【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

 近年、『食』の役割が大きく見直されてきています。中でも、子どもたちの成長過程における『食』の役割は、身体的な成長を目的とした食物としての摂取にとどまらず、精神的な成長にも大きな影響を与えるものとして、大きな注目を集めています。本レポートでは、子どもたちの『食』の中で大きなウエイトを占めている『学校給食』に携わる調理員の取り組みをまとめました。



子どもたちの『食』を守り続けるために


福岡県本部/みやま市職員労働組合 古賀 悦子

1. はじめに

 子どもたちを取り巻く『食』の現状は、近年大きな議論を呼んでいます。食生活が豊かになったと言われる一方、落ち着きがない、元気がない子どもが増えたのは、量が豊かであっても質の貧しい食生活のためだと言う声があがっています。『食』の量だけでは子どもたちの心は満たせないのです。
 子どもたちが一日の大半を過ごす学校での給食は、友人たちとともに食事をする楽しい時間であるとともに、『食』について考える良い機会でもあります。子どもたちの『食』に携わる給食調理員として何かできないかと考え、地方自治活動支援事業に参加し、福岡県地方自治センターの補助を受けて食育研究に取り組んできました。

2. 給食現場の状況

 みやま市の学校給食は、小学校15校、中学校4校を自校方式とセンター方式での直営となっており、正規職員及び臨時職員合わせて約80人で稼動しています。職員の配置は、200食以上の学校は複数の正規職員と臨時職員、200食未満の学校は正規職員1人と臨時職員となっており、正規職員1人配置校で休暇等の取得がある場合は複数配置校より正規職員を派遣し、業務に支障をきたさないようシフト化を行っています。なお、シフト化に当たっては、いつ・誰が・どこの学校においてもスムーズな作業ができるように、衛生管理作業マニュアルを作成しています。
 衛生管理については毎年見直しが行われ、年々厳しくなっています。マニュアルについても毎年夏休み期間中に見直しを行います。また、近年では、食物アレルギーを持つ児童が増えていますが、可能な限り、子どもたちには同じメニューで対応したいという思いで、アレルギー除去食の提供にも努めており、給食現場の業務量は増加傾向にあります。

3. 食育推進の取り組み

 給食を心待ちにする子どもたちの姿を見て、また、食物アレルギーへの対応等を通じて、子どもたちの食生活を充実させることの大切さを実感しています。子どもたちの現在から将来にわたり食の安全・安心を確保すること=食育、の推進を目的とし、給食調理員部会の中でみやま市食育研究会を立ち上げ、下記の取り組みを行いました。

(1) 生産者や栄養士との意見交換会
 学校給食において残食は深刻な問題であり、様々な議論を呼んでいます。残さず食べることが最も重要視されていた時代もありましたが、現在は深刻な食物アレルギーを抱える子どももおり、一律に残さない指導をすることは困難になっています。
 子どもたちに残さず食べてもらう安全・安心な学校給食を目指すため、農作物の生産者との意見交換会を行いました。栄養士や小・中学校教諭も交え、野菜や果物の“良し悪し(出来具合)”や、よりおいしく食べられるような献立の組み合わせ、食物アレルギーに対しいかに対応するか等について協議を行いました。農作物の“旬”を把握し、現場で可能な調理方法等を検討することで、より栄養価の高い給食を効率よく提供できます。

(2) 料理教室(未実施)
 子どもたちの夏休みを利用して、小・中学生と保護者を対象に親子ふれあい料理教室を行う予定でしたが、時間と場所の確保ができず、実施に至っていません。みやま市ではナス、みかん、セルリー等の栽培が盛んですが、そういった地域の生産物で調理できるメニューを紹介し、地産地消の推進を目指します。また、親子で参加することにより、家庭でも地産地消に取り組むきっかけとなることを期待しています。今後、早期の実現を目指し協議を重ねていきます。

(3) 学校給食レシピ集の作成
 『食』は、子ども時代で終わるものではなく、人間が生きていく上で欠かすことのできないものです。子どもたちが学校給食から巣立ったあとも『食』について考えるきっかけになればと、中学校の卒業生に対して、「卒業おめでとう」の気持ちも込めてレシピ集を配布しています。小学校から中学校までの9年間、慣れ親しんできた学校給食の思い出として、子どもたちの人気メニューを中心に作成しました。季節の料理や郷土料理を織り交ぜた献立で、子どもでも分かりやすく、作りやすいようにカラー写真で掲載しています。楽しかった給食のことを忘れないでほしいという思いもありますが、学校給食の献立は、栄養面のみならず、郷土料理の継承や地産地消の観点も含め組み立てられているため、子どもたちがレシピを見て料理を作ってみることは、食について考える良い機会であり、地域に根ざした活動となります。
 このレシピ集については、市の広報紙や新聞等に広く取り上げられ、多くの反響を呼びました。地域住民だけでなく他市町村からも問い合わせが殺到したため、希望される一般市民にも配布することとなりました。
 レシピ掲載例)みそおでん、ポークビーンズ、ベジタブルスープ 他

(4) その他の取り組み
 みやま市主催の行事へも積極的に参加し、地域の方々から好評をいただいています。
① みやま市文化祭への参加
  学校給食の歴史についてのパネル展示、給食試食会、給食コンクール入賞作品の展示 等
② みやま市駅伝大会への参加
  出場する小・中学生やその保護者、応援者に対するぜんざいの振舞い

4. まとめ

  今まさに『食育』ブームが起こっていますが、子どもたちの豊かな『食』を守っていくためには、これを今だけのブームで終わらせず、将来にわたって継続していくことが必要です。給食調理員の業務量が増加していく中で、取り組みを継続していくためには、正規職員を基本とした私たちの職場を守り続けなければなりません。現場で培った知識、技能経験を生かしていくためには、長く働くことができる正規職員の確保が必要不可欠です。同時に、ともに学校給食に携わる臨時職員の処遇の改善や雇用の安定も考えるべき時が来ています。
 本取り組みは、農作物の生産者をはじめとする地域の方々から支援を得ることができました。とりわけレシピ集については、学校給食をなつかしむ声や、学校給食への感謝の言葉をいただき、勇気づけられながら進めることができました。地域住民と触れ合うことで、学校給食現場の状況を広く伝えることが可能になります。学校給食の重要性を少しでも多くの住民に理解してもらい、声をあげてもらうことが、私たちの職場を守り、ひいては子どもたちの『食』を守ることにつながると信じ、今後も取り組みを続けていきます。