【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 2004年に指定管理者制度が導入されて7年が過ぎようとしています。当市におけるこの制度は「民間のノウハウを活用することで効果的・効率的な施設管理が行われる。」との目的で導入されましたが、実情はどうなのか。
 これからさらに導入が進んでいく中で、より良い運営ができるようにするにはどうすればよいのかを認識できればと当事者に聞取りをし問題点を見出すべく調査しました。



NPO法人が行う指定管理の現状
~公共施設における一律指定管理制度導入3年後の現状 上越市~

新潟県本部/上越市職員労働組合 倉石 義宏

1. はじめに

 当市は、新潟県の南西部に日本海に面して位置し、北は柏崎市、南は妙高市、長野県飯山市、東は十日町市、西は糸魚川市に隣接しています。2005年1月1日、14の市町村(上越市、安塚町、浦川原村、大島村、牧村、柿崎町、大潟町、頸城村、吉川町、中郷村、板倉町、清里村、三和村、名立町)の合併が実現し21万人都市が誕生しました。
 古くから交通の要衝として栄え、現在も重要港湾である直江津港や北陸自動車道、上信越自動車道のほか、JR北陸本線、JR信越本線、ほくほく線などを有しています。さらに、北陸新幹線や上越魚沼地域振興快速道路などのプロジェクトも進行するなど、三大都市圏とほぼ等距離に位置する中で陸・海の交通ネットワークが整った有数の地方都市となります。

2. 指定管理者制度の導入

 改正地方自治法が2003年6月13日公布、9月2日に施行され「指定管理者制度」が導入されました。この一部改正(第244条、第244条の2及び244条の4)により、公の施設の管理運営の委託先が地方公共団体の出資法人や公共的団体に限らず、株式会社をはじめとする営利企業や財団法人、NPO法人、市民グループ等の法人やその他団体が公の施設の管理運営を行うことが可能となりました。
 当市においても法改正を受け、一部が2004年に導入され、その後、各施設の条例が改正されるとともに2006年4月から大々的な導入が行われました。

3. 上越市における指定管理者制度のこれまでの動き

(1) 指定管理者制度の導入経過
① 導入計画
  地方自治法の改正により、管理委託で公共的団体が管理してきた施設は、2003年9月2日から3年間のうちに指定管理者制度にするか、直営の管理にするか決定しなければならなくなり、当市では2005年度(平成17年度)に、当時の市内施設の中で管理を公共団体等に委託をしている施設について、原則指定管理者制度に移行するよう方針が出されました。その方針では、施設の性質を踏まえて直営が望ましいもの(学校、河川、道路等)を除き、それぞれ次の項目に該当するか否かにより優先順位をつけて導入を進めるものとしました。
 ア 導入による効果(サービス向上、経費削減)が顕著な施設
 イ 同種の施設で指定管理と直営管理が混在している施設
 ウ 臨時職員、業務委託職員が管理を行っている施設で、導入による効果が見込めるもの
② 選定方法
  指定管理者の選定にあっては、施設の設置目的を果たすにふさわしい発想やノウハウを持つ事業者・団体であること、さらに地域での雇用の確保、地元企業の活性化、公共サービスを担う団体の活動基盤の強化等地域の活性化に貢献できる事業者・団体を原則として選定しました。
  ただし、次の施設は公募によらない候補者の選定を行うことができるとしました。
 ア 利用が地域住民に限定され当該住民で組織する団体が管理している施設(町内会館等)
 イ 施設の性格から特定団体に管理を行わせることが施設の設置目的を効果的かつ効率的に達成できる施設(第三セクターで管理運営している施設)
 ウ その他、公募が不適当とする特別の理由のある施設

(2) 指定管理者の選定基準
 指定管理者の選定に係る基本的な基準を次のとおり定めました。
① 申請者から提案された事業計画に基づく施設の管理が平等な利用を確保することができるものであること
② 事業計画の内容が施設の適切な管理、サービスの向上が図られるものであること
③ 事業計画に沿った施設の管理を安定して行う能力を有していること
④ 管理に係る経費の縮減が図られるものであること(現行の管理経費よりも委託料が安いこと)

(3) 指定の状況
 当市内の公の施設は987施設あり、指定管理者制度が導入されている施設は、263施設(2009年4月1日現在)にのぼり、町内会内の会館から、デイサービスセンター、スキー場に至るまで多種にわたっています。指定の契約期間は5年を基本にしていますが、次期更新時にかかる近隣施設との調整により3年程度に短縮したり、競合のない町内会館、町内集会広場等は10年となっています。
① 施設の種類別施設数 2009年(平成21年)4月1日現在
表-1
施設の種類
施設数
指定管理者による管理施設数
市の直営管理による管理施設数
レクリエーション・スポーツ施設 
147施設
65施設
82施設
農 業 振 興 施 設 
18施設
4施設
14施設
基 盤 施 設 
199施設
137施設
62施設
文 教 施 設 
310施設
13施設
297施設
社 会 福 祉 施 設
313施設
44施設
269施設
987施設
263施設
724施設

② 指定管理者別施設数  2009年(平成21年)4月1日現在
表-2
施設の種類
民間企業
NPO法人
出資法人
公共的団体
レクリエーション・スポーツ施設
3施設
1施設
18施設
43施設
65施設
農 業 振 興 施 設
1施設
1施設
2施設
4施設
基 盤 施 設
1施設
4施設
132施設
137施設
文 教 施 設
4施設
3施設
4施設
2施設
13施設
社 会 福 祉 施 設
1施設
43施設
44施設
8施設
6施設
27施設
197施設
263施設

4. 市内のNPO法人の指定管理施設の状況

(1) NPO法人による契約状況
 
表-3
 
施  設  名
指定管理者名
従前の
管理形態
委託
期間
利用料金制※
安塚コミュニティプラザ NPO雪のふるさと安塚
直  営
委託料、利用料金併用
雪だるま物産館 女性百人委員会
直  営
利用料金のみ
船倉地域生涯学習センター NPO緑とくらしの学校
直  営
委託料、利用料金併用
日本自然学習実践センター NPO日本自然学習実践センター里やま学校
管理委託
委託料のみ
大池憩いの森ビジターセンター NPO日本自然学習実践センター里やま学校
管理委託
委託料、利用料金併用
くわどり市民の森 NPOかみえちご山里ファン倶楽部
管理委託
委託料、利用料金併用
※ 利用料金制……公の施設の使用料について指定管理者の収入とすることができる制度

(2) 指定管理料の推移
単位:千円  表-4
  
施  設  名
導入前の
委託料
2005年
平成17年
2006年
平成18年
2007年
平成19年
2008年
平成20年
指定開始日
安塚コミュニティプラザ
6,624
6,624
6,624
6,613
6,569
2004年12月20日
雪だるま物産館
-360
-
360
356
350
2006年12月1日
船倉地域生涯学習センター
809
809
809
889
800
2004年10月1日
日本自然学習実践センター
5,089
4,935
4,945
4,915
2006年4月1日
大池憩いの森ビジターセンター
11,624
9,695
9,764
9,079
2006年4月1日
くわどり市民の森
14,522
16,601
16,601
16,666
2006年4月1日

5. 調査方法

 制度導入後7年が経過しています。これまでの制度の運用状況を把握し、実施における当初目的と現状を比較することにより問題点を抽出・整理することとしました。また、調査対象は、指定管理者制度が導入される上で制度目的によりふさわしいと思われているNPO法人についてその現状を把握することとし、抽出した市内6施設あるうちの「大池いこいの森ビジターセンター」について調査をすることとしました。

6. 大池いこいの森ビジターセンターにおける指定管理の現状

(1) 当該施設の概要
大池いこいの森ビジターセンター外観
  名称:大池いこいの森ビジターセンター
 所在地:新潟県上越市頚城区日根津116番地1
 施設の概要
① 建 設   1995年11月1日
② 構 造   木造地上2階建て
③ 延面積   627.13m2
④ 設備概要
  第一研修室 53m2×1室(定員16人)
  第二、第三研修室 20m2×2室(定員1室あたり6人)、第四、第五研修室 17m2×2室(定員1室あたり5人)、農業資料館 83m2×1室 宿泊可
⑤ 指定管理者制度導入年月日及び契約年数
  指定管理開始日:2006年(平成18年)4月1日  
  契約年数:5年
⑥ 入館者数及び利用料金収入(委託期間時)
  入館者数:2005年度5,471人 2006年度5,095人 2007年度5,592人 2008年度7,205人
  利用料金収入:(1,523千円※)1,399千円  890千円  1,205千円

(2) 指定管理者「NPO法人日本自然学習実践センター里やま学校」の概要
 当該NPO法人は、豊かな自然環境を基盤として上越市頸城区はもとより、県内外の里山保全活動の拠点とし、里山をはじめとする自然環境の保全、回復、創出に貢献することで、持続可能な環境社会の実現を目的に、里山保全の作業や、個人及び地方自治体、法人その他の団体に対して、生涯学習、環境学習、生態技術研修等の活動を行っています。
① 設立 2000年(平成12年)
② 会員数及び職員数 会員約60人 職員数8人
③ 主な活動
 ア 市民向けイベント……毎月、自然観察会や専門の講師による講座等を開催
 イ 小・中学校の学習支援……総合学習の講師として授業に参加
 ウ 里山探検隊の開催……子どもたちに里山に親しんでいただくプログラムを開催
 エ 日本学習実践センターの育成管理……実践センターの動植物保全の草刈・施工管理等を実施
 オ 大池いこいの森ビジターセンターの管理……当該施設の管理やキャンプ場の受付

(3) 委託から指定管理者へ
 2006年に指定管理者制度が導入される以前の当該施設の管理形態は、現在の指定管理者である「NPO法人日本自然学習実践センター里やま学校」に委託していました。業務は、主に窓口業務や当該施設内の案内や簡易的な清掃業務のみで、光熱水費や警備保障、清掃業務については業務委託等をしていました。その後、2006年4月に同団体と協定を結び指定管理者になりました。指定管理にかかる経費は、大規模な修繕等を除き、利用料金を管理費に充てる利用料金制により、ほとんどを指定管理者が賄うこととなりました。また、指定方法については、事前に制度と施設説明が行われた後、公募で指定管理者を募り、2者競争の上選定委員会を経て、当該NPO法人を指定管理者に決定しました。

(4) 指定管理の現状
 実際に指定管理を受けていることについて、課題となることについて現状を調査しました。結果、次の5つの点について整理することができました。
① 指定管理料の減額
  当該施設は2006年から指定管理を受けていますが、以前の委託契約とその経費を比較すると、2005年において委託料・保守費を併せて12,259千円だったものが、2006年の契約当初に9,140千円まで減額し、マイナス3,119千円で24.4%の減となっています。これは、指定管理者制度の導入を進める際に、市の総予算が削られたため、指定管理料が概ね予算の圧縮率と同率に抑えられた経緯によるものと推測されます。その後は、初年度契約額が基準額となり、指定管理者は抑えられた予算の範囲内での運営を強いられることになりました。
② 規約による制限
  指定管理者制度の目的に、「民間のノウハウを活用することで効果的・効率的な施設管理が行われる。」との考え方がありますが、あくまでも公の施設であるため、法令に縛られるという側面があります。
  当該施設においても、上越市大池いこいの森ビジターセンター条例及び規則によって開館日、開館時間、利用料金等が定められており、利用者のニーズに応えるための施設の利用方法の変更や、利用促進の取り組みについても法令により制限があります。特に利用料金については、施設の管理において財源になるにもかかわらず、指定管理者独自の経営的な料金の設定は全くできないのが現状となっています。また、当市においては、2007年に同様施設の使用料の一律化により利用料金の見直しが行われ、当該施設においても指定管理期間中にも関わらず仕様書が変更され、他の施設同様に利用料金の値上げが行われたため、運営計画の変更が余儀なくされるばかりか利用者の負担増となり不満の声が心配されるなど指定管理者では改善できない状況もあります。
③ 利用促進の活動
  利用者数が増加し利用料金が増えると、施設修繕のほか施設運営にかかる様々な活動が可能となってくるため、利用促進の活動は最も重要な取り組みだと考えます。当該施設においても同様で、以前は市でも利用促進のPRやパンフレットの作成等をしていましたが、指定管理者制度導入後は、指定管理者が実施すべきとの暗黙の了解となっており、市からの協力は得られない状況にあります。そうした中、指定管理者の利用促進の取り組みは、パンフレットやチラシを用いての計画的なダイレクトメールやイベントの開催、インターネットホームページの更新等が主な活動となっています。しかし、職員数が委託料の減少に伴い減ったため、これまで実施していた企業や学校、子ども会等への案内や利用依頼に出かける等に裂く時間が減少したために対外的な営業活動が実施できない状況となっており、これに起因する利用者の減少が懸念されています。
④ 経費削減の努力
  委託契約から指定管理者に移行した際の委託料減額の影響は、収支計画の大半を占める人件費の抑制を強いられることとなります。当該施設では、通年雇用者の人数を4人から3人に減らし、清掃業務、施設保全業務のローテーションの見直しを行い、冬季間の除雪等に従事する職員を季節雇用で対応することとしました。併せて通年雇用者についても勤務時間を短縮することで人件費抑制をしていますが、この年間雇用者の雇用については、募集の際に賃金支給のみでは受け手がおらず通勤手当や社会保険の加入をする条件で募集し、雇用しています。このように管理運営にかかる人件費の抑制は限界に達している状況にあります。また、利用促進にかかる経費についても、予算内での執行となるため、効果的なパンフレットやチラシよりも予算の範囲でできるもの、経費が抑えられるイベントの計画が必要となっています。
⑤ 収益事業
  当該NPO法人が行っている事業経費は、主に参加者からの参加費によって賄われています。しかし、当該施設の利用については、当該NPO法人が行っている活動のほとんどが野外活動であったり、当該施設の設備ではできない活動であるため、施設利用による収益事業をしていないのが現状です。今後は、当該NPO法人の活動計画の工夫をすることにより、当該施設の運営や当該NPO法人の活動経費の創出、活動の活性化のための展開の可能性が伺えます。

7. 問題と課題の整理

 ①行政改革の経費縮減と職員数の削減の手法として導入された制度のため、予算が頭打ちとなっており、今後、施設管理計画で予算増を望んでも増額の可能性が難しい、②民間のノウハウを生かそうにも法令に縛られ、③施設管理を制度導入以前よりも管理者に任せているため、行政が関与せず、共同で活動しない、④切迫した経営状況では、積極的な集客活動ができない、⑤更新の保証がない中で、長期的な計画遂行ができない、⑥団体が管理者となることで、その団体の活動拠点となりうる。

8. 調査を終えて

 指定管理者制度の目的は、多様化する住民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の削減を図る……ことであるが、実際に指定管理を受けた管理者にお話をお伺いすると、さまざまな問題を抱えていることがわかりました。管理方法については、いずれも制度の趣旨には到底及んでいないのが実感です。これまでの調査で指定管理者制度自体が問題であるとは断言できませんが、少なくともこれまでの運用においては、行政と指定管理者が施設運営の経過について双方で検証していないことに問題があると考えます。行政における指定管理施設の取り扱いは、従前の業務委託同様としている状況であり、行政は公共施設本来の管理者であるにもかかわらず、施設全般にかかる管理・運営についての職務を手放しています。さらに指定管理者が抱えている法令による制限や集客業務の負担増、団体活動における利用者増の可能性等の問題・課題について改善等の意見交換や指導・助言を実施していないのが現状であり、施設運営においては、双方の協力は不可欠だと考えます。
 この状況が継続するのであれば、指定管理料の一方的な削減は可能ではあるが、当該施設の集客数は減少するとともに次期更新時において指定管理者の応募者がいなくなることが懸念されるため双方による検証が早急に行われることが必要であり、実施を働きかけていかなければならないと考えます。