【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 市町村合併が推進され新潟県は平成10年度末から平成21年度末までに市町村数で82自治体が消滅(合併)、減少率では73.2パーセント(全国第3位)という全国有数の合併先進県となった。私たちはこの平成の大合併を契機とした自治体財政を取り上げ、「合併と財政」をテーマとして継続的に自治体財政を検証してきたところである。
  特に今回は平成の大合併の波にのまれず、先進県の新潟にあっても自律の道を選び、独自の道を選んだ津南町の財政状況を追いかけ、中間報告的にとりまとめを実施した。
  今後も我々の財政分析には終焉はなく、永遠のテーマであることを確認し、継続をした財政分析も行っていくものとする。



合併ではなく、自律を選択した「津南」の財政分析


新潟県本部/自治研推進委員会 桜井 雅人・熊谷 良紀

1. 津南町の概要

  津南町は、新潟県の最南端に位置し、千曲川が信濃川と名を変える長野県境にある。町の南西から北東に流れる信濃川と、これに合流する志久見川・中津川・清津川の河川によって、雄大な河岸段丘が形成されおり、冬期間が長く、日本有数の豪雪地帯である一方、夏は北西の涼風に恵まれ、高原のようなさわやかな気候が続く地域である。
 明治34年の配置分合で、外丸・上郷・芦ヶ崎・秋成・中深見・下船渡の6か村となり、昭和30年1月1日、町村合併促進法によりこの6か村が合併して津南町が誕生した。その後、昭和31年に本町の田代と中里村米原の境界線を変更し、現在に至り、平成の大合併の際には町民アンケートのもと自律を選択し、「自律に向けた町づくり」を推進中である。
 面積は170.28km2、人口は11,719人(2005年国勢調査人口)、世帯数は3,571世帯の過疎化の進む町である。

2.  津南町の財政状況(1994~2008年度の15年間の推移)

(1) 人口(住民基本台帳人口)
 人口は完全に右肩下がりで減少している。1995.3.31現在の人口は、13,089人で、2009.3.31現在では1,801人減少し11,288人となっている。減少率は約14%と著しく減少し人口の減少傾向に歯止めが掛かっていない。

(2) 財政力指数(3ケ年平均)
 1994年度の0.281を底として0.3前後で推移している。2008年度は0.300となっている。

(3) 経常収支比率
 1995年度の68.3%から上昇を続け2004年度には79.9%と10年間で11.3ポイント上昇しているが、2005年度からは低下傾向にあり2008年度では78.7%まで下がり改善方向をうかがうことができる。類似団体との比較では毎年5~7ポイントは低位となっている。2004年度までの上昇の主な要因は、公債費と繰出金の上昇による影響が大。
 公債費は2000年度から2001年度にかけ2.3ポイントの大幅な上昇をしているが、1997~1998年度にかけ、特定公共賃貸住宅建設事業の発行債の償還の影響が大きいと思われる。その後においても津南中学校校舎改築等の大規模事業に取り組み、高止まりの状態が続いていたが、2005年度に1.2ポイントの改善後、減少傾向にあり2008年度では12.7%と1994年度水準にまで戻っている。
 義務的経費の削減に努めている姿がうかがわれる中、経常収支比率については、上昇傾向にあったが、水準は未だ低位であり、類似団体内においては52団体中最低である。

(4) 実質収支比率
 1999年度の8.5%をピークに減少傾向を続けている。近年では概ね5%前後で推移している。健全な財政運営が行われていることが見て取れる。

(5) 一人当たり地方債残高
 1998年度の441,421円をピークに低下傾向にある。学校建設等の大規模事業の完了により、ここ近年の普通建設事業費ベースを維持すれば更に低下方向へ進むことが予想される。

(6) 一人当たり積立金残高
 1994年度の198,495円をピークに減少を続け、2003年度には半減の92,353円となっている。その後は2003年度を底に回復基調にあり、現在では108,000円前後で推移している。

(7) 歳 入
① 総 額
  1996年度の8,780,541千円(1人当たり679,819円)をピークに減少傾向を続け、2007年度には5,778,563千円(1人当たり505,119円)とピーク時の7割弱程度に減少している。2008年度には5,857,864千円(1人当たり518,946円)とやや持ち直している。
② 市町村税
  1997年度の1,377,947千円(1人当たり106,545円)をピークに減少傾向を続け、2006年度には1,089,624千円(1人当たり93,562円)とピーク時の8割弱程度に減少している。構成比は15~20%で推移している。その後の2007、2008年度ではやや回復傾向にあり2007年度には1,190,276千円(1人当たり104,045円)まで回復をしてきている。
③ 地方交付税
  2000年度の3,370,917千円(1人当たり268,300円)をピークに減少傾向を続け、2007年度には2,741,927千円(1人当たり239,679円)とピーク時の8割程度に減少している。歳入に占める割合が50%近くを占め、交付税に依存する割合が増えてきている。2008年度には2007年度に比べ約2億が増額され2,933,951千円(1人当たり259,918円)となっているが、一時的なもので、1994年度からの最低の水準に達しており、厳しい財政運営を強いられていることが予想できる。合併を選択せずに自立への道をたどったことから、財源保障期間がなく「三位一体改革」が交付税の圧縮を直撃している。交付税を取り巻く環境が大きく変わらない限り、厳しい財政に好転は望めない。
④ 地方債
  2003年度の888,400千円(1人当たり72,499円)をピークに毎年4~7億の地方債を発行してきている。2005年度の382,400千円(1人当たり32,221円)を最低に2006、2007年度ではやや増額発行に転じ4億を超える発行をしている。2006年度からの融雪による災害復旧事業、広報無線更新事業等の取り組みによるものと考えられる。

(8) 歳 出
① 人件費
  1999年度の1,323,657千円(1人当たり104,299円)をピークに減少を続け、2008年度には1,025,774千円(1人当たり90,873円)とピーク時の8割弱に減少。2008年度のラスパイレス指数は89.1と類団52団体中最下位より第5位と低位に位置し職員数も退職不補充により1999年度の159人から2008年度の124人と35人、22%の大幅な減少となっている。独自給与削減の実施は無かったが、人件費は引き続き抑制傾向が続き、結果として経常収支比率の引き下げ要因となっている。組織においてはフラット制も導入(係制から班体制)がされてきており、今後の行政水準を維持するために現員で十分なのか、職員の勤務条件等細部について検証する必要がある。
② 公債費
  2001年度の872,043千円(1人当たり69,914円)をピークに減少を続け、2008年度には610,374千円(1人当たり54,073円)と減少している。2003年度に新規発行した888,400千円の地方債の影響を、2005年度、2006年度の発行抑制(平均で約4億)で平準化した効果が表れているものと考えられる。
③ 物件費
  1996年度の1,131,978千円(1人当たり87,642円)をピークに減少を続け、2007年度には689,575千円(1人当たり60,278円)とピーク時の6割程度となった。2008年度では719,503千円(1人当たり63,741円)と微増となったことは、臨時職員等の賃金が物件費に計上されることが要因であったか検証をする必要があると考えられる。
④ 繰出金
  1995年度の336,361千円(1人当たり25,900円)を底に増加傾向を続け、2008年度には864,497千円(1人当たり76,585円)と約2.5倍強になっている。特に下水道事業特別会計、病院事業会計への繰出しが目立つ。2007年度、2008年度の下水道事業、農業集落排水事業特別会計への繰出金は繰出金総額の1/2に迫る額(4億3千万)となっているが、下水道事業は2008年度で完了し公債費繰出のピークは2013年度でその後は減少傾向に転じることから、地方債、人件費を抑制していくことによりピークは乗り越えられるものと推測できる。
⑤ 建設事業費
  1996年度の2,897,435千円(1人当たり224,329円)をピークに減少を続け、2005年度には534,874千円(1人当たり45,642円)とピーク時の2割弱程度にまで減少している。しかし、2006年度以降は新規に広報無線更新事業、グリーンピア津南取得事業に取り組み、やや増加傾向に転じている。

(9) 主要建設事業
 1994~2002年度まで毎年3~5億円の町道整備が主な建設事業費
 1997~1998年度 特定公共賃貸住宅建設3億円
 2001~2004年度 津南中学校校舎改築7億円、農と縄文の体験実習館建設4億円
 2005~2008年度 広報無線更新事業3億、グリーンピア津南取得事業2億(債務負担)

(10) 財政状況からみた考察
 地方財政状況調査(決算統計)の数値から、総じて健全財政を堅持しているものと分析できるが、行財政運営の基礎となる人口の減少に加え、高齢化に伴う更なる福祉部門への歳出割合が高まることが予想される。また、人件費についてみれば2005年度ラスパイレス指数はやや改善しているものの、職員数は減少傾向をたどっている。財政指数上の財政健全化は堅持したとしても行政サービスを提供する職員の労働意欲はどうなのか、今後は数値に示されない検証も必要となるだろう。
 財政指数的には2007年度から2008年度にかけ更に財政の健全化が進んでいるものと認められるが、財源の配分が、扶助費、公債費の、繰出金等の義務的な経費に集中してきている。このことは、町民への公共サービスが低下しているのかについての検証のためのアンケート等の実施が必要とされるところである。
2008年度の一時的な交付税の増額が、町財政を好転させているように見えるが、交付税への依存度が大きく、今後も国の動向による財政運営を余儀なくされるものと推測される。

3. 自律の検証

(1) 自律に向けた町づくり報告書「最終報告」(2005.3策定)より
 津南町は、全集落を対象に行った集落懇談会や18歳以上を対象としたアンケート結果及び議会の議論等を経て、2005年3月の合併特例法の期限までの市町村合併は選択せず、自律した町を築いていくことした。合併しようとしまいと津南の地域は存続し、人々はそこで暮らし続けることを前提に地域戦略を計画し、「孫子の代までその地域と家業生業を残せるか」という視点にたった自治体サービスのあり方、住民と行政のあり方を、住民との協働作業で進めることを最重要性課題と捉え、自律の方針を受け、2003年4月1日に総務課内に自律推進室を設置し、2003年、2004年の2ヵ年をかけて次の事業について重点的に取り組みを行ってきた。
① 全事務事業の見直し
  全職員が全ての事務、事業を見直すため、詳細について点検表に記入し、課、室、自律推進リーダーで評価を行った。
② 自律推進チームによる具体的な町づくりの検討、構築
  全職員が分野別に分けた自律推進チームに参加し、事務事業の見直し、課題整理をした後、津南町をどのような町にしていくのか具体的な施策を検討、構築した。2003年10月にチームを立ち上げ、週1回のペースで議論を重ねた。(会議回数延べ391回)
  2004年度に「新生津南町自律に向けた町づくり報告書(自律計画書)」を策定し、計画の進行管理を行いながら、事業の実施に取り組んでいる。
③ 人事・給与・機構等の見直し
  さまざまな行政課題に迅速に対応するため、簡素で効率的な組織体制及び職制の整備を図った。2004年10月1日から新組織体制で業務を実施した。
④ 予算・税財政の見直し
  限られた資源・予算を効果的に業務に投入するとともに、国の税財政制度、交付税制度改革を踏まえたシビアな財政シミュレーションのもと、新しい町づくりに向けた財政計画を策定した。

(2) 更なる財政計画の見直し~「町づくり計画書(2010.3策定)」より
 2009年度に新たに財政計画の見直しを行っている。町づくり計画書として、新たな財政計画とともに、津南町の方向付けをするものである。
 この計画の特徴は、2005年3月に策定した「自律に向けた町づくり報告書(最終報告)」の検証と見直し作業を、全職員と町民代表55人との協働で行ったことにある。
 検証の結果、財政的には健全財政を堅持しながら、計画された事業は、約70%の進捗状況に留まっている。一方で急速に進む少子高齢化と人口減少への対応や雇用に対する課題も浮き彫りになってきた。
 今回の見直しでの新たな提言として①公共交通の見直し、②防災無線機の充実などの防災対策、③津南農林産物販売会議の設置、④環境に配慮した作物生産、⑤地域スポーツクラブの設置、⑥児童館機能の整備充実など、社会情勢や経済情勢が急激に変化している中、更に現実的な計画に見直しが行われている。
 町づくり基本構想では①住民が大切にされる町、②住民の暮らしを支える町、③住民参加と協働の町、④町行政の原点として、職員の意識改革と住民の立場に立った組織改革を行うという4つの目標と理念を掲げている。
 それらを具現化すべく、町づくり基本計画として生活環境、定住基盤、農林水産など11のチーム別基本計画により主要事業の抽出と事業費、実施スケジュールが示されている。加えて、行財政改革の推進と財政シミュレーションでは、地方財政計画が縮小されている中で、地方交付税が歳入に占める割合が50%を超える財政状況を考えると、なお一層の行財政改革を断行する必要性があることを認識し、役場や議会等の行政組織機構の見直しや歳入の確保、徹底した歳出削減に積極的に取り組む計画となっている。
 この計画書のキャッチコピーでもある、「津南に住んでいて良かった」「津南を訪れて良かった」と思えるような町づくりの方向性の指針となるよう期待されるところである。

(3) 当初計画との比較(自律に向けた町づくり最終報告書(2005年3月)より
① 行政経費(歳入・歳出総額)の推移

行政経費(歳入出)の推移    (単位:千円)  
項 目
歳 入
歳 出
平成20年度計画
5,708,704
5,698,382
平成20年度決算
5,857,864
5,579,097
計画比
149,160
△119,285
 

② 町債残高と基金残高の推移

地方債残高の推移     (単位:千円)
基金残高の推移     (単位:千円) 
平成20年度計画
4,483,552
平成20年度計画
921,760
平成20年度決算
4,453,880
平成20年度決算
1,222,624
計画比
△29,672
計画比
300,864

③ 自主財源と依存財源の推移

自主財源の推移     (単位:千円)
依存財源の推移     (単位:千円)
平成20年度計画
1,687,015
平成20年度計画
4,021,689
平成20年度決算
1,738,428
平成20年度決算
4,119,436
計画比
51,413
計画比
97,747

④ 義務的経費と任意的経費の推移

義務的経費の推移    (単位:千円)
任意的経費の推移    (単位:千円)
平成20年度計画
3,983,917
平成20年度計画
1,714,465
平成20年度決算
3,972,204
平成20年度決算
1,606,893
計画比
△11,713
計画比
△107,572

(4) 成果と課題
 財政数値(指標)から見た各年度の決算数値を基に財政計画との決算乖離を捕らえる手法で分析を行った。計画年次の進行とともに各年度の実行値が確実に財政の健全性を保持しつつ更に急ピッチで進行している様子がみてとれた。
 現在、津南町においては新しい財政計画の基、自律への道を強固なものにしつつあり、順調に進行してきた現計画を見直し更に厳しく財政見通しをたて自律への道を進んでいる。
 今回の財政分析において財政数値だけでは見てとれない面について、津南町財政部局の方から課題や今後のまちづくりについて話をお聞きした。
 まず課題と捉えられていることは、これまでの財政運営は住民への負担を据え置いたままでの財政運営を進めてきていることである。歳出の抑制・削減にのみに偏った財政運営である。具体的にいえば繰出金が多額な下水道事業への料金見直しや国民健康保険料の見直しが5年以上されていないことである。歳出の抑制は人件費に見て取れるように限界がある。今後は歳入の確保、特に住民への負担の在り方が見直される時期が少なからず間近に迫っている。合併を選択せず自律の道を選択した津南町にとって歳入の見直しが実行に移せ、住民の理解が得られれば現在の財政の健全性は確保されるものではないだろうか。また、今後のまちづくりについては ☆財政規模的にも非常に厳しい時代となるが、自律の道を選んだから住民サービスが低下したと言われたくない。小さくてもキラリと光るまちづくりを続けていきたい。申請主義の行政手続きのみではなく、住民一人ひとりに対して「どんなサービスが受けられるのか」「何を申請する必要があるのか」等を予めお知らせするようなきめ細かな行政サービスに重点を置き、逆のスケールメリットを活かしていきたい。との、並々なら意気込みをお話しいただいたことからも、今後も津南町の諸計画が町民のための施策として順調に推進されることを期待しつつ、更に経過を見守るところである。