【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

佐伯市の財政分析


大分県本部/佐伯市職員労働組合

1. はじめに

 2005年3月に誕生した新佐伯市は、2004年度決算において経常収支比率が100%を超過するなど危機的な財政状況のもと、大変厳しいスタートを切りました。本市が将来にわたって市民サービスを維持することができる基盤を構築するために、行財政運営のあり方を十分に検証し、改革を実行することで次世代への負の遺産を軽減し、未来への道を切り開いていくことが私たちに課せられた責務であるといえます。
 そのためには、職員一人ひとりが財政状況について理解し、それぞれの役割を再認識したうえで効率的な行財政運営が行えるよう、意識レベルを高める必要があります。今回は、合併前の2003年度から2008年度まで6ヵ年の財政状況について、組合員のみなさんに周知されることを目的として、できるかぎりわかりやすく分析してみたいと思います。

2. 佐伯市の財政状況の特徴

(1) 財政指標
① 財政力指数
  基準財政収入額(自治体の財政力を合理的に測定するために地方交付税法の規定に基づき導出された財政収入額)を基準財政需要額(普通交付税の算定に用いる標準の財政需用額)で割った数値で、1に近いほど財源に余裕があるとされています。
  本市は過去6年間で2007・2008年度が最も高い数値ですが、それでも0.35と極めて低い値となっています。この数値は類似団体127団体中125位で類似団体平均は0.65です。
(財源に余裕がない)
② 実質収支比率
  実質収支(歳入から歳出及び翌年度へ繰り越す財源を引いた額)を標準財政規模(自治体の一般財源の標準的な規模を表す理論値)で割った数値で、累積赤字、黒字を示すものです。3~5%が望ましいとされマイナスになると赤字団体を意味します。
  本市は過去6年間で2005年度が1%、2008年度が0.8%ですが、その他はこの範囲内でした。
(今のところ多めに交付されている地方交付税のおかげで黒字)
③ 経常収支比率
  人件費などの経常的な経費に、地方税や地方交付税などの一般財源がどれだけ充当されているかを示す割合で、都市では、75%前後が妥当とされています。また、そのうち人件費は40%、公債費は20%程度を超えると財政運営が苦しくなるとされています。
  本市は過去6年間のうち、2004年度が102.6%で、その他は92%~95%前後といずれも高い数値となっています。また、2008年度の人件費は30.0%、公債費は28.5%です。
  この率については、類似団体127団体中64位でほぼ平均値です。
(財政運営は苦しい)
④ 公債費負担比率
  公債費(毎年度の地方債の元利償還費)に充当する一般財源の一般財源全体に占める割合を占めす数値で15%以上が警戒ライン、20%以上が危険ラインといわれています。
  本市は、合併時2004年度の20.1%から2007年度は26.1%と着実に伸びてきていましたが、2008年度は26.0%と、ようやく落ち着きを見せはじめた状況です。
(危険ライン)

(2) 地方税収入の歳入に対する割合
 2003~2006年度は平均14.5%、2007年度以降は税源移譲の関係もあり2007年度が18.5%・2008年度が17.3%と伸びていますが、類似団体の半分程度しかありません。
(自主財源の割合が低い→自主財源が少ない)

(3) 地方交付税の歳入に対する割合
 過去6年間は30.9%~42.5%で、歳入の中で最も大きな割合を占めています。2007年度類似団体の平均は22.5%です。
(交付税依存度が高い)

(4) 地方債残高
 過去に発行した地方債の累積額をいいます。本市の2008年度決算時の人口一人当たりの地方債残高は862,093円で、2007年度類似団体平均の446,922円と比較するとおよそ2倍となっています。
(借金が多い)

(5) 基 金
 家庭でいう預貯金がこれにあたりますが、その中でも自由に使える取り崩し型の基金が財政調整基金や減債基金です。本市の人口一人当たりの残高は88,427円で、2007年度類似団体残高34,210円に比べると多い金額になっています。ただし、国保や簡水の基金は近年大幅に減少しており、枯渇するようなことになれば、一般会計を圧迫することになります。
【財政状況の特徴まとめ】
 当市は、長引く景気の低迷等により、税収を確保することが厳しい状況である一方、地方交付税への依存度が高く自主財源比率が非常に小さい歳入構造となっています。歳出面では、経常的経費である扶助費・公債費・特別会計への繰出金が年々増加傾向にあり、他の地域に比べインフラ整備が進んでおらず、投資的経費の構成比率が大きく、これに起因する起債残高も大きくなっています。今後、高齢化が進むことにより、扶助費や国保・介護特会等への繰出金はさらに大きなものとなることが懸念されます。

 

3. 歳 入

(1) 地方税収入
 歳入で中心となるのが地方税収入であり、市民税と固定資産税が柱となっています。2003(H15)~2008(H20)年度の過去6年間の地方税収入は68億円~77億円で推移しており、歳入総額の14~18%をしめています。このうち市民税は、住民や企業の所得や収益を基礎として課税される税であるため、人口が減少傾向にあり新たな企業進出もなく、景気の状況が良いとは言えない本市においては、増収は見込めません。一方、固定資産税は、資産を基礎として課税される税であるため、不動産がある限り将来的にもある程度一定の収入を見込むことができます。
 合併後、納税組織による徴収の方法は廃止され、口座振替か自主納付となりましたが、この影響で毎年少しずつ徴収率が低下してきている状況です。
(制度が変わるか景気が良くならない限り全体的には少しずつ減少)

(2) 地方交付税
 国が地方に対し均等な行政運営のために交付するもので、歳入の中で最も大きな割合を占めています。
2003(H15)~2008(H20)年度の過去6年間は160億円~180億円で推移しており、歳入総額の35%~42%を構成、多くの地方自治体と同様で本市の命綱というべき財源です。
 この地方交付税は、規模に応じた標準的な自治体運営に要する額(基準財政需要額)から同様の自治体運営に要する標準的な収入(基準財政収入額)を差し引いた額を基準として交付されますが、合併後10年間は、旧市町村単位での算定額の合算にて交付額を決定しており、本来の算定額より多く交付されています。その後、本来の額まで段階的に減額されますが、本市の場合、基準財政需要額の中に多額の地方債償還費が含まれており、交付額には全ての地方債償還費が反映されないため、実質的には他の経費が圧迫された状況になることとなります。
(特例期間が終わるまでに、できる限り財政を立て直しておかなければならない)

(3) 地方債
 用途が定められている特定財源の一種で、2003(H15)~2006(H18)年度は74~75億円、2007(H19)年度は42億円、2008(H20)年度は56億円と、近年発行を抑えている状況です。
 合併後10年間は交付税措置のある合併特例債の発行が可能で、今後は文化会館や庁舎等の大型公共事業が計画されています。地方債の発行は社会資本を整備して行くうえでかかせない重要な財源ではありますが、次世代へ負担を残すこととなり、交付税にも大きな影響があります。将来的な歳入の動向を見据えつつ慎重に運用していかなければなりません。
(本市は地方債残高が大変多く、歳入の見込がたたないうちに運用するのは非常に危険)

【歳入まとめ】
 歳入についての好材料はなかなか見出すことができません。地方税収入は2008(H20)年度決算時点で約77億円で2006(H18)年度までの平均約69億円と比較すると8億円の増収ですが、これは主に税源移譲による影響で、今後税制の改正か景気が回復しなければ、増収は見込めない状況です。地方交付税については、内閣府の試算では2009(H21)年度以降は伸びが期待できないとのことです。また、合併後10年間は、地方債の中でも有利な条件の合併特例債の選択が可能ですが、地方債残高が大きいため、借入額を元金償還以下に抑制するなど、起債残高の削減に努めなければなりません。
 前述以外では、未利用の市有財産の売却や貸付等による自主財源の確保に地道に取り組むことも必要です。

4. 歳 出

(1) 人件費

 事業費支弁職員の給与を除く全ての給与費で、議員報酬・特別職給与・職員給与・退職金等がこれにあたります。過去6年間は、94億円~115億円~98億円~97億円~97億円~92億円と推移しており、歳出総額の20%~24%を占めています。2004(H16)年度が115億円と極端に多いのは、膨大な事務事業の調整等の合併協議がなされたことによる時間外手当等の増加や退職金及び退職手当組合負担金の精算金が大きかったことが主な理由と思われます。2005(H17)年度以降減少傾向で推移しているのは、組織改革による人員削減のため早期退職者の増加及び新規採用者の抑制などが関係していると思います。
  ただし、一般会計から繰出金という形で特別会計に計上されている部分もあるため、いちがいにこの数字が全てということではありません。
(人件費の削減は当分の間継続される見込)

(2) 扶助費
 この経費には、障害者措置費・保育所措置費・生活保護費等があり、今後も少しずつ増加するものと思われます。過去6年間は、33億円~50億円で推移しており、歳出総額の7%~12%を占めています。
(削減は困難)

(3) 公債費
 この経費には、地方債の元利償還金・一時借入金利子・都道府県からの貸付金の返還金及び利子があり、財政的に大きな負担となっています。過去6年間は、61億円~80億円で推移しており、歳出総額の13%~20%を占めています。
(財政は硬直化しており、これ以上財源を充てるのは厳しい)

(4) 繰出金
 一般会計から特別会計への繰出金が計上されます。合併以降は41~42億円で推移しており、歳出総額の8~11%を占めています。
 本市には、公営企業会計を含む特別会計が16会計ありますが、特に繰出金が多いのが下水道関係で、2008(H20)年度は12億300万円で、次に多いのが国民健康保険事業会計の9億9,100万円となっています。これらの特別会計は独立採算が基本ですが、一般会計からの繰入金なしでは運営が成り立たない状況です。
 このように、特別会計は一般会計を圧迫している状況となっています。
(今後特別会計は、さらに運営努力が必要)

(5) 普通建設事業費
 この経費には、道路・河川・庁舎建設等の補助事業及び単独事業に加え、県営事業負担金や国直轄事業負担金があります。過去6年間のなかでみると、合併時の2004(H16)年度の138億2,200万円をピークに2007(H19)年度は65億3,700万円まで縮小してきていましたが、2008(H20)年度はケーブルテレビ事業や市営住宅の建設、防災情報システムの整備、給食センターの建設等で事業費がかさみ88億6,100万円と増加傾向です。
(事業の廃止・縮小・見直し・先送りなど、一つ一つの事業を十分点検し決定)

【歳出まとめ】
 人件費については、職員数を200人程度削減させることで経費を抑える計画となっていますが、これをスムーズに行うには事務の効率化は不可欠となります。扶助費については、年々増加しており、今後も高齢社会の進展等により増加する見込で、削減は困難と思われます。公債費についても年々増加しており、数年後には90億円を超えると予測されます。こうした状況に加え、下水道整備やごみ等の環境対策に係る経費の増大、新しい時代に対応するための情報化対策、また市民の安全・安心を守るための防災対策、過疎地域における生活交通手段の確保等、さまざまな課題が山積しています。
 こうしたことから今後も引き続き、職員数の削減等による総人件費の抑制、事務事業の見直し等による民間委託の推進、投資的経費の抑制基調を継続し、有利な補助金や起債の活用、各特別会計の適正な受益者負担により基準外の繰出しの抑制等の措置を講じていかなければなりません。

5. おわりに

 合併後に施行された行財政改革プランに基づき歳出を極力抑えてきた結果が現在の状況です。普通交付税は合併の特例として通常より多く交付されており、10年間削減されることはありませんが、その後段階的に削減され、本市の場合最終的には約40億円減少する見込です。いずれ来るそのときまでに、その状況で対応できるような財政状況にしておかなければなりませんが、今我々にできることといえば、冒頭申しましたとおり、一人ひとりが財政状況を理解し、それぞれの役割を再認識した上で効率的な行財政運営を行っていくことではないかと思います。