【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 2006年4月、隠岐島内で産婦人科医師が不在となり出産が出来ない状況となったことが、全国的にクローズアップされました。このことを発端として離島医療を守る取り組みをすすめようと、隠岐ブロック及び連合組織を中心に「離島・隠岐の医療を考える会」を発足しました。これまでの主な活動を報告し、特に2012年開院する(新)隠岐病院建設について、安心して島で暮らせるような整備となるよう課題提起します。



離島医療を考える取り組みについて
「新隠岐病院建設に向けて」

島根県本部/隠岐ブロック 原  秀人

1. はじめに……

 地域医療を取り巻く情勢は大変厳しいものとなっています。
 私たちは、隠岐ブロックとして『離島・隠岐の医療を考える会』に参画し、深刻化した隠岐の医療の諸課題について、地域住民との関わりを深めながら問題提起し、解決に向けて取り組むことが求められています。

2. 活動報告

(1) 島前地区講演会の開催
 島前地区における医療の現状と課題について、医療の現場から実情を紹介し、離島に住む私たち自身が何をすべきか、それぞれの問題点や課題を共通認識としてとらえ隠岐医療圏全体の充実に向けた取り組みにすることを目的とし「離島・隠岐の医療を考えるシンポジウムin島前」を開催し、その中で講演会を行いました。
 ◎講演会
 1. 日 時 2007年12月2日(日) 13:30~16:00
 2. 講 師 隠岐広域連合立 隠岐島前病院 白石 吉彦氏
 3. 演 題 隠岐島前病院の取り組み

 西ノ島町の至誠館において隠岐島前病院の白石吉彦院長を講師に講演会を行いました。白石先生は10年前に当時の島前診療所に着任し、2001年から病床数を変更し体制を整備し、隠岐島前病院の院長へ就任されました。就任当時から少ない医師でも何でも診る、島内のブロック制の中で各診療所の医師を有効利用することや、保健医療福祉の連携によって行政や施設との情報を共有(月2回の会議)する中で、CT機器・レントゲン撮影機器や最先端の胃カメラの導入や、エレベータの設置などを行い、島民の身近な病院として機能の充実を図っていることの紹介がありました。
 また、島に来た医師を病院も住民も一緒になって大切にし、医師にしっかり成長してもらうための取り組みの中で島内のブロック制を紹介されました。隠岐島前病院も不採算の部分もあり経営的には苦しんでいるが、全職員で作った経営改革計画を推進しながら、お金がかかってでも住民が必要とする医療を提供し、その地域で必要な医療ニーズに応えるという考え方も示しました。
 最後に地域医療のABC(Aアンテナ Bバランス Cコミュニケーション)について、院長自身が地域医療・へき地医療をやろうと思った中で考えた、地域の医療に対するニーズに応え、バランス感覚を持ちながらそれを病院スタッフ、或いはその患者さんとのコミュニケーションの中で反映させて行くという様な事が大事。ということを紹介し締めくくりました。

(2) 精神科医師常勤と精神科病棟継続を求める知事への要望書提出について
 2008年3月頃より、隠岐病院の精神科医師派遣の継続が難しくなり、7月以降県からの精神科医師派遣継続が困難な状況であるとの報道がされました。この背景には、県立病院、大学病院等の常勤医師が不足したことが原因となっていますが、現在通院および、入院中の患者をはじめ、地域住民から精神障害者も安心して住める隠岐島であるよう、隠岐病院の精神科の外来診療はもとより、地元で入院できる精神科病棟の存続を願って、溝口知事へ要望書を提出しました。
 当日は、医療を考える会から木瀬会長、隠岐島全域の家族会の代表者など多数の参加のもと、各代表者から現場、地域の実情を切実に訴え、知事からもどうにかしなければならない、現場や地域の声はとても大切であるという回答などもあり、県当局のご尽力により県内の精神科医で構成される島根県精神科医懇話会などのご協力の下、常勤医の継続と、病棟継続が決定しました。今後、精神障害者も安心して住める島であるよう住民一体となって医療問題を考えなければなりません。

(3) 医師確保・医療従事者の確保を求める署名・カンパ活動について
 地域医療を取り巻く情勢は全国的に見ても大変厳しい状況にあり、私たちの住む離島については医師不足・医療従事者不足は深刻な状況となっており、その事が病院や診療所の経営にも大きな影響を与えています。私たちは、「いつでも、どこでも、だれもが」安心して医療を受けるために医師・看護師等の医療従事者の確保を求めることを県議会、県知事宛に請願するため、全島において署名活動とカンパ活動をしました。この活動は、医療を考える会の会員(自治労組合員が中心)が島内の全戸を訪問し、それぞれの趣旨説明を行い、賛同していただける皆さんに署名およびカンパをいただきました。最近の医療を取り巻く状況について島民全体が大きな関心を持っている中、非常に多くの署名が集まり、7月1日に署名を持って島根県知事・県議会へそれぞれ要望を行いました。貴重な署名人員については、隠岐の島町10,900人、西ノ島町1,430人、海士町1,185人、知夫村497人 合計で14,012人となりました。
 また、併せて島後地区においては『隠岐病院の新築促進および医療体制の充実・強化』が差し迫った案件となる中、「草の根運動」の一環として資金カンパ活動を実施しました。隠岐病院新築はもとより、隠岐の医療充実のためということで活動しましたが、住民への周知不足、また、カンパ金の使用目的等について充分なご理解がいただけない中ではありましたが、総額1,920,124円のカンパ金が集まり、2008年2月の隠岐広域連合議会で医療充実のための基金として予算計上されました。今後は隠岐広域連合において、目的に沿った使い道が決定され、医療を考える会としてもわかり次第、島民へ周知する考えです。

(4) 県議会への請願書、県知事への要望書提出について
 続いて、7月1日、木瀬会長他6人によって、島根県議会の森山議長へ署名を持参し請願書を提出しました。木瀬会長より隠岐の医療を取り巻く厳しい状況を訴え、島民の声として署名を提出しました。森山議長は、「署名の数は重く受けとめる。議会の中でも議論していく。」という見解を述べました。
 また、商工会、婦人会からも隠岐の医療の現状を訴え、島民として隠岐で安心して暮らしていくために切実に訴え、森山議長も真剣に耳を傾けていました。
 請願内容は以下のとおりです。
① 医師不足解消に向け、医師派遣体制の構築を図ること。また、その他医療従事者についても安定的な確保が出来るよう具体的な対応を講ずること。
② 隠岐病院・隠岐島前病院の充実や医療提供体制の確立に向けた財政支援等の積極的な支援策を講ずること。
  引き続き溝口知事、松尾副知事、山根健康福祉部長それぞれに県議会の請願と同じ内容を要望書として提出しました。溝口知事は、「行政、医療機関のみでなく、島民による住民組織が医療問題について取り組んでいることに心強く思う。また、医師が隠岐で従事したいという思いをもてるためには、島民の力が必要であり、そのためにも頑張って欲しい。」との回答がありました。木瀬会長からも医療従事者、特に医師について隠岐に来てもらう、残ってもらうためには、隠岐に住む私達の意識が大切であり、行動することが必要と知事に力強く訴えました。

3. 新隠岐病院建設に向けて

(1) 隠岐病院整備基本計画の概要
 医療を取り巻く環境は著しく変化しており、隠岐地域においても近年、産科・精神科・診療所の医師の不足が深刻な問題となっています。隠岐地域において提供すべき医療を見極め、本土医療機関との適切な機能連携・分担を行い、効率的に医療提供を行うとともに経営的にも自立し安定的な病院運営が可能となる整備をめざします。
 また、保健・医療・福祉の一層の連携体制の強化を進めるなど住民サービスの向上を図ります。この連携体制の構築により地域医療提供の環境を整備し、特に、最近注目されつつある総合医の地域医療実践の場として機能させ、医師の定着化を図り、将来的な医師の安定的な確保を目めざします。
 医療機器の更新・整備により診断機能を充実させ、提供できる医療の範囲を拡大し、隠岐での完結率を高めるとともに隠岐で対応できない医療については本土医療機関と適切に連携を図ります。また、ヘリ搬送を含めた救急医療体制の充実や災害拠点病院として機能する病院をめざし、さらに圏域の中核病院として島前病院への支援や連携を図ります。

[基本理念]
  ~ 人々から信頼され愛される病院 ~
  人々が心に癒しや安らぎを感じ、安心して医療を受けられる病院
[基本方針]
  1. 隠岐医療圏域の中核医療機関として機能し役割を果たす病院
  2. 地域の医療機関や保健・福祉・介護施設の連携を推進し、ヒューマンネットワーク構築による一貫した医療を提供する病院
  3. 説明と同意に基づく、良質で患者中心の医療を提供する病院
  4. 継続的に良質な医療を提供するため経営健全に努める病院

新病院整備の概要
 病床数  一般病床:91床   精神病床:22床   感染症病床: 2床
      合計:115床
 診療科目(14科)
      内科 神経内科 小児科 腎臓内科 外科 泌尿器科 耳鼻咽喉科 皮膚科 
      整形外科 眼科 産婦人科 精神科 救急科 歯科口腔外科
 施設規模
      新病院の規模は、1床当たり75㎡とし、延べ床面積 約9,500㎡とする。
      敷地面積は、現有の13,200㎡に隣接する公有地を取り込み18,200㎡とする。 

スケジュール

年 度
内    容
20
基本計画策定  基本設計公募
21
基本設計・実施設計 旧杉の子学園解体工事 電子カルテ整備(H21~23)
22
実施設計 建設工事 
23
建設工事 医療機器整備 開院のための訓練等
24
新病院開院(H24春) 現病院解体工事 外構工事 医師住宅建設工事


 

整備費用の概算

■「公立病院改革ガイドライン」で民間病院並みの建設単価の採用を示しており、近年の自治体病院の整備事例を参考とし、離島割増を加味して345千円/㎡以内とする。
■上記建設費の他、医療機器整備、電子カルテシステム整備及び既存棟の撤去・外構工事等の費用を見込む。
  ●整備面積 : 約9,500㎡
  ●整備単価 : 34.5万円/㎡以内
  ●全体事業費用 : 約 56.1億円
  ・建築事業費(設備・外構・ヘリポート・解体費含む)
・医療器械費(医療機器・電子カルテ・その他備品等)
・設計・監理費
・医師住宅整備費
・用地補償費・事務費等
      合    計 
38.5億円
10.9億円
1.6億円
1.5億円
3.6億円
56.1億円

(2) 新隠岐病院建設に向けての課題
① 愛される隠岐病院づくり
  隠岐病院や隠岐島前病院が離島医療の中核であることをしっかりと認識し、隠岐島民に愛されるため、更なる意識の高揚を図り信頼されることが必要です。
② 医療スタッフの確保
  よりよい医療を供給するためには医師を中心に看護師、薬剤師をはじめスタッフによるチーム医療の充実が不可欠です。そのための医療スタッフの確保が、緊急且つ大きな課題です。

4. 今後の課題

 今後も隠岐ブロックは「離島・隠岐の医療を考える会」の中心的な役割を担い、5つの活動を医療機関、行政、住民が一体となった下記の活動を進めていくことが必要と考えます。
① 県保健医療計画の見直し、第二次医療圏変更に関する問題について
② 慢性的な医師不足の解消について
③ 医師以外の医療従事者不足の解消について
④ 医療機関と私たち住民との信頼関係の確立について
⑤ 居住地域を越えた共通認識の醸成について

 隠岐は、中核となる隠岐病院、隠岐島前病院を中心とした医療体制を提供していますが、離島隠岐は4つの島に分かれていることから、地域ごとの医療体制が確立されています。しかしながら、それぞれの連携も重要なことから、現状の取り組みを共有していく中で、住民と行政、医療機関ともにそれぞれの問題や課題を再確認することを目的とし、隠岐医療圏域全体での今後に向けた取り組みとなるようなシンポジウムを計画します。
 また、医師及び医療従事者の不足等が全国的に大きな課題となっており、離島の隠岐においても安心できる医療の確保が極めて厳しい現状を再認識し地域住民を巻き込んで議論する必要があります。このような状況の中、2012年春開設に向けた新病院建設が昨春から本格的に始動しました。これらの諸課題について、学習会や研修会を開催し隠岐島全体で認識を深めます。
 特に病院建設に当たっては、離島に住む私たちが今後安心してこの島で暮らせるような整備となるよう積極的な要望を行う必要があります。私たち住民と医療機関・行政などがどのように信頼関係を築いていくべきなのか講演会等を通じて学習する場を設けます。
 全国的に地域偏在などにより、離島、中山間地に顕著な医師及び医療従事者不足が深刻な問題となっている中、住民組織による取り組みが増えてきています。県内はもとより他の地域で活動している住民組織の学習会等に参画し、課題の共有化、連携を強化し、隠岐島内はもとより同様の問題を抱える地域へ情報発信をしていくことが必要です。
 隠岐島は島前・島後は、海によって島ごとに分かれて生活が営まれてきました。こうした地理的条件の違いによって私達が生活していく上で少なからず温度差が生じてきたのだと思います。まさに医療に対する考え方の違いもこうした背景からだと考えられます。離島医療の活動を継続的に進めていくためには、私たち住民が医療を守っていくという意識のもと、「いつでも、どこでも、だれもが」安心して医療を受けるために、それぞれの地理的条件を越えて、全島一丸となって更なる取り組みを広める活動と、ひとづくりを進めていかなければならないと考えています。