入っていくので簡単なことではないが、今後改善していくためには必要な作業なのではないか。

こういった議論では必ずといっていいほど、「言葉狩りだ」「表現の自由の侵害だ」「あまり厳しくすると表現の幅を狭める」といった反論が出る。表現の自由が非常に重要な人権であることは言うまでもない。だが、表現の自由を行使することで誰かの人権を侵害する権利は誰にもない。極端な例がヘイトスピーチである。漠然と「世の中に受け入れられ、波風が立たなければいい」という話ではない。だからこそ、多くの人が議論を重ねることを通じ、何が問題なのか、どういう視点が必要なのかについての共通認識を社会に広げていくことが重要なのだと思う。

ジャーナリスト 林 美子(はやし よしこ)

2016年まで朝日新聞記者。労働やジェンダーの分野を中心に取材、執筆活動を続ける。早稲田大学ジャーナリズム研究所招聘研究員。