【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 近年話題となっている「モンスターペーシェント」。私たちは無茶な要求や一方的なクレームの原因の一つには病院や病院職員と患者さんとの距離が遠くなり、お互いの意思の疎通がしにくくなってきたのが原因ではないかと考えました。地域の方々と交流をもち時間を共有し、意見交換をすることによって病院職場や職員のことを知っていただき、私たちも患者さんの気持ちや要望を知ることが必要と思い、ボランティア集団「健康見守り隊」を結成しました。その活動を紹介します。



「健康見守り隊」誕生ものがたり
~「健康教室」で地域とつながろう プロジェクト~

石川県本部/公立松任石川中央病院労働組合 山下 千恵

1. はじめに

 当院は1948年に石川郡中央病院として開院しました。その後1968年に経営主体を松任市、美川町、野々市町の3自治体による一部事務組合へと移行し1969年に公立石川中央病院となりました。1989年に組合名を松任石川中央医療施設組合に改名するとともに、病院名を公立松任石川中央病院と改名し、現在地に新築移転されました。2008年には地方公営企業法全部適用となり経営主体が白山石川医療企業団に移行され、現在に至ります。その際、当組合も職員組合から労働組合へと移行しました。その間、病院の規模もどんどん拡張され、開院当初は一般病床20床だったものが、新築移転時には一般病床255床、精神30床、計285床となり、現在は一般病床275床、精神30床、計305床となっています。
 以前は地域に密着し、住民の方とも身近なこぢんまりとした病院でしたが、規模が大きくなるにつれ少しずつ地域や住民の方々との距離が開いてきたように感じられます。職員も近年大幅に増員され、委託の業者も増えたため、他職種間のつながりも希薄になってきてしまいました。
 また、患者さんからの要望も多岐にわたるようになり、最近、ちまたでは「モンスターペーシェント」いう言葉もできたように無茶なことを要求してくる方まで出てきました。
 私たちはそのような患者さんや家族が増えるのも、病院や病院職員と患者さんとの距離が遠くなり、お互いの意思の疎通がしにくくなってきたのが原因ではないかと考えました。
 地域の方々と交流をもち時間を共有し、意見交換をすることによって病院職場や職員のことを知っていただき、私たちも患者さんの気持ちや要望を知ることでいろいろなトラブルを回避することができ、さらにはそれが地方の公立病院の生き残る道なのではないかと考えました。また、その際には病院職場で働く各職種が参加する必要があるのではないかと考えました。

2. 「健康見守り隊」誕生

 そこで、2008年6月、当時の労働組合執行委員長である西本政之が声をかけ、各職種の有志が集まってボランティア集団「健康見守り隊」が発足しました。
 余談になりますが、当労働組合には執行委員会の下に4つの部会が存在しています。病院の財政について検討し、当局の経営等を監視する「財政分析部会」、新人組合員に組合の歴史や役割について教えたり次の役員候補を育てる「組合員育成部会」、組合の活動の様子などを組合員に発信する「広報部会」、そして「健康見守り隊」が所属する「地域連携部会」です。組合員は最近急増しており、組合離れも進みつつあります。それを阻止し、組合員の団結を強固にするために各部会は活動しています。時には「財政分析部会」が行う勉強会を「組合員育成部会」が主催するなど2つ以上の部会がコラボレーションすることもあります。
 「健康見守り隊」の構成メンバーの職種は様々です。発起人の西本部会長は臨床検査技師、その他看護師、理学療法士、薬剤師、診療放射線技師、調理師、事務など10人の組合員が集まりました。
 意気込んで集まってみたものの、その活動は遅々として進みませんでした。どうやって活動を進めていけばよいのか、わからなかったからです。

3. 結成してはみたものの……

(1) なかなか進まない活動
 まず、活動内容が話し合われました。地域の方々の意見を聞くため、いきなり座談会や交流会を開こうと言っても無理があります。また、最近は「組合」という言葉は地域の方々には敬遠されがちなので、警戒されてしまう可能性もあります。私たちは地域と関わるための手段を考えました。その時に出てきた案の中に「健康教室」を開いてみる。というものがありました。私たちのできることは何か、と考えたときに地域の方々の健康を守るお手伝いをしたいという意見があがり、皆がそれに賛同しました。「健康見守り隊」という名前もその趣旨からきています。
 地域に出向いて「健康教室」を開催し、それを通して地域の意見をうかがい、病院や職員のことを知っていただけるように活動していく。というように活動方針が決定しました。
 次に問題になったのはいかにして「健康教室」を開催するか、でした。
 公立松任石川中央病院として、地域主催の健康教室等に医師が出向いて講演することは今までも行われていましたが、私たちはそれとは別に「健康見守り隊」として、より地域密着型の「健康教室」を行いたいと考えていました。主催者に呼ばれて講演を行い、そのまま帰っていく。というスタイルではなく、地域の方と一緒に「健康教室」を作り上げていき、その過程で交流を図り、意見を聞いていきたいと思っていたからです。
 私たちはどうすれば「健康教室」が開催されるか、悩みました。そこで、私たちは紹介用のチラシを作成し、とりあえず企業団を形成している白山市と野々市町に声をかけることから始めてみることにしました。しかし、白山市は市町村合併の際に松任市と白山5村および鶴来町・美川町と合併したため、市としてもどの部署の担当になるかが決めかねられて話は進みませんでした。
 そんな時、野々市町から「健康づくりさん」を紹介されました。

(2) 初めての「健康教室」
 野々市町には各町会に「健康づくりさん」がいて、町民の健康を守るため集会や「健康教室」を開催しているというのです。その取りまとめを野々市町保健センターが行っており、その担当の方を紹介していただくことができました。その方のはからいにより6人のメンバーが「健康づくりさん」の集会に参加しました。そしてその場で「健康見守り隊」の趣旨を説明させていただき、ぜひ「健康教室」を開催させてほしいとお願いしました。その場での反応は上々で、いくつか具体的な質問も出てこのまま軌道に乗るのでは……と期待されました。実際、そのあとすぐに「健康教室」の依頼がありました。
 チラシには「健康見守り隊」のメンバーそれぞれが自分の専門分野の中からお話できる内容を挙げてあったのですが、その中から「乳がんのお話」を題材に「健康教室」を行いたいと、ある町会の婦人会の方から正式な依頼が来ました。それが「健康見守り隊」の初めての活動となり、2008年2月に開催されました。結成から半年後、試行錯誤したうえでの第1回「健康教室」にはほぼ全メンバーが参加しました。ただ、内容が「乳がん」で対象が女性ばかりなので、参加者が気楽に参加できて意見もたくさん出るように男性メンバーは陰に隠れていることになりましたが……。

4. 「健康見守り隊」の「健康教室」

 「健康見守り隊」の「健康教室」の開催に当たっては、内容は担当の方と相談して決定します。規模は、より身近に話ができるように20人程度にしていきたいと考え、基本的には地域の集会所で行うようにしました。紹介用チラシに書かれている内容はもちろん、希望があれば何でも話します。メンバーが話すことができない内容の場合は、院内の専門の人にお願いして講師をしていただきます。企業長や院長からも活動内容に賛同していただいているため、内容によっては医師にも講師をお願いすることも可能です。もちろんボランティア活動のため、謝礼金は不要です。広報用のチラシや案内も「健康見守り隊」で作成して機材もすべて持ち込みます。設営や撤収も主催する地域の方と一緒に行い、交流の場とすることにしています。「教室」の最後には、意見を聞いたり病院職場の紹介をしたり、ざっくばらんに話ができるような参加者との交流の期間を設けています。また、アンケートを行うことで今後の参考にしたり、その場では出せなかった意見も吸い上げることができるようにしました。

5. それからの「健康見守り隊」

 初年度は第1回「健康教室」の後、かねてから声かけしてあった組合OBの方からの紹介で白山市でも1回「健康教室」を開催することが出来、どちらの会場でも、好評をいただくことができました。特に内容では、普段医師の講演では出てこない、費用の話や病院の選び方など、自分の病院の逆宣伝になりそうな話までありましたし、医師にはなかなか質問することができない人も私たちには気軽に話せるらしく、たあいのない話や要望もたくさん出てきて、有意義な会になりました。
 2年目は白山市で1回、野々市町では保育園から声をかけていただきました。ただ、野々市町の「健康づくりさん」からは声がかからなくなってしまいました。保健センターの担当の方に話をしてもらうほうが手軽だったことや、医師に話をしてもらうのならば医師会に声をかけるのが通例になっていたのが原因に考えられます。
 2年目の後半から依頼がまったく来なくなり、どのように広報したらいいのかが問題となりました。そこで、より多くの人たちに「健康見守り隊」を知っていただくため、「金沢情報」というフリーペーパーのお知らせ欄に掲載してもらえるように依頼したところ、快諾していただくことが出来ました。
 2010年3月に「金沢情報」にお知らせを掲載しましたが2か月ほど何の反応もなかったためこれからの「健康見守り隊」に不安を抱いていたのですが、5月に1件、8月に1件の依頼がありました。どちらもそれまでのルートでは開拓することのできなかった団体からの依頼でした。これは今後の活動方法の参考になりました。

6. 活動の経緯

 これまでの活動内容です。
① 2008.2.27 野々市町押越コミュニティセンター 「乳がんについて」
  乳がんの疫学から、検診、手術、その後の治療までわかりやすく解説しました。早期発見の大切さとがん治療にかかる費用までお話ししたところ、大変好評をいただきました。
② 2008.3.28 白山市茶屋町集会所 「乳がんについて」
  前回と同様の内容で行いました。当時乳がん患者さんをテーマにした映画の公開もあり、このテーマは婦人会の方からの要望で選ばれました。
③ 2009.10.9 野々市町つばき保育園 「ノロウイルスについて」「新型インフルエンザについて」
  冬になる前に、秋冬に幼児に流行するノロ、ロタウイルスを中心に流行しつつあった新型インフルエンザの予防についても交えてお話ししました。すべての予防は手洗いから始まるということで、手洗いの歌を歌いながらの手洗い法を紹介し、おう吐物の処置法は実際に実演をして説明しました。これも大変好評をいただきました。
④ 2009.10.17 白山市末広集会所 「乳がんについて」「PET検診について」「新型インフルエンザについて」
  前半は婦人会の方々に前回までの話を少し短縮してお話しし、後半は男性の方も合流して当院で行っているPET検診の紹介とその他検診の受け方のお話、最後に当時流行していた新型インフルエンザの予防についてお話ししました。
⑤ 2010.5.23 ホテル日航金沢 「日常生活における泌尿器科領域のQ&A」
  某社のOB会の定期総会特別講演の依頼でした。参加者はすべて男性で年齢も60歳以上ということを考慮して内容を決定しました。講師は当医療企業団の企業長で泌尿器科の医師でもある長野賢一先生にお願いしました。ボランティアで無償にもかかわらず、快諾していただきました。内容もとても好評で、またお願いしたいとの声もいただきました。
⑥ 2010.8.7 白山市つながりの家ひびき 「もしもの時の応急処置」
  介護施設の職員の方々からの依頼でした。人形を使用して心肺蘇生やAEDの使用法を実習しました。講師は当院でBLSの資格をもつ看護師にお願いしました。なごやかな雰囲気の中でとても活発な交流をもつことができました。

7. 総括およびこれからの課題

 現在まで6回の「健康教室」を行ってきましたが、どれも好評をいただきメンバー一同喜んでいます。実際に実演や実習を行うことでわかりやすく、また雰囲気もなごむためその後もいろいろな声を聞くことができるようになりました。医師ではなくより身近な職員が担当するため、「お医者さんには、恥ずかしくて聞きにくいことも質問できる」との声もありました。また毎回4人以上の違う職種のメンバーが同行し地域の方々と交流するため、病院職場について少しは知っていただけたのではないかと思います。当院のような規模の病院は、地域に密着して地域に必要とされることで厳しい医療の環境で生き残っていけると考えます。これからも「健康見守り隊」の活動を通して地域の方々と交流をもつことで、地域に必要とされ共に支えあっていく関係を築いていきたいと考えています。またこの活動を通じてメンバー間や院内他職種との交流の場も増えました。もっとたくさんの組合員が「健康見守り隊」の活動にかかわることで交流を持ち、団結に繋げていければいいと考えます。
 これからの課題は、やはりどうやって活動の場を広げていくかいうことです。組合OBへの働き掛けやフリーペーパー、タウン誌でのお知らせの掲載を通して広報活動を行い、地道に活動を続けることで地域に周知してもらえるようになると考えています。


保育園で行われた健康教室のようす

消毒薬の作り方や手洗いの歌、
処置の方法を実演しました。

たくさんの質問や意見も出て、有意義な
時間になりました。

 
介護施設での応急処置の講習
人形を使って心肺蘇生やAEDの実習をしました。
活発な交流の時間を持つことができました。

メンバーはおそろいの「健康見守り隊」のTシャツを
着ています。

 
健康教室ご案内のお知らせ
タウン誌に載せた内容