【論文】

第33回愛知自治研集会
第4分科会 「官製ワーキングプア」をつくらないために

 非正規職員として、雇用止めや条件改善、組織化に取り組んできた自身の経験を下に、非正規組合でもたたかえば権利が取れること。それには正規組合の理解が必要なこと。ワーキングプアが存在する背景に、有期雇用と劣悪な労働条件の問題のほかにも、使用者の差別雇用が労働者たちに差別意識をもたらし労働者を二分にすることに触れ、労働者の意識改革と結束を願って執筆しました。



有期雇用と差別が産み出す“ワーキングプア”
非正規労働者のたたかいと組織化

兵庫県本部/産別建設センター・臨職担当オルグ 金森 多恵

1. 非正規職員の現状

 今、自治体職場に約60万人 (2008年自治労調査)の非正規職員が、正規職員とともに働いていますが、その働き方は劣悪な労働環境の下にあり、特に非正規労働者の労働組合がない自治体は、さらに厳しい実態となっています。この厳しい労働条件を作り出している原因の一つに、半年や1年という任期、有期雇用があります。経験を加味しない労働者として採用されるわけですから、何年働いても賃金に反映するものではありません。そして、使用者側はいつでも雇用打ち切りにできるため、労働者たちは団結することすらできないでいます。先進国家に働いても食べていけない、結婚ができない、子どもが産めない、子どもの就学もままならない、ローンが組めないなど、人としての尊厳が奪われた労働者が存在するのです。法律にも守られること無く何十年もきたわけですから、官製ワーキングプア現象は起こるべきして起こったと言えるでしょう。

2. 使い捨てを許さない非正規労働者のたたかい

 少し古いですが、非正規労働者をめぐる労働環境は、現在とさほど変わっていないので記載したいと思います。 
 私は兵庫県尼崎市の嘱託保育士として1981年4月から働き始めました。社会情勢として多くの女性がパート職を希望し社会に進出しはじめたころでもありました。当時、市には正規職員の長期休業の代替として臨時職員はいましたが、主流は350人ほどの週30時間勤務の嘱託職員が多種多様な職種、職場で反復更新を繰返して働いていました。低賃金ではありましたが継続的に雇用があることで、安定して働けられる職場がそこにはあったのです。
 当時、国は「財政非常事態宣言」を掲げ、地方自治体に行政改革の着手を推奨していました。尼崎市はいち早く福祉や教育、医療職場の人件費を含む経費削減に乗り出し、その中の一つに「嘱託職員の2年雇用止め」があったのです。働き手はいくらでもいると市は強気な姿勢でいました。
 市職労の指導、協力の下で嘱託保育士たちが尼崎市嘱託保母労組を結成し、市民や民間労働組合等の支援を背景に、自治労兵庫県本部現地闘争本部を設置し大々的なたたかいを繰り広げ、最終局面でストライキを決行。県下から多くの仲間が駆けつけてくれました。市は労働者の予想以上の抵抗に撤回をせざるを得ませんでした。2年間のたたかいの末の勝利でした。
 その後、全嘱託職員対象の尼崎市嘱託職員労組に改組して2年が過ぎた85年、市は嘱託保母制度の廃止を打ち出し、「5年の猶予を与えるので、自分たちで身の振り方を考えろ」と再び攻撃をかけてきたのです。何でまた私たち?嘱託保育士の組合員たちは市に対し大きな失望を抱き、今度こそクビになると諦めムードもありましたが、我が労組の執行部の間では前回と同じたたかいをすれば勝てるとの自信もどこかに持っていました。
 しかし、5年という歳月は私たちに試練を与えました。展望が見えずに辞めていった組合員も少なくはありませんでした。正規組合員も含め「また、たたかうのか」と、さめたムードも漂っていました。たたかいの士気を持続させることの難しさを痛感させられました。
 私達は団結を維持するためにも労働条件の改善にむけ、労働基準法は最低守らせるたたかいにも力を入れて交渉を続けました。そして前進回答を勝ち取る事で、労働組合の存在を市当局にも組合員にもアピールすることができたのです。そんな中で、ようやく市当局から“一代限りの雇用”を勝ち取ることができました。

3. 差別構造で労働者を分断する自治体

 市はこの間、合理化による業務見直しが部署ごとにも検討され、その矛先は職場に入る1人や2人という嘱託職員に向け、職場の上司たちによるパワハラやセクハラに形を変えた雇用止めがあちらこちらで起こりはじめたのです。当事者たちは、雇用形態は違っても職場では自分も同じ働く仲間であると思っていました。仕事に責任を持ち貢献してきたつもりだったのに、誰も助けてくれない、孤立のなかで退職に追いやられる……当事者たちのやるせない気持ちが、嘱託労組に寄せられたのです。
 問題が起きた職場の正規職員に対し、私たちは非正規職員の労働条件の実態や、生活の糧となっている仕事を奪われることの非常さを粘り強く訴えて、少しずつ理解を広げていきました。 
 差別構造を市当局が意図的につくり出している。市がこの間、進めてきた合理化は、非正規労働者の排除で成し遂げようとするもので、結果、職員間の信頼関係を崩し、差別構造をつくりだしました。「差別をなくそう」と言いながら、市自ら職員間に差別意識を植え付け助長させる。失業対策事業をしながら一方で失業者を産み出す。そんな罪深く矛盾だらけの市を許すわけにはいきません。我が労組は市当局に対し悔しさと怒りを抗議や交渉の場でぶつけて解決を求めていきました。
 そんな中、市は次に控える合理化をスムーズに進めたいとの考えからでしょうか、全嘱託職員の60歳(現在は65歳)までの雇用保障を我が労組に提案してきたのです。また、交渉を続ける中で労働基準法など最低の条件は認めるという当局側の姿勢も変わっていきました。組合結成から15年目にしての成果であり、ようやく市当局が労働組合として尼崎嘱託職員労働組合を認めたという実感を持てたのです。

4. 有期雇用に進む社会

 前段に書きましたが、低賃金であっても継続した雇用があることで安定して働きたいと私たちは願っています。賃金や労働条件の改善は首さえ繋がっていれば労使交渉で可能にすれば良いのです。もちろん交渉力のある労働組合が条件ですが。
 しかし、私達の思いとは裏腹に、有期雇用を認める方法に情勢は動いています。任期付短時間勤務職員制度の導入や、今年の人事院規則は「3年の上限」もそうです。60万人の非正規労働者の継続雇用と均等待遇を方針に掲げながら阻止できないという現実に私達はもどかしさを隠しきれません。
 今年9月10日に出された厚生労働省の「有期労働契約研究会」報告書は、企業が有期契約労働者を活用する理由に、需給の変動等の中で雇用調整や人権費の削減を挙げています。労働者にとっては、勤務地や責任の度合い等の点で家庭的責任状況による自らの都合にあった働き方が選べるとしています。また、有期雇用労働者の公正な処遇と職場定着をはかることで、労働者が生きがいや働きがいのある充実した職業生活を送れる。そうなれば生産性も向上するなど労使相乗り効果があるとしています。そして、採用に際して有期雇用の明示など更新をめぐるトラブル回避も含めたルール化が強調されており、結論は有期雇用の禁止ではなく、有期雇用を肯定した内容となっています。 
 パート労働法の改正から2年が過ぎました。世のパート労働者は快適な職場生活を送っているのでしょうか。法律を守って雇っている使用者はどれほどいるのでしょうか。現実はサービス残業や現実には休暇が取れない人員配置。時給や日給のため休めば賃金減額で生活できない実態です。名ばかりの臨時的労働者、名ばかりの正規労働者、そして首切りのためのパワハラやセクハラ行為が横行しているのです。
 大手企業は法律の網の目をくぐって不安定労働者を活用し使い捨てる。権力に任せて下請け業者への締め付けなど、多くの犠牲の下になりあがっています。一方、中小企業や零細企業は冷遇な労働者を使うことでどうにか経営しているという状況ではないでしょうか。3人に1人が非正規労働者で、その多くが劣悪な条件の下で働いている。本当にこのままでよいのでしょうか。
 同研究会はもっと核心に迫った論議がされるべきではなかったのでしょうか。労働者が働き方を選択できる、労働者の生活を守ることが優先される法律でなければなりません。失業者を作り出す企業にはペナルティを与えるといった思い切った政策を政府には打ち出すべきではなかったかと思います。

5. 労働者意識の改革と組織化の必要性

 私は尼崎市を退職し2004年4月から自治労兵庫県本部で臨職担当オルグとして働いています。“平成の大合併”を控えた兵庫県本部は産別建設センターを設置し、非正規職員の組織化と継続雇用の実現を方針に掲げ、すべての単組に働きかけました。私は尼崎市での経験を基に、「声を上げよう」「泣き寝入りはやめよう」、「非正規職員でも労働組合は作れる」、「労働者の権利がある」と訴え組合作りの手伝いをしてきました。兵庫ではセンター設置前から非正規職員の組織化に取り組んでおり、今では50単組、およそ2,300人が臨職評議会に結集しています。
 各地でオルグを進める中で、非正規労働者の置かれている現状、当事者の考え方は30年ほど前の尼崎市の状況となんら変わっていませんでした。変わったのは嘱託職員よりもっと劣悪処遇の臨時職員が主流となっている、男性の割合もおおくなっていることでしょうか。
 自治体は合併協議会を設置し、一番に臨時や非常勤職員の雇用止めを打ち出し、当事者には何の情報も発信せずに進められていました。そして非正規職員の労働条件は時間給と年次有給休暇以外は何もない。交通費もない、健康診断もない、年収120万、130万程度で凌いでいる。当然産休もなく妊娠したらやめていくのは当たり前という無権利状態のケースも少なくはありませんでした。
 一方で、非正規職員達の夫の働き方はこれまで以上に厳しく、生活費の足しとしてきた働き方ではやっていけない状態があったり、自身が所帯主であるなど働き続けたい、働き続けなければという状況がそこにはありました。
 そんな状況下であっても当事者たちは、労働基準法や労働組合はなんとなく知っているが自分たちとはかけ離れたものでしかないという認識でした。
 働き続けたいけれど労働運動はできない。誰かやってくれるならと他人事のように話す人。少ない賃金から組合費は払えないと集会途中で退席する人。正規組合を見ていて、組合のメリットを感じないと冷ややかに話す人たち。落胆することもシバシバですが、そこには労働者の弱い面と身勝手な生き方を選ばなければやっていけない現状があったのです。
 正規組合の中には非正規職員が可愛そうだから手を差し伸べる、助けてあげるという発想の活動が進められることもあります。しかし、その運動は正規職員組合の重荷となり、一般組合員からは高い組合費を払っているのに、少ない組合費の非正規職員に肩入れすることに不満の声がでてきます。また、非正規職員たちも組合員という自覚が育ちません。
 私は組織化を進めていく中で、非正規労働者自身にもっと強くなってもらいたい。強くならなくてはいけない。労働者や労働組合の権利を知り、権利を取り返す力をつけなければいけないと強く思います。
 正規・非正規労働者が対等の立場で労働運動に取り組み、全ての労働者が団結できる組織になってほしいと思います。

6. 最後に

 今、自治労は臨時・非常勤等職員の法整備に向けた取り組みを始めました。①非常勤職員の諸手当支給制限に関する制度改正、②パート労働法の趣旨の地方公務員への適用、③地方自治体における任期の定めのない短時間勤務職員制度―の実現です。ぜひこの取り組みにみなさまのご理解とご協力をいただきたいと思います。そして自治体に、社会に差別構造をつくらせないためにも、正規、非正規労働者が団結する。そうなることを強く願っています。