【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 笠置町の人口は1,744人。町財政が逼迫し、ラスパイレス指数は80.6と全国で下から13番目に低い。労働組合としては賃金の改善を申し入れているが、町財政のますますの悪化がネックとなって、いい回答が得られないでいる。そこで、組合自らが町財政を分析し、問題点と解決すべき課題などを把握していくことにした。まだ検討なかばであるが、財政規模の小さな中山間地域の自治体の現状をレポートとした。



120年以上合併が実現できなかった
小さな自治体の行財政分析

京都府本部/笠置町職員組合・執行委員長 上窪 浩之

1. 笠置町の概況

 笠置町は京都府の東南部に位置し、面積が23.6平方キロメートルで町域の約80%が山林であり、主な集落は町の中央を流れる一級河川の木津川に沿って形成され、交通機関も木津川に沿ってJR関西本線(単線)と国道163号線が走っている。人口は府内最小の1,744人、世帯数703世帯(2010年5月1日現在)65歳以上の高齢化率は36.93%。なお、全国町別の人口比較では第4位(2010年3月末)となっている。また、木津川河川敷のキャンプやカヌーなどの水遊びと温泉、史跡名勝笠置山散策などに年間30万人の観光客が訪れる、豊かな自然と歴史資源に恵まれた町である。
 しかし、1889年(明治22年)に市町村制が施行されて以来、120年間合併はなく、昭和、平成の大合併にも取り残され、高齢化や人口減少が進み、財政も厳しさを増すなど、取り巻く状況は楽観できる状況にない。このようななか、昨年、隣接する1町1村と広域連合を設立した。行政事務の効率化や専門化、経費節減をめざし、現在のところ広報紙の発行や教育委員会を設置している。

2. 規模の小さい笠置町財政

図表1 歳入の推移

 2008年度の笠置町の財政規模は、歳入が13億6,310万円、歳出は13億4,258万円である。図表1の2001年度~2008年度の歳入状況をみると、地方税・地方譲与税・交付金の総額はそれほど変化がない。2007年度には、国の所得税から自治体の住民税に税源が移譲され、笠置町では市町村民税の所得割が2,300万円増加した。しかし地方譲与税が1,300万円減少したため、地方税・譲与税・交付金の合計額は1,000万円の増加にとどまり、総額3兆円の税源移譲の効果は薄かったといえる。
 近年における歳入の大きな変化は、交付税の減少である。2001年度に交付税は8億9,800万円あったが、2008年度は6億9,500万円と2001年に比べ22.6%減少した。これは、国調人口の減少によるところも大きいが、2006年の小泉内閣の「骨太の方針」および三位一体改革により、交付税の算定方法が人口5万人以下は同じ補正係数を用いるようになったり、2007年度に新型交付税が導入されたことが影響している。1995年に市町村合併特例法が改正され、人口1万人以下の自治体は合併することを期待されたが、合併ができない自治体も少なくない。そういう自治体では、交付税の減少が財政を直撃する結果となっている。

図表2 歳出の推移
 図表2は、2001年度から2008年度までの歳出の変化を表わしている。人件費は、2001年度4億5,600万円だったものが、2008年度は3億5,800万円と21.5%減少した。特に職員給が減少し、2008年度のラスパイレス指数は80.6と全国で下から13番目に低い。また、2008年度では公債費2億3,800万円、補助費は2億7,200万円と、補助費の割合が公債費より高いという特徴がある。
 図表3は、公表されているなかで最新の2007年度類似団体別市町村財政指数表をもとに、笠置町が属する「町村Ⅰ-2」のうち、標準財政規模の小さい20自治体を比較したものである。この表によると、笠置町は小さい方から10番目で、標準財政規模は8億7,600万円程度。人口900人程度の自治体と同程度の規模である。1人当りの歳入・歳出額をみるとさらに明らかであるが、歳入・歳出とも、前後の自治体と比べて半分から3分の1程度となっている。
 財政規模が小さいため、2008年度の経常収支比率は115.1%と、非常に硬直した財政状況にある。図表4をみると、2001年度から2008年度まで一貫して経常収支比率は100%を超え、2004年から2007年は120%を超えていた。つまり、財政規模が小さく、経常一般財源が経常経費充当一般財源より少ない状態が続いている。
 図表5は、2007年度類似団体別市町村財政指数表をもとに、笠置町の主な性質別経費の経常収支比率を比較したものである。この表では、類似団体の経常収支比率より、人件費13.3%、公債費8.8%、補助費9.8%、繰出金は3.7%多い。しかし、図表3の2008年度の類似団体と比較した表で見ると、笠置町の人件費と公債費の経常収支比率は他の自治体と同程度である。「町村Ⅰ-2」が基準とする人口は2,442人。したがって、財政規模の小さな自治体は、人件費・公債費の経常収支比率が必然的に高くなる傾向があると考えられる。

図表3 類似団体(Ⅰ-2)における標準財政規模の少ない団体(2008年度)

図表4 経常収支比率と財源の推移


図表5 性質別経費の経常収支比率(2007年度)


3. 財政を圧迫する、負担金や単独事業の公債費

 笠置町財政の問題は、歳出に占める、補助費などの負担金や単独事業の公債費の割合が高いことである。
 2008年度の補助費2億7,155万円のうち68.9%の1億8,724万円が一部事務組合に支出されている。その内訳をみてみると、相楽東部じんかい処理組合が7,500万円、相楽中部消防組合が5,400万円、相楽広域事務組合が3,300万円、その他、5つの一部事務組合へ2,300万円を支出している。補助費のなかでも、合併から取り残された当町および近隣の和束町、南山城村の東部3町村で構成する相楽東部じんかい処理組合の負担が、40%と大きな割合を占めている。2008年の交付税算定台帳では清掃費3,283万円で、交付税は東部じんかい処理組合への支出の43.8%でしかない。組合を構成する3町村を合わせた人口は9,806人(2010年6月1日現在)。ダイオキシン対策で必要な処理能力をもつ施設を建設したが、ごみの量は少量である。隣の木津川市ではごみ処理施設の建設案が浮上しており、受け入れるためには地元の了解など大きな課題はあるが、今後は同市の参入や、事業の見直し等による経費削減の検討が必要となっている。
 公営事業への繰出は、簡易水道4,440万円、国民健康保険1,531万円、病院1,117万円。病院は、近隣市にある公立山城病院に、毎年、運営経費として1,100万円程度を支出している。その他、介護保険3,283万円、後期高齢者医療2,953万円などがある。
 公営事業として大きな課題を抱えているのが、町100%出資の「わかさぎ温泉 笠置いこいの館」である。ふるさと創生資金をもとに1996年に整備したもので、当初は黒字であったが、2003年から経営悪化に陥った。2008年度には5,000万円を出資することとなり、町財政に大きな負担となった。しかしこの温泉施設は、住民の存続への要望が強く、また観光を目玉にしている町のシンボルであるため、施設の廃止・継続については町トップや議会の判断を困難にしている。昨年、町長は存続を表明したが、今後も財政的支援が必要となれば、さらに町財政を圧迫するのは必至である。
 また、この「わかさぎ温泉・笠置いこいの館」と併設する「運動公園」が公債費に占める割合は、7割ほどと高い。この2つは単独事業として整備したため、2016年に償還が終了するまで引き続き一般財源を確保しなければならないため、経常収支比率を押し上げる要因となっている。笠置町では、厳しい財政を反映して投資的事業を極力抑えてきたが、地理的条件による不利や格差を補うために、必要な事業は単独ででも整備せざるをえなかった。そのため、温泉や運動公園と同様に、交付税を期待できない公債費がほとんどを占めている。
 小さな自治体にとっての課題も多く、笠置町のような中山間地域では、地理的条件による不利や格差が生じている。その一例が、2011年7月にアナログ放送から地上デジタル放送へと完全移行される、いわゆる「地デジ問題」である。これまでアナログ放送は、関西電力の送電線の影響による電波障害の補償により、共同受信組合が設立されて笠置町全戸に再送信されていた。しかし、地上デジタル放送開始後は電波障害補償の対象外となり、受信は各戸でアンテナを上げて見ることになるが、地形的に受信が困難であり、昨年度、町は3億2,500万円をかけて光ケーブルを町内に張り巡らせた。この事業では、3分の1を国のICT交付金から、2億円を地域活性化公共投資臨時交付金から充当したが、2,700万円ほどは町のふるさと基金から持ち出しとなった。これにより、光インターネットも可能となるなど、デジタルデバイド問題は解決したが、国策である地デジが当町のような中山間地域の自治体の負担増となっている。
 また、交通手段であるJR関西本線は、大阪 ― 名古屋間の最短ルートでありながら、3区間に分断されており、非電化区間の加茂(京都府)― 亀山(三重県)間は中山間地域が多く、無人駅化している。当町にある笠置駅も無人化され、現在は町負担で、交代制で4人の元JR職員を雇用している。観光の町であり、高齢者が多いことなどから安全面も含めて無人駅にできない事情がある。さらに、過去には、住民の足であった民間のバス路線も採算性から廃止され、代わって町営の巡回バスを走らせていて財政負担となっている。
 このように、当町のような中山間地域で、都市と同様のサービスを行うには財政負担が大きいが、それらをやらなければ、ますます地域間格差が拡大し、住民は利便性の良い近隣の市へ転出するなど抱える課題は大きい。
 当町は過疎指定地で過疎債を利用できるが、過疎債は70%が交付税に参入されたとしても、残りの30%は地元自治体の負担となる。財政規模の小さい自治体には、少しの負担の増加でも大きな影響を受けるため、過疎債などを利用した事業を極力抑えるよう努力してきた経緯がある。合併をしたくてもできない、取り残された小さな町村は非常に厳しい。相楽東部3町村は、たとえ合併しても人口1万人に満たない。合併しても「茨の道」かもしれない。しかし、このまま何もしないのでは「破綻の道」を歩まなければならない。

4. 合併を見据えた町のあり方

 笠置町は、明治の市町村制制定以来120年以上合併に縁がなく、今日まで至っている。「平成の合併」時では、郡内6町1村に任意合併協議会が設置されたが、結果として最大町の議会で7町村合併案が否決され、笠置町を含む2町1村が合併の枠組みからはずされて取り残された。合併の道が閉ざされた3町村は生き残りをかけて相楽東部広域連合を設立し、2009年4月に全国で初めてとなる教育委員会の共同運営をスタートさせた。この共同運営は、財政面では教育委員の7割、事務局職員の3割削減等で、年間経費が5,000万円の削減となった。3町村決算額62億2,000万円から見ても、決して少なくはない結果となっている。
 「平成の合併」は、「市町村の合併の特例等に関する法律」による国の財政支援措置が2010年3月末をもって終了し、政府主導の合併推進は一定程度の区切りをむかえた。総務省はこれからの基礎自治体の展望を、①市町村合併による行財政基盤の強化、②共同処理方式による周辺市町村間での広域連携、③都道府県による補完、から、自治体がこれらの中から最も適した仕組みを自ら選択することとしている。
 残された3町村はいずれも中山間地域で過疎と高齢化が進み、かつ、和束町や南山城村の茶業以外に基幹産業もなく、よって、財政規模は脆弱である。今後の町づくりや介護・医療・福祉等、自治体としての基礎的な行政需要を考慮すれば、始まったばかりの広域連合(連携)を拡充しても抜本的な対策となりえないと考えられ、3町村による合併の選択も有力と思われる。例えば、合併による特別職と議員の定数削減で年間1億円程度の削減が見込まれ、3町村の予算規模と比較すれば、財政に与える影響は多大である。また、合併によるデメリットとして「住民の声が届きにくくなる」と指摘されている議員定数削減問題は、現在の定数が半減しても、議員1人当たりの人口は約650人となり、政令市である京都市の約2万2,000人と比較すれば、その格差は歴然となり、「民意を反映しにくい」とはいえない。
 「地方主権」を掲げる政権の誕生で、地方分権が具体的に推進され、今まで以上に自治体の責任と判断で住民の負託に応えて行くことが必要となってくる。このことは、自治体の行財政基盤の強化によりいっそう効率的な運営が求められることとなる。「平成の合併」後、人口1万人未満の市町村は459となった。小規模自治体はどう生き残ればよいのか、組合も主体的に声をあげなければならない。