【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 (財)京都市埋蔵文化財研究所は、埋蔵文化財の調査・研究を担う外郭団体として、1976年に市の全額出資で設立された。しかし、発掘件数の激変により収入は大幅に落ち込み、累積債務超過も3億円を超え、経営危機に瀕して赤字団体となった。そこで、従来の行政依存型から、自立した運営を模索するため、文化財活用の新たな企画である体験型旅行の試みを検討してみた。このレポートでは、その内容を紹介する。



文化財活用の模索
体験型旅行の試み

京都府本部/京都市埋蔵文化財研究所職員労働組合・執行委員長 加納 敬二
書記長 津々池惣一

はじめに

 (財)京都市埋蔵文化財研究所(以下、埋文研とする)は、京都市内の開発に先立ち埋蔵文化財の調査・研究を担う外郭団体として1976年に市の全額出資で設立され、主に公共事業に伴う発掘調査を収入とした独立採算で運営し、これまでに平安京や長岡京、鳥羽離宮などの遺跡をてがけ現在にいたっている。しかし1997年以降、不況のため開発は下落し発掘件数の激変により収入は大幅に落ち込み、累積債務超過も3億円を超え、経営危機に瀕し赤字団体となったが、この間、赤字削減のため他府県への職員派遣や勧奨退職など、また給与カット、退職金2割カットなどの内部努力を行ってきた。今年度、市は埋文研を経営再建団体として公益法人移行まで経済的支援を行い、公益法人移行後の、2017年(H29)以降は、自立した公益法人として運営していくことになっている。今、不況の現状を乗り越えて将来の研究所存続のための運営のあり方につなげることとして、自発的な経営努力が必要とされている。
 そこで、従来の行政依存型から自立した運営の模索として、文化財活用の新たな企画である体験型旅行の試みを検討してみた。以下に、京都市の現状と観光政策を概観し、埋文研の文化財活用が京都の観光旅行客の増加に向け入り込める余地も模索してみる。

1. 京都市の現状と観光政策

 厳しい京都市財政。1日4,000万円の赤字を出し、昨年10月に財政健全化団体に指定された地下鉄(交通局)はいうまでもなく、京都市本体の財政も逼迫しており、危機的である。現状のままだと、京都市の累積赤字は2011年度には627億円の累積赤字になり、厳しい自主再建の求められる財政健全化団体(黄信号)になり、放置すれば翌2012年度には累積赤字は700億円を超え、夕張市と同様、国の管理下に置かれる再生団体に転落するという。一方、京都市では2001年に観光客5000万人構想を立ち上げ、2010年を目標に策定したその「構想」を2年、前倒しで達成した。
 そして、現在、京都市 ― 観光都市5000万人構想を維持、継続しようとしている。「5000万人構想」は、それまでの古都税や高層ホテル問題などにおいて、仏教界と京都市役所が対立したこともあり、観光客の誘致増加の面は、各領域の団体の各々に依拠して来ざるを得なかった。1999年に仏教会との和解を契機に、オール京都で観光に取り組む目標として2001年1月に「5000万人構想」が打ち出された。同年10月に、京都市は財政非常事態宣言を出すほど、財政が逼迫するなかで、観光関連事業に財政を投入し、また、時を同じく国も「観光立国」を標榜しており、観光立国の中の京都を全面に出し、旅行会社や商工団体等とスクラムを組んだ形で各種誘致事業を次々と立ち上げてきた。その結果、2009年に、悲願の達成となったという。

2. 量から質への観光政策の転換

 「5000万人構想」を達成して以後の展開として、「目指すべき京の観光の在り方を再度見直し始めた」という。すなわち「……都市としての質を上げ、新しい切り口で発信していくことが責務」として、戦略を練りはじめているという。
 また、京都市は、2009年6月に国に対して予算要望書を提出した。その中に「市内に観光分室設置要求が盛り込まれた。観光庁は2008年10月、「観光立国」をめざす国交省の外局として発足。「国際会議誘致や観光地支援策を展開している。この分室を京都に誘致し、国を取込みながら京の観光対策につなげていくねらい」という。
 すでに、京都市や観光業界などは具体的な動きを始めている(以下、「京の体験型観光 ― 通年実施へ一新」『京都新聞』2009年12月9日を参照した)。例えば、新たに、京都の魅力を体験する体験型観光を通年実施する試み等もその一つと言える。具体的には、観光プラン、「京都『千年の心得』」を通年実施するというものである。その内容の一端は以下のようなものである。
 「仏像彫刻や禅寺での特別茶会など伝統文化の息づく京都ならではのプランを用意」して、「質の高い観光を求めるリピーターなどを呼び込む」としている。これは、京都市の2006年からの体験学習プラン「京都おこしやす大学」を、2010年1月の観光の質向上を目標とする「次期観光振興計画」を策定するのに合わせて体験プランを一新してというものである。当面27プランを設定しているという。
 さて、京都観光の質を上げるとした、体験型観光は今後の京都観光の目玉であるという。であるなら、埋文研も、文化財活用をこの部分に焦点を絞り、活性化できないのか方向性を探りたい。

3. 埋文研の現状

 その埋文研の現状は財政難である。業務をこなすと同時に、市民に向けて発掘調査現場の現地公開や文化財講座、小中学生や親子対象の文化財夏期教室も定期的に行っている。さらに赤字削減のため他府県に調査員を派遣(単身赴任が実状で職員の精神・経済的負担大であることから、通勤可能な近隣県や市町村にはたらきかけている)、また技術的収入源では外部の調査団体から出土品の復原、保存処理、発掘現場の写真撮影依頼なども受け、収益の確保に努めている。またボランティアではあるが学校教育の生涯学習事業にも取り組み、中学生対象に発掘現場で実際に行うチャレンジ体験や、市内の小学校へ出向き、火起こしや土器づくりなどの歴史体験をしてもらう出前授業への講師派遣なども行っている。これらの学習事業は教育委員会で予算化可能なら収益の一分野に加えたい事業である。しかし引き続き京都市からの支援を維持するためにも、新たな文化財活用の企画を模索する必要がある。
 新たな企画としては体験型の試みである。現状では修学旅行生への発掘体験を取り入れた試みはあるが、学生に限定され、単に発掘現場を体験し考古資料館を見学するに留まっている。

4. 自立財源組織を模索する―体験型旅行の企画

 新たな企画は、修学旅行生も含めた観光客全体を対象として、旅行会社などと連係して、京都の観光客に埋蔵文化財、考古資料館を含めて様々な内容を体験、体感するコースメニューを提供し、より質の高い、旅行を味わっていただくというものである。
 例えば、衣食住に絡む全ての分野を文化財活用の対象として様々なメニューを設定する。発掘や絵画史料なども活用して、西陣織物会館等との連携も視野に入れ、古代の衣類を装った結婚式や京都見学するのも一つの活用法である。古代の食事や土産もの巡り店舗を設定して味わいの体験型観光を設定する。さらに、町家や旅館等との連携で古いたたずまいの京都の宿泊を提供するなど、多彩な体験観光と、味わいをしていただく。また、伝統芸能(能・狂言)を鑑賞し、その由来や背景などを関連する遺跡や遺物などと共に説明、さらに舞台見学や体験もできる企画なども京都ならではのものである。
 これらの企画に、埋文研職員がかかわり、随所で説明・案内などを行い、より深い魅力ある京都の観光を提供することに、側面から支援・協力する。その際、相当分の経費を埋文研の収益とすることで財源の一部としたい。
 以上の企画は、埋文研や京都市にとってどのような意義を持つのであろうか? まずは、京都市からの補助を2016年まで得ている現状の中では、引き続き内部努力を続けていることをしめすことになろう。また、従来の行政依存型運営から、自立運営型組織を模索するものとして位置付けられるであろう。そして、京都市の観光都市政策にも呼応する方向性であると言えよう。

 

<資料> 京都市で取り組みが始まった体験学習の新聞記事(『京都新聞』2007年1月19日付)