地方交付税と地方税の課題(後編)

 刻まれる国と地方の対立の歴史

自治体が実施している事務事業の多くは、介護等の対人社会サービスをはじめ、生活保護や義務教育など、国の法令に根拠を持っているものばかりである。

したがって、国としてはこれらを自治体が滞りなく遂行できるよう、財源を何らかの形で保障する必要がある。

そのために策定されるのが、自治体全体の歳入歳出総額の見込額を示し、財源の裏付けを与える地方財政計画である。

 

地方財政計画の策定においては、必要な事務事業を積み上げて歳出の規模が決定される一方、それを実施するための財源として、国庫補助負担金、地方債、地方税等が積み上げられる。

もっとも、これらだけでは不足額が生じるため、地方財政計画上の歳出と歳入のギャップを埋め合わせる必要が出てくる。

これが、地方交付税の役割である。2017年度の予算編成においては、地方財政計画の歳出は86・6兆円、地方交付税額は16・3兆円とされた。

 

重要であるのは、地方交付税の「総額」と、地方交付税の原資とが全く別のメカニズムによって決定されている点である。

総額の決定については、いまみたとおりであるが、地方交付税の原資の方は、国税(所得税、法人税、酒税、消費税)の一定割合と地方法人税の全額というように法律で決められている。

そのため、事務事業を遂行するために必要な地方交付税の「総額」と、地方交付税の法定率分の数字は通常は合わず、原資の方が不足することが近年では多い。

結果として、地方交付税の所要額を満たすための対策が必要となる。これが、地方財政対策と呼ばれる手続きである。

 

地方交付税の不足分については、本来であれば法定率の引き上げによって対応することが望ましい。

しかし、日本のように租税負担率が低く、増税に対して忌避感の強い国においては、限られたパイの財源配分を変更するにすぎない法定率の引き上げは、国と自治体の間で深刻な対立を生じさせかねない。

こうした事態を避けるために常態化しているのが、地方交付税の不足額を国と地方の双方が折半で負担するという方法であった。

しばしば話題にのぼる臨時財政対策債は、地方交付税の原資不足ゆえに発行を余儀なくされた地方債にほかならない。

 

もっとも、国の債務が累積し、財政再建が政策課題として本格化する中にあっては、こうした状況も長くは続かない。

実際に国は、地方財政計画を圧縮し、地方交付税を削減しようとする姿勢を次第に明確化してきた。

それは、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の意見に典型的にみられる。

財政制度等審議会は2002年の『建議』の中で、地方交付税の財源保障機能が自治体の国に対する依存度を高め、モラルハザードを生じさせていることを問題にした。

その正否についてはともかく、こうした見解が三位一体改革の中での地方交付税の削減につながったことは疑いない。

 

こうした流れは現在にも続いている。

最近では、2015年5月12日の経済財政諮問会議の場で民間有識者によって提案されたトップランナー方式の導入が挙げられる。

これは、先進的な自治体が達成した経費水準の内容を地方交付税の単位費用の積算に反映させるというもので、今のところ規模としては大きくないものの、この方式の活用次第によっては、これまでの地方交付税のあり方を大きく崩しかねない。

 

実際に、そうした動きはすでに始まっているといってよい。

2016年11月17日に出された財政制度等審議会の『建議』においては、「財政健全化目標の実現に向け、トップランナー方式による効果(基準財政需要額の減少額)が地方財政計画に反映されるよう、計画策定を工夫する必要がある」と述べているからである。

国の歳出のうち社会保障関係費に次ぐ割合を占める地方交付税を圧縮し、財政再建を強力に推進していこうとの構えである。

もっとも、自治体の行革努力を地方財政計画の圧縮につなげてしまえば、行革に対するディスインセンティブにもなり、制度設計としては非整合的である。

 

 

問題の本質とは何か?

日本の生活保障の要である家族と雇用とが劣化しつつあるいま、これを支える自治体の役割はますます重要となってきている。

にもかかわらず、分権的福祉政府の流れとは逆行するように、国は地方財政計画の規模を圧縮するような措置を次々と採ってきている。

国の財政状況を鑑みれば、地方財政計画の圧縮による地方交付税の総額抑制という流れは今後も強く存在し続けるであろう。

 

地方交付税の今後を占うにあたって重要なことは、地方分権改革のなかで、地方財政計画の歳出と歳入とのリンケージが徐々に弱く、曖昧になってきていることである。

地方交付税は主として、補助事業を遂行するにあたっての地方負担分をカバーするものとして機能してきた。

しかし、地方分権改革が進展し、補助事業が縮小されるとともに、地方交付税が地方単独事業をカバーする領域が次第に広がってきた。

 

もちろん、地方単独事業といえども国の法令に義務付けられているものがほとんどを占める以上、補助事業の一般財源化が即、地方交付税の規模縮小につながることがあってはならない。

ただし、地方交付税が従来とは異なる性格付けを与えられつつあることは確かであるし、前述の財政制度等審議会もこの点を突いている。

今後、地方分権がますます進展する中、地方交付税と単独事業との関係はより重要となってくるであろう。

 

自治体の財源保障機能に少しずつ劣化の兆しが見える中、これを強化する構想として地方共有税構想がたびたび論じられてきた。

地方共有税は、地方財政計画上の収支ギャップを満たすレベルまで法定税率分を引き上げたうえ、地方交付税の原資を国の一般会計を通すことなく、交付税特会に直入するという構想である。

地方共有税が制度化されれば、交付税原資は「地方の固有財源」であることが明確化されるほか、財源確保の見通しが従来よりも確かなものとなる。

 

もっとも、前述のとおり、法定率の引き上げによる交付税原資の確保は、国と地方の間で財源を移転するにすぎない。

これでは、財源配分を巡って国・地方の対立を呼びかねないだけでなく、国・地方を合わせた公共サービスの総量そのものに変化はない。

また、より重要なこととして、自治体の一般財源を確保するにあたって、自治体側の主体的な関与を果たすことができないという問題がある。

 

長期的に、補助事業の一般財源化が進展する中で、地方財政計画の削減圧力は高まってくるものと思われる。

こうした歳出削減圧力に対して、地方財政の歳出規模を維持・拡大するために重要であるのは、自治体が標準税率等を含め、地方税の増税に主体的に関与する条件をいかに作っていけるかどうかである。

負担を積極的に引き受けつつ、歳出と歳入のリンクを強化し、自治体の歳出水準を正当化していく道。極めて重いが、熟考するべき課題である。

 


kimura-150x150東北学院大学准教授 佐藤滋(さとう しげる)
東北学院大学経済学部共生社会経済学科(専門:財政学、地方財政論)。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期修了。経済学博士。著書に『租税抵抗の財政学』岩波書店、2014年(古市将人との共著)がある。