【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

仙台市の児童館は全児童対策として0~18歳の児童へ健全な遊びを提供することと、放課後児童クラブ(学童保育)を一体的に行っている全国でもあまり例のない事業展開をしています。児童クラブの大規模化が進み、忙しくて子どもに向き合う時間がないなど、本来の子育ち支援のあり方も大きく問われています。日々の子育ち支援の取り組みや問題点を報告出来ればと思います。



仙台市の子育ち支援現場の現状と課題


宮城県本部/仙台市職員労働組合・児童館支部 佐藤 貴子

1. はじめに

 仙台市の児童館は全児童対策として0~18歳の児童へ健全な遊びを提供することと、放課後児童クラブ(学童保育)を一体的に行っている全国でもあまり例のない事業展開をしています。仙台市の直営から財団への委託、指定管理者制度の導入、児童クラブの大規模化など、子育ち支援の現場とは思えないほど、次々と課題があります。本来の子育ち支援、日々の中で子どもと向き合うことさえ、困難なほど、業務量の多さに追われているのが現状です。
 現場で働く私たちが今子育ち支援で取り組んでいること、現時点での問題点、それをいかに市の施策へ反映していくか、今後の課題などを報告できればと思います。

2. 仙台市の概要と子育て施策について

(1) 仙台市の概要
 宮城県仙台市は人口103万人の政令指定都市です。東北地方最大の都市であり、東に太平洋、西に奥羽山脈と「杜の都」と言われる緑豊かな所です。気候は比較的温暖で大学や専門学校も多く、「学都仙台」とも言われます。
 仙台市内には現在123小学校区に103館の児童館があり、「1小学校区に1児童館」の設置を目指しています。
 留守家庭児童会も市内に7カ所ありますが、児童館の建設に伴い吸収されている現状です。

(2) 仙台市の子育て施策について
 2005年、市の特定出生率1.11を受けて、仙台市では、2007年急激な少子化の進行に対応する緊急少子化対策として「子育て支援アクションプログラム」を策定しました。地域支援・両立支援・経済的支援の3つの柱のもと、ネットワーク形成として交通の便がよい集積地に「子育てふれあいプラザ」を新たに2カ所整備し、児童館に関わる部分では、乳幼児親子の子育て支援として、子育て支援室が市内の児童館7カ所に設置されました。
 また、子育ての孤立化を防ぐため、主任児童委員、育児サークル、すくすくサポーターなどご近所ネットワークとして子育てサポーターの育成、そして放課後児童健全育成事業の充実として、放課後子どもプランの実施により、入会出来ない児童の受け皿や大規模児童クラブの解消を図り、学校やボランティアとの連携のあり方を検討するとしています。
両立支援は「ワークライフバランス」の観点から放課後児童健全育成事業の時間延長を検討する、としています。
 2010年には「仙台市すこやか子育てプラン2010」が策定され、「未来を担う子ども達が健やかに育つまち仙台」の基本理念のもと、児童館に関わるものとして、児童館の整備事業、放課後子どもプランの推進事業、中高生の自主活動支援事業があります。
 その一方、同時期に出された仙台市行財政改革計画プラン2010では指定管理者制度の公募推進、外郭団体の統廃合、児童クラブの受益者負担なども明記されていて、児童館の取り巻く状況は、施策の充実と効率化の中で流動的なものとなっています。

3. 児童館の取り組み

(1) 経過報告
 仙台市の児童館は2000年3月までは直営で運営していましたが、2000年4月に財団法人仙台ひと・まち交流財団(以下財団)に委託となりました。それまでは1年雇用で30時間の非常勤嘱託職員、賃金も10万円程度、職員体制も3人のローテーション勤務で休みを取ることも難しいギリギリの状況でした。
 財団へ委託となってからは、40時間の事業(常勤)職員となり、職員体制も単独児童館で事業職員の4人体制となりました。一部30時間の非常勤嘱託職員が残りましたが、試験で事業職員となれるシステムをつくりました。ただし、賃金については仙台市の非常勤嘱託職員時代のものがベースとなっており、市に準拠しない給与表の導入もありましたが、低位に押さえられています。非常勤職員についても一時金や退職金が無く、現在は試験を受けても事業職員の登用数が少なく、何年も非常勤職員で働き続けている職員が多い点が問題となっています。
 2005年には全国に先駆けて新設児童館について指定管理者制度が導入され、指定期間ごとの「雇用不安」「職場がなくなるかもしれない」中で児童館の運営をしなければならなくなりました。現在103館ある児童館のうち、財団が83館、6NPO法人が17館、社会福祉法人が1館、地域運営委員会が2館を運営しています。財団の83館は、6館はマイスクール児童館(指定期間なし)、公募館3館、非公募館74館となっており、非公募館については3巡目、2012年度までの3年の指定期間となっています。仙台市は、既存館についても次回は公募する方針を固めています。

(2) 事業の内容について
① 乳幼児の子ども達とお母さん達の仲間作り
  地域の中で孤立する親子が増えてきています。育児に不安を感じ、ストレスを抱えている親が増えています。登録制の幼児クラブだけではなく、自由に参加できる集いの広場事業も実施しています。子育ち情報の提供、親同士の交流の手助け、橋渡し役をしていくことが求められています。 
② 学童期の子ども達の遊び、居場所作り
  児童館は異年齢、世代間交流ができる貴重な場所です。遊びは自発的で創造力を使うことから生きるエネルギーを培うことができます。最近はゲームなどで遊ぶ子も多く、きれやすい、暴力的・トラブルメーカー、発達障害のある子などが多いですが、先入観や勝手な解釈はせず、個別の対応が必要になっています。
③ 児童クラブ(放課後児童健全育成事業)
④ 中高生の居場所づくり
  施設面で十分なスペースがありません。様々な年代の子どもたちがうまく利用できる住み分け方が課題となっています。
⑤ 子どもに関する地域団体との連携
  学校、保育所、幼稚園、市民センター、民生委員、児童委員、保健福祉センター、町内会など機関だけでなく、人のつながりが今まで以上に大切になってきています。
  仙台市の「子育て支援アクションプログラム」や「仙台市すこやか子育てプラン2010」の中でも地域に密着した児童館を中心とした子育ち支援ネットワーク構想は描かれていますが、体制的な整備がされていないのが現状で進展はあまりみられません。現在の子育ち支援の現場は横の連携が取りづらく、仙台市もそれぞれの担当部局だけで対応しており、ネットワークどころか情報の共有化さえされていない実情があります。地域ニーズをしっかり意識したサービス提供が求められています。ネットワーク構想を今後の児童館行政の重要課題として本格的に取り組んでいく必要があります。
  医療機関に例えれば、児童館や保育所は第1次医療と言えます。次に保健センターや児童相談所が2次、3次医療としての役割をこなしていくことになります。このネットワークをどこでどのようにコーディネートしていくかもはっきりしていません。児童福祉の領域でしっかりと統括していく事が肝要です。学校、保育所、保健センター、児童相談所、NPO団体等、それぞれの特性を活かしながらあらゆる機関との連携を深め、支援のネットワークを形成することが求められています。ネットワーク形成上、小学校単位で建設が進んでいる児童館を有効に活用していくことは必要です。児童館は遊びの場の提供とともに相談機能を整えながら、「第1次相談機関」としての役割をこなしていかなければなりません。
⑥ 具体的提案
 ア 統一性・公平性
  ・ 地域ごとのサービスの格差をなくす
  ・ 公正な行政の整備をしていく
  ・ 職員体制の配置基準設定等
 イ 機能強化と業務の充実
  ・ 自由来館児への対応充実・大人や家族を対象にした活動の強化
  ・ 乳幼児とその親への支援拡大
  ・ 児童クラブの運営改善
  ・ 相談・情報提供の推進
  ・ 子育て支援クラブなど地域組織活動の推進等
 ウ 区中央児童館(区拠点館)の役割・機能の明確化、特別機能の付加
  ・ 各地区児童館とのネットワーク形成および指導・助言・区総合調整管理
  ・ 子育ち・家庭支援ネットワーク構想に基づく他機関との連携
  ・ 遊び場情報、子育ち情報、子どもの文化・スポーツ情報の提供
  ・ 中高生の居場所づくり試行
 エ 職員体制
  ・ 配置基準の整備(職員の常勤化)
  ・ 各児童館最低常勤職員3人体制
  ・ 体育指導員の専門性の確立
  ・ 児童クラブが多くなった際の職員配置基準の整備
  ・ 障害児の受け入れに対する職員配置基準の整備等

4. 労働組合として外郭団体、他児童館運営団体との協力

 児童館は求められる専門性やサービスは多岐に渡りますが、まだ広く知られているとは言えません。指定管理者制度の導入により、運営団体も多くなりました。組合では、自分たちが抱えている問題は他の指定管理者団体にも共通する問題ではないか、との思いから2007年、2008年、2010年と「つながろう仙台の児童館」として、児童館で働く労働者が一堂に会する機会を持ちました。
 指定管理者制度の問題点や児童クラブの大規模化について話し合いました。その中で「子どもたちが安心・安全に過ごせるよう、職員は日々努力と工夫をしているが、少ない職員体制ではいつ事故が起きてもおかしくない。」「NPOでは障害児を無条件で受け入れているが、加配の職員がつかず、今いる職員体制のまま運営を行っている。」「指定管理料はほとんどが人件費であり、人のやりくりが大変である。」「仙台市は働く私たちのがんばりだけに期待して、その後の人的、予算的ケアをしていない。」等の発言がありました。今後は児童館行政充実のため、運営団体の垣根を越えて、仙台市へ児童館のビジョンをきちんと示すよう、また、予算要求、子どもたちの過ごす環境の改善(エアコンの設置等)、職員の体制・待遇の改善をするよう、まとまって取り組んでいく必要があります。
 また、市職労の外郭5労組(介護・児童館・市民センター・スポーツ振興事業団・社会福祉協議会)では、定期的に「指定管理者対策会議」を開催、また、春闘期には合同の学習会やビラまき行動、仙台市への要請書提出行動を行い、指定管理者制度をはじめ、各労組の抱える問題点について情報を共有化しています。
 私たちの直接的な雇用主は各財団や協会ですが、雇用先には当事者能力がなく、仙台市が予算・人事面などをにぎっているものの、市の担当部局はそれぞれの団体に運営など丸投げ状態で、現場の状況もきちんと把握しておらず、将来のビジョンも示せない、ということが明らかになっています。
 仙台市に対する「2010春闘要請書」の中では「指定管理料の積算根拠を明らかにすること」の回答を求めました。しかし、当時の総務局長は、「選定を競う中で影響があるので、回答できない。」と発言しています。
 特に指定管理者制度については全国的にも様々な問題点が指摘されており、仙台市でもスポーツ施設で選定の方法が議会でも大きく取り上げられています。
 今後は、市職労や外郭5労組で協力し、設置責任者である仙台市との直接交渉実現に向けてさらに取り組みを進めていきます。

5. 今後の課題

(1) 指定管理者制度について
 私たちは指定管理者制度については廃止となるように運動をしていきます。その理由として、
① 「コスト削減」と「サービスの向上」という矛盾する目的で導入されていることで、多くの「ワーキングプア」が生み出されていること。
② 「指定期間によって雇用が区切られる」「雇用不安を抱えながら働く」ことは、将来の展望を持てず、職員の働く意欲低下につながりかねない。
③ 地域に根ざして継続的に子どもの成長を見守り、支援をしていく場である児童館にこの制度はなじまない。
ことがあります。
 しかし、制度の廃止が難しい現在の状況では、既存館74館について引き続き「一括・非公募」となる運動を進めていきます。また、導入時に新規団体が参入する可能性やその団体が児童館を運営する能力があるのかどうか、複数の管理団体になった際のネットワークのあり方については検証が必要なので、児童館の指定管理については「試行」としていたこの点についてきちんと検証をすることを仙台市へ求めていきます。

(2) 児童クラブの大規模化
 児童クラブはこの10年間で3.02倍の増となりました。障害児の受け入れについても4年間で3.28倍増の受け入れとなっています。児童館では、「大規模児童クラブの解消」として、『サテライト』(児童クラブ分室)を市内8箇所(財団は4箇所)で実施しています。しかし、今年度はその「場所」を確保できず、愛子児童館(児C 94人)では既存のスペースの一部を『サテライト』と称してわずかな予算措置での実施となっています。 (18畳に定員30人という驚くべきものです。)
 また、児童クラブ運営要領の改正により、サテライトが開設されずに各施設の上限数(50・60・70人)を超えた場合は「登録来館児」(1人帰りを基本とした児童クラブと変わらない受け入れ)を数限りなく、受け入れしなくてはならず、現場では施設規模、職員の配置がされない等の問題点があります。児童館は遊びを中心とした子どもの健やかな育ちを地域で支援をしていくべき場のはずなのに、今や児童クラブの受け入れが多すぎて、本来の児童館事業の運営が難しくなってきているのが現状です。子ども達が健やかに育つ権利、伸び伸びと育つ権利が著しく侵害されています。
 愛子児童館で実施されている「サテライト」は大規模解消となっていません。他の児童館への波及を防ぐためにも、「サテライト」については、早急に場所の確保(行政間の連携が取れていれば十分可能)をすること、児童の増加に伴うきちんとした予算措置をすることを要求していきます。
 また、児童クラブ、障害児の受け入れの精査(「障害児放課後ケア等支援事業」との連携)をすること、「登録来館児制度」を廃止とし、上限を超えた際は別な場所に児童クラブ室を設けること、子どもたちが過ごす環境を整備することを併せて仙台市や財団へ求めていきます。

(3) 子育て施策は地域・現場から~
 仙台市でも行財政改革プランがあり、行政のスリム化が求められています。指定管理者の公募推進、外郭団体の統廃合、児童クラブの受益者負担等もあげられています。行政の縦割りがますます進む中、スムーズな子育て支援の運営には、横の連携が必要不可欠になります。まだまだ仙台市でもそのシステムが確立されてはいませんが、子育て支援の現場の最前線にいる私たち職員が他の子育て関係機関との連携を声に出し、行動していかなければなりません。昨今の児童虐待や子育て放棄の状況は、地域で働く私たちが気づき、支援し、救済していくべきであり、十分対応が可能です。児童の受け入れが拡大する中、子ども達とゆっくり向き合う時間がなく、日々の忙しさにともすれば、子どもたちの「サイン」を見逃しがちですが、子育て支援のプロとして、自分達が率先して実践し、仙台市へも更なるネットワークの確立へ向けて、意見反映をしていかなければなりません。
 子ども達の健やかな成長を長期的に見守ることができることを「自信」として、日々の子育ち支援に一層励んでいきます。