仲間を増やすには「耳は二つ、口は一つ」

トラブルメーカーズスクールのシンボルは、歯車に工具をかませて

「トラブル」を起こさせているデザイン

 

社会的な課題を解決するための方法として

 

何か社会的な課題を解決したいと思ったら、ぜったいに一人ではできない。様々な人に働きかけ、共通の思いを育て、一緒に活動する仲間を増やしていく必要がある。労働問題、女性やジェンダーをめぐる問題、貧困、障害者、環境、どんな課題でもそれは同じ。でも、仲間を増やして一緒に行動してもらうのは、言うは易く行うは難し、である。

 

そこに焦点を絞った取り組みが、様々な形で広がり始めている。11月には、米国の「レイバーノーツ」という団体による労働運動の活動家向けワークショップが東京で開かれた。レイバーノーツは2年に1回、全米と海外20カ国以上からの参加者を交えた2000人規模の大会を開いている。「オルグの成功の秘訣(Secrets of a Successful Organizer)」という手引書も出版しており、現在日本語に翻訳中だ。

 

ワークショップの名称は「トラブルメーカーズスクール・トーキョー」。「トラブルメーカー」とはどういうこと?と思われるかもしれない。職場で自己主張する人、会社や会社と一体になりがちな労働組合のやり方に異を唱える人は、洋の東西を問わずトラブルメーカー、厄介者扱いされがちだ。だが「トラブルメーカー」と呼ばれることを恐れず、むしろ逆手に取って堂々と発言し行動することで職場を変えていこうというメッセージが、この言葉には込められている。

 

 

大切なのは耳を傾けること

 

さて、11月のワークショップでファシリテーターをしたのは、レイバーノーツで長年活動しているジェーン・スローターさんとレア・フリードさんの女性2人である。「リーダーにふさわしいのはどういう人か」といった課題について考えたり、各自で職場の見取り図を描いてどのように組織化を進めるかを検討したりと、実践的な内容だった。

 

東京でのトラブルメーカーズスクールで話をするレア・フリードさん(左から2人目)とジェーン・スローターさん(右端)

 

特に印象に残ったフレーズは「耳は二つ、口は一つ(Two ears, one mouth)」。自分が取り組んでいる活動に誰かを誘うとき、つい、活動の内容や重要性などについて自分ばかり話をしてはいませんか?ということだ。耳は二つ、口は一つなのだから、自分が話す時間の倍の時間、相手の話に耳を傾けること。その場の主役は自分ではなく相手であり、相手の人が思いを口にするなかで自身の課題に気づき、あるいはその課題を解決するにはどうしたらいいかの考えを深め、互いのつながりを築いていくことが大事だということだ。

 

トラブルメーカーズスクールと重なる部分の多い取り組みはほかにもある。その一つの「コミュニティー・オーガナイジング(CO)」(http://communityorganizing.jp/)は、米国で20世紀前半に始まった、多くの人々の力を合わせて社会を変えていくためのスキルを学ぶ取り組みだ。キング牧師らによる公民権運動でも生かされたという。日本でもワークショップが開催されていて、私が参加した時は労働組合やNPOの役員、ビジネスマンら、幅広い仕事と年代の人々が集まっていた。

 

 

価値観を共有し、具体的な戦略を立てる

 

COのワークショップをごく簡単に説明すると、自分の価値観がどこから生まれたかを掘り下げ、人々と価値観や経験を共有してチームを作り、具体的な戦略を立てて目標の実現に向けて行動を起こしていくスキルを学ぶ。最近では、今年7月の刑法の性犯罪規定の改正に向けたキャンペーンで、このプロセスが活用されている。

 

働く女性のための労働運動の中から生まれた取り組みとしては、「働く女性の全国センター」(ACW2、http://wwt.acw2.org/)がワークショップを東京など各地で開いている。2015年には「対話の土壌をか・も・すワークブック」を発行。これまでの様々な参加型学習の経験をもとに、立場や意見の違いなどをこえて「今、目の前にいる人と対等ななかまの関係性を作っていくこと」を目指すとし、進行役のためのガイドラインや注意すべきことなどを丁寧に説明している。

 

ACW2が制作した「対話の土壌をか・も・すワークブック」

 

ところで、11月の「トラブルメーカーズスクール」では、私が参加したグループワークの中でこんなことがあった。グループには退職世代の男性がいて、現役世代の参加者が現在抱えている課題について話をしているのに、自分の意見や過去の経験ばかりを話そうとした。私が「あなたのしていることは『耳は二つ、口は一つ』の真逆ですよ」と言っても、ほとんど耳を貸さずに話し続けたので閉口した。

 

必要なのは相手を説得することでも自分の意見や行動に従わせることでもなく、相手に共感し思いを共有していくことだ。それがある程度わかっていたとしても、実際に自分の行動を変えるのはなかなか難しい。だから、「スクール」や「ワークショップ」の出番がある。機会があれば、参加してみてはいかがでしょうか。

 

補足:レイバーノーツの大会には日本からもほぼ毎回参加者があり、私は2016年に日本からの参加グループに加わった。次回は2018年4月、シカゴで開かれる。下記のサイトで、レイバーノーツについての動画を日本語字幕付きで紹介している。

レイバーノーツ大会の魅力わかります!(日本語字幕付き)

Chie Matsumotoさんの投稿 2015年11月26日(木)

 

 

ジャーナリスト 林 美子(はやし よしこ)

2016年まで朝日新聞記者。労働やジェンダーの分野を中心に取材、執筆活動を続ける。早稲田大学ジャーナリズム研究所招聘研究員。