【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 私たちの町奈良県平群町は、奈良県の北西部に位置し、古来「嵐ふく 三室の山のもみじ葉は 竜田の川の錦なりけり」と詠われ百人一首で馴染みのある「竜田川」が悠々と町の中心を流れている緑豊かな自然が残る、静かな歴史深い町であります。それでいて大阪市内までのアクセスが約30分程度という立地であるゆえ、いわゆる大阪郊外のベッドタウンとして、1965年ぐらいから開発が進み、国の高度成長・人口増加期と相まって、小学校、ごみ焼却場、スポーツセンター、都市公園などのインフラ整備を進められ、発展してまいりました。



財政健全化・地域社会との共存に向けて
~奈良県平群町~

奈良県本部/平群町職員労働組合 福井 伸幸

1. 平群町の財政事情

 しかしながら、1990年以降これまで右肩上がりに増加傾向であった人口も2万人を超えたあたりで頭打ちとなっております。また人口増加の停滞に加え、長引く景気の低迷により町税収入の減少による自主財源の確保が困難となり、次第にこれまでのような大型施設の建設といった投資的事業への財源投入ができない状況となってまいりました。
 2000年度以降はこの硬直化した財政状況がますます顕著となり、毎年の決算時には相当の基金を取崩して収支のバランスをとらざるを得ない状況にまで悪化している、つまり経常的に支出しなければならない費用がその年だけの歳入では賄いきれない状況、収支のアンバランスが続く「財政の非常事態」までに陥ってまいりました。そしてついに2004年度決算において、これまでの人口増加を背景として行った建設事業で発行した地方債の償還ピーク、赤字経営が続いていた町営診療所の閉鎖に伴う損失補てん、さらには国の「三位一体改革」に伴う地方交付税等の大幅削減の時期とが一致したことで赤字決算を計上することとなり、それ以降2009年度まで6年連続しての赤字決算で現在に至っております。
 2009年10月『全国市区町村の健全化ワーストランキング』というタイトルの報道が各マスメディアでなされ、私たちの町奈良県平群町は「全国ワースト4位」というなんとも不名誉なことで全国的に報じられました。
 2007年制定された「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」は、これまで地方財政の財政再建を規定する法律は1955年に制定された「地方財政再建促進特別措置法」であり、赤字額が一定比率を超えた地方自治体を財政再建団体に指定する制度であったのに対して、新たに4つの指標が設けられ、その4つの内いずれか1つでも一定基準以上に悪化すれば「早期健全化団体(イエローカード)」に該当し、さらに状況が悪いと「財政再生団体(レッドカード)」となり国の管理下での行政運営を強いられ、地方自治の存続そのものが否定される状況になるといった制度であり、イエローカードとレッドカードの2段階構えで財政状況をチェックし、早期の財政再建を図る制度であります。
 今回の報道は、この法律が2008年度決算から本格施行されたことを受け、基準値以上ではなくても、財政事情が悪化している全国の市区町村名を公表し、それぞれの地方公共団体が持っているリスクを、行政内部だけで把握するだけではなく、広く公開することで幅広くとらえ、財政健全化に向けて早期に着手し、何らかの手立てを講じることがいかに重要であるかの警鐘でありました。

2. 財政健全化のこれまでの取り組み

 非常事態にある本町の財政状況をなんとか打開しようとこれまでさまざま取り組みを行ってきました。2004年度には「平群町行財政改革大綱」を策定し、行政のスリム化・効率化を目標に、行政サービスの検証と見直しに着手し、費用対効果の薄れた事業、個人給付的な事業等を見直すことと並行して、一般職員給を5%カット、課・所属の統廃合を進めることでの総人員の抑制などの人件費削減が行われてきました。さらに2007年には、更なる健全化への取り組みとして「新財政健全化計画」を策定し、これまでの取り組みに加え、歳入面では固定資産税の超過税率(通常1.4%→改正1.58%)による課税、各種施設使用料の改定、公有財産の有効活用や計画的処分などによる収入確保を実施する一方で、職員給カットの上乗せ(一般職員給5%→6%)をすることによる更なる人件費の削減が実施されております。
 行政サービスの検証と見直しの方法については、各担当部署において「事務事業点検表」を作成し、個別評価、類似団体・近隣地方公共団体との相対評価を行ったうえで、主観・客観の両面から事業を見つめ直し、その必要性と今後の方向性について整理を行いました。民主党新政権下で行われた事業仕分けに似た作業を行政内部だけで実施したイメージであります。その整理の中で事業実施による公共・公益的効果が低いと評価されたものを中心に事業廃止、縮小を進めていき、これまでタブーとされていた各種団体への補助金や実施事業の廃止、歳入面でも保育料や各施設等の使用料などの改定を行ってまいりました。

3. 財政健全化の先にあるもの

 2004年度を初年度としてこれら健全化への取り組みを着実に実行してきたその成果として、ついに2008年度決算では単年度における黒字化を実現し、これまで赤字額増加の一途をたどってきた財政状況に一定の歯止めをかけ、更に2009年度決算では、ピーク時には約5億2千万円も計上していた赤字額が約1億7千万円まで圧縮することができました。このことは財政健全化に一歩踏み出せ、収支改善の取り組みが確実に定着していることの表れであると認識できるものであります。
 しかしながら2009年度は国における地方財政支援措置として交付された地方交付税の増額措置、地域活性化・経済危機対策臨時交付金、地域活性化・公共投資臨時交付金等などの影響、地方債においても臨時財政対策債や行政改革推進債、減収補てん債のいわゆる赤字補てん債を多額に発行したこと等、追い風的な要素もあって収支のバランスが保てているといった見方もでき、基本的な財政構造としては依然として国の財政支援に頼る依存型の体質にあるとも理解しなければなりません。
 政権交代が実現した今、わたしたち地方自治体は大きな変革期に立たされています。それは国において、公共事業の削減や景気対策のための公的資金投入、社会保障関連経費の充実等、その財政バランスの見直しがかつてないスピードで進められ、そういった見直しの中で、地方分権化・地域主権化が進められているからであります。今後それぞれの地方自治体がこれまで以上に自己決定・自己責任の中、適正に地域における住民ニーズを捉えて行政サービスを行っていくことが求められます。

 わたしたち平群町は2009年度決算をうけ奈良県下の町村では、唯一の赤字団体となっています。その不名誉がこれまでの財政健全化への取り組みの達成感を薄れさせ、給与カットや町税の超過税率等の住民負担増による行政内外での疲労感が積み重なってきている状況ではあります。
 しかしこれから地方行政に携わる者に求められるのは、将来への展望をしっかり持てるかどうかであると考えます。この変革期だからこそ乗り切った先には「行政と地域住民の共存」が実現できるという展望をしっかりと持った上で、これまで以上にわたしたち自身が「住民ニーズ」を敏感に感じとり、それを汲み上げて政策立案・展開していきたいと思います。

資料1

資料2