【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

耳をすまして子どもの叫びを聞こう


大分県本部/大分県地方自治研究センター・社会保障専門部会・子どもグループ

子どもたちは今

子どもたちの悲鳴が聞こえて来ませんか。
「誰かこの苦しみから抜け出させて下さい」という声が聞こえませんか。


1. 拡がる子どもたちの貧困、次世代へ連鎖

(1) 2006年の子ども(17歳以下)の相対的貧困率は14.2%(7人に1人)で、2003年のOECDデータの13.7%(加盟30ヶ国中19位)より拡大悪化している。

(2) 子ども期の貧困が、大人になってからの所得や就労状況に大きく影響を及ぼし、その「不利」が次世代に受け継がれていく、いわゆる貧困は連鎖していくことが諸外国の研究で報告されています。

※ 日本の「相対的貧困率」は2006年時点で15.7%、OECD報告では2003年14.9%でメキシコ18.4%、トルコ17.5%、米国17.1%に次ぐ加盟国30ヶ国中27位でした。

(3) ヨーロッパ等では子どもの貧困の放置は社会的損失も大きいし、何よりも子どもの権利を国が保障するとして、国内総生産に占める家族関係支出の比率がスウェーデンでは3.21%、イギリスでは3.19%を占めています。
   一方我が国では0.81%しかなく、国・地方の社会支出のうち子育てなど家族関係支出は4.23%で高齢者関係の11分の1にすぎません。

2. 増大する虐待

 児童虐待防止法が施行されたのは2000年。子どもの虐待はそれ以前の約4倍に増え、年間4万件を超え、歯止めが掛からない状況です。

3. 私達のまわりでも子どもの健やかな発達を阻害している事例について子ども部会員にアンケートを実施しました

① 子どもが病気の場合、看てくれる人がおらず、少々体調が悪くても登園する。
② コンビニ等24時間営業の店舗が増え、大人が便利になりすぎた反面、子どもの生活リズムの乱れが以前より多く見られるようになった。
③ 着替えの服を持って来ないことが多くなった。持って来ても清潔感や季節感のないものが多い。
④ 弁当日に休んだり、コンビニの物だったりする。
⑤ 前日の服と同じ服で登所するし、お風呂に入ってない子もいる。
⑥ オムツを取り替えてなく、多量のオシッコをしたまま登所してくる。
⑦ 親の仕事の都合で夜が遅いため、眠い様子で登所して保育所で眠ってしまう。(朝食抜き)
⑧ 生活リズムがバラバラでいろいろな成長に影響が出ている。
⑨ 体調の管理ができてなく、病院になかなか連れていかない。
⑩ 衛生面で、1週間同じ服を着て登園し、汚れても次の日も同じ服を着て来たり、月2日位しかお風呂に入らない子どもがいた。保護者と何度も話しあったが、改善できなかった。
⑪ 不況に伴い共働きが多くなり、労働条件が改善されず、子どもが病気でも休めない。
⑫ 保護者からは、子どもの気になることを、どこに相談してよいかわからないとよく云われる。特に発達障がいがあるかも知れないと感じている親からも同様な事が聞かれる。
⑬ 泣きながらの登所、機嫌が悪かったり、ベッタリと甘えたりの子がいる。
⑭ 保育所職員の配置基準では行き届いた保育ができにくい。障がいのある子どもが増えているので、大勢の(3、4、5歳児)を1人で保育するのはとても難しい。保護者の支援に力を入れていくためには、十分な職員配置が必要。
⑮ 発達医療センターに通っている子どもに対し、保護者の了承をもとに、一緒に行き、訓練の様子を見せてもらい、互いに連携をとっている。
⑯ 38度以上の熱が出た0歳児、母親に連絡すると、病気の兄(4歳児)をそばに居させながらコンビニの仕事も出ていた。所長と担任が母親の了解を得て、病院へ連れていった。
⑰ 広汎性発達障がいの子どもの母親は、すごく熱心で一生懸命子育てに取り組んでいるが、思うようにいかないことも多いようで、精神的に不安定になりがち、うつ病になることもある。最近では父親も障がいを受け入れて子育てに協力的になっている。
⑱ 障がいのある子どもに対しては保育士を加配している。社会福祉士の資格を持った保育士を配置している。担任を変えずに2年間継続した保育を行っている。また全職員で理解し、連携できるよう報告している。別府発達医療センターでの療育を見学し、センターの職員、保育士保護者で共通理解をはかっている。

4. 子どもを支援する社会資源知っていますか。つながりあっていますか。


≪宇佐市における社会資源≫

公 的 機 関(備 考)
民 間 機 関(備 考)
子どもを支援する社会資源の現状
保育
保育所
4
  保育所
26
無認可2園
放課後児童クラブ
 
  放課後児童クラブ
9
 
相談機関
1
中津児相 相談機関
3
子育て支援拠点
担当課
 
子育て支援課 児童館
2
 
教育
小学校
(特別支援学級数)
24
(14)
   小学校
(特別支援学級数)
 
 
  
中学校
(特別支援学級数)
7
(5)
   中学校
(特別支援学級数)
 
 
  
高 校
3
  高校
 
 
特別支援学校数
1
  特別支援学校数
 
 
学童保育
  
   
 
 
幼稚園
3
  フリースクール
1
 
相談機関
1
中津児相 相談機関
1
つくし園
担当課
 
学校教育課 幼稚園
3
 
療育
相談機関 
1
中津児相 通所施設
1
児童デイ「どんぐり」
入所施設
1
糸口学園
担当課
 
子育て支援課、福祉課 相談機関
3
つくし園、すまいる、こもれび舎
医療
小児科
 
  小児科
3
 
病後児保育
 
  病後児保育
1
 
相談機関
 
  相談機関
 
 
担当課
 
子育て支援課  
 
 

 部会員それぞれが所属する自治体で子どもを支援する社会資源をまとめてもらいました。
 どれだけの社会資源があるのか正確には把握できていなかった。さらにはその社会資源1つひとつがどんな役割や業務をしているか知らなかった所も多くありました。加えてつながりあって物事を解決していく事があまり出来ていないということでした。例えば保育所の隣に子育て支援センターがあるがどんな業務や役割を持っているのか知らないし、互いがつながりあってはいない……

5. 実践に学ぶ

 子ども部会員で宇佐市、別府市の実践に学ぶとともに2年間の部会を通じて具体的な実践に取り組んでいくこととしました。

(1) 宇佐市の寮育・教育支援ネット部会視察(2010.4.3)
〈療育・教育支援ネット部会の説明〉
 この部会は障がい者自立支援法の地域自立支援協議会の下部機関で3部会の1つとして3年目、年6回開催しています。そのスタンスは障がいのある子ども達やその家族の実態や思い(ニーズ)を大切にし、ニーズを実現するために制度の改善や新たな社会資源の開発に取り組んでいます。
① 2010年部会員
保護者12人、民間保育所主任2人、保健所1人、支援学校1人、社協2人 計30人
障害福祉事業所4人、市(教委1人、子育て支援課3人)、民間団体等4人
② 療育・教育支援ネットを通じた新たな社会資源等の創造
 ア 5歳児発達相談会
 イ 夏休み日中一時支援事業「すきっぷ」
 ウ 絵手紙・音楽教室
 エ 児童デイサービス事業所の拡大と相談会
 オ 移動支援事業グループ支援型「かけはし」
 カ 保護者の会「おひさま」
 キ 支援学校スクールバス運行の取り組み
③ 「行政の都合の会議ではなく、私たちの声を取り上げてくれその実現のためにいろんな人が歩き回ってくれる場になっている。」
  「私の子どもは大きくなったが、もっと遅く生まれていたら良かった。以前はこの様な場もなく、親だけで苦悩しながらの子育てだった」保護者の声の様に療育・教育支援ネットは誰かが困っていたり、こんな事が実現できたらいいなという声を皆で考え形にしてきました。「5歳児すこやか発達相談会は保護者からいろんな関係機関に行く度に、子どもの事を一から説明させられる。機関のつながりもなく、うんざりすることも多かった。特に小学校入学時はそうだった。5歳児検診があったらと思う」と発言がありました。さっそくネットに参加していた保健所保健師、子育て支援課保健師、障害者福祉係で協議し取り組んでいこうとなりました。「5歳児検診」から「5歳児すこやか発達相談会」となったのは、子育てに悩んでいるのは障がいのある子どもの保護者だけではないし、全員を対象にしていく必要性が話しあわれたからです。障がい福祉の担当だけならこうはならなかったし、子どもの障がいを受け入れる事は保護者にとって簡単なものではないのです。絵手紙・音楽教室・移動支援・夏休み日中一時支援事業は、土日・祝祭日夏休みの過ごし方のアンケートを実施したところ、多くの子どもが休みは家族と過ごしている事、音楽や絵や水泳等をやれる場が欲しいということで実行委員会をつくりピアサポート事業として実現できたのです。

(2) 別府市南部子育て支援センター「わらべ」視察(2010.5.25)
 「わらべ」では、地域組織との連携が図れる児童館を活用して、身近な育児相談や子どもの成長に適した環境づくり、さらに子育てが楽しくなるような仲間づくりを支援し、保護者の主体性をエンパワメントするために、専門保育士を配置しての子育て支援事業を実施していました。

☆親子であそべる場(遊戯室)の提供……休館日を除く毎日
広報活動(わらべ通信の配信)

① 視察に参加した部会員の感想
 ・地域(自主)サークルの方達と交流しましたが保護者が主体となって自主運営をしている姿に感銘しました。保育だけでなく保護者が育児中に楽しみながらしたい事を習う場にもなっているし、ここでのつながりは何かあった時に孤立せずに相談できる仲間ができたことではないでしょうか。
 ・地域の方々ともつながった活動になっていました。地域の母親クラブの全員に食育活動の指導してもらったり、温泉まつり等地域のイベントに参加し交流を深めていました。
 ・たいへん学ぶべき実践なので保育所や庁内担当課等と共有が出来ればと思った。

6. 子育てを担う保護者の今

 地域で人と人とのつながりが希薄化し、子育てを担う保護者たちの孤立化が進んでいる。誰からも援助が受けられない子育ては大きなストレスとなる。加えて経済的困窮、夫婦の不和、病気、養育力の乏しさなどが重なり合うことで虐待につながる。ある虐待事件の報道記事を見た母親が「自分も虐待してしまうかもしれない」とのつぶやきに誰にでもの問題であることがうかがえます。

7. 誰にでもできる実践―キーワードはネットワーク

(1) 現状はつかめた
 子ども、子育てを担う保護者が様々な問題をかかえ、子どものすこやかな育ちが阻害されていることがわかりました。子育てのセーフティネットである様々な社会資源が個々ではなかなか機能しない現状(セーフティクライシス)で、保育所等の子育ての最前線の現場が苦闘していることも把握できました。さらには地域力が低下し、行政主導で地域の子育てを担わなければならない現状もわかりました。

(2) どんな、どことのネットワークが必要か
① 支援者側の都合でなく、支援される側の都合が生かされるネットワーク
  思いあまって市役所に相談に行ったら「私の所でないとたらい回しにされた」「個人的な悩みや問題は市役所の仕事ではないと言われた」縦割り行政にサヨナラ、苦しんでいる人、困っている人の相談に耳を傾け、その人が抱えている問題の解決や、ニーズに沿った支援となるネットワークが必要です。
② 生かされる仕組みづくりと実践
  住民に一番身近な市町村に仕事が移譲され、数多くの○○計画、○○協議会という政策や仕組みがつくられていますが、計画策定にエネルギーが費やされ、計画を地道に実践していく仕組や活動が十分ではありません。宇佐市では自立支援協議会の下部機関に「地域生活」「就労支援」「療育・教育」という当事者の家族を含め幅広い市民が参加した実践するネットワークが機能しています。
③ 行政内(横割り)、社会資源のコラボレーション
  子ども、保護者がかかえる様々な問題への対応、子どものライフサイクルに応じた支援は一課一係、一担当では担いきれません。さらには行政内だけでも限界です。行政内の横割りと様々な社会資源の連携(コラボレーション)が必要です。5歳児すこやか発達相談会が実現できたのは、まさにこのコラボがあったからです。事務局を子育て支援課と福祉課が担い、5歳児すこやか発達相談推進ネットワーク会議には民間保育園、民間幼稚園の参加は不可欠だったのです。2010年度には福祉(福祉課・子育て支課)と教育のコラボを図るための「特別支援教育」モデル事業に取り組むことになっています。
④ 抱えこまない協働、個別を大切にした支援
  自立に向けた支援は長期になる事が多く、息切れしないためには関係者ネットワークによる支援が必要です。個別支援会議とかケアー会議と呼ばれていますが、関係者が同じ方向で役割を分担し、支援を行っていく話し合いを継続していきます。宇佐では年間200回を超す個別支援会議が開催されています。
⑤ 請負(保護)しない。本人・保護者のエンパワーメントを高める支援
  前述した別府市南部子育て支援センター「わらべ」はまさにこの事を実践しています。職員主導の育児サークルは1年間のみで、その後は子育ての当事者である保護者の主体性をエンパワーメントする地域(自主サークル)の育成を支援しています。この経験は保護者の価値観やニーズを明らかにし情報選択や意志決定能力を養い、様々な問題解決ができるようになります。その結果として、自立心や親としての自信につながり、将来も積極的に生き生きとした子育てに臨めるようになると考えられています。さらには、保護者同士のつながりの中で地域における子育て環境にも目を向けることになり、子育ての支え合いや連帯意識の芽生えも期待できます。(わらべ報告より)
  障がいのある人は「何もできない人」「かわいそうな人」「働けない人」等の誤った障がい者感の中で「保護すべき人々」の政策がとられてきました。これでは当事者自身が「私は障がい者なんだ」という意識に埋没した一生を送るしかありません。住む、楽しむ、働く、人としてあたりまえの暮らしにチャレンジする支援があれば「生きる力」をエンパワーメントすることができるのです。

8. 自治体労働者として、一市民として

 地域住民の幸せや安心をつくり出していく役割を担うのが自治体労働者です。
 ところが、その当たり前のことが当たり前になっていない、そんな法・制度にしばられた仕事をしなくてはならないこともしばしばです。
 小泉構造改革による労働者の権利総崩壊、自治体財政、福祉、医療のメッタ切りにより、貧困格差が増大しました。
 国保で無保険の子どもをつくり、生活保護世帯より収入の少ない世帯が1,000万世帯あるということで生保の高齢者加算、母子加算を廃止、障害者自立支援法で応益負担を導入したりです。
 その仕事を直接担当してきたのです。当たり前のことを当たり前に戻していく自治体労働者として、一市民としての自治研活動が私たちに求められているのです。


宇佐市に於ける「ともに生きる」ネットワーク図