【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 一般的な財政状況の分析手法として、歳出では性質別経費と目的別経費の分類方法がある。毎年度継続的な財政状況を分析し、また、他団体と比較するとき、多くの場合は性質別経費による財政指標を用いる。これは、その自治体の規模や人口による影響をほとんど考慮することなく、人件費や公債費、普通建設事業費などの経済的な支出動向が明らかにされることによる。
 しかし、果たしてそれだけでよいのだろうか? 全国の自治体に人が暮らすように、その自治体には固有の顔がある。その顔の表情を表わすのが、目的別経費の支出動向であろう。今回の財政分析では、性質別経費の分類とともに、目的別経費の分類を用い、竹田市の財政状況を分析してみる。



竹田市の財政分析
数値で見る竹田市の姿 ―― 目的別歳出に見る竹田市の表情

大分県本部/竹田市職員労働組合 渡辺 一宏

1. はじめに

 国はこれまで、「経済財政改革の基本方針」等により、歳出改革の努力を緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き歳出削減を行ってきた。2001年(平成13年)、「聖域なき構造改革」を掲げた小泉内閣は、地方自治体が決定すべきことは国ではなく、地方自らが決定するという地方分権実現を名目に、国庫補助負担金の削減、税源移譲、地方交付税の見直し縮減を同時並行的に進めていくという、「三位一体の改革」を断行した。その結果、地方分権は本当に実現したのか。
 確かに、なかなか進展しなかった地方自治体における行財政改革への刺激となり、その進度は早まった。しかし、自治体自立の修練期間なしに、一方的に財源のみを削減されたのが実態ではなかったか。地方自治体は財源不足に追い込まれ、市町村合併が促進された結果、自治体職員の定員管理に基づく人件費の抑制、賃金カットへと道筋がついたように思える。障害者支援、介護保険、後期高齢者医療制度など度重なる制度設計の見直しや権限移譲による事務事業量の増大は、明らかに人員削減の方向とは異なっている。こうした国の動きの中で、我々が在る自治体の財政状況を検証し、我々が在る自治体の姿を認識することが、我々の在る自治体の足元を築く重要な要素になると思う。

2. 財政数値で見る竹田市の姿

 財政分析は、よく当該団体の財政運営の経緯を過去から比較し、悪化・改善の推移を分析することが多い。当然、その分析は必要であるし、当該自治体の行財政運営に係る重要な将来計画へのデータとなる。また、比較すべきその指標は、全国的な平均値であり、その平均値との乖離がいつも改善点として指摘され、目標となる。類似団体である。しかし、ただそれだけの数値で我々が在る、我々が運営する自治体の在り様を語ってよいのだろうか。
 そうした方向から、我々の運営する自治体の姿がもっとわかりやすく見られるよう、大分県下都市の数値比較を行った。

(1) 1割自治=依存度の高い歳入
 歳入については、歳出のように性質別、あるいは目的別の分類はない。強いて注釈を付せば、別府市や九重町のように自衛隊施設がある自治体には国有提供施設等所在市町村助成交付金、国東市では大分空港があることから航空機燃料譲与税、都市計画区域を指定している自治体には都市計画税、温泉がある自治体には入湯税というような目的別歳入がある。
 歳入の中で、特に注目したいのが税収、地方交付税、地方債など収入割合である。基本的に、歳入に占める税収の割合が高い自治体は裕福、地方交付税や地方債の歳入割合が高い自治体は財政運営に難あり、と読み取れる。以下は、大分県下14市の歳入状況である。


表1-大分県下14市の平成20年度歳入決算額(普通会計ベース:地方財政状況調査)


 大分県下14市も、歳入における自治体の表情は様々である。県都大分市の数値は抜きん出ており、他都市と比較することとはならないが、県下都市の歳入状況を改めて確認することも必要であろう。
 旧来より、3割自治という言葉がある。3割自治というのは、当該自治体における歳入のうち、地方税の収入割合を表したもので、自前の収入が3割しかなく、残りの7割の収入が地方交付税や国・県支出金、地方債などに頼る収入構造となっていることを言い、当該自治体の独自性や権限が、財政構造上では3割しか発揮できないことを揶揄した言葉である。言い換えれば、中央集権の色彩が強い自治体とも言えよう。そういう表現を当てはめれば、我が竹田市は何と1割自治である。2005年に、旧1市3町で合併した際の動機は、「財政基盤強化型合併」であったはずだが、今のところその主旨は、財政上の数値に認めることはできない。
*自前の収入とは、当該自治体独自の収入を指す。このため、地方税に使用料や手数料などを含めた「自主財源」が本来の自前収入である。

(2) 義務的経費に硬直した性質別歳出
 性質別歳出では、人件費や扶助費、公債費等の義務的経費の数値が注目されるところである。義務的経費とは歳出のうち、その支出が義務づけられ、簡単に削減することができない経費をいう。
 扶助費は障害者支援費や児童・介護施設に要する経費、扶養・児童手当(子ども手当)など、法令で定められた経費、公債費は国県や金融機関から借入した資金の返済金で、双方とも自治体が勝手に削減することができない、できるはずもない経費だ。人件費も同様で、給与制度のもとで不払いは当然のこと、カットも本来はあり得ないものである。
 しかし、歳出におけるこの義務的経費の割合が高いほど、財政状況が厳しいことは明らかで、財政運営の硬柔を示す「経常収支比率」に直結する。以下は、大分県下14市の歳出状況である。


表2-大分県下14市の平成20年度歳出決算額(普通会計ベース:地方財政状況調査)


 やはり歳出においても、大分県下14市各々の表情は異なっている。我が竹田市はというと、大変厳しい表情をしている。歳出のうち、義務的経費の占める割合が大きい。歳出割合だけみると、まだ義務的経費構成比の大きい都市があるものの、財政運営の硬柔を示す経常収支比率は、大分県下14市中最下位の97.7%で、義務的経費の経常収支比率も69.1%と最下位にある。これは、歳入の自主財源比率が低く、一般財源(国県補助費のように紐付きでない、自由に使える財源)が少ないため、経常的な経費である義務的経費に、一般財源の多くを割かざるを得ないことが原因だ。
表3-市町村別人口1万人当たり職員数(H20.4.1現在)

 賃金関係交渉では、人件費が占める歳出構成比(26.0%)や経常収支比率(38.8%)とともに、左表の人口1万人当たり職員数の数値が、厚い障壁となっている。しかし、これは下表の定員管理計画の数値が示すように、合併市町村が味わっている新自治体誕生に始まる苦しみである。
 合併により、財政規模は小さくなったが、職員数は一気に減ることはない。全体の歳出構成比から見ると分母が小さくなったため、いかにも人件費が大きく映るという構造である。
 あと数年経過すると職員数、年齢層とも平準化するものの、事務事業量の増加に反比例する職員数の減、また、合併特例期間10年後の地方交付税の大幅な減収、公務員制度改革に伴う定年制延長など、我々にとって決して良い材料はない。


表4-竹田市定員管理計画表(H21.7.1現在)


(3) 竹田市の財政に見る効率性
 それでは、人口1万人当たり職員数の数値がどのようなものなのか、効率性の面で竹田市の歳入・歳出を測ってみよう。


表5-平成20年度普通会計決算における市民1人当たりの市税負担状況(14市)


 市民1人当たりの市税負担状況をみると、県都大分市に比し、竹田市民の市税負担は半分にも満たない。その差は、市民税と固定資産税について顕著に表れている。基幹産業を第1次産業の農林業と位置付ける竹田市に対し、第2次・第3次産業の就業人口が大半を占める大分市は、給与所得者が多い。産業構造や就業年齢構造の違いにより、税収基盤の強弱が透けて見える。また、固定資産税についても、土地評価額の差や産業構造の違いにより、大きな差がでている。


表6-平成20年度普通会計決算における市民1人当たりの性質別歳出状況(14市)


 一方、市民1人当たりの歳出状況を見ると、市税負担状況と真逆の結果が示されている。竹田市の性質別歳出は人件費、公債費などの項目では、大分市の2倍強の経費をかけている。補助費等に至っては、市民一人当たりの支出が4倍にも及んでいる。これは、農林業に係る補助費等の支出が要因である。何れにしても歳入、歳出ともに、財政上の効率性がはっきりと表れた姿である。
 しかし、数値上で示されたこの姿かたちは、不可であるのか。地方自治体の貴重な財源である地方交付税は、各自治体における地方税収入額の差を埋め、また歳出を計る需要額算定中には、段階補正や態容補正、密度補正等多くの補正係数がある。これは、人口規模や面積、位置など、各自治体の特性に応じた経費の差を反映し、財源不足を補填するようになっているからである。表1に見る大分県下14市の地方交付税交付額がそれを物語っている。とすれば、この効率性の差は個性ではないか。地球温暖化防止に重要な役割を果たす山林、農地の保全を行い、高齢者を守る。市民の税負担は少なく、市民の顔が見える行政サービスを行う。そう言う説明ができないものだろうか。

3. 目的別歳出の分析に見える竹田市の姿

 これまで、一般的に用いる財政数値で、竹田市の姿を見てきた。その顔は、何とも渋い表情だった。しかし、果たしてこれが竹田市の姿と言えるだろうか。寂しい結末の財政分析で終わりたくないので、歳出の内容を違う角度から眺め、竹田市の個性的な姿を見てみよう。
 以下、表7は大分県下14市の目的別歳出の比較、表8は部門別職員数の比較である。


表7-平成20年度普通会計決算における市民1人当たりの目的別歳出状況(14市)


表8-部門別職員数の状況(14市)


 上記2つの表に、共通比例する数値の特徴が見られる。目的別歳出の市民一人当たり支出額が高い民生費、農林水産業費、教育費などは、それに比例して部門別の職員数も多い。当然、職員数が多ければ、これに伴う人件費が膨らむわけであるから、支出額も高いはずである。しかし、その理由はそれだけではない。竹田市の特徴として、個性として、当該部分の施策に力を注いでいるのである。だから部門別の職員数も多くなる。他の統計数値が、その傾向が確かなものであることを表わしている。それらの統計数値を、以下のように列挙し、お示ししよう。
 民生費の目的別では、竹田市は保育所6施設と養護老人ホーム1施設を持つ。このため、その施設の職員数と民生費の歳出は当然膨らむ。農林水産業費は、農業費及び農地費の合計により農業人口1人当たりの歳出額を割り出した。豊後高田市が突出した数値を示しているが、これは農水省補助のケーブルテレビ事業が含まれていることによる。これを除けば、竹田市の農業に係る主要数値を見ると他都市を引き離し、圧倒的な数値が際立つ。中山間地域等直接支払交付金が大きいため、性質別歳出の補助費が大きくなるのはやむを得ない。その分農業者の所得を守り、農地保全に努めているとは言えないだろうか。また、農業生産額の高さは誇り得る数値であると自負する。教育費には、はっきりと効率性が認められる。学校数は多いが、児童生徒数は少ない。だからといって、安易に統合に向かうのが正しい施策と言えるだろうか。こうした数値が示すのもまた、その自治体の個性豊かな表情と分析したい。


表9-目的別民生費・農林水産業費・教育費の歳出状況及び主要数値(14市)


4. おわりに

 地方の時代と言われたのは、いつ頃のことだったろうか? 古くは1970年代初頭、それも地方から提唱された、中央集権に対する地方の反動的な盛り上がりであった。行財政システム集権制の分権のみを謳うだけではなく、都市と地方の利便性格差を超越した、生活様式や価値観を含めた、地方の誇りを込めたスローガンであったように思う。それが、いつの間にか「地方の競争」から、「地方の統合」へと実態が変化してきた。大分県においても、一村一品運動にみる地域づくりの先進県として、豊かな地方の時代を標榜していたはずだ。その頃、58市町村あった自治体が、今では18市町村に統合されたが、豊かさは増しているか。地方分権を目指した三位一体の改革は、地方にとって功を奏したか。
 地方分権一括法は、地方分権改革の柱として2000年4月1日から施行された。主な目的は、住民にとって身近な行政は、できる限り地方が行うこととし、国が地方公共団体の自主性と自立性を十分に確保することとされた。確かに機関委任事務は廃止され、名目上は国と地方自治体は対等な関係になったという。しかし、その実感はあるか。手数を要する許認可権が移譲され、事務量は増え、自治体及び住民に本当のメリットはあったのか。今後さらに、地方分権から地域主権へと行財政改革は進みつつある。国は、「小さな政府」に向かい、地方主権を掲げ、着々と事を進めている。他方、地方自治体は今後、権限移譲と国の地方出先機関移管に伴う事務事業量の増大や国公職員の身分移管による肥大化が懸念される。また、同時に基礎自治体は、地方主権に耐え得る行政知識を養い、政策提案ができる能力を培うことが必要となる。我々自治体に在るものは、その流れが一つ一つの地方自治体の存在意義を示す真の改革であるよう、自治体運営にさらなる責任と誇りを持って取り組まなければならない。