大統領選挙を通じて見えてきたアメリカの変革方向 サンダース派の可能性(後編)

 ウォール街占拠運動から最低賃金引き上げへ

リーマンショック後、失業は拡大し、借金を返済できずに住宅を競売にかけられ、医療費が払えずに自己破産する人たちが相次いだ。大学を卒業しても数万ドルから10万ドル(数百万円から1000万円)を超える学生ローンを抱えて、まともな仕事がなければ破産するしかない。不安定で低賃金の仕事ばかりで、政府は金融機関を救済しても、人々を助けはしない。そして、救済された金融機関の幹部たちが多額の退職金を得ていた事実が明らかになると、ウォール街は人々の怒りの的となった。

それに火を付けたのが、2011年9月に始まる「ウォール街占拠運動」である。1%(ウォール街と富裕層)対99%のフレーズは、没落しつつある中間層と若者をはじめとする人々の心に火を付けた。占拠(オキュパイ)運動は瞬く間に全米各地に拡がり、格差と貧困の是正についての議論が巻き起こった。

格差と貧困の是正を求める声は労働運動を動かした。2012年、ファストフード労働者の最低賃金15ドルを求めるストライキを皮切りに、全米サービス従業員組合(SEIU)などの支援を受けて、全米各地で節目節目の統一ストライキが打たれた。そこにさまざまな低賃金労働者たちが合流して、最低賃金15ドルを求めるキャンペーン(Fight for $15)が展開する。連邦議会多数派の共和党の反対によって、連邦(全国)最低賃金(現行7・25ドル)の引き上げは実現していないが、ニューヨーク州や西海岸の州や都市では15ドルにむけた最低賃金の引き上げが進んでいる。

 

変革の2つの方向─排外的右翼ポピュリズムか、福祉国家か

今回の大統領選挙で、トランプ旋風とサンダース旋風が吹き荒れた。いずれも従来の新自由主義路線に立つ中道候補が左右から挟撃され、民主党主流派のクリントンは、左派のサンダースに最後の最後まで追撃され、共和党に至っては、泡沫候補と言われたトランプに乗っ取られた。これはウォール街(金融資本)と軍産複合体の利益代表者であるワシントンの主流・中道政治家に対する、左右両極からの挑戦であり、現体制を変革する方向が問われている。これは、同時に、有権者が人種や世代、階層などによって相容れない分断・対立状況に陥っていることも表している。

トランプは移民やイスラム教徒を排撃し、白人至上主義の危うい右翼ポピュリストである。白人の労働者層を基盤に、移民受け入れやオバマケア、TPPに反対し、小さな政府を掲げて、ワシントン政治を代表するオバマやクリントン、共和党の主流派を攻撃した。たとえ、大統領選挙で負けたとしても、4割の支持率を維持してきたので、今後も一定の政治勢力として、第二、第三のトランプを生み出し続けるだろう。

サンダースは保守的な共和党の州であったバーモント州で1991年以来、無所属で下院議員や上院議員に当選し続けてきた。政治は人々の生活を良くするもので、イデオロギーの争いではないと主張し、普通の人々の支持を得てきた。大統領選の民主党予備選において、民主党に入党して出馬した。自分は「民主的社会主義者」とあえて名乗り、ウォール街占拠運動などの社会運動を背景に、「政治革命」を掲げる。連邦最低賃金の15ドルへの引き上げや公立大学の授業料の無料化、学生ローンの利息軽減、累進課税の強化、公正でかつ人間的な移民政策、女性・人種・LGBT・障がい者の権利と平等、TPP反対を公約として掲げてたたかった。ヨーロッパ基準で考えれば、ごく当たり前の福祉国家政策である。

結果として、サンダースはクリントンに負けたが、ミレニアル世代と言われる20代から30代の若者たちの圧倒的な支持を得た。そして、サンダース支持派は、諦めることなく次の取り組みを進めている。「私たちの革命」というキャンペーン組織を立ち上げ、民主党の改革や、大統領選と同時に行われる連邦議会選挙や州議会選挙などに改革派候補を立て、支援している。これがどの程度の拡がりを見せるのかが今後の試金石となるだろう。若者たちの意識は確実に変わっている。4年後には第二のサンダースが現れ、さらに大きな変化をもたらすのではないだろうか。

 


一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクトディレクター高須 裕彦(たかす ひろひこ)一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクトディレクター高須 裕彦(たかす ひろひこ)
全国一般労働組合専従役員、UCLAレイバーセンター客員研究員をへて、現職。共著に『社会運動ユニオニズム:アメリカの新しい労働運動』緑風出版など。