【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 名古屋市は、行財政改革の一環として、2007年11月にごみ収集の民間委託を環境支部に提案した。ごみ収集は、自治体の固有事務であり、公共的事業性と経済性の両面から検証する必要がある。支部としては、受託者の適正な契約履行と担保する仕様書の内容について要求書を提出。市議会で「万全の体制の確保に努めてまいりたい」との前向きな答弁を得ることができた。委託後も、支部としてしっかり検証していきたい。



ごみ収集の民間委託について


愛知県本部/自治労名古屋市連合労働組合・環境支部 川瀬  修

1. はじめに

 名古屋市は、2006年3月に行財政集中改革計画を策定しました。これは、市が集中的に取り組む行財政改革の取り組み事項を、6項目に整理し、取り組みの方針、目標を明らかにしたもので、小さな市役所を目指し、行財政改革を着実にすすめていくための実行計画であります。
 取り組みの1項目に「民間委託等の推進」があり、民間委託になじむ業務や正規の職員が従事しなくてもよい業務を「特定事務事業」と指定し、これらについては、行政運営の効率化、市民サービスの向上を図るため、行政責任の確保に十分留意しつつ、民間委託や嘱託化の活用を進めるとしました。
 これを受け、2007年11月に、特定事務事業に指定されたごみ収集については、その体制について提案を受け、労使で必要な事項について協議してきました。
 この間、組合が主張してきたことは、「公共性」の観点からの廃棄物行政の検証であります。廃棄物行政は地方自治体固有の業務であり、公共事業性と経済性の両面が求められています。しかし今日、経済的効率性のみが追求され、民間委託の結果については、公共的事業性の側面からの検証はほとんどなされていないのが現状であります。

2. この間の取り組みについて

 廃棄物行政については、収集・運搬という単なる事業展開にとどまることなく、なごやか収集や狭路収集等のサービスアップ事業にかかる需要増への対応を図っていかなければなりません。さらには、地域防犯行動や災害対策への取り組みといった地域社会への貢献の拡充が求められています。また、「ごみも資源も、減らす、生かす」を基本方針とした名古屋市第4次一般廃棄物基本計画についても、現場職員が一丸となって、着実な推進を図らなければなりません。
 名古屋市は、2000年9月に発生した東海豪雨の災害ごみ収集をはじめ、阪神・淡路大震災、新潟中越地震の災害応援隊の派遣など、被災地の復興に貢献してきました。
 また、1999年2月のごみ非常事態宣言以後、徹底したリサイクルの取り組みにより、ごみ減量を進めてきました。
 これらは、現場職員が単に廃棄物の処理にとどまることなく、様々な分野において市民サービスの向上に取り組んできたからこそ、成し遂げた成果であると自負しています。

3. 委託の基本的考え方について

 この状況下、前述のとおり、2007年11月に「ごみ収集体制について」の提案を受けました。その内容については、以下のとおりです。
① ごみ収集について遅くとも2010年度から段階的に民間委託を導入する。非常時や災害時等のごみ処理に必要な直営体制をごみ・資源収集の車両数の5割とする。
② 委託は、原則として区単位で実施する。
③ 退職等により生じる直営人員の不足に対しては、(財)名古屋市リサイクル推進公社への職員の派遣状況について厳しい指摘を受けていることから、派遣職員の引き揚げ等により対応する。なお、派遣職員の引き揚げにより不足する資源収集人員については、(財)名古屋市リサイクル推進公社の有期雇用業務員の増員により対応する。
 この提案に対し、環境支部は職場討議の下、「ごみ収集体制に関する要求書(資料1参照)」を取りまとめ、提出しました。

4. 委託の具体的手法について

 その後、労使の小委員会である業務改善委員会に付議され、労使協議を行い、2009年4月及び7月には当局より、「ごみ収集の民間委託について」「ごみ収集民間委託区の選定について」が提案され、以下の考えが示されました。
【ごみ収集の民間委託について】
 1. 民間委託する業務  
   可燃ごみ、不燃ごみ、粗大ごみの収集・運搬
 2. 委託後の環境事業所の業務と体制
  (1) 業務内容
     民間委託する業務以外の業務
  (2) 体 制
     現行体制の縮小
 3. 委託方法
  (1) 区単位で委託
  (2) 委託業者
     廃棄物処理法施行令第4条の委託基準に適合している業者
【ごみ収集民間委託区の選定について】
 1. 委託区選定の考え方
  (1) 地理的な視点
    ① 面積が狭いこと、世帯数が少ないこと
    ② 他都市に接していないこと
  (2) 定員整理の視点
    ① 退職者に見合った規模とすること
  (3) 災害被害の危険性の視点
    ① 災害による被害の危険性が低いこと
  (4) その他の視点
    ① ごみ量の変動が少ないこと
    ② 庁舎の老朽化
 2. 2010年度に民間委託を実施する区
   中 区

5. 廃棄物行政のあり方について

 ところで、前述のとおり、廃棄物行政は自治体の固有事務であり、ごみ収集の民間委託については、公共的事業性と経済性の両面から検証する必要があります。
 今日、地球環境をテーマに循環型社会形成が国家政策として推進され、低炭素社会への変革が世界的課題である状況下、廃棄物処理行政を単に収集・運搬や焼却という個別性だけでなく、一般廃棄物に産業廃棄物も含めた廃棄物処理をトータルにマネジメントする「廃棄物管理」の問題としてとらえ返すことが重要であります。
 廃棄物管理は、医療、福祉や教育と同様に「社会的共通資本」の側面を持ちます。社会的共通資本は、中央集権的な、また市場的な基準によってではなく、社会的な基準に従って管理されなければならないとされています。経済的効率性一辺倒の現状の中で、重要な公共サービスである廃棄物管理を、社会的共通資本と位置づけ、社会的な基準に基づく管理へと変革することが必要であると考えます。
 以上の観点から、受託者の適正な契約履行を担保する仕様書の内容について、「ごみ収集体制に関する要求書」(資料2参照)を提出しました。
 また、委託予定の中区については、事業系の不法投棄事案発生件数が市内16行政区中、最も多く、委託することにより更に状況が悪化する懸念があります。
 この点については、2009年9月の名古屋市議会でも民主党会派の議員から個人質疑がなされ、以下の点について指摘しました。
① 事業系ごみの不法投棄は後を絶たず、この問題は早急に解決しなければならない重要な課題であり、循環型社会を構築していく上で解決が不可欠である。
② 不法投棄がなされた場合、早期発見、早期措置によりその拡大を防止することが肝要である。そのためには、環境事業所が拠点となって関係機関と密接に連携し、事業系ごみの不法投棄事案を減少させるための取り組みの一層の推進が必要である。
③ 民間委託をする中区については、2008年度の不法投棄件数は685件、これは市内全体の不法投棄件数の21%に当たり、16行政区中、トップである。また、この5年間の中区の不法投棄処理件数は、2004年度に比べて2008年度は約3倍に増加している。
④ 中区の事業所の総数は、2万1,860事業所で、そのうち、2003年の調査では、ごみ収集を許可業者と委託契約している事業者は3,148事業所である。事業系ごみの処理の実態が明確につかめていない状況でごみ収集を民間委託することは、不法投棄の改善を更に困難にするのものではないのか。
 以上の点を指摘した上で、次の2点を尋ねた。
① 不法投棄の多い商業地で、繁華街の多い特殊な区を、なぜ、あえて、選定したのか。
② 中区という特殊性を考慮し、不法投棄防止に向けた体制の強化についての考えかた。
 ①については、組合に対する提案「ごみ収集民間委託区の選定について」の委託区選定の考えかたを答弁し、②については、「中区の不法投棄が多いという点に鑑み、万全の体制の確保に努めてまいりたいと考えております。」という、前向きな答弁を得ることができました。

6. 最後に

 一般廃棄物の処理については、名古屋市は統括的な責任を有します。名古屋市が委託により処理を行う場合、受託者が一般廃棄物処理基準に従った処理を行うことを確保しなければなりません。仮に受託者により処理基準に適合しない処理が行われた場合には、その処理の方法を改善させなければならず、また、受託者により不適正な処分が行われた場合には、当該受託者と連帯して、生活環境の保全上の支障の除去又は発生の防止のための必要な措置を講ずる必要があります。さらに、それらの措置が十分でない場合には、一般廃棄物については名古屋市に処理責任があることに鑑み、名古屋市は自らそれらの措置を講ずる必要があります。
 以上の点を十分認識し、支部として、委託後もその是非について、しっかり検証していきます。

資料1 ごみ収集体制に関する要求書(2007.12.26)

資料2 ごみ収集体制に関する要求書(2009.10.13)