2016年憲法審査会での議論を受けて(前編)

はじめに

2016年11月、衆参両院で、久しぶりに憲法審査会の実質審議が行われた。審査会でまず目を引いたのは、自民党議員から、立憲主義と現行憲法を尊重する旨の発言があったことだ。

例えば、中谷元議員は、11月17日の衆議院憲法審査会で、「近代立憲主義の見地を踏まえて議論を進めることは当然の前提」とし、「日本国憲法の基本原理は国民の間に定着をしているといった社会的事実も認められます」と述べた。また、上川陽子議員も、24日の同会で、「自由民主党は、このような近代立憲主義に基づき、多様な価値観をよりどころとして、個人個人が人間らしく生きていくことができる社会を構築するために一貫して努力してきたものであり、今後もその努力を続けてまいります」と述べた。

立憲主義や現行憲法の正統性を否定する発言が自民党議員の口から相次いでいた過去からすれば、大きな進歩と言えよう。しかし、いくら総論的に正しい議論をしても、個別具体的な事項について、人権制限や過度の権力集中を認めてしまえば、立憲主義や現行憲法の理念や原理は守られない。そこで、以下、憲法審査会の議論で注目されるポイントを見ていこう。

 

人権保障と自民党草案

まず問題なのは、自民党が、2012年発表の自民党憲法草案を未だ撤回していない点だ。この草案は、総じて、国民の権利を縮小して、国家権力を拡大しようとしており、復古主義的な傾向が強い。例えば、この草案が提案する緊急事態条項は、外国の緊急事態条項に比べても、著しい権力集中を可能にする内容となっている。また、国民の義務を拡大して、人権を制限しやすくする規定があちこちに加えられている。

11月24日の衆議院憲法審査会でも、この点が議論になった。民進党の奥野総一郎議員は、自民党草案の「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という規定(21条2項)は、「表現の自由に制限を加える」もので、「民主主義の基盤を崩す、改正の限界を超えている」と指摘した。

これに対し、中谷議員は、奥野議員の指摘する規定は、「オウム真理教に対して破防法が適用できなかったことの反省を踏まえ、公益や公の秩序を害する活動や、それを目的とした結社を認めないということにしたのであります」と応えている。

しかし、オウム真理教に破防法を適用できなかったのは、その適用要件である「継続又は反覆して将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由」(同法5条)が認められなかったからである。もしも、この条件を満たす危険な団体が存在したならば、現行憲法下でも、当然、規制の対象となる。また、仮に、自民党草案21条2項が、現在の破防法の要件を充たさない程度の、将来の危険性の低い活動や団体についてまで活動を規制する根拠になるのなら、この条文は極めて危険な条文であると言わざるを得ない。

口では立憲主義は大事だと言いつつ、具体的な話になると、国家権力を拡大して人権を不当に制限しようとする状況を考えると、自民党草案全体、あるいは少なくとも21条2項のような危険な条項を反省し、撤回する姿勢が示されない限り、立憲主義への理解が不十分だとの批判は続くだろう。


kimura-150x150首都大学東京 教授 木村 草太 (きむら そうた)
1980年、横浜市生まれ。東京大学法学部卒業、同助手を経て、現在、首都大学東京法学系教授。専攻は憲法学。国民の力で「憲法を活かす」をテーマに活動中。著書の『憲法の急所』(羽鳥書店)は「東大生協で最も売れている本」「全法科大学院生必読の書」と話題に。新刊に『憲法という希望』(講談社現代新書、共著)がある。