【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 地方鉄道「福井鉄道福武線」の再建という大きな課題に対し、市民、民間(事業者)、行政(国・県・市)が、それぞれの役割を演じ、また、協働してその再建に向けた取り組みを行った。生まれ変わった福武線は、市民(株主)、民間(運行)、行政(鉄道用地保有)による新しい公共交通の姿となった。その「地方鉄道福武線」という「新しい公共」が誕生するまでのプロセスを、市民、民間、行政が行った取り組みを通し紹介する。



地域の公共交通を守れ
福井鉄道福武線の存続に向けた市民ぐるみの取り組みから

福井県本部/越前市職員組合・NPO法人丹南市民自治研究センター 奥山 茂夫

1. はじまりは、「電車でGO」だった。

 2003年9月27日、NPO法人丹南市民自治研究センター(以下、自治研センター)と中部地区労働福祉平和センターが、福井鉄道福武線の越前武生駅(旧武生新駅)~福井市の田原町駅間を、福井鉄道株式会社の協力の下、貸切臨時電車を走らせ、車内でこれからの公共交通のあり方やまちづくりとの関係などを話し合う「電車を楽しみ、公共交通を考えよう会」を行った。
 第1部は越前武生駅のホームに停めた電車の中で福井鉄道の歴史を聞き、第2部は福井へ走る電車の中での議論、第3部は福井から武生へ帰る車内でお茶やビールを出しての賑やかな懇親会の企画だった。2両編成の電車で定員いっぱいの親子連れなど70人が県下各地より参加し、県内の主要マスコミ全てがこの企画を報道した。
 この時からだ。私たちが、交通の頭に「公共」がつく「公共交通」を考えるようになったのは……。

2. 福井鉄道「福武線」

 最初に、福井鉄道福武線について紹介する。
 福武線は、越前市の越前武生駅から鯖江市を経由し福井市の田原町駅を結ぶ21.4キロを、鉄道区間(18.1キロ)と軌道区間(3.3キロ)で運行する単線(一部複線)鉄道で、2009年度には年間約163万人が利用する地方鉄道である。
 昭和8年に運行開始以来、通勤、通学、通院、買い物など私たちの生活を支える地域の公共交通機関として、また、越前市・鯖江市・福井市の沿線3市のまちづくりにとって重要な役割を果たしてきた。利用客は、1989年度(平成元年度)に約292万人、1999年度(平成11年度)は191.6万人と11年間で約100万人が減少、さらに2008年度には約160.5万人と、99年度から2008年度の10年で約31万人が減少している。
 このような中、福井鉄道株式会社は2007年9月、経営難を理由に「単独での福武線存続は困難である」として福井県や沿線自治体である越前市・鯖江市・福井市に支援を求めた。

3. 地域住民、労働組合が先頭に立って、公共交通を考える運動を展開

 福井鉄道株式会社が「単独での福武線の存続が困難である」と表明して以来、住民団体、労働組合などが先頭に立って、公共交通機関の存在意義を地域住民といっしょに考える様々な取り組みが展開された。この取り組みにあたっては、自治研センターも積極的に動いた。例えば、存続運動を展開するにあたり、呼びかけ団体の中心になったのが連合福井丹南(旧南越)地域協議会であるが、その事務局長は自治研センターの理事であった。また、行政の公共交通担当者やラブ電実行委員長も自治研センター理事である。さらには、後述する市民団体で構成された「越前市・福武線を応援する連絡協議会」の事務局長には、自治研センターの伊藤理事長が選任されている。もちろん、実際には多くの市民団体が協働しての各種活動が展開されているが、存続活動スタートの場面で自治研センター関係者の果たした役割は意義深いものがあったと評価されている。
 その取り組みのいくつかを紹介したい。

4. 「第一弾」 福武線利用促進・市民フォーラム

  鉄道や路線バスの利用者は、年々減少する傾向にある。しかし、これらの公共交通機関は、高齢者や学生をはじめ市民の日常生活を支える身近な移動手段として重要な役割を果たしている。特に、福鉄・福武線の利用促進については、沿線住民を始め市民の意識と協力が不可欠であり、地域に根差した公共交通機関となることが求められている。そこで、事業者・市民・行政が一体となって、利用促進の機運を盛り上げようと2007年11月28日、越前市と越前市地域公共交通会議が主催し市民フォーラムを開催した。主催者の呼びかけに応え、越前市自治連合会(旧越前市区長会連合会及び越前市自治振興会連絡協議会)をはじめ、連合福井丹南地域協議会、越前市老人クラブ連合会、越前市男女共同参画ネットワーク、越前市PTA連合会、武生商工会議所、武生青年会議所、仁愛大学、NPO法人ふくい路面電車とまちづくりの会、NPOえちぜん、自治研センターなど、市内の主たる団体が参加し、越前市福祉健康センターで行われた会場は、立ち見がでるほど満席となり、多くの人がこのフォーラムにかけつけることになった。
 内容は、越前市長のあいさつに続き、福井鉄道株式会社から「福武線の現状報告」が行われ、事例発表として福井県内の「えちぜん鉄道存続運動と活性化の取り組み」が紹介された。その後のパネルディスカッションでは、「みんなで守ろう福武線」をテーマに議論が交わされた。

5. 官民協議会:福井鉄道福武線協議会

 2007年11月2日、福井県、沿線自治体である越前市・鯖江市・福井市、福井鉄道株式会社と実質的な親会社である名古屋鉄道株式会社、債権者である金融機関で構成された「福井鉄道福武線協議会(通称:官民協議会)」が設置された。この官民協議会は、いわば、法定協議会とは異なり非公式の協議会だが、国土交通省中部運輸局もオブザーバーとして参加し、2008年11月15日の最後となる第9回官民協議会まで約1年間にわたり、福武線の再建スキームについて協議されることとなった。その再建スキームは下記の図のとおりである。
 2008年12月29日、名古屋鉄道株式会社による10億円の増資が行われ、同日付けで福井鉄道株式会社の債務縮減に使われた。同時に、名古屋鉄道株式会社が保有していた株式を1株1円ですべて売却し、福井鉄道株式会社の経営から完全に撤退した。なお、その売却先は、法定協議会に参画する住民サポート団体等で、後述する「越前市・福武線を応援する連絡協議会」も株式の4%に相当する3万株を購入し、福武線の運営に名実ともに関わっていくこととなった。
福井鉄道福武線再建支援事業について 

6. 法定協議会:福井鉄道福武線活性化連携協議会

  官民協議会で確認された再建スキームは、行政が鉄道用地を購入し、鉄道事業者に無償で貸与、鉄道インフラの更新と維持管理経費は自治体が財政支援するといったことを基本的な考え方とした支援である。この支援により福井鉄道福武線は再生への第一歩を踏み出すこととなるが、その再生と活性化への取り組みを円滑かつ確実に実施していくため、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」に基づいた法定協議会「福井鉄道福武線活性化連携協議会」が2008年5月30日に設立された。構成メンバーは、福井県、沿線3市、福井鉄道株式会社、住民サポート団体、公安委員会等であり、オブザーバーとして国土交通省中部運輸局が参加している。この法定協議会では、地域公共交通総合連携計画と鉄道事業再構築実施計画を策定し、福武線の再建に取り組むこととなるが、2009年2月24日に福井鉄道福武線鉄道事業再構築実施計画が認定され、実質的な福武線の再建がスタートしている。

7. 「第二弾」市民フォーラム「残そう福武線 電車は地域の財産だ」

参加者300人余、会場は超満員、存続へ心ひとつ
 2008年2月25日、自治研センターは「残そう福武線 電車は地域の財産だ」と銘打ち、市民フォーラムを開催した。今回は、自治研センター、越前市自治連合会、連合福井丹南地域協議会、越前市老人クラブ連合会の4者共催で開いたもので、会場は300人余りの参加者で椅子が足らず立ち見もでる状況となり、越前市民にとって「福武線」の存在が大きいことを改めて示した。1回目のフォーラムがどちらかと言えば行政主導での市民参加であったのに対し、今回は企画も含め全て市民主体のフォーラムであった。進行は自治研センターの伊藤理事長が務め、代表挨拶は当時の区長会連合会長、活動報告は当時の連合福井南越地域協議会議長、そして、閉会前に当時の自治振興協議会代表幹事が市民応援組織結成への呼びかけを行い、共催4団体がそれぞれ役割を分担した。
 講演は、NPO法人ふくい路面電車とまちづくりの会の事務局長が1時間にわたり、電車がもつ地域の便益について具体的数字をあげて紹介、環境、高齢者にやさしく、財政面でのメリットも大きい、全国各地で存続の危機から見事に再生し地域活性化やまちづくりに大きく寄与している実績がある、福武線は、丹南はもとより県内公共機関として絶対に必要な路線、社会資本としての鉄道を大事に考え存続と乗る活動をみんなで取り組もうと話した。

8. 福武線存続願う5万人の署名を市長に提出

  写真:2008年3月14日
      50,635人分の署名が集まり、越前市長(手前右)
      及び越前市議会議長(手前左)に提出」 

 越前市自治連合会(当時:越前市区長会連合会)は2008年2月15日、市内全17地区において福武線存続のための署名活動を開始した。
 その理由として、「将来的にも福武線は、私たち市民、特に高齢者や学生、障がい者など車の運転が困難な人たちの大切な足として必要不可欠な公共交通機関である。さらに、利用者だけが恩恵を受けるのではなく、環境面やまちづくり、朝夕の幹線道路の渋滞緩和などからも福武線の存続が強く求められている」としている。わずか1カ月で5万635人分の署名を集め、2008年3月14日に、越前市長と越前市議会議長に提出している。人口8万6千人の越前市で5万の署名を1カ月で集めるという早業を行ったのである。

9. 恋特急「ラブ電」福武線を快走!!

 2008年3月15日、電車を利用しての出会いの場イベント「恋は電車に乗ってやってくる、ラブ電」が、福井鉄道福武線の越前武生駅から福井市の田原町駅間を、独身男女など75人を乗せて走った。詳細は、スペースの関係で省略するが、福武線の存続問題の中に合って、「恋は電車に乗ってやってくる」というネーミングや電車に多くの若者が乗り込み、出会いの場を創出するという明るい話題性が評判となり、多くのマスコミに取り上げられた。福武線存続という深刻な状況の中、この活気あふれたイベントは、重要な役割を演じ、2010年度も継続して企画されている。

10. 住民サポート団体「越前市・福武線を応援する連絡協議会」設立

自治研センターなど15団体が賛同。設立総会に120人
 2008年5月24日、越前市福祉健康センターで越前市内の15団体が参加する「越前市・福武線を応援する連絡協議会」が設立された。これは、福井鉄道福武線の存続に向けて県や沿線の福井・鯖江・越前の3市、名鉄、福鉄の関係者による「官民協議会」では、具体的な支援方法や必要な財政分担が進められているが、利用する市民の立場からも福武線を応援し乗る運動などを進めようと結成されたもの。
 設立総会には各団体の代表120人が参加し、会則や役員を決めた後、当面する活動として、①福武線に乗る運動の促進、②市民への情報提供や合同事業、③福井鉄道への提言、④会員の拡大、⑤福井・鯖江・越前の3市での福武線サポート団体等協議会への参加などを確認した。この市民応援組織は、2008年2月に自治研センターと越前市自治連合会、連合福井丹南地域協議会、越前市老人クラブ連合会の4者共催で開かれた「電車は地域の財産だ、乗って残そう福武線市民フォーラム」が一つのきっかけとなり、その4団体が市内の各種団体に参加を呼びかけ、その後に数回の準備会を経て設立となった経過もあり、協議会の事務局長に自治研センターの伊藤理事長が選任された。会長には越前市自治連合会長が就任した。

 当日までの参加団体は次の通りであった。
 越前市自治連合会、越前市老人クラブ連合会、連合福井丹南地域協議会、武生商工会議所、越前市社会福祉協議会、越前市身障者福祉連合会、越前市連合女性会、越前市壮年グループ連絡協議会、武生商店街連盟、武生府中ロータリークラブ、越前市食生活改善推進委員会、NPOえちぜん、中部地区労働福祉平和センター、自治研センター。
 時を同じくして、鯖江市と福井市にも、市民団体による福武線のサポート団体が結成されている。
・2008年5月24日 福井鉄道福武線利用促進鯖江市民会議設立
・2008年5月29日 福井市福井鉄道福武線サポート団体協議会設立
 さらには、越前市、鯖江市、福井市のサポーター団体が集まり、福井鉄道福武線サポート団体等協議会が2008年6月16日に結成された。

11. 市民団体が乗る運動を展開

① 2008年6月16日と2009年4月1日、連合福井丹南地域協議会が越前市内で公共交通利用促進キャンペーンのちらしを配布。
② 2008年・2009年の各4月1日~、連合福井丹南地域協議会が「乗って残そう」公共交通利用促進キャンペーン(公共交通機関に乗り、スタンプを集め、抽選でNINTENDODSとSONYPSPを毎月1台ずつプレゼント)を展開。

12. キャンペーン内容

① 市民にキャンペーン応募用紙(はがき付き)を広く配布し、公共交通(電車、バス、コミュニティーバス)の利用を呼びかける。
② 交通事業者等(福井鉄道、京福バス、鯖江市、越前市、越前町その他)に協力を依頼し、応募用紙を持参し公共交通を利用した方に、利用記録(スタンプ)を付与。
③ キャンペーン期間内(3カ月)に応募用紙の欄がいっぱいになった時点で、キャンペーン事務局に応募用紙を郵送してもらい、その中から抽選でNINTENDODSとSONYPSPを毎月1台ずつプレゼント。
④ 応募用紙には「公共交通(電車・バス)へのメッセージ」をあわせて記載してもらい、その集計結果を「利用促進の証し」+「利用した市民の思い」として関係機関へのアピールに活用する。
 ■2009年4月10日、中部地区労働福祉平和センターが、公共交通利用促進の方策を電車の中で語る「電車でトーク」を開催。
 ■2009年4月25日、連合福井南越地域協議会がメーデー会場まで福武線で行く「電車でメーデー」を開催。

13. 市長・議長へ要望書を提出

 2008年11月10日、越前市・福武線を応援する連絡協議会は、越前市長に福井鉄道福武線に関する要望書を提出した。福井鉄道福武線については、これまで越前市自治連合会が行った署名活動をはじめ、多くの市民団体の共催により2008年2月25日に開催した市民フォーラムや、各種団体からなる越前市・福武線を応援する連絡協議会の結成など、福武線の存続に向けた取り組みが行われてきた。
 また、福井鉄道福武線活性化連携協議会には、住民代表として越前市・福武線を応援する連絡協議会の会長が委員として参画し、福井鉄道福武線地域公共交通総合連携計画及び再構築実施計画に、住民アンケートの結果や越前市・福武線を応援する連絡協議会の提言等を反映させ、国に申請しようとしていた。そこで、越前市においても、福井鉄道福武線地域公共交通総合連携計画及び再構築実施計画の実施に向けて、力をつくすよう要望書を提出した。

14. 人気CMにも登場 レトロな駅と名物駅長

 2009年冬に放映された、ソフトバンクモバイルの携帯電話CMの撮影が福井鉄道福武線「北府(きたご)駅(旧西武生駅)」を舞台に行われ、そのレトロ調な駅が大変評判になった。
 そこで、越前市・福武線を応援する連絡協議会は、このCMをきっかけに、ソフトバンクモバイルから写真の提供を受け、福井鉄道福武線の利用促進ポスターを作成した。
 また、ソフトバンクモバイルから提供されたお父さん「カイ」君のぬいぐるみが、福武線の駅長に就任し、毎日どこかの駅で乗客を迎えている。
 ソフトバンクモバイルの携帯電話CMの撮影場所は、福武線「北府駅(旧西武生駅)」です。

15. 市民、行政、事業者が一体となり、新しい公共交通を育てる

  福井鉄道福武線は、行政等の補助を受けながら、今後乗客数を約39万人増やし、10年後には200万人台を目指し、経営の改善を図るとしている。その2017年度までの10年間に、沿線3市、福井県、国から総額55億円の公的資金の援助を受けることになる。
 越前市議会においても、一私企業の経営が困難という理由で、多額の公的資金(税金)を投入するのはいかがなものかという議論が厳しく行われた。しかし、福武線は、地域の「公共」交通機関、「公共」の財産だからこそ、一私企業の再生に公的資金を投入できたのである。これまで、道路整備には多くの公的資金が使われてきたが、地方鉄道に公的資金が投入されることは少なかった。しかし、国も法的な整備を行い、全国の疲弊している地方鉄道の再生に取り組んでいる。福井鉄道福武線は、改正地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づく鉄道事業再構築実施計画の第1号として認定された。
 私たちは、福井鉄道福武線の再建に向けた取り組みを通し、多くの市民団体とともに、「公共」交通について考え、その存在意義を問い直し、新しい公共交通を誕生させることとなった。それはまた、地域住民をはじめ、事業者や行政にとっても、「新しい公共」に触れる、初めての経験だったかもしれない。
 最後に、電車、バスなどの公共交通機関は、高齢者や学生をはじめ住民の日常生活を支える身近な移動手段として重要な役割を果たしている。その、公共交通機関を守るには、市民、事業者、行政が一体となり、地域に根差した公共交通機関をつくりあげていくことが必要不可欠である。そこに「新しい公共」が存在することになる。「新しい公共」とは、市民、民間、行政が一体となり、つくり育てていくものなのだろう。