【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 現業職場に対する合理化の圧力は引き続き強力であり、また公立病院改革は公立病院改革ガイドラインや自治体財政健全化法などの施行をうけ、病院給食の「直営堅持」はたいへん困難な状況にあります。広島県内においても自治体立病院直営の病院給食は、公立世羅中央病院の一施設のみとなりました。常に合理化の矢面に立たされながらも、患者さまに喜ばれ直営堅持してきた病院給食を検証し、これからの病院給食のあり方を考えます。



病院給食の直営堅持


広島県本部/世羅中央病院職員労働組合 土居美保子

1. はじめに

 病院給食は現業職場の合理化と、自治体立病院の経営健全化・効率化というながれのなかで、多くの自治体立病院で委託化が行われてきました。広島県内の自治体立病院においても、2004年4月福山市民病院の病院給食が委託された以降、自治体立病院直営の病院給食は公立世羅中央病院一施設のみとなりました。
 病院給食は患者さまに必要な治療食であることや、入院生活の中で食事は患者さまにとって大きな楽しみであることなどから、病院給食の意義はたいへん大きく安易な委託化は不適切と考えます。公立世羅中央病院は医師不足・看護師不足など病院経営が厳しいなか、これまで病院給食を直営堅持してきたことは、給食現場(栄養管理課)組合員や労働組合にとって喜びであり誇りです。これは入院患者さまから「おいしい」と好評を得てきた成果であり、給食現場(栄養管理課)組合員の働きがいにつながっています。
 公立病院改革のあらしの中、常に合理化の矢面に立たされながらも、患者さまに喜ばれ直営堅持してきた病院給食を検証し、これからも直営堅持できる病院給食のあり方を考えます。

2. 公立世羅中央病院給食の概要

 公立世羅中央病院は尾三2次医療圏の中山間地に位置する、一般病床110床の小規模病院です。現在三原市と世羅町の一部事務組合立であり、2007年地方公営企業全部適用となり世羅中央病院企業団と組織変更しました。2010年4月、三原市くい市民病院と組織統合され、2011年10月には155床に増床予定です。
 病院給食部門(栄養管理科)は管理栄養士(室長・非組)1人、栄養士(技師長・組合員)1人、調理員(組合員)7人、嘱託調理員2人、パート調理員2人の計13人で構成されています。
 勤務時間は

早 出(5:30~14:15)    1人 
中 勤(6:30~15:15)    1人 
日 勤(8:30~17:15)     
遅 出(10:45~19:30)    1人 
パート(8:30~17:15)  交代制  
   (8:00~16:45) 

 上記の変則勤務形態で毎日の勤務が組まれています。1日当たり2人が休日(振替休日)です。土曜・日曜・盆・正月も考慮されません。勤務表は1年間の予定で組まれ、夏季休暇や年次休暇も組み込まれていますが、年次休暇取得は年間2~5日と少ない現状にあります。急な休暇に対応できる要員を確保していないため、急遽休日を必要とする場合、振替休日の人と交代して休む状態です。(交代して勤務する人の割増賃金はありません)
 診療報酬改定には即座に対応しており、適時適温給食も診療報酬改定後即導入されました。1日の食数は約320食(朝・昼・夕の3食)で、2010年4月の1カ月の延べ患者数は3,159人でした。
 食種は一般食11食種、特別職(治療食)19食種あり、また個人対応として「アレルギー食」「副食を粗く刻む」「副食を細かく刻む」「魚の骨を取る」など患者さまの要望に対応するほか、嗜好に合わせメニューを変えることも行っています。このほか、患者に付き添う方の食事(付添食)、人間ドック受診者の昼食「松花堂弁当」、病院職員の昼食(1日12~13食)、はたまた病院議会の議員の昼食も提供しています。
 食材のほとんどを町内の業者や営農組合から仕入れており、新鮮そのものです。ちなみにお米は世羅産の中生新千本を使っています。地元業者を利用することで、急な変更やわずかな仕入れも可能です。加工食品はほとんど使っていないため、食材の仕分け作業はたいへん手間を取り、栄養士の業務を圧迫しています。
 病院給食のメニューには季節感あふれる食材と献立が並びます。今年4月14日は花見を題材に、もち米でさくらご飯を作り、副食には桜色に仕上げた鯛の桜焼きが添えられた「花見御膳」を提供しました。3月のひなまつりには押しずしとひなあられなど、患者さまにも季節や行事を感じていただける食事を提供しています。あわせて、手作りのメッセージカードをつけるほか、お誕生日には手作りのお祝いカードを食事が出ない絶食の患者さまにも届けています。給食調理員が直接患者さまに接する機会として、週1回昼食時に調理員が病棟で配膳を行っています。患者さまに献立の説明や、調理の工夫などを話す機会にしています。
 年3~4回嗜好調査を行い、患者さまからの意見・要望をメニューに反映しています。この嗜好調査では患者さまからの感謝の言葉が多く寄せられ、職員の励みにもなっています。また、月1回発行の「たけのこ新聞」は、四季折々のメニュー紹介や健康に関する情報を載せており、患者家族の方から「楽しみにしています」と声をいただいています。

3. 現場の意見・思い

(1) 直営のメリット・正の意見
① 細かい個人対応ができる
② 食材料の質が良い
③ 調理の工程内容が緻密、丁寧であり、心のこもった料理ができる
④ 急なオーダーやオーダーの変更にも対応できる
⑤ たけのこ新聞や手作りメッセージカード等、患者さまによろこんでいただけるサービスができる
⑥ 病棟訪問の時や、感謝の手紙を頂いたりすると、またがんばろうと励みになる

(2) 負の意見
① 勤務時間の延長、超過勤務が多い
② 時間外勤務の請求をしていない・できない
③ 年次休暇が思うように取れない
④ メニューによっては時間内に仕上げられず、精神的にイライラすることが多い
⑤ メッセージカード等負担に感じる時もある

4. 直営堅持の経過

 広島県内の自治体立病院では病院給食を直営しているのは当病院1か所になりました。
 1980年代の「医療費亡国論」を端に社会保障費の削減、診療報酬のマイナス改定、薬価差益の減少等、病院経営はたいへん厳しい状況におかれました。病院給食に係る経費削減と民間活力の活用を目的に、病院給食はどんどん委託化されました。公立世羅中央病院においても1990年代後半、近隣の自治体立病院が病院給食を委託するなか、病院当局は何度となく委託化をちらつかせ、賃金改善や人員増員の要求を抑えてきました。2000年確定期闘争において病院当局は、給食調理員の増員を要求した組合に対し、「2002年度の病院経営収支が赤字になるようなら病院給食の外部委託をする」と回答してきました。結果、赤字にならなったため外部委託されませんでしたが、病院当局が本気で委託を考えていたかは不明です。これ以降、栄養管理課部門は要求して委託されるくらいなら、要求はしないと要求書を一切出していません。人員不足による慢性的なサービス残業と賃金改善もままならない中、栄養士・給食調理員はさまざまな取り組みと真摯な仕事により、病院給食は患者、家族から好評を得ました。そして当局も病院議会の圧力に屈することなく、病院給食の直営を維持してきました。しかし、2009年3月の病院経営改革プラン(中期経営計画)において、今後は調理員の嘱託化・パート化をすすめるとしており、「いつまでも直営の堅持は難しい」と発言しています。

5. 今後の病院給食のあり方

 病院経営効率化が最優先されるなか、また2011年の病院経営改革プラン見直しと合わせ、今後の病院給食のあり方を再検討しなければなりません。公立病院として地域の医療サービスを守ると同様、病院給食は患者の治療効果を上げる医療サービスの一部であり、営利優先・効率化を求めては患者の命やQOLにかかわります。公立病院として、安全で安心しておいしく食べれる病院給食を提供する責任があります。また、地元世羅の地域で生産される新鮮・安心・安全・季節感あふれる食材を使うことで、地場産業にも大きく貢献します。なにより外部委託ではなく、直営という職場の確保は地域の雇用につながり、やりがいのある仕事は個人の生きがいにもなります。また、世羅地域は高血圧症患者・糖尿病患者が多いといわれ、地域全体での健康増進や疾病の悪化防止、予防のための情報発信を行う必要があると考えています。
 これらのことから労働組合は、今後も病院給食を直営堅持する必要があると考え、次のように提案します。
① 安全でおいしい食事が、病院の魅力になることで経営改善につながる
② 病院給食が患者、家族、地域住民に信頼されることで直営堅持の手段になる
③ 地域住民・地域医療機関に対し情報発信し、病院・施設給食のリーダーシップをとる
④ 地産地消することで地場産業に貢献し、地域の活性に寄与する
⑤ 病院給食を提供する職場は地域の雇用確保の場になる
⑥ やりがいのある職場づくりはやりがいなど個人の活力になる
 直営堅持は個人の身分の問題ではありません。直営堅持がもたらす病院経営改善、地域活性は世羅地域の繁栄につながります。栄養管理課、労働組合、世羅中央病院企業団、そして自治体が一緒に病院給食の直営を考えるときです。安易に経営効率化に走ることなく、直営の病院給食がもつ活力や可能性を地域に広げましょう。
 労働組合は、現在も人員不足による多くのサービス残業と低賃金の実態を改善し、健康で定年まで働き続けられる職場づくりに取り組むとともに、公立病院として地域に必要とされる病院給食であることをアピールします。

<週間献立表>