「骨太二〇一六」の概要と留意点(前編)

経済財政運営と改革の基本方針二〇一六~600兆円経済への道筋~(以下「骨太二〇一六」という)は、2016年6月2日に閣議決定された。骨太二〇一六の本文は、A4判で46ページにわたり、第1章現下の日本経済の課題と考え方、第2章 成長と分配の好循環の実現、第3章 経済・財政の一体改革の推進、第4章 当面の経済財政運営と平成29年度予算編成に向けた考え方、で構成されている。本稿では、地方行財政に深く関わる部分に焦点を当てながら骨太二〇一六の内容を概観し、その留意点などに言及したい。

 

断絶する成長と分配

骨太二〇一六の第1章は、現状認識としてアベノミクスは順調だが、内外に課題もあるので、「新・三本の矢」により「成長と分配の好循環」を確立すべきだと述べている。

「新・三本の矢」は、よく「第一の矢の600兆円経済の実現」、「第二の矢の希望出生率1・8」、「第三の矢の介護離職ゼロ」とされるが、これは「的」で、「矢」は「希望を生み出す強い経済」、「夢をつぐむ子育て支援」、「安心につながる社会保障」であるようだ。

ここでは、「成長と分配の好循環」の確立に必要なのが、国内外の「潜在市場」を活性化し、生産性向上の期待により企業の投資を活発にする「新しい社会経済システム」であり、その実現に「政府の役割は大きい」としている。

この「政府の役割」について、「国民の希望」を実現するために、必要な制度改革・規制改革や安定財源の確保を行うこと、公的サービスの産業化を進めることにより、ムダをなくすと同時に産業活性化を促すこと、医療・介護の分野では、国民の希望である健康への

投資に資源配分を重点化する、等が必要不可欠であるとしている。

第2章でまず注目すべきは、冒頭で消費税率の引き上げは先送りしつつ、2020年度の基礎的財政収支黒字化という財政健全化目標の堅持を述べた部分であろう。

第2章には、「ワイズ・スペンディング」(これは経済学者ケインズのものだが、筆者はワイ・スペンディングと誤読してしまった)と称するさまざまな施策が目白押しであるが、安定財源の確保についてはほとんど言及がない。強いて挙げれば、「アベノミクスの成果の活用」で、税収増加分を用いようというのであるが、国税のうち安定性が高いとされる消費税の税率引き上げを延期、アベノミクスによるとされた企業収益からの法人税収は減収の見通しが報じられており、安定財源確保の見通しは暗い。

財源が不安定な中で財政健全化目標堅持となれば、残る道は、歳出削減である。歳出削減の方法は、施策を取りやめるか小規模化することである。または、施策は実行するがその負担を地方自治体に求めれば、国としては歳出削減になる。

骨太二〇一六の記述に沿えば「子ども・子育て支援、子どもの貧困対策等」「非正規雇用労働者の待遇改善等」「賃金・可処分所得の引上げ等」へ歳出削減圧力が波及することが想定される。

安定財源の確保とともに言及が乏しいのが分配面である。確かに、「働きたいという国民の希望の実現に向け取り組む」「賃金や最低賃金の上昇を支える」との記述は見受けられる。しかし、特に前者について具体的な施策を打ち出せるかは疑問が大きい。

また、「公的サービス産業化を一層加速させる等、歳出改革へのインセンティブを強化する」とあるとおり、歳出削減を進めた地方自治体に対して地方交付税の算定が有利になる仕組みの強化が待ち受けている可能性がある。

この「行革算定」は、アナウンス効果に惑わされず、算定の検証が必要である。

また、民間委託に置き換える(給与費から委託料に置き換える)ことで、需要額が減少するとしたら、同一(価値)労働同一賃金と矛盾するのではないか。

 

(後編に続く…12/5更新予定)

 


自治総研 研究員 其田 茂樹(そのだ しげき)自治総研 研究員 其田 茂樹(そのだ しげき)
1973年愛媛県生まれ。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科単位取得退学。藤沢市政策研究員などを経て2012年8月より公益財団法人地方自治総合研究所研究員。専攻は、地方財政論、経済政策論。著作・論文に、『再考 自治体社会資本』(公人社、共編)、「『地方創生』は政策目的か」(『自治総研』通巻439号)など。