大統領選挙を通じて見えてきたアメリカの変革方向 サンダース派の可能性(前編)

はじめに

アメリカの大統領選は、民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補が大接戦を展開してきたが、最終局面に至りクリントン優位と報道されている。北東部と西海岸は民主党、南部と中西部の多くは共和党の指定席なので、接戦を繰り広げているオハイオとフロリダなどのスイング・ステート(揺れ動く州)の結果次第で当選が決まる。いずれの候補が勝利するのかが最大の関心事であるが、本コラムが届くころには結果が出ているだろうから、その結果を占っても仕方ない。そこで本コラムでは、アメリカ労働運動をウォッチする立場から、大統領選を通して見えてきたアメリカの変革の方向について論じてみたい。

 

異端派の二人の出現─長い新自由主義の時代を経て

共和党予備選において、トランプは旋風を巻き起こして主流派の候補者たちに圧勝した。一方、サンダースは民主党の枠外から登場し、クリントンを民主党予備選で最後の最後まで追撃した。従来のアメリカ政治から言えば、左右両極の異端とも言える二人はエスタブリッシュメント(=既得権益をもつ主流派)に対抗する候補として登場した。これまでの大統領選挙とは明らかに異なる事態となった背景には、35年にわたる新自由主義とグローバリゼーションの嵐のなかで、人々が痛めつけられ、仕事や住宅を失い、貧困化したことへの不満と怒りがある。 1981年に元俳優のレーガンが大統領となる。共和党から出馬した彼は、新自由主義政策を本格的に推進した。航空管制官組合のストライキに対する弾圧を皮切りに労働組合を攻撃し、所得税の最高税率を、1980年の70%から1988年には28%まで引き下げた。民主党のクリントン政権は1994年、重要な支持母体である労働組合の反対を押し切って、NAFTA(北米自由貿易協定)を発効させた。その結果、労働組合の拠点であった製造業の海外移転が一挙に進む。産業構造は、労働組合にほとんど組織されていないサービス業に転換していく。共和党と民主党の政策的差異はあるものの、現在までの基調は新自由主義政策、規制緩和と民営化、自由貿易の推進が連綿と続いた。 その結果、使用者による労働組合攻撃もあって、労働組合の組織率は、1980年23%(民間部門20・1%)から1990年16・1%(民間部門は半減に近い11・9%)、2015年には11・1%(民間部門6・7%)にまで落ち込んだ。同時に、経済格差は拡大し、2000年代に入ると国民所得に占める上位10%のシェアは45%から50%と、第2次世界大戦前の水準に戻ってしまった。

図 米国での所得格差 1910-2010年

図:米国での所得格差 1910-2010年 出所:トマ・ピケティ(2014)『21世紀の資本』みすず書房

 

アフガン・イラク戦争が長引き、リーマンショック(2008年)による金融危機・不況が深化するなかで、人々はオバマ大統領の「チェンジ」(変革)に期待した。強欲に一人勝ちするウォール街(金融資本)はリーマンショックによって危機に陥り、オバマ政権は公的資金を投入して救済を図った。そして、国民皆保険(健康保険)を目的に悲願の「オバマケア」を導入する。 これらに対して右翼・保守派は金融機関救済とオバマケアに反対して、「小さな政府」を求めるティーパーティー(茶会派)運動を全米に展開した。茶会派は2010年の中間選挙で、共和党から連邦議会・州知事・州議会に多くの候補者を擁立し勝利した。その結果、連邦議会下院を共和党が掌握し、以後オバマ政権は動きが取れなくなる。

(後編に続く…11/14更新予定)

 

 


一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクトディレクター高須 裕彦(たかす ひろひこ)一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクトディレクター高須 裕彦(たかす ひろひこ)
全国一般労働組合専従役員、UCLAレイバーセンター客員研究員をへて、現職。共著に『社会運動ユニオニズム:アメリカの新しい労働運動』緑風出版など。