【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 平成の大合併での市町村合併による行政サービスについて、住民との関係、国や県の構想と現実の共通点と相違点などについて考えていく。



山梨県の市町村合併による行政サービスの変化


山梨県本部/山梨県地方自治研究センター

1. はじめに

 行政のサービス水準と一言で言っても、単純ではない。特に、各自治体のサービス水準の比較となるとさらに複雑である。今回は、自治体の市町村合併の前後の状況で論じてみるものであるが、いくつかの留意点が必要である。例えば、合併前にごみの収集を週に2日行っていたが、3日になった。逆に、週3日が2日になったことのみで、住民サービスが向上した・低下したと論じるのは、少し乱暴な議論になってしまう。
 それは、ごみ収集が週2日になれば、住民は若干不便を感じて、行政サービスが悪化したととらえるかもしれないが、環境循環型社会という観点から考えれば、むしろごみ縮減になる場合もあり、結果的には快適な環境をめざしていくことで、住民サービスの向上となるかもしれない。
 また、住民検診などで、合併前は自宅の近くの場所で検診ができていたものが、合併後は自宅から遠く離れた場所で行うことになり、住民サービスの低下となるかもしれない。しかし、実は合併後は、検診科目の中に、今までの旧自治体での検診ではなかったものが新たに加わったとしたら、逆に住民サービスの向上ということになることもある。
 このように、住民サービスの比較というものは、表面だけでは比較は難しく、丁寧な調査が求められる。
 しかし、今回は自治体が合併したばかりであり、あくまでも合併前後の状況の把握ということで考えていく。行政サービスの比較については、多くの行政サービスの中で、水道料金・介護保険料・職員数を取り上げていく。
 水道料金については、水道は、空気とともに、人間が生存するために必要不可欠である。そのことは、阪神・淡路大震災で再認識され、飲み水にはボトルウォーターなどを購入する以外、代替物がないことが証明されている。また、山梨県の水道普及率は97.2%(2001年度 水道統計調査 日本水道協会)で、ほぼ全ての県民に対するサービスであり水道法に規定された住民生活のライフラインである。市町村合併前から、料金に格差があったことから、合併後の変化について比較していく。
 介護保険制度は、わが国の急速な高齢化の進展によって生じる介護の問題について、介護を必要とする本人やその家族が抱えている介護の不安や負担を社会全体で支えるため、2000(平成12)年4月から導入された。介護保険料は、同制度を運営するために40歳以上の人が支払う保険料である。介護サービス費から利用者負担の1割を除いた介護給付費の半分を賄い、残り半分は公費で負担する。65歳以上の保険料は、介護サービス費に応じて市町村が3年に一度見直すことが可能となっており、年金から天引きなどして徴収する。40歳から64歳の保険料は、医療保険と一体的に徴収する。自己負担は半額となり、残りの半額は、健康保険組合などの加入者は事業主負担、国民健康保険は国と都道府県で負担する。介護保険制度では、各自治体が介護保険事業を計画し、そのサービス量の見込みに沿って保険料の基準額が算定されるため、市町村合併前から保険料の差があることから、比較対象とした。
 自治体職員数については、市町村合併によって、より効率的で、より高度な行政サービスが期待できるとされていた。そこで、住民サービスの維持・向上と自治体職員数については、市町村合併前と合併後で、どう変化したのか検証していく。但し、職員といっても様々な職員の種類があり、共通の比較が困難なため、職員一人が受け持つ住民数などは、全自治体に必ず存在する行政関係職員(今回述べる行政関係職員については、山梨県総務部市町村課「市町村別・一部事務組合別決算状況調」の区分を参考とする。)だけを基準とした。一般に、職員一人が受け持つ住民の数が多ければ、相対的に少ない職員でより多くの住民にサービスを提供していると考えられる。
 今回は、合併市町村の合併前と合併後の法制担当、広報・広聴担当、情報(IT)担当、政策担当、議会事務局、教育委員会担当職員数をみることにする。一般的に、これまでの規模の小さい自治体では、少ない人員で複数の業務を兼務してしまい、専門性の高い職員を配置することが困難だった。合併して自治体の規模が大きくなれば、より専門性の高い職員配置ができることが、合併のメリットとしてあげられてきた。そこで、各担当職員数の変化についても比較してみる。
 また、なぜ多くの自治体の事務の中で、これらの事務を取り上げたかについては、①法制担当は、より複雑化している社会状況の中で、法制の理解・訴訟への対応などが求められること、②広報・広聴担当については、住民の政策への周知・理解を求めるなど、これまでよりも、より丁寧で、行政と住民との間での双方向の広報・広聴体制が求められること、③情報(IT)担当については、現在の社会においては、コンピューター等の必要性が高まるIT社会・電子ネットワーク社会となっている。今後も、より発展が予想され、自治体としても、総務省の電子自治体の推進によってより高度な対応が求められること、④政策担当は今後、地方主権の時代の到来が予想される中で、高度化する行政需要に迅速に対応するために、より的確な政策立案能力が求められること、⑤議会事務局については、地方主権の時代に、自治体行政とともに、地方議会議員の政策立案能力のさらなる向上のために、議員を支える議会事務局の充実が求められること、⑥教育委員会については、少子高齢社会の中で、小・中学生を中心とするこれからの日本を担う子どもたちを育成するために、教育委員会の機能強化が求められること、などからである。

2. むすびに

 当初合併にあたっては、「住民には、負担は軽く、行政サービスは手厚く」という方向で、多くの合併対策協議会などで新自治体の方向性を論じていたが、合併特例債などは一過性のものであり、また、小泉政権下の三位一体の改革で、地方交付税の削減等の影響もあり、「住民負担は軽く、行政サービスは手厚く」とはいかなくなった。その理由としては、合併特例債等の国などからの財政的な優遇制度を活用する予定であったが、当初の想定のとおりにはいかなかった点が大きい。
 水道料金についても、合併した新自治体では、水道料金は統一せず、合併前の旧自治体の料金体系のままとなった。このことは、住民などから行政の対応の遅れと批判する声もあるが、これまでの料金の格差やこれまでの経緯、広域的な水道供給体制の問題等もあり、合併後の自治体では慎重な対応となっている。
 介護保険料については、2006(平成18)年度が3年に1度の見直し時期であったため、合併直後に保険料の統一を行わず、見直しの段階に合わせ、4月には、全自治体で保険料が統一された(2006年8月合併の笛吹市と旧芦川村を除く)。そのため、一部の自治体では、合併直後には、保険料の統一を行わなかったことが考えられる。保険料は、合併直後の場合でも、2006(平成18)年4月の保険料の見直しの場合でも、大多数の自治体で、旧自治体の保険料を上回った。保険料は、一般的には、要介護者が多い・施設入居者が多い・ホームヘルプやデイサービスなどの、サービス基盤が整っているなどの要因で高くなるとされており、保険料の上昇は、一般的には、介護サービスが充実するといえるが、利用者の負担増にもなっている可能性はある(保険料と介護サービスの関係については、今後のより具体的な調査・研究に委ねるが、1996年10月に山梨県地方自治研究センターより発行された「高齢者健康福祉計画分析結果報告書」も参考。)。  
 自治体の行政関係職員数については、一般的に、1人の職員が対応する住民数が少なければ、より住民のニーズにあったきめ細やかな行政サービスが可能となる。逆に、県庁所在地で人口200,098人の甲府市のような市になると、1人の職員が対応する住民数が多くなってしまいきめ細やかさや地域住民の目に映る機会が少なくなり、行政の動きがよく見えなくなる可能性がある。
 昨今では、職員の数ではなく、質を問う流れになっている。また、NPOなどや住民との協働により、少ない人員でいかに効率によい行政を求めていくかということはもちろん必要であるが、都市部とは違い、地方の中山間地にいる住民に対しては、福祉サービスや日常生活においては、今の段階では、地域住民の連携のもと、自治体職員が主に行政サービスを行っている。今回の調査では、市町村の合併の特例に関する法律(合併特例法)で、職員数は、合併前の自治体職員の総数は退職者を除けば、変更はないにもかかわらず、対応する住民との数に変化が表れている。
 また、自治体の面積を行政関係職員数との関係からもみてみると、例えば、県南部で、人口16,333人の身延町の場合は、旧身延町では、マンパワーの面で、行政サービスが向上したようにみえるが、旧中富町の場合には、その点で、行政サービスが低下した可能性もある。
 しかし、県中央部で人口74,066人の甲斐市のように、自治体のおかれている地理的状況によっては、甲斐市の面積が狭いこともあり、旧敷島町のように、職員1人に対する住民数が増えた場合でも、1人あたりの面積が減少している関係から、一概に行政サービスの低下ととらえられない場合もあることも事実である。
 自治体の最適規模について、中央大学の佐々木信夫教授は、著書の「自治体をどう変えるか(2006年)」の中で、人口に対する職員数でみた場合は、人口17万人程の都市が最も効率的と述べているが、人口88万人程度の山梨県では、15万人の都市となると、面積の広い都市が6都市できるだけで、そのスケールメリットが生きない可能性がある。また、企画的な仕事を専門的に行える規模としては、500人以上、各種の専門職を揃えるには、1,500人以上の職員規模が必要になり、そのためには、人口15万人以上の市がはじめて、専門職をフル装備できるとしている。
 また、山梨学院大学の日高昭夫教授は、山梨県地方自治研究センター発行の「自治研やまなし第5号(1999年)」の中で、山梨県の自治体であれば、人口1万人のケースならば、行政関係職員は、124人程度が標準規模であり、7万人程度の自治体ができたと想定すると、行政関係職員は、365人程度が標準規模であると述べている。
 法制、広報・広聴、情報、政策などの担当職員数については、各自治体の政策の方向性で、政策担当や情報担当を係として明確に複数配置していた町村は若干みられたが、大部分の町村から市になった自治体は、町村ではほとんど他の業務との兼務で1~2人の体制であったが、担当の係を設け、専門的に3~4人の体制がとれたことで、合併によって、一定の目的は果たせたと考えられる。
 しかし、5万を超える人口になった市を除いては、旧自治体に比べ、大幅な人員配置の増加にはいたらず、その点においては合併のメリットは少なかったと言える。
 最後に、今回の合併市町村に対する国の財政支援措置であった、地方交付税の算定替と地方債の合併特例債については、地方交付税の割増・合併特例債の活用で一時的には財政的な支援となったが、どちらも期限付きであり、合併特例債ついてはあくまでも地方債であることから、活用と目的については十分な検討が必要である。多くの合併市町村では、従来通りの公共施設等の建設などのハード面のみの箱モノ建設が目立ち、今後の財政状況について、注意を払う必要がある。
 今回は、これまで述べてきたとおり、あくまでも数ある行政サービスの中の一部を調査項目とした。人員や面積・料金等を明確に数値で表し、各自治体の合併前と合併後の状況を把握したものであり、より丁寧な検証・分析は、今後、合併自治体の行政運営が順調に軌道にのった後に行う必要があるのではないかと考える。