【対談】企業の税免れが公共サービスの質を落としている(後編)

【対談】ジャン・クリステンセンさん(TJN)× 田中総合企画総務局長

 

租税回避によって得た利益は賃上げにつながらない

田中    自治労は連合内では2番目に大きい組織です。しかし、連合内で公共部門の労働組合は2割程度で少数派です。民間企業は利益を上げる目的で租税回避を活用するので、この課題について連合内の民間労組とどのように連携していけばいいのでしょうか。

 

クリステンセン    TJNの調査によると、租税回避を行った民間企業が税逃れをした結果、そこの労働者の給与が上がったことは、まずありません。とくにアメリカではこの傾向が明らかです。少なくとも横ばいか給与が下がることもあります。では租税回避によって納税を免れたお金はどこにいったのか?

 

租税回避で余ったお金は、租税回避地(タックスヘイブン)に設置された他国の小会社にシフトされて、本国内での利益が上がっていないようにみせているのです。そして、結果として本国内で働いている人の給与も下がってしまうのです。

 

とある製造業関連のグローバル企業のいくつかの国の工場を調査しました。労働者の話を聞くと、経営者側は「この工場は利益が上がっていない」と言います。しかしながら、彼らの理解では生産性も上がっているし利益も上がっているはずだと。つまり労働者がいくらがんばって働いて利益が上がっても、タックスヘイブンがあることによって、労働者の給料は永遠に上がらないのです。

 

田中    会計上の処理で労働者の努力がなかったことになってしまうのですね。

 

クリステンセン    法人税が引き下げられることによって何が起きているかというと、アメリカの例では、労働者が直接払う「給与所得税」などの税金が増えています。税負担は増えるのに、公共サービスの質は下がる。公共サービスの質が下がったことによって、医療費などの支出が増えてしまう。こういった点については民間労組に理解を得られる論点になるのではないでしょうか。

 

法人税引き下げや租税回避の問題は、民間労組の組合員にも悪影響が強く働くことを認識していただきたい。もしかしたら、直接的な影響が感じにくいかもしれませんが、少なくとも自分たちにも悪い影響が及ぶということを知っておいてください。

 

税金を取り戻すには日本のリーダーシップが不可欠

田中    日本の労働組合に期待することはありますか。自治労へのメッセージも併せて教えてください。

 

クリステンセン    日本は貿易立国として非常に重要な地位を占めていて、G7、およびOECDにおいてもリーダーシップをとる資格のある国だと思っています。なぜ私どもが日本に期待しているかというと、アメリカやイギリス、ヨーロッパの国々は、実は彼ら自身がタックスヘイブンであるからです(注:アメリカのデウエア州、オランダ、スイス、アイルランド、イギリス領ジャージー諸島など)。道徳的に租税回避の問題をG7やOECDで引っ張っていく道徳的資格をもっているのは、日本しかいないのです。

 

世界の主なタックスヘイブン

世界の主なタックスヘイブン

 

田中    そういうことは考えたことがなかったので驚きですね。

 

クリステンセン    今、アメリカやイギリスやヨーロッパ諸国における政治というものはまったく機能していないと考えています。民主主義の根本も成り立っていない。供給面に焦点をあてた経済政策は完全に失敗をしています。ですからドナルド・トランプが一定の支持を得ているのは、具体的にトランプが訴えている政策を支持しているのではなく、今の現状がまったく機能していないことに対する労働者の反抗と考えています。同じような状況がフランスでもイギリスでも起きています。しかし日本は、まだほかの国に比べて平等だとかそういうものに対して強い意志を持っているのではないでしょうか。

 

田中    日本に対する熱い期待をいただいたと思い、身を引き締めて実現できるように声をあげていきたいと思います。

 

クリステンセン    日本国内で公正な税制を求める運動を活発に展開するために、とくに労働組合の役割が重要だと考えています。タックスヘイブンを利用して、大企業・富裕層が税金を払わないことにより、世界中で公共サービスの質が落ちている。ぜひ労働組合の立場で税金が公共サービスに充当されるように、公共サービスの重要性を市民に訴え、日本でも運動を盛り上げてください。


kimura-150x150タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)代 表
ジャン・クリステンセン

1956年、イギリス王室属領ジャージー島生まれ。ジャージー島で大手会計事務所を経て政府の経済アドバイザーとして勤務。2003年「タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJ N)」を創設。現在ネットワークは80か国以上に広がっており、調査研究と各国政府、国際機関への働きかけを行っている。