【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第1分科会 自治体の「かたち」を変える

 2008年2月22日長崎県当局は、県の地方機関を統合し、各地域事務所を設置する(最終的には5機関に集約)という「長崎県地方機関再編の基本方針(案)」を発表した。「基本方針案」の発表以降、長崎県職員連合労働組合は約1年間に渡って「09年4月1日『当面の再編案』実施」の先送りを求めて、各種の取り組みを自治労県本部等と連携しながら進めてきたが、結果として「基本方針案」の実施を阻止できなかった。



長崎県地方機関再編基本方針に反対する取り組み


長崎県本部/自治労長崎県職員連合労働組合・副執行委員長 松田 圭治

1. 基本方針案の内容と問題点

① 県職連合として、今回の基本方針案について
 ア 今回の「基本方針」は県議会・関係市町との十分な議論を経たものでなく、県当局が一方的に、地方機 関再編の方向性・骨格を決定したものであり、手続き的に極めて問題があるし、内容についても、県と市町との関係、県民・住民サービス、地方機関の業務遂行体制、職員の勤務条件等さまざまな問題を含んだ「基本方針」となっている。
 イ 市町村合併の進展や道州制の議論の中で、県組織の改編・見直しについては、県職連合としても議論を否定するものではないが、今回のあまりにも拙速すぎるこの「基本方針」決定は、県の財政事情を最優先し、安易に既存の県有施設を利用しながら、地方機関を集約することによって、主として総務事務部門に携わる県職員の削減による人件費の節減を目的としたものであり、本来、県が行政機関として果たすべき役割の検討や市町との業務分担、県民サービスの水準の向上といった点からの議論を放置した本末転倒の「方針」と言わざるを得ない。
 ウ 最終的に本土地区の2地方機関への統合の是非や、09年4月を実施日とする段階的な再編について、組織体制、統合施設の場所等多くの課題があるし、この「基本方針」では、県民サービスの低下、業務遂行体制への支障、職員の勤務条件の低下等到底容認できる内容ではない。
 エ 基本的に反対の立場で取り組みを進め、「基本方針」の決定にあたっては、県議会を含めて広く県民の意見等を求めること、十分な議論時間を保障することを強く求めていく。
 以上の立場で、08年6月25日「基本方針案」に対する組合見解(第1弾)を新聞「県職ながさき」紙上で発表した。
② 10月8日、県当局は県職連合に対し「基本方針案」を正式に提案した。ただし、この段階に至っても、当局案は成案となっておらず、結局、10月8日は第1段階として、地方機関の「配置場所」についての提案となり、さらに12月9日に第2段階として「組織体制」について提案があった。第3段階の人員配置を含めた当局成案については、年明け1月20日の提案となった。
 09年1月20日、総務部長は県職連合に対して、長崎県地方機関再編基本方針に基づく「当面の地方機関再編について」提案を行った。

■ 当面の地方機関再編(本土地区を4機関に集約)について
  当初、県北振興局を除いて長崎・県央・島原・五島・壱岐・対馬に「地域事務所」を設置するとのことだったが、今回の提案で機関の名称は全て「振興局」に統一された。
  提案の大きな中味は次の4点である。
1. 地方機関の統廃合
 ① 田平土木事務所・大瀬戸土木事務所を廃止し、県北振興局へ統合
 ② 県北水産センター(旧田平町)、県北農業改良普及センター(旧吉井町)を県北振興局へ移転
 ③ 島原県税事務所を廃止し、諌早県税事務所と統合し、県央振興局税務部として、諌早駅前の民間ビルへ移転。
 ④ 島原農業改良普及センターを島原振興局へ移転
 ⑤ 長崎農業改良普及センター・長崎林業事務所(両事務所とも長崎市城山町)を、県央振興局(諌早合同庁舎)へ移転統合  等々
2. 総務・経理事務を集約
 ① 長崎県税事務所、西彼保健所、長崎港湾漁港事務所の総務経理部門を長崎振興局(現長崎土木事務所)へ集約
 ② 県央・島原・五島・上五島・壱岐・対馬の保健所・家畜保健衛生所の総務・経理部門を各振興局へ集約  等々
3. 窓口業務等のため出張所事務所の設置
 ① 島原県税事務所の窓口業務として出張所を設置
 ② 移転対象の各農業改良普及センターの代わりに技術指導に特化した事務所を設置
 ③ 廃止対象の土木事務所の代わりに維持管理に特化した事務所を設置
4. 所管区域の変更
 ① 西海市の所管を長崎県税事務所(長崎振興局)から佐世保県税事務所(県北振興局)
 ② 田平土木事務所・大瀬戸土木事務所の所管は県北振興局建設部
 ③ 長崎農業改良普及センターの所管は県央振興局農林部  等々

2. たたかいの結果―3月県議会、「振興局設置条例」を可決―

① 3月10日の県議会総務委員会の議論の中で条例に賛成の議員からも「再編後、住民サービスの低下や不都合があれば見直すのか」「声が大きいところは計画が修正されている。基本方針どおりやるべきだ」との意見も出た。このことは組合が指摘してきたように「あまりにも拙速であり、県議会・関係市町・関係団体と十分な議論が行われてこなかった」ことの証左である。
  本来は、地方機関再編の理念を持ち、例えば、今後の島原半島・北松地区・大瀬戸地区・離島地区の地域振興計画を立てるため、県・市町・農協・漁協・商工会等関係団体・NPO等住民の役割を十分議論した結果として、地方機関を再編するというのであればまだしも、そういう議論・手続きを経ずに一方的な県内部の議論によって、この地方機関再編が進められてきた結果であった。
② 3月18日県議会本会議で、「長崎県振興局設置条例」案について改革21を代表して陣内八郎県議会議員が反対討論を行った。採決の結果、自民党会派を中心に賛成多数で可決され、本年4月1日の実施が確実になった。反対は改革21全議員13人と他会派1人の計14人の議員、採決に欠席議員1人であった。
  3月12日に中村総務部長との最終交渉を実施する中、県当局の姿勢を変えることができず、県議会での議論の推移を見守ってきたが、結果として09年4月1日実施を阻止することはできなかった。

3. たたかいを振り返って―地方機関再編阻止はできなかったが運動の前進はあった―

① 地方機関再編基本方針に対する取り組みは08年5月から開始した。新行政推進室は6月末の提案を目指していたため、早急な取り組みが必要となった。
  当初は連合長崎を中心として、県民すべてを対象とした運動の構築も考えたが、県の行政機関の再編という事柄の性質上、民間の人を含めた問題点の説明が難しいのではないかとの判断で、運動の規模としては自治労県本部を中心とした枠組みで進めることとした。結果として、地域ビラの配布等地域住民を巻き込んだ地域の振興という課題について十分な問題提起ができなかったことを反省している。
② 県職連合として、(ア)県議会対策、(イ)自治労県本部を中心とした市町対策、(ウ)評議会、総務・経理担当者を中心とした組織対策の3本柱を中心として取り組みを進めてきた。
  県議会対策は結果として、「長崎県振興局設置条例案」に対する賛否の状況でも明らかなように十分な成果を上げたとは言えない。ただし、改革21の全議員が反対、他会派の2議員が反対または欠席したこと、9月議会・11月議会・2月議会の各総務委員会毎に条例には賛成した自民党会派議員も問題点を指摘するなど一定の成果はあったと思う。最後まで、改革21所属議員の「振興局設置条例」反対姿勢を貫かせたのは、組織内の陣内県議の一方ならぬ努力の結果である。
  関係市町対策においては、平戸市議会・松浦市議会・西海市長・西海市議会・西海市自治会連合会・長崎市長・長崎市農業委員会から、陳情書・要望書を提出した。また、「地方機関再編・離島地域における県と市町の執務室共同化の拙速な実施に慎重な検討を求める署名」について、自治労傘下各市町の組合員5,429筆を集約をした。(全体では11,517筆)
  組織内対策については、農業改良普及員評議会が、県北農改・島原農改の移転を阻止し、土木評議会も長崎港湾漁港事務所の現行体制維持を勝ち取った。税務職員評議会・衛生医療職員評議会・家畜保健衛生評議会・用地等職員評議会も、それぞれ人員体制等で当局案を修正させた。総務・経理の担当者も、経理・出納の現人員を確保し、総務も2人増を確保することができた。
③ 3月7日の島原の振興を図るシンポジウムに参加して感じたのが、他県の事例に関する研究が不十分だったこと。例えば、徳島県における「西部圏域振興計画」等地域の振興策を十分参照できなかったことが、問題提起能力として弱かったのではないかとも反省している。広く言うと地方自治に対する考察が、この間の県職連合運動の中で十分構築できていなかったことも反省させられている。今後の県職連合の運動の中で「自治研」活動の重要性と必要性を感じた。
 ア 地方機関再編基本方針要請書提出単組
   2008年10月28日 南島原市職労が松島世佳南島原市長へ提出
   2008年10月31日 西海市職が山下純一郎西海市長へ提出
   2008年10月31日 西海市職が西海市議会議長へ提出
   2008年11月4日 雲仙市職労が奥村慎太郎雲仙市長へ提出
   2008年11月11日 松浦市職が友広郁洋松浦市長へ提出
 イ 陳情書・要望書の提出状況
   2008年8月19日 平戸市議会議長から要望書(田平土木事務所の存続)
   2008年12月4日 西海市長からの要望書(長崎農業改良普及センター支所の市内設置)
   2008年12月4日 西海市議会議長からの要望書(大瀬戸土木事務所の存続)
   2008年12月4日 西海市連合自治会5自治会長からの陳情書(大瀬戸土木事務所の存続)
   2008年12月5日 松浦市議会議長からの要望書(県北農業改良普及センターの存続)
   2009年2月20日 長崎市長からの陳情書(長崎農業改良普及センター・長崎林業事務所の県央移転の再検討)
   2009年3月4日 長崎市農業委員会からの要望書(長崎農業改良普及センターの現地存続)
 ウ 署名簿等の集約状況
  (1) パブリックコメント
     2008年12月16日~2009年1月16日 50件(2009年1月19日現在)
  (2) 反対署名集約状況
    ① 県職連合            2,225筆
    ② 自治労県本部          5,429筆
    ③ 県平和センター         3,233筆
    ④ その他(県北会館利用者団体等)  670筆 
                   計 11,557筆

本土地区再編イメージ