過労死・過労自死の予防と労働組合の関わり

はじめに

過労死・過労自死(以下2つを合わせて「過労死等」といいます)は、さまざまな影響をもたらす深刻な問題です。

過労死等があった場合の遺族や職場の仲間の悲しみは限りないものです。また、一家の大黒柱に過労死等が起こると、残された遺族の経済的な問題が発生します。

過労死等は、職場の労働環境が原因で起こります。職場の労働環境をよく知るのは現場の労働者や労働組合です。

そこで、今回は、過労死等を防止するために、労働組合ができることについて考えてみたいと思います。

 

 

過労死・過労自死の現状

 

『平成28年版過労死等防止対策白書』によると、日本の就業者の脳血管疾患、心疾患、大動脈瘤および解離による死亡数は、減少傾向ですが、2010年度には3万人余りとなっています。

また、日本の自死者は、1998年以降14年間連続して3万人を超えていましたが、2010年以後減少が続き、2015年には2万4000人余りとなっています。

原因・動機別にみると、勤務問題が原因・動機の1つであるケースは、2015年は2159人となっています。

 

次に、労災申請・労災認定の点でみてみます。

業務における過重な負荷により脳血管疾患または虚血性心疾患等(脳・心臓疾患)を発症したとする労災請求件数は、過去10年余りの間、700件台後半から900件台前半の間で推移しています。

支給決定(認定)件数は、2006年度から2008年度は300件台後半でしたが、それ以降は200件台後半から300件台前半の間で推移しています。

死亡件数は、ここ数年間は90件台から100件台前半で推移しています。

なお、2015年度における脳・心臓疾患の請求件数は795件で、支給決定件数は251件(うち死亡96件)でした。

 

また、業務における強い心理的負荷による精神障害を発病したとする労災請求件数は増加傾向にあり、支給決定(認定)件数は、2010年度に300件を超え、2012年度以降は400件台で推移しています。

2015年度における請求件数は1515件で、支給決定件数は472件(うち未遂を含む自死93件)となっています。

地方公務員の公務災害の受理件数については過去10年間を見てみると、脳・心臓疾患は24件から61件の間で、精神疾患等は40件から75件の間で推移しています。

認定件数については、脳・心臓疾患は9件から21件の間で、精神疾患等は15件から37件の間で推移しています。

 

 

過労死等の予防と法整備

 

過労死等の原因を排除するという観点からは、1次予防が最も重要です。

1次予防とは、疾病についての正しい知識を普及させたり原因を取り除いたりすることにより、疾病の発生自体を予防することです。

以下、1次予防に関係する法令や厚労省の指針・通知について紹介します。

 

⑴労働基準法関係

長時間にわたる過重な労働は、過労死等の最も重大な要因になっています。

長時間労働に関する規制には以下のようなものがあります。

労基法では、使用者は労働者に対して1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならないことになっていて(同法32条)、これを超えて労働させる場合は、36協定を締結する必要があります(同法36条)。

36協定なく時間外労働を行わせた場合や36協定を超えて時間外労働を行わせた場合は使用者に刑罰が科されます(同法119条・121条)。

(もっとも、非現業地方公務員の場合、33条3項の定めによって「公務のために必要がある場合」は労働時間の延長ができるとされていますが、臨時の必要の限度を超えて延長労働を命ずることができないことは当然です)

 

また、厚労省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(平成13年4月6日付け基発第339号)という通達を出しています。

これは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにすることにより、労働時間の適切な管理の促進を図ったものです。

なお、2017年には新たに、労働時間の適正な把握のための使用者向けのガイドラインが策定されています。

 

 

⑵労働安全衛生法

1次予防のためには労働安全衛生措置も重要です。

労働安全衛生法は、作業の内容等をとくに限定することなく、同法所定の事業者に対して、労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めています(同法65条の3)。

また、労働安全衛生法では、政令で定める規模の事業場ごとに、労働者の健康障害の防止や、健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること等について調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならないこととなっています(同法18条1項)。

さらに、2015年には、同法が改正されストレスチェック制度が導入されました。

 

⑶自殺対策基本法

自殺対策基本法では、事業主は、国及び地方公共団体が実施する自殺対策に協力するとともに、その雇用する労働者の心の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとするとされています(同法4条)。

 

⑷過労死等防止対策基本法

過労死等の予防について、直接的なものとして過労死等防止対策基本法があります。

これは、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として制定されたものです。

同法の中では、過労死等の防止のための対策として、国等が①調査研究等、②啓発、③相談体制の整備等、④民間団体の活動に対する支援を行うことが規定されています。

さらに、同法の中では、政府が過労死等の防止のための対策に関する大綱を定めなければならないことも規定されています。

 

 

労働組合が過労死等にいかに関わるか 「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の定め

過労死等に対する労働組合の関わりについて、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下「大綱」といいます)では、労働組合等の主体が取り組むべき重点的対策が明示的に定められています。

また、それ以外にも、大綱には、労働組合が取り組むべき対策についてのヒントが書かれています。

 

⑴ 労働組合等の主体が取り組むべき対策

大綱には「労働組合においても、労使が協力した取組を行うよう努めるほか、組合員に対する周知・啓発や良好な職場の雰囲気作り等に取り組むよう努める。

また、労働組合及び過半数代表者は、この大綱の趣旨を踏まえた協定又は決議を行うよう努める」とあります。

過労死等の防止という目標については、使用者と労働組合が積極的に協力するべきでしょう。

 

また、「組合員に対する周知・啓発」については、労働組合が率先して学習会等を行うことが良いと思われます。

「良好な職場の雰囲気作り」に関しては、労働組合が学習会やイベント等を開催することを通して、達成させることが考えられます。

 

また、良好な雰囲気の職場が作られるためには、ハラスメントがあってはなりません。

ハラスメント防止に関しても、労働組合が相談窓口を作ることも有効な対策だと思います。

さらに、労働組合は、使用者と「大綱」の趣旨を踏まえた協定又は協議を行うことになります。

「大綱」に「将来的に過労死等をゼロとすることを目指し、平成32年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下、年次有給休暇取得率を70%以上、平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする目標を早期に達成することを目指す」とあるので、このことを基調に、具体的に協定・協約を詰めていくとよいでしょう。

 

⑵その他の対策

先に述べた衛生委員会(安全衛生委員会)では、委員の半数が過半数労働組合や労働者代表から推薦されることになっています。

労働組合は、衛生委員会(安全衛生委員会)を通じて、過労死等の防止を図ることができます。

 

また、組合が講じた対策があまり効果を上げていない(ことの自覚をできていない)ということもあり得ます。

自治労では、隔年で労働安全集会を開催しており、各労働組合の安全衛生の担当者は、可能な限り労働安全集会に参加して、労働組合間で各々の取り組みを参考するとよいでしょう。

 

おわりに

過労死等は誰にでも起こり得る問題です。

しかも、過労死等は職場環境から起こるので、一度過労死等が生じたら次々と発生することがありえます。

職場について最も知っているのは職場の労働者、ひいては労働組合です。

労働組合が、過労死等を防止するための役割を果たせるよう願って止みません。

細川 潔

自治労顧問弁護士