AVへの出演強要問題は、社会のゆがみの反映である

11月30日の院内集会「いまも続くAV出演強要被害:被害根絶をめざして」での

配布資料と、宮本節子著「AV出演を強要された彼女たち」

 

 

政府が対策、止まらぬ被害

 

「グラビアモデルにならないか」などと誘われて、行ってみたらアダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられた。そんな被害が社会の注目を集めるようになったのは2年ほど前からだ。支援団体が被害の報告書を発表したり、警察がプロダクションを摘発したりして報道が増えた。政府は今年4月に緊急対策として啓発活動などを実施。業界側も出演強要を防ぐ仕組みづくりに乗り出し、この問題は山を越えたかに見えた。

 

ところが、その後も被害は止まっていなかった。11月30日に支援団体が開いた集会での報告によると、昨年1年間の相談件数は100件、今年も11月末までで94件と、昨年並みの水準だ。路上のスカウトは警察の取り締まりで姿を消しても、「グッズモニター」「デッサンモデル」などの募集広告のホームページを見て事務所を訪れ、被害に遭う事例が続いているという。

 

11月30日に開催された院内集会「いまも続くAV出演強要被害:被害根絶をめざして」

 

システムとして存在する「搾取」

 

私は記者だった3年前、支援団体の一つ、ライトハウスの藤原志帆子代表に話を聞いたのを機にこの問題の取材を始めた。一番難しかったのが、被害を受けた当事者の女性に話を聞くことだった。昨年、ようやくお会いできた最初の女性の話はあまりに深刻で、決して忘れられない内容だった。彼女を出演契約に持ち込む作戦は巧妙で、その後も彼女が逃げ出さないよう様々な手段を用いて撮影に縛り付けた。しかも、ようやく撮影現場から逃れても、誰にも見られたくない自分の映像がネット上に残り、いつだれにそれを見られてしまうかわからない恐怖が続くのだ。

 

この問題は、人の命を奪う殺人に続く、現代の日本社会における究極の人権侵害の一つだと私は思う。若い女性に衆人環視の下で無理やり性交させ、しかもその映像を販売することで経済的な利益を得る。それが殺人のような一人または複数の人間による孤立した行動ではなく、システムとして存在しているのだ。まさに現代の日本国内における人身取引であり、「搾取」という言葉があてはまると思った。詳しくはぜひ、宮本信子著「AV出演を強要された彼女たち」(ちくま新書)を読んでほしい。

 

 

問題のすりかえと被害者バッシング

 

だが、この問題では必ずといっていいほど「多くのAV女優は自分の意志で出演している」「AV業界への偏見を強化するな」といった反論、批判が出る。被害の当事者として証言活動をしているユーチューバ―のくるみんアロマさんは、AVへの出演をいやがった時、「職業差別だよね」と言われたという。これは問題のすり替えである。いやなものをいやだと言うことは差別ではない。したくもない相手、環境の中での性行為を強要し、その映像を本人の意思とは別に販売しネットに流すのはだめだということなのである。

 

また、被害者へのバッシングも必ずといっていいほど起きる。11月末の集会でのくるみんさんの発言によると、被害をカミングアウトしたあとの3日間でツイッタ―に約1千件のコメントがあり、ほとんどは「自業自得だ」といった嫌がらせだったという。くるみんさんはそれでも、集会などで被害を伝える発言を続けている。「これ以上女の子が傷つくのがいや。大きな社会問題として考えてほしい」からだという。

 

報道などでも「若い女性の無知に付け込んで」といった言い方を目にする。まるで、「無知」だった被害者にも落ち度があるかのような表現ではないか。だが、オレオレ詐欺の被害に遭ったお年寄りを、「うかつだったあなたも悪い」と責めることはほとんどない。路上でひったくりに遭った人を「あなたのカバンの持ち方が悪かった」と批判することもほぼない。

 

11月30日の院内集会で発言するくるみんアロマさん

 

特殊な問題ではない

 

性被害になるととたんに被害者がバッシングを受けるのは、性において男女の力関係が非対称であることが背景にあると思う。被害者の側から声を上げることは、本来下位の存在であるべき被害者から加害者への攻撃であって、加害者の意識の中では自分が攻撃を受けた被害者になるという「加害と被害の逆転」が起きる。そして、多くの男性(時には女性も)が、加害者の側に立ってものごとを考えてしまう。これについては、前々回のコラムで紹介した斉藤章佳著「男が痴漢になる理由」(イースト・プレス)が、痴漢の事例を中心に詳しく説明している。

 

性被害については、「減るものじゃない」というひどい言い方もある。だが、性感染症などの身体的な被害にとどまらず、被害者の心や人生は大きく傷つき、そこからの回復は難しい。AV出演被害だけではない。レイプ、痴漢、セクシュアル・ハラスメントなど、あらゆる形態の性被害で、被害者には何らかの傷が残る。「減る」のである。

 

私たちの社会では、性というものを軽く考え、そこにいる人を丸ごと一つの人格として捉えずに「性」という部分でしか見ない、しかもそこには女性への差別意識がしみとおっている、そんな場面が少なくない。そういったゆがみが凝縮して社会の裂け目から噴出したのが、この問題なのではないか。その意味で、AV出演被害は特殊な業界における特殊な問題なのではない。このコラムで語りきれなかった論点も少なくない。この社会の一員である限り、自分自身とも地続きの問題として考えていかなければならないと、私は思っている。

 

ジャーナリスト 林 美子(はやし よしこ)

2016年まで朝日新聞記者。労働やジェンダーの分野を中心に取材、執筆活動を続ける。早稲田大学ジャーナリズム研究所招聘研究員。