【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

人権を大切にする保育をめざして
(子どもの人権が守られ、いじめや虐待、差別のない社会へ)

大分県本部/中津市職員労働組合・保育所部会・第三保育所分会

1. はじめに

 当保育所は大分県の北部、福岡県との県境にある中津市の郊外にあります。設立は1977年で、地域の強い要望と運動により、中津市初の同和保育所として開所しました。
 子どもの人権を大切にする保育を、開所以来の目標としてきましたが、現在の子どもの置かれている状況を見ると、児童虐待の急増を始め、いじめや不登校などの深刻な問題が、まだまだ山積みとなっています。私たちは、就学前の人格形成の上で大事な時期に子どもの育ちの一端を担う者として、保育所生活が豊かな人格形成の礎となるよう、日々願いながら保育を行っています。
 それでは、私たちのささやかな取り組みの一端をここで御紹介させていただきます。

2. 保護者とともに

 設立が地域の運動からということもあり、「家庭」「地域」「保育所」が一体となり、友だちを大切にする思いやりのある子どもに育てていこうという思いが強く、設立当初から、保護者会の活動が盛んに行われています。
 行事への参加はもちろん、「保護者と先生の会」主催の人権研修会や、保育所周辺の除草作業などに積極的に関わり、保育所を盛り上げようと頑張ってくれています。

(1) 人権研修
 保護者と職員を対象にした人権研修会を、年6回行っています。設立当初は、人権問題や解放運動に関連する研修がほとんどだったのですが、最近では子育て全般についても盛り込みながら、研修を行っています。

(2) ヒューライツフォーラムへの参加
 毎年開催される県主催のヒューライツフォーラムへ、保護者と職員が一緒に参加し学習しています。

(3) 行事への参加
 保護者会の役員さんを中心に、様々な行事に参加いただき、企画段階から積極的に手伝ってくれています。子どもたちは、親の頑張る姿を通して学ぶことが多いようです。

3. 統合保育の実践

 障がいをもつ子どもとそうでない子どもが共に生活し、育ち合うことで、それぞれを認め合いながら成長して行けるように、障がい児の受け入れを積極的に行っています。今年度も2人の障がいのある子どもの受け入れをしています。
 保護者の方々も、送迎時に所内で共に過ごす様子を見たり、我が子から話を聞いたりする中で、障がいを持つ子どもさんへの理解と配慮ができてきているようです。

4. 他機関との連携

 問題のある子どもの保育に関しては、地域の他機関(保健所・医療機関・療育施設・市役所など)と連携を取りながら、保育にあたっています。ひとりの子どもの育ちを、色々な角度から見ることができ保育の参考になっています。
 また、地区行事への参加については、地区の交流センター(隣保館)と連携をとり参加しています。

5. 小学校・幼稚園との連携

 地区内の小学校の人権推進委員の先生や、幼稚園の先生方との交流を持ち、子どもの育ちを卒園してからも引き続き、見守るようにしています。また、小学生が保育所を訪れ、子どもたちと交流したり、小学校・幼稚園の行事に保育園児が参加したりし、子ども同士の交流もできるだけ持つように心がけています。

6. 地域に根ざした保育所づくり

 当保育所は地域の運動で設立したという経過もあり、地域の方々がいつも暖かく見守ってくれています。今から十数年前に、子どもたちのためにと、保育所に隣接する畑を地区の方が無償で寄付して下さったので、その畑に毎年サツマイモを栽培しています。
 畑を耕したり、除草したり、大変な作業になるのではと当初は不安で一杯だったのですが、地域の方がトラクターで耕してくれたり、草刈機で草を刈ってくれたりと力を貸してくださいます。
 子ども達にも、色々な世代の方々と一緒に作業をしたり、話をする中で、“(サツマイモと同じように)自分たちは多くの人達に見守られ成長しているんだな”という思いを身につけて欲しいと思います。

7. 家庭支援

(1) 家庭訪問(5月~6月)
 設立当初より、家庭と保育所が共に子どもの育ちを援助していくためには、子どもや保護者との信頼関係を築いていくことが大切であるという考えから、家庭訪問を行っています。
 家庭訪問を行うことにより、家庭環境が把握できるのはもちろん、保育所の送迎時だけでは十分に話せないことを話せたり、保護者の子育てに対する思いが聞けたり、保育所とは違う家庭での子どもの姿が伺えたりして、その後の保育にとても役立っています。

(2) 個人面談(10月~1月)
 保育所での子どもの様子を保護者に伝えたり、保護者の子育てに対する思いや、育児に関する不安事などを個別に聞いたりすることにより、子どもの育ちの手助けとなるよう個人面談を年1回行っています。
 保育士が保護者の思いを受け入れ、話を十分に聞く姿勢を見せることで、保護者としても心が軽くなり、子育てを楽しめるようになって欲しいと思っています。

(3) 育児相談
 保護者からの育児相談には迅速に対応し、時間をゆっくりとって話を聞くようにしています。また、必要があるときは他機関とも連携をとり、保護者が安心して子育てできるような対応を心がけています。

(4) 啓発活動
 人権研修への参加を呼びかけたり、人権に関するポスターやお便りを掲示して、保護者への啓発活動に努めています。

8. 職員の資質向上

 様々な研修に積極的に参加し、自己研鑽に努めています。具体的には、専門機関が行う各種研修会や、園で行う「保護者と先生の会」主催の人権研修に参加し、保育技術だけでなく人権に対する意識を高めるようにも心がけています。さらに、研修会に参加した後は報告書を作り、研修に参加できなかった職員にも伝わるよう全体に報告しています。
 また、園内研修を毎月1回行い、園児全員の育ちに職員全員で関わっていくようにしています。

9. 今後の課題

・ 「保護者と先生の会」主催の人権研修会は、年々参加率が落ちて来ています。保護者が参加しようという気持ちが持てるように、研修の内容を若い世代にも興味のあるようなものにしたり、保育参観とセットにしたりと、様々な工夫を凝らしていますが、なかなか難しいところがあります。
・ 地区内の子どもが減少し、他地域から通う子どもが増えて来ています。地域の子どもたちが他の地域の子どもと育ち合うことはとてもよいことだと思うのですが、世代が変わり、人権に関して共に学び、差別のない世界を作っていこうとする思いが以前とは変わってきているようです。
・ 障がい児の受け入れはしているものの、保育所の建物がバリアフリーにはなっておらず、歩行の困難な子どもの受け入れに対して、不安があります。早急に対策を講じる必要を感じています。

10. おわりに

 中津市初の同和保育所として開所して既に33年が経過しました。開所以来、「子ども一人ひとりを大切にした保育」を目標に保育を行ってきましたが、子どもたちを取り巻く社会は、いじめや虐待、差別など依然として厳しいものがあります。
 私たちは、保育所・幼稚園・学校・家庭・地域社会が連携し、地域ぐるみで子どもを支えていくという考えの下、その一翼を担う者として今後更に努力していきたいと思っています。そして、すべての子どもの人権が尊重された、一人ひとりに優しい社会となるように願っています。