メンタルヘルス不調0へ ー震災と復興、そして自治体職員ー

被災地における自治体職員のメンタルヘルス問題

 

東日本大震災のような大規模な災害が発生したとき、被災住民のメンタルヘルスに関する問題と同時に、支援者の疲弊やトラウマが問題となることは少なくない。

とくに消防隊員や自衛隊員のような、急性期に災害対応で被災地に赴かなければならない支援者のメンタルヘルス上の問題は大きい。

これは、しばしば「惨事ストレス」というような専門用語で表される。

ただ同時に、震災後数ヵ月以上経過した場合を想定すると、もっとも精神的負担が大きくなるのは、被災自治体で日常的に復興業務に携わっている自治体職員である。

しかしながら、消防隊員や自衛隊員など急性期支援者と違い、こうした復興期の支援者の問題は今まで焦点が当てられることがなかった。

ありていに言えば、同じ公務員とは言っても、前者はヒーローになり得るが、後者は批判されることはあっても賞賛されることは滅多にない。

 

そもそもなぜ復興期の被災自治体職員は、精神保健上の問題となるような疲弊に陥りやすいのだろうか。

第一に、急性期支援とは異なり、復興期は長く、終わりが見えづらい。

第二に、もともと地方自治体では人的余力もなく、ローテーションの余裕もない。とりわけ震災の影響を受けやすいのは小規模自治体であるため、継続的支援も受けづらく、こうした人的資源の乏しさは後々まで尾を引く。

第三に、地方自治体のほうが地域被災住民との関係が濃厚なため、住民の不安、苦情や不満、怒りに晒されやすい。つまり、賞賛どころか非難されることのほうが多い。

第四に、(これは自治体職員に限ったことではないが)一旦支援者の役割を担うと、なかなか助けを求められなくなる。「住民も頑張っているのにつらいなどとは言えない」などと弱音を吐けない。平時における公務員批判が、このような復興期においても見られることもある。さらには、休みを取りたくても地元住民の目があるため休息も取りづらい。

 

最後に、忘れてはならないことがある。そもそも、自治体職員自身が被災者であることが少なくないということだ。

しかし多くの場合、職員は自らの被災者性は忘れて働かざるを得ない。職務を果たすことと、被災者として振る舞うこと、これらはしばしば対立し、葛藤を生む。

しかし、そこから逃げるわけにはいかない。なぜなら、それは住民を見放すことを意味するからである。こうして、退職するか、病気休職するまで、この葛藤は続くのである。

 

筆者が働いているこの福島でも、多くの自治体職員が疲弊し、病を患い、場合によっては退職したり、自殺に追い込まれたりしている。

実際に我々の被災自治体職員の面接調査でも、うつ病罹患職員は約18% に及んでいる(Maeda et al,2017)。

これは、医学的にとんでもなく高い数字である。

また、こうした結果は福島に限ったことではない。東北大学が行った宮城県の自治体職員調査でも精神保健上の問題を抱えた職員の割合は、仮設住宅等に避難している被災住民よりも倍近く高かった(Sakuma et al, 2016)。

こうした復興期の自治体職員へのメンタルヘルス調査はごく少数で、今般の東日本大震災でようやく系統的に行われるようになり、医学的にも着目されるようになったのである。

 

 

被災自治体職員がきちんと休めるように

 

さて、では復興期における自治体職員のメンタルヘルスケアはどうしたらよいだろうか。

平時であれば、こうした問題はまずは職員自身でケアをする、あるいはラインでケアをするのが常套である。

しかしながら、被災自治体においては、とりわけ福島のように復興過程が長期化している被災自治体においては、セルフケアやラインケアのみで対応することは難しい。

たとえば平時であれば、こうした役割を担う保健師が、震災後には被災住民の対応に追われ、疲弊の極みにある。

しかしながら自治体は、(税金で運営されていることもあって)宿命的に自らの支援を外部に要請しづらい。

その結果、自治体自身が反撥力(レジリエンス)や柔軟性を失い、問題を抱えたまま復興への困難な歩みを進めることになる。

 

一方で、外部支援にも問題がある。

多くの支援組織は被災住民のケアに追われ、あるいは予算上の制約もあって、支援者支援に振りむける余力がない。

復興期における支援者支援を考える場合、この点がもっとも重要な課題である。

筆者は、こうした復興期の問題を考えると、一定規模以上の災害の場合、住民支援の一環として支援者支援を行うのではなく、支援者支援のための専従的な組織が必要と考える。

ただ残念ながらそうした組織、被災地に根ざした支援者支援組織は、筆者が知る限り本邦ではつくられたことがない。

こうした組織をいかにつくるかが、今後の復興期支援の大きな課題である。

 

被災地住民へのトラウマケアは、「こころのケア」として、試行錯誤ながらも一定の評価を得、国民の意識に定着した感がある。

その一方で、復興期の自治体職員支援は未だ国民の理解を得ているとは言いがたい。

被災自治体職員へのケアを考えた場合、何よりも必要なのは、被災地住民の理解はもとより、国民の理解である。

先に紹介した東北大学の調査では、被災地の消防隊員は、意外にも避難住民よりもむしろ精神保健状況はよかった。

ケアのあり方もさることながら、彼らの労苦に対しては住民の理解が得られたことが大きいのではないかと類推する。

しかしながら忘れてはならないのは、消防隊員や自衛隊員でさえ、ほんの20年前はまったくこうした理解や認識の対象外であったことだ。

たとえば御巣鷹山のジャンボ機墜落事故の際、救助や遺体回収に赴いた自衛隊員や消防隊員は、およそこの世のものとは思えない凄惨な現場を体験した。

しかし彼らのメンタルヘルスに関しては、調査されることも、そのケアの重要性が着目されることもなかったのである。

 

最後に、現在被災地で働く自治体職員に伝えたい。

うまくいかないことも、ままならないことも、また自分を責めることも多いと思う。

しかし災害からの復興はまだ先が長い。自分の身体に気を遣い、きちんと休んでほしい。

自治体職員の精神保健を維持することは、職員自身の問題にとどまらない。

自治体職員が倒れては、復興が進まない。

自分自身のためにはもちろん、被災地の住民のためにもきちんと休んでほしいと思う。

福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座 主任教授 前田 正治

1984年3月 久留米大学医学部卒業
1996年9月 久留米大学精神神経科講師
2007年10月 久留米大学医学部精神神経科准教授
2013年10月 福島県立医科大学医学部・災害こころの医学講座 主任教授