結婚と幸福観のミスマッチ(前編)

息子が小学校1年生のとき、何気なく「将来どんな大人になりたい?」と聞いたところ、「大学に行った後、働いて、結婚して、パパになって、奥さんと子どもを食べさせて……」などと言う。

 

 

そんな、旧来のジェンダー規範を内面化させたライフコース設計で、おまえの将来は大丈夫か!? と思ったのだが、よく考えたら世間的には、咄嗟にそんなことを考えてしまう私の方が「大丈夫か」だろう……。

 

 

そういえば、同じく息子が1年生の一時期、妙に帰宅が遅くなったことがある。

理由を尋ねると、同じクラスの好きな女の子を、毎日彼女の家まで送ってから帰って来ていたそうである。

「女の子を一人で帰すのは危ないからね」と、どや顔で語る息子。

いやどう見ても、痩せてひょろひょろのおまえより、彼女のほうがよほど強そうに見えるよ……、とは、言えなかった。

 

 

わが家は、息子に男の子らしくしなさいなどと言ったことはないのだが、ジェンダー規範はこんな風に子どもに多大な影響を与えるらしい。

何より、幼稚園児のころから、「結婚したい」や「パパになりたい」を盛んに言うのには少々驚いた。

 

 

私が子ども時代を送った1970年代は、生涯未婚率から逆算した婚姻率は、多いときで男性98%、女性が97%とほぼ全員が、一生のうち一度は結婚するという「皆婚時代」であった。

この時代、子どもたちは取り立てて結婚したいなどとは言わなかったように思う。

あえて言えば、女の子たちはぼんやりと、「いつか結婚するんだろうなあ」と思っていたに違いないし、男の子たちは、そんなことには無関心なように見えた。

 

 

翻って、昨今は皆婚時代を遠く離れ、若者にとって結婚はかつてに比べてハードルの高いものになったように思う。

国立社会保障・人口問題研究所の前身、厚生省人口問題研究所「出生動向基本調査」は、第8回の1982年より「独身者調査」(18~34歳の未婚男女対象)を報告し始めた。

このとき、結婚の意思について、「いずれ結婚する」と「近い将来結婚する」を合計した「結婚意思あり」とされる人は、男性95・9%、女性94・2%と圧倒的多数派となっていた。

一方、「一生結婚しない」と回答した人は、男性2・3%、女性4・1%と低い数値であった。

 

 

だが、同第15回調査(2015年)になると、「いずれ結婚するつもり」と回答した人は、男性85.7%、女性89.3%と減少。

9割近い人が結婚意思ありと回答していることから、一般に「未婚者の結婚意思は依然として高い」と見られているが、「一生結婚するつもりはない」と回答した人が、男性12.0%、女性8・0%と、約30年で男性は5倍以上、女性は約2 倍と急増している。

 

なぜ近年、あえて「一生結婚するつもりはない」ときっぱり言う、「非婚派」とも呼ぶべき人たちの割合が増えているのだろうか。

 

 

興味深いのは、次の一見相反する点 である。

「独身であることは利点がある」と回答した人が、この質問への集計を開始した第9回調査(1987年)では男性83.0%だったのが、第15回調査(2015年)では83.5%。

女性は、同第9回89.7%が同第15回調査で88.7%と横ばいで推移。

一方、「結婚することは利点がある」と回答した人は、第9回調査で男性69.1%が第15回調査では64.3%に減少しているのに対し、女性は第9回70.8%が第15回77.8%と増加している点である。

 

 

女性は独身の自由も捨てがたいと思いつつ、結婚の利点への夢も膨らんでいるのであろうか。

この2つの「望ましさへの分裂」は何を物語るのか。……何だか、「結婚した~い!」とブツブツ言いながらも、東村アキコ『東京タラレバ娘』よろしく、女子同士楽しくつるむ生活を送る図が目に浮かんでしまったのは、私だけだろうか。

 

※後編は6月12日(月)に更新予定

詩人・社会学者 水無田 気流(みなした きりう)

早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。國學院大學経済学部教授。著書に『シングルマザーの貧困』(光文社新書)、『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)ほか。最新刊で上野千鶴子との対談「非婚ですが、それが何か! ? 結婚リスク時代を生きる」がビジネス社から絶賛発売中。