【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

 岐阜県高山市は2005年2月に市町村合併し、日本一広大な市域となりました。高山市では「子どもにやさしいまちづくり計画」を策定し、子育て支援も積極的に取り組まれています。義務教育修了時までの医療費の無料化や、保育料の軽減などの事業が実施されることにより保護者への負担は軽減されていますが、子どもたちの姿から子どもの視点に立った政策の必要性を感じています。高山市の保育現場から見た子どもたちの現状と課題についてレポートします。



高山市の子育て支援と子どもたちの姿


岐阜県本部/高山市職員労働組合連合会 伊藤美保子

1. はじめに

 岐阜県高山市は2005年2月に周辺9町村と編入合併しました。面積は2,177.67km2となり、東京都の面積に匹敵する日本一広い市となりました。合併により人口は約1.5倍となりましたが、職員数や起債残高は約2倍となったことにより、行政経費の削減を主眼とした厳しい行政改革がすすめられてきました。行政改革大綱では合併時1,250人となった職員数を5年間で400人削減する定員適正化計画や、指定管理者制度の積極的な導入をはじめとする民営化の方針が示されており、公立保育園についても社会福祉法人もしくは教育法人に経営移譲をすすめることとされています。
 また、次世代育成支援対策推進法に基づく市町村行動計画として「高山市子どもにやさしいまちづくり計画」を策定し、様々な子育て支援事業をすすめています。保護者にとっては子育てしやすい環境づくりがすすめられていますが、主役である子どもたちにとって本当にやさしい事業が展開されているのか、検証することが必要であると考えます。

2. 高山市の子どもを取り巻く現状 (高山市子どもにやさしいまちづくり計画参照) 

 2005年4月1日現在の高山市の人口は、96,579人でしたが、4年後の2009年4月1日現在では、94,235人と2005年と比べ2,344人、約2.4%減少となっています。
 年少人口(0~14歳)は、2005年には、14,305人と総人口(96,579人)の14.8%でしたが、2009年には、13,606人と総人口(94,235人)の14.4%まで減少しています。一方、老年人口(65歳以上)は、2005年には、22,538人と総人口(96,579人)の23.3%でしたが、2009年には、24,572人と総人口(94,235人)の26.1%まで増加しています。
 高山市の出生数の推移(グラフ1)は、2001年度996人でしたが、2003年度は減少となり、2005年度では816人となりました。その後はやや回復し、2007年度には854人、2008年度には835人となりました。
グラフ1 高山市の出生数の推移

 高山市の合計特殊出生率(グラフ2)は、2002年に1.70でしたが、2003年からは減少となり、2005年には1.44となりました。その後は回復傾向にあり、2008年には1.62となっています。全国、岐阜県と比較しても高い水準となっており、積極的な子育て支援の効果によるものと考えられます。

グラフ2 全国、岐阜県、高山市の合計特殊出生率の推移

3. 高山市の子育て支援施策

 高山市では市町村合併後のまちづくりを展望した「高山市第7次総合計画」を上位計画として、次世代育成支援対策推進法に基づき、2005年3月に「子どもがやさしさにつつまれ、健やかに育つまち」を基本理念とした「高山市子どもにやさしいまちづくり計画」を2005年度から2009年度までの5年間の前期計画、2010年度から2014年度の後期計画を策定し、子育て支援に関わる各施策が総合的に推進されています。前述のとおり、合計特殊出生率も改善し、取り組みの効果が表れています。こうした高山市の取り組みが評価され、2009年度「にっけい子育て支援大賞」を受賞しました。
 計画に基づき高山市で取り組まれている事業数は2009年度で132事業となっていますが、主な事業は以下のとおりです。
① 子ども医療費の無料化
  岐阜県では小学校就学前までの医療費が無料化されていますが、高山市では0歳から義務教育修了までの子ども(15歳到達後最初の3月31日まで)の医療費を無料化しています。2010年度予算額は3億4,400万円が計上されています。
② 子育て支援金
  将来の高山市を担う子ども達の健全育成と、乳幼児期の経済的不安の解消を図るために「子育て支援金」を支給しています。支給額は第1子、第2子10万円、第3子以降20万円となっています。
③ 保育料の軽減
  高山市では保護者の経済的負担を軽減することを目的として、保育料の大幅な軽減を行っています。第3子以降の無料化をはじめ、第1子では30%~61%、第2子75%~86%の軽減率で、2010年度の保育料軽減見込み額は5億4,100万円となっています。
④ 病児保育事業
  病気の症状が回復しておらず、かつ当面の症状に急変が認められない児童を、専用の施設で一時的に保育する事業で、専任の保育士や看護師が、お子さんの症状を見守りながら保育を行います。市内の医療機関に委託されており、対象児童は、高山市内に在住する生後6カ月から小学校3年生までのお子さん(定員4人)で、利用料は1日2,000円(5時間以内は1,000円)です。
⑤ 健康・医療相談ダイヤル24
  高山市と飛騨市、白川村では、2009年7月1日から24時間年中無休で看護師や医師などに健康や医療に関する相談ができるフリーダイヤルを開設しました。このサービスは、市民のみなさんの健康への不安解消とともに、地域医療スタッフの負担軽減のため行うもので、相談内容に応じて専門スタッフが分かりやすくアドバイスします。
⑥ ブックスタート事業
  高山市では4ヵ月児、1歳6ヵ月児とその保護者を対象に、絵本の読み聞かせ会の開催と絵本のプレゼントを行っています。それぞれの健診の案内文書に、絵本引換券やブックスタート事業の紹介文書などを同封しています。
⑦ つどいの広場
  主に乳幼児親子を対象とした遊び・交流の場です。地域に身近な場所で気軽に集まって、情報交換や仲間づくり、悩み相談などが行える場所として市が設置しています。2007年度からは、「子育てコーディネーター」を各広場に配置し、広場の魅力を高める様々な活動を行うほか、悩み相談などにも対応しています。

4. 公立保育園の現状と課題及び対策

(1) 公立保育園の民営化
 高山市においても行政改革の流れの中で、公立保育園の民営化方針が浮上しました。市町村合併前、2000年の時点で高山市には14園の認可保育園があり、公立保育園が5園に対し、私立の保育園は9園となっており、全国と比較しても公立保育園の割合は少ない状況となっていました。そうした中にもかかわらず、高山市第3次行政改革大綱が策定され、公立保育園を民間へ経営移譲する方針が示されました。
 2001年3月末に第5次保育園整備計画が策定され、計画期間である2005年度までに公立保育園の中から、新宮保育園と総和保育園が移譲対象園とされました。
 2002年度には保護者会との合意に基づき在園中の園児への影響を少なくするため、経営移譲予定の社会福祉法人高山社会福祉会から、3人の職員が配置され、1年間、合同で保育が行われました。また施設の大規模改修も行われ、2003年4月に社会福祉法人高山福祉会に経営移譲されました。この結果、高山市の認可保育園は公立4園、私立保育園10園となりました。
 2005年2月に高山市は周辺9町村と合併しました。旧町村の保育園はほとんどが公立保育園であったことから、合併により公立保育園は14園、私立保育園11園となりました。また、2005年度中に第6次保育園整備4カ年計画が策定され、朝日保育園の改築、総和保育園の改築が計画されました。また、民間への移譲対象園として総和保育園、城山保育園、山王保育園、朝日保育園の4園とされましたが、将来的には公立保育園を1園とすることが盛り込まれました。
 合併前からの課題であった旧朝日村の朝日保育園が新築されることになりましたが、旧朝日村の秋神保育園が朝日保育園の改築に合わせて統廃合されました。このことにより高山市の公立保育園は13園となりました。
 2006年に入り、土地問題で園舎の改築が遅れていた総和保育園は、近くの西小学校の体育館と併設して建設する方針に変更され建設されることとなり、2008年4月には新園舎での保育がスタートしましたが、同時に経営移譲予定の社会福祉法人中山会の職員との合同保育が行われ、2009年4月に経営移譲され、現在、高山市の認可保育園は公立保育園12園、民間保育園12園となっています。第7次保育園整備計画では、遠隔地で小規模な高根保育園も公立保育園として存続する方針が示され、将来的に公立保育園は2園とする計画が策定されています。

(2) 保育園の現状と課題
 保育料の軽減により、未満児から入園するケースが多くなり、今のところ待機児童はゼロと言われていますが、実際のところ入園できず一時保育を利用したり、やむを得ず職場へ連れて行ったりしているケースもあります。また、保護者支援や地域子育て支援、未満児の受け入れの増加、乳児保育・延長保育・一時保育・休日保育など保育サービス事業の充実に加え、一人一人に応じた幼児教育の充実など保育園・保育士に求められる資質や専門性は深化・拡大しています。しかし、人員削減にともない新規採用がない為、7割近くが臨時職員で、正規職員による業務が多忙化し、負担が増大しています。
 民営化推進にともない、民間保育園の保育サービス(=親サービス)に拍車がかかり、親の意識も自分にとって都合の良いサービスを求める傾向が強くなってきています。
① 子どもの状況
 ・家庭生活が夜型化し、生活のリズムが乱れてきている。
 ・「食育の推進」を行っているにもかかわらず、朝食の欠食など、食生活全体が乱れてきている。
 ・様々なアレルギーを持っている子どもが増えている。
 ・持久力、体力の低下により歩くことが苦手な子どもが多くみられるようになり、すぐに「疲れた」という言葉が聞かれる。
 ・物質的に豊かな状況にあることから、我慢することや物を大切にする気持ちが薄らいでいる。
 ・自己中心的な子どもが増え、自分の我を通そうとしてすぐ怒ったり、イライラし、乱暴になる傾向がみられる。
 ・落ち着きがなく、何かと自分に関心を持ってほしいという行動を示す子どもが増えている。
② 親の状況
 ・親の子育てに関しての考え方に変化がみられる。特に子どもに対しての親の過干渉、一方では放任に近い親とその差が大きい。
 ・心に余裕がなく、保育園への要望が多くなる傾向。また、イライラして子どもにあたる親の姿も時々みられる。
 ・自己中心的な親が増え、親の生活を重視した方に進んでいる。
③ 子育て環境
 ・祖父母世代も就労している方が多くなったことにより、子どもが病気のときなど、援助がなかなか受けられない状況にあり、病児保育を利用されたり、治りきらない状態で登園してくるため、それを繰り返すうちに入院しなければならなくなったりすることがある。
 ・休日に外出する家庭が多く、休み明けに疲れている子どもの姿が見られる。
 ・園と家庭が共通理解し同じ意識のもと子どもの健やかな成長発達を促していくことがこれまでより難しくなってきている。
 ・子どもの精神的な状況、心理的な状況の把握に加え、親の心理的な状況を敏感に感じ取り対応できる力量が保育園に求められている。
④ 今後の課題
   保育制度改革はこういった保育現場の現状や課題を踏まえておらず、このままでは保育の質の低下や人材確保が困難になることが懸念されます。子どもの最善の利益を基本に置いた取り組みとして、以下の対応策が必要であると考えます。
 ○保育環境及び職員の処遇の改善による保育の質の確保。
  ・保育士の配置基準の改善
  ・専門的職員の配置(看護師、栄養士、障がい児対応)
  ・保育所職員の処遇(給与)の改善
 ○職員の専門性、資質向上のための施策の推進。
 ○地域の子育て支援など保育所機能を活用した事業の充実強化。
 ○保育サービスの安定的財源を確保できる財源確保の仕組み。

5. おわりに

 保育は、単なる託児ではなく子どもに良好な育成環境による生活を保障し次世代の担い手を育成するという公的性格を持つものであり、私たち保育園がこれまで以上に質の高い保育実践と保育所機能を発揮できるよう、保育制度の議論は、子育て支援が親のサービス重視とならないよう、常に子どもの立場に立ち、子どもの最善の利益を基本に置いた取り組みを行うべきであると考えます。