【対談】企業の税免れが公共サービスの質を落としている(前編)

【対談】ジャン・クリステンセンさん(TJN)× 田中総合企画総務局長

大企業や富裕層が「タックスヘイブン」という租税回避地を利用して、本来払うべき税金を払っていない。

その実態は2016年に「パナマ文書」により世界中で明らかになった。その分析に助言協力をした、国際非政府組織「タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)」の代表ジャン・クリステンセンさんが来日したのにあわせ、自治労本部の田中総合企画総務局長(国際局長兼務)と意見交換をした。

※(2016年10月27日 自治労本部にて実施)

 

経済の回復には公共部門への投資しかない

田中    日本では、国と地方の借金が非常に増えています。2016年の6月末時点での「国の借金」の残高は1053兆4676億円で、人口(1億2699万人、概算値)で単純計算すると、国民1人あたり約830万円の借金を抱えていることになります。

このような中、財政難を理由に地方公務員の総数は減らされ、職員の非正規職員への置き換えや、公的部門の民営化が止まりません。

一方で、財源不足の主な原因が「租税回避」にあるというクリステンセンさんの指摘は、極めて重要と受け止めておりますが、この課題に対する認識はまだ広がっているとは言えない状況です。どうつくり始めたらいいでしょうか。

 

クリステンセン    公務員の仕事が減らされ、仕事の質も下がり、社会保障の質が落とされているのは、英国やほかの国でも同様です。各国の公共サ―ビス民営化 の状況を観察していると、質の高い雇用や質の高いサービスには結びついていない。公共サービスの質の確保とそこに従事する労働者保護の観点からも、公共サービスは守られるべきです。

 

マクロ経済的視点では、OECD加盟国など多くの先進国の状況をみると、民間部門の問題は、投資と需要が不十分であることと考えられています。これに対し、各国政府は「投資は必要」という観点から、民間企業にとって有利な形で投資を促す政策が行われています。その一環として私たちは「底辺への競争」と言っていますが、世界中で「法人税の引き下げ競争」が起きています。

 

その国の経済に有効に機能したことはありません。内部留保が増え、一部の株主、管理職の報酬の引き上げなどにつながっただけで、一般社会における需要の増加につながっていません。経済の需要拡大をはかるのに、唯一の手段は公的部門への投資しかないのです。実際、イギリスの新しい政権では、緊縮財政政策から、公共部門に対する政府の集中した投資へと政策を転換しています。

 

イギリスが緊縮財政政策をとったことによって、公的な借金は減りませんでした。緊縮財政政策がとられることによって社会保障などの質が下がるわけですから、一般家庭は医療費などにお金がかかるため消費を控えます。当然のことながら、民間企業の方も投資を控え、結局内部留保が積み上がるだけになってしまいます。こうした状況についてはIMFもOECDも事実として認めています。

 

つまり、「法人税の引き下げ競争」はマクロ経済的にはまったく意味をなしていません。日本でもぜひ「法人税の引き下げ競争」、租税回避に反対するキャンペーンをしていただきたいです。労働組合も含めた市民社会が、国際社会に対して運動を強力に展開することにより、政治的な圧力となって問題の解決につながるのです。

 

日本の企業は欧州や北米の会社に比べ、租税回避を積極的に行っていません。日本が反租税回避の運動を展開することは、日本の企業にとっても良いことです。欧米の会社が租税回避をしていることによって、日本の企業の競争力が相対的に下がり不利な状況に置かれているからです。

 

日本はG7、G20において大変重要な役割を担えると考えています。日本が貿易立国であり、グローバルな貿易に頼って経済が成り立っている国という前提でいうと、この状況を解決しないと、日本の市場におけるシェア自体どんどん失われていくことでしょう。

 

田中    大変興味深い話です。日本でも法人税引き下げによる大企業優遇政策の結果、企業の内部留保が増えている。

まさに、同じ現象が起きています。租税回避による財源不足の影響を、ダイレクトに受ける私たち行政内部の労働組合の役割が重要になってくるわけですね。

 

※後編は3月27日(月)に更新


kimura-150x150タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)代 表
ジャン・クリステンセン

1956年、イギリス王室属領ジャージー島生まれ。ジャージー島で大手会計事務所を経て政府の経済アドバイザーとして勤務。2003年「タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJ N)」を創設。現在ネットワークは80か国以上に広がっており、調査研究と各国政府、国際機関への働きかけを行っている。