【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

豊後大野市の財政分析
~持続可能な自治体財政を目指して~

大分県本部/豊後大野市職員連合労働組合・自治研部行財政研究部会

1. はじめに

 2008年リーマンショックを始めとする世界的な金融危機以来、低迷を続けていた国内景気に一部明るい動きが出ているものの、その動きは自律性に乏しく、依然として我が国の財政は厳しい状況にある。
 また、地方自治体においても、長引く景気低迷等の影響を受け、地方税収入が落ち込む一方、社会保障関係経費の増加等により大幅な財源不足が生じ、弾力的な財政運営がより一層困難な状況となっている。
 このような地方財政を取り巻く環境を考慮し、豊後大野市の財政状況及びこれからの持続可能性について、行政改革集中改革プランの取り組みを踏まえながら分析を行った。

2. 2008年度決算から見る豊後大野市の現状

 当市の経常収支比率は2004年度の合併時に100%を超え、収支のバランスを著しく欠いていたものの、2005年度に策定された豊後大野市行政改革大綱及び集中改革プランによる取り組み等によって2008年度末で95.3%まで改善されたものの、類似団体平均の90.4%を4.9ポイント上回る高い水準にあり、依然として、財政が硬直化している状況となっている。【資料1】

資料1 経常収支比率の推移


 歳入の特徴としては、歳入決算額28,258,627千円のうち地方交付税が12,495,085千円で全体の44.2%を占める一方、地方税(市税)収入は3,255,768千円で全体の11.5%と低い割合となっている。このうち、地方交付税については、県内他市と比較してもその割合が高くなっているが、これは、合併後10年間、合併前の旧市町村ごとに算定した普通交付税の合算額を保障する「合併算定替」の影響であり、多くの団体が合併した自治体ほどこの傾向が大きくなっている。また、2008年度決算における自主財源比率が21.9%と県内他市と比較しても低くなっており地方税等の自主財源が乏しく、財政の自主性が非常に低いことが分かる資料2

資料2 2008年度決算の状況

資料3 歳入の構成比率
(単位:千円、%)
 
歳入決算額
地方税
地方交付税
国庫支出金
地方債
その他
自主財源比率
大 分 市
150,445,187
53.5
4.1
13.2
8.8
20.4
64.2
別 府 市
42,185,325
34.8
16.3
17.8
7.3
23.8
46.7
中 津 市
35,682,097
28.7
30.3
12.4
7.8
20.8
38.9
日 田 市
35,441,094
23.3
36.5
11.4
7.9
20.9
34.0
佐 伯 市
44,612,332
17.3
40.7
11.1
12.6
18.3
23.7
臼 杵 市
17,979,287
24.2
34.8
10.3
11.0
19.7
32.9
津久見市
8,915,577
28.1
33.0
9.9
10.3
18.7
37.5
竹 田 市
18,358,064
10.8
44.2
8.1
6.9
30.0
23.0
豊後高田市
15,448,927
13.1
42.3
10.5
16.6
17.5
20.8
杵 築 市
17,929,312
18.4
36.8
10.1
11.2
23.5
28.7
宇 佐 市
26,606,518
23.0
34.3
10.2
7.3
25.2
30.0
豊後大野市
28,258,627
11.5
44.2
8.3
10.4
25.6
21.9
由 布 市
15,619,125
25.9
32.8
9.4
6.9
25.0
37.1
国 東 市
19,489,724
16.9
46.9
6.9
9.3
20.0
26.4

 歳出の特徴としては、歳出決算額26,879,117千円のうち人件費が22.5%、公債費が18.7%、扶助費が9.8%と義務的経費の占める割合が全体の約51%となっており、特に人件費と公債費の占める割合が41.2%と県内他市と比較しても高くなっている資料2
 このことから、当市の財政の硬直化の主な要因は、人件費及び公債費の比率が高いことによるものということが確認できる。

資料4 人件費及び公債費の構成比率
(単位:千円、%)
 
歳出決算額
人件費
公債費
人件費+公債費
大 分 市
145,427,771
22.5
15.3
37.8
別 府 市
41,522,060
24.2
6.5
30.7
中 津 市
34,418,891
23.6
14.2
37.8
日 田 市
34,143,402
18.3
18.1
36.4
佐 伯 市
44,141,994
20.7
18.2
38.9
臼 杵 市
17,525,327
19.7
17.8
37.5
津久見市
8,807,908
26.6
15.1
41.7
竹 田 市
17,115,809
26.0
16.2
42.2
豊後高田市
15,102,866
20.1
15.7
35.8
杵 築 市
17,226,894
17.9
14.9
32.8
宇 佐 市
25,483,785
25.2
14.6
39.8
豊後大野市
26,879,117
22.5
18.7
41.2
由 布 市
14,996,043
23.2
13.5
36.7
国 東 市
18,783,623
22.4
20.1
42.5

3. 集中改革プランの実施状況

 集中改革プランにおける取り組みは、人件費、公債費、物件・補助費等の3つの性質別費目を主な削減対象に設定し、2005年度から2009年度の計画期間においてその支出削減を重点的に行うこととなっている。
 人件費については、実績で2005年度は6,527百万円、2008年度では6,078百万円と449百万円の減額となっている。これは、当市の合併が7つもの町村が集まって行われた結果、類似団体に比べ職員数が圧倒的に多かったことから、退職勧奨の強化、新規採用枠の制限等、正規職員数の純減を図る取り組みを行ってきたこと、また、特別職及び一般職員の給与・諸手当のカットあるいは見直し等に取り組んだことにより、結果として正規職員数は、1市1消防本部への移行に伴う消防職員の移管替による増員があったものの、毎年、平均で30人程度減少し順調に削減が図られている【資料5】
 次に公債費については、実績で2005年度は5,228百万円、2008年度では5,019百万円と209百万円の減額となっており、起債残額については、実績で2005年度は37,787百万円、2008年度では33,367百万円の減額になっている。これは、各年度における地方債発行額の上限を3,000百万円と設定するとともに、後年度の負担を軽減するため繰上償還等を積極的に実施し起債残高の削減に重点的に取り組んできたものであり、その結果、公債費の削減については、目標をクリアすることはできなかったが、起債残高は目標以上の大幅な削減が図られている【資料6】

資料5 人件費の推移


資料6 公債費と起債現在高


 次に物件費及び補助費等については、実績で2005年度は2,763百万円、2008年度では2,327百万円と436百万円の減額となっており、目標数はクリアできている。
 しかし、合併に伴い旧町村からそのまま引き継いだ公共施設等の整理・統廃合の取り組みは始まったばかりであり、補助費等についは、多くの市民や各種団体等と密接に関わり、市民生活に直結しているためその削減は容易ではなく、これまで様々な場で議論し、その一部について見直しを行ったものの、根本的な改善には至っていない。
 これらの経費は継続的に支出されることから、当市の厳しい財政状況と行財政改革の重要性・必要性を関係者に理解していただき、公共施設の整理・統廃合、補助金等の削減に向けた取り組みを更に進めていかなければならない。

資料7 物件・補助費等の推移


 以上のように、集中改革プランの実績としては、主な削減対象である人件費、公債費、物件・補助費について順調に削減が図られているものの、一方で扶助費が2004年度の501,258千円から2008年度では777,402千円と276,144千円も増加し、繰出金についても2004年度の1,377,191千円から2008年度では1,744,163千円と366,972千円も増加しているため、実質的に2004年度(合併前)から2008年度までに、47,202千円の削減しか図られていない【資料8】

資料8 性質別歳出の状況(経常経費一般財源ベース)
(単位:千円)
項 目
2004
2005
2006
2007
2008
2008-2004
人 件 費
5,922,700
5,851,380
5,797,462
5,878,493
5,739,132
△183,568
扶 助 費
501,258
729,058
767,951
771,666
777,402
276,144
公 債 費
4,826,065
4,683,210
4,526,138
4,732,026
4,726,162
△99,903
物 件 費
1,919,377
1,876,790
1,760,812
1,490,273
1,370,545
△548,832
維持補修費
103,914
247,167
318,038
252,389
266,434
162,520
補助費等
1,104,765
886,016
932,401
906,276
956,639
△148,126
繰 出 金
1,377,191
1,478,446
1,595,527
1,709,299
1,744,163
366,972
投資・出資・貸付
12,041
128,769
110,896
111,579
139,632
127,591
合 計
15,767,311
15,880,836
15,809,225
15,852,001
15,720,109
△47,202

4. 財政の持続可能を目指すには……

 当市の歳入については、地方交付税に依存するところが大きく、交付税の「合併算定替」によって旧7町村分の普通交付税合算額の10割が保障される2014年度までは、比較的安定しているものの、その後5年間で本来の交付税額まで減少していく「階段落ち」が始まる2015年度からは極めて厳しくなることが予想される。
 また、歳出については、人件費、公債費は集中改革プランにより着実に削減が図られてきているものの、その歳出総額に占める割合は県内他市に比べて依然として高い状況にあり、さらに、今後、ケーブルテレビ事業、庁舎建設事業、消防庁舎建設事業、学校施設の耐震化に伴う建替事業などの大きな事業が控えており、これら事業の財源として発行される地方債の償還金が、財政状況を圧迫していく可能性がある。このほか、少子・高齢化が著しく進む当市は、子育て支援、老人福祉に関連する扶助費、介護保険をはじめとする医療費関連特別会計への繰出金が年々増加しており、この傾向は、将来的にも変わることがないと予想される。
 先日公表された第2期集中改革プランにおいて、2023年度までの財政シミュレーション(経常一般財源ベース)がされているが、すべての項目で目標を完全にクリアできた場合においても、2019年度で歳入と歳出が逆転し、その後、2023年度までの間、恒常的に歳入不足が生じることが予想されている。2019年度から2023年度までの間の歳入不足総額は13.3億円となっており、その不足を補うためには基金を取崩さなければならない。2008年度末時点で財政調整基金が19.6億円、減債基金が12.7億円の残高となっており、かろうじてこの財源不足を補える状況ではあるが、非常に厳しい財政運営が予想される。
 これらのことより、合併から10年が経過する2014年度までが、当市における将来の基盤を築く極めて重要な期間であり、継続可能な財政基盤確立の鍵を握っているため、行政改革(行政経費の削減)に向けた具体的な取り組みを2014年度までには完了させておかなければならない。
 また、自主財源の増加は、景気回復や抜本的な税制改革がない限り見込めないため、より一層の歳出削減を図るべく、従来の経費削減手法だけではなく、『選択と集中』、『スクラップ・アンド・ビルド』等の考え方を反映し、効果的かつ計画的に取り組むことが必要であると考えられる。

資料9 財政シミュレーション(経常一般財源ベース)


5. おわりに

 今後も厳しい財政状況が予測されるため、行政改革を完全に実行するとともに、限られた財源の効率的な配分を念頭に置き、従来にも増して歳出削減や事務・事業の効率化に向けた取り組みを行っていかなければならない。また、行革を成し遂げ、行財政基盤を確立するためには、何よりも、職員間の理念の共有と、職員一人ひとりの意識改革をすることが必要である。