【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 倉吉市の財政状況が硬直化する中、歳出抑制のターゲットになったのが私たちの人件費でした。財政状況は私たち組合員の人件費に大きな影響を与えます。そのため、倉吉市職員労働組合では、財政運営のあり方についてその責任と所在を当局に言及するため財政分析行動に取り組むこととしました。財政分析行動の取り組み内容と取り組んで明らかとなった課題についてまとめました。



財政分析に取り組んで


鳥取県本部/倉吉市職員労働組合・政策部 木藤 隆親

1. 財政分析行動に取り組んだ背景

 バブル崩壊後の長期停滞化の中、政府の主導で景気対策に地方の財政が動員されてきました。中でも地方債のウエイトの高い地方単独事業に対し、地方債許可額の大幅増額と高い充当率、地方債の元利償還金に対する事業費補正による交付税措置という「地方債と地方交付税の一体的活用」が拡大していったと考えられます。その結果、歳出面では公債費負担が急増する一方、歳入面で地方税の減退が進み、地方財政の硬直化が急速に進行しました。
 さらに、2001年に誕生した小泉内閣は、「三位一体改革」と称し、国の財政再建のため地方行政のスリム化を求めてきました。全国に広がる地方財政危機は、決して倉吉市も例外ではありません。倉吉市の持続可能な財政運営により一層の歳出抑制が必要とされる中、真っ先にターゲットとなったのが私たちの人件費でした。
 賃金確定闘争において、組合は、「財政状況が苦しいのは理解するが、給与カットによって倉吉市の財政は健全な運営が可能になるのか、また、給与カット率はどのような根拠で算出したのか」と当局に対し回答を求めてきました。しかし、当局からは「財政全体のバランスの中で検討しており、カット率の根拠はない」と、納得のいく説明がないまま給与カットが行われました。
 グラフ1にあるように、倉吉市の経常収支比率は90%後半で推移しており、財政の硬直化が進んでいます。このような中にあっても、当局は市営住宅建設や倉吉駅舎改修などの事業を計画し、財政状況の悪化が一層懸念されたため、組合としても強く指摘しましたが、当局側は管理運営事項であるとし、組合の関与を拒否する状況でした。
 財政状況は私たち組合員の人件費に大きな影響を与えます。そのため、組合では、財政運営のあり方についてその責任と所在を当局に言及するため財政分析行動に取り組むこととしました。

(グラフ1)

2. これまでの取り組み内容

 はじめに、倉吉市の財政状況の実態を明らかにするとともに、組合員にわかりやすく伝える必要があると考えました。組合員が漠然と「財政状況が悪い」と感じているだけでは、当局との交渉において建設的な議論にはならないと考えたためです。そのため、執行部だけでなく、組合員にも参加を呼びかけ、決算統計資料をもとに財政分析を行いました。
 次に、財政分析結果を組合員にわかりやすく伝えるため、2008年6月に学習会を開催しました。この学習会には、地方自治総合研究所の飛田研究員を講師に招き、倉吉市の財政状況を専門的に解説していただくとともに、類似団体との比較を行い、客観的に財政状況をとらえることができるよう工夫しました。しかし、財政分析を行い財政課題が明らかになったとしても、その課題が解決しなければ何にもなりません。当局を動かしていくためには、組合だけの行動では限界があります。この学習会を通じて、飛田研究員からは、「財政分析を市民と共に行い、市政運営を見直す気運の醸成が必要である」との提言が行われました。
 この提言を受け、一般市民にも広く倉吉市の財政状況を知っていただくことを目的として2009年7月に市民公開シンポジウムを開催しました。このシンポジウムには、飛田研究員の講演会のほか、パネル討議として、倉吉市長、NPO法人、商工会議所、弁護士、連合鳥取といった各方面で活躍している方をパネリストに招き、倉吉市の財政について議論を交わし、理解を深めました。
2009年7月 市民公開シンポジウム

3. 財政分析により明らかになった人件費の特徴

 これまで財政分析に取り組んできて明らかになったことは、グラフ2のとおり、人件費が1990年代半ば以降ほぼ横ばいで推移しており、他の義務的経費が増加する中で歳出の抑制に大きく寄与していることでした。当局としては扶助費、公債費、繰出金などに一般財源が費やされるなかで、人件費を抑制して一般財源を捻出する動機に駆られることが予想されますが、これは倉吉市の行財政運営全体の改善をなおざりにして、人件費にそのツケを負わせる手法以外の何ものでもありません。
 また、組合では、サービス残業の実態調査を2010年4月~6月に試験的に行いました。その結果、サービス残業は各部署で慢性的に行われていることが判明しました。新規採用職員抑制による急激な人員削減を行っているにも関わらず行財政運営の改善が充分に行われていない実態が明らかとなりました。
 定員管理や行財政運営は管理運営事項であるとされますが、給与や残業など、私たちの職場環境に大きな影響を与えることとなります。公共サービスの質を維持するためにも、必要な人件費が確保されているか監視していく必要性を感じました。
平成元年=100とした義務的経費の推移                   (グラフ2) 

4. 今後について

 自治体財政健全化法では財政計画の策定とともに財政悪化の要因の把握を求めており、公共サービスの確保に向けて財政分析の重要性が高まっています。財政分析は、広く職員、住民の視点に立った「情報の開示」を求める作業であり、自治体改革の主要なツールです。財政分析を通して、財政悪化の要因は何であるのか、倉吉市財政の特徴は何であるか等の実態情報を職員と住民が共有し、職員、住民が参画する行財政運営と自治体改革を推進していく道筋をより確かなものにしていく必要があります。
 昨年7月に財政状況を市民と共有するため市民フォーラムを開催しましたが、市民の参加者がまだまだ少ない実態があります。また、職員の財政に対する意識も高いとは言えません。引き続き財政分析を行いながら、分析結果を分かりやすく編集し、情報発信していくことが重要であると考えます。このような情報公開からは、職員給与を含めた行政コストや事業の優先順位の設定に対する批判も噴出してくると考えられます。私たち組合員は労働者でありますが、主権者は市民です。労働者として身分や労働条件を維持・向上させるならば、市民の意思に敏感となりその支持を得ていかなければならないと考えます。
 また、地方財政は国の政策に大きく左右されます。「地方の再生」を掲げる民主党政権が誕生したいま、国と地方の行財政システムの抜本的な転換を地方の声が反映されたものにしていくためにも、公共サービスの最前線において日々住民と接している私たち職員が財政状況の理解を深め、声を上げていく必要があります。
 今後も、交渉力の強化と政策要求の具体化のために継続して財政分析行動に取り組んでいきたいと考えております。