【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第1分科会 自治体の「かたち」を変える

 名古屋市は、2010年度予算案で自動車図書館廃止を発表したが、自治労名古屋教育支部の運動が実を結び、予算市会で存続が決定した。河村市長はじめ市当局は、われわれの主張を無視していたが、市民・マスコミ・市議会への働きかけにより、廃止反対の世論を高めた。その結果、わずか二週間で5,000筆の反対署名を集め、市議会をも動かした。最後まであきらめずに取り組んだことが、奇跡的な結果をもたらした。



名古屋市自動車図書館の廃止反対活動の経過報告


愛知県本部/自治労名古屋市連合労働組合・教育支部 塩沢 宏之

 自治労名古屋教育支部では、昨年10月から自動車図書館サービスの存続を求めて廃止反対活動を展開した。教育支部の組合員が中心となり、組合の加入・非加入に関わらず多くの職員に協力を呼びかけるために「自動車図書館の存続を求める職員有志の会」として活動を行い、支部の枠を超えて広範囲の協力を得ることに成功した。
 名古屋市議会は3月24日、自動車図書館の予算復活を含む約五億円規模の大幅修正予算を可決し、10月に始まった半年間の廃止反対活動は、奇跡的に自動車図書館サービスの存続を勝ち取ることができた。この間の経過について報告する。

1. 図書館政策をめぐる対立

 名古屋市は、1997年から区役所支所を持つ各区に、区内2館目の図書館建設をスタートした(支所管内図書館建設計画)。この建設は当時の教育支部組合員による運動の成果によって実現したものだが、建設が進むのと平行して、自動車図書館の将来について支部と教育委員会当局の間で深刻な対立が起こった。
 必要性とサービス存続を訴える支部に対して、教育委員会は悪化する財政事情を背景に、縮小廃止を主張し、2002年の中川自動車図書館廃止を皮切りにサービスの縮小を続けてきた。
 2005年には、NOx-PM法による車輌買い換えの予算査定で、当時の松原市長から自動車図書館完全廃止のコメントがつけられた。2006年の西自動車図書館廃止をめぐる交渉では、業務委託化の提案と同時に、市長コメントを受けて、次に建設予定の「徳重図書館」開館後にサービス完全廃止を検討する意向が当局側から表明され、廃止に反対する教育支部と激しく意見が対立した。
 このような経緯があり、自動車図書館を過剰サービスと見なす財政局の意向もうけて、教育委員会内部ではサービス廃止は既定方針に近かった。しかしその一方で、市民に対しては何一つ情報を与えず、2009年6月に、廃止に備えて自動車図書館利用者へのアンケートが実施された時も、図書館利用者からは「サービスが廃止されるのか?」と質問の声が上がったが、図書館からは何の説明も行われなかった(現場の担当者には何も言うなという、実質的な緘口令がひかれた)。

2. 反対活動の立ち上げと図書館当局の動き

 2009年4月に河村新市長が誕生した。図書館政策についての判断を支部は注目したが、6月市議会では教育長答弁を無視して図書館への指定管理導入を容認する発言を行い、市長調整に挙げられた自動車図書館についても、これまでの廃止方針をあっさりと容認した。これにより廃止方針は確定してしまった。
 2009年9月の支部定期大会において、自動車図書館に関心を持つ組合員が非公式に話し合いを持ち、既に支部交渉等では解決の目処が立たないことから、市民に呼びかける反対活動の実施を検討した。
 「このまま自動車図書館が消えることは我慢できない」「今何もしなかったら、後で絶対に後悔する」と、利用者・市民に廃止の危機を知らせ、名古屋市に反対意見を寄せてもらう活動を呼びかけることを決定した。
 実施に当っては、非組合員等も含めて広く協力を得るために、組織ではなく個人として協力の呼びかけを行った。自動車図書館に関心を持つ職員に広く協力を求め、10月中旬に話し合いをもち「職員有志の会」の活動がスタートした。
 10月下旬から若手の職員を中心に約20人の協力を得て約1ヶ月間サービスポイントでビラ(*資料1参照)撒き活動を行った。
 初めて廃止の危機を知った市民の反応は大きく、自動車図書館の利用者からは名古屋市に宛てて12月までに、40通を越える意見が寄せられた(最終的には100通以上)。しかし図書館・教育委員会は、市民意見を無視し何の説明も行わない一方で、市議会議員に向けて、「20年前の2割しか利用がない」と、廃止に有利な数字だけを挙げた、説明資料を作成・配布して根回しを行い、反対の声を封殺する動きを強めた。

3. 市議会議員への最初の働きかけ

 12月に入って、教育委員会から組合に対し、ようやく公式に自動車図書館の廃止方針が表明された。しかし、担当人員1人の削減を含む内容であるにもかかわらず、当局側は削減提案さえ行わず、一方的に廃止を通告する強硬な態度に出た。
 名古屋市に寄せられた市民意見を手に、教育支部からは民主党市議団に対して説明と存続を訴える働きかけが行われた。話を聞いてもらうことはできたものの、各議員の反応は鈍く、もっと市民から声があればといった反応が多かった。
 教育委員会の説明や、地元市民からの問合せを受けて、自らのブログなどに自動車図書館を取り上げる市議会議員も何人か見られたが、この時点では、廃止はやむをえないという雰囲気が強く、状況は絶望的に思われた。

4. 予算のパブリックヒアリングと市長の無関心

 2010年1月になって、名古屋市は22年度予算案を公表した。自動車図書館は廃止される市民サービスとして発表され、ようやく一般市民に自動車図書館の廃止が明らかにされた。
 1月17日には、予算案について市民意見を聞くパブリックヒアリングが初めて実施され、その場でも出席した市民から、自動車図書館サービスを存続してほしいという意見が出されたが、河村市長は、「利用者が減っているから廃止」と無関心を露に切り捨てた。予算案には、メール等でも意見募集が行われ、自動車図書館については多くの意見が寄せられたが、何の効果もなかった。
(予算パブリックヒアリング自体も、予算案の調整・変更を行う余地のない時期に実施されており、単なるパフォーマンス)

2010年度予算案(1月12日現在)に対する市民意見(メール・はがき)

 1月20日の自治労名古屋・市長交渉でも、教育支部はこの問題を取り上げたが市長は無関心な態度を示すだけだった。

5. メディアへの働きかけと署名活動の実施

 予算案が公表されているにも関らず、未だに多くの利用者が、廃止の情報を知らないことに危機感を抱いた教育支部では、改めて新聞社等のメディアに対しての情報提供や働きかけを行うことを検討した。もっと問題を露出させるために、メディアへの働きかけを開始した。
 図書館当局は、この時期になっても公式な廃止アナウンスを一切行わず、現場職員からの疑問に対しては、3月の予算議決までは正式決定ではないとする回答を示した。行政事業廃止の方法としては極めて異常な事態で、図書館職員からは、利用者に対する騙し討ちだ、という批判が多く出された。
 1月中旬、自治労名古屋教育支部と名古屋市職労教事支部が協議をもち、異例の両職員団体の共闘体制が成立。両団体が協力して
 ①メディアへの情報提供 ②市議会議員への働きかけ ③存続署名の実施を行っていくことを決定した。両職員団体連名で、市内の各メディアに向けて一斉に資料を送付し、複数の新聞・テレビが問題を取り上げたことから、ようやく廃止の動きが市民にも認知され始めた。
 残り時間の少ない中で、廃止反対署名の実施を決定し、11月にチラシ配布活動を行った職員を中心に、二つの職員団体が協力体制を取り、「自動車図書館の存続を求める利用者の会」の名前で、市民の方に代表者をお願いして署名活動を行った。(*資料2参照)
 2月2日から16日までを活動期間として、短期間ではあるがサービスポイントを回って署名をお願いした。また、2月6日に各図書館での一斉署名活動を行い、多くのメディアに取り上げてもらった事で関心を集め、わずか2週間の間に約5,000人の署名が集まった。自主的に署名に協力してくれた市民も多く、郵送や図書館への持参などで多くの署名が寄せられ、2月18日に河村市長宛ての署名を、鶴舞中央図書館長に提出した。
 署名活動と平行して、教育子ども委員会に所属する市議会議員を中心に、あらためて市議会への働きかけを行い、民主党をはじめ多くの会派から問題としてとりあげたいという返事をもらった。個人でも、自動車図書館を視察してブログで問題を取り上げる議員もあり、12月に比べると遥かに多くの関心が寄せられた。

6. 混乱と対立の2月議会

 2月19日に開会した2月議会は、市長と議会が対立し先の見えない状況の中で始まった。自動車図書館問題は、署名運動の結果多くのメディアに取り上げられたことで、市民サービス低下の典型例として、民主・自民・公明・共産の四会派すべてが総括質疑で取り上げ、廃止を疑問視する姿勢を明らかにした。
 委員会質疑に移ってからも、教育子ども委員会で大きく取り上げられ、図書館・教育委員会はひたすら弁明に追われる状況となった。
 冒頭にも述べたとおり、3月24日「河村予算」は市議会により大幅修正され、自動車図書館も存続が決定した。

7. 利用者の支持と自治労の活動による成果

 自動車図書館の存続を勝ち取ることができたのには、市長と議会の対立という外的な要因が大きかった。皮肉な話だが、これこそ「河村効果」とも言える。
 しかし、それ以上に自動車図書館を利用してくれている市民の支持と、存続を求める声が大きかった。名古屋市の22年度予算に寄せられた市民意見(メール・FAX)でも、自動車図書館への意見は100件を越え、突出している。我々とは別に、共産党が行った反対署名には13,000筆が集った。全部の署名を足せば、約2万人の反対意見が寄せられたことになる。
 そして、こうした声を集めることができたのは、教育支部を中心とした図書館職員の取り組みの成果であり、最後まであきらめずに取り組んだことが奇跡的な結果をもたらしたと言える。

8. 4月以降の厳しい状況……よりよいサービスあり方を巡って

 現在、名古屋市図書館内部では、自動車図書館の運営を巡って混乱が続いている。サービス存続が決定したのに担当職員は削減されて0人になるという、収まりの悪い結果になったためで、今後どのように自動車図書館を運営していくかをめぐって、労使協議が続いている。
 7月に入って、教育委員会からは正式に10月から自動車図書館サービスを委託化する説明が教育支部に対して行われた。支部からは、①担当者なしの委託などありえない ②名古屋市の図書館サービスにどう位置づけていくか検討がされていない ③部分委託になじむ業務ではない ④年度途中で充分な検討もなしに委託化を考えるなど拙速すぎる、として反対を表明している。
 現場の図書館の負担は決して少なくない。しかし、自動車図書館が残ったからこそであり、よりよいサービスを目指して今後も活動を続けて行きたい。




参考:「職員有志の会」
   「自動車図書館サービスの存続を求める利用者の会」ホームページ  http://nagoyabm.web.fc2.com/

資料1 自動車図書館を考える職員有志の会ビラ
資料2 自動車図書館サービスの存続を求める要望書