【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

保育職場における現状と課題


大分県本部/豊後大野市職員連合労働組合・保育部会 佐藤 健章

1. はじめに

 豊後大野市はのどかな田園風景の広がる自然豊かな土地にあり、以前の大野郡内5町2村が、平成の大合併によって一緒になった、人口約4万人の市である。市内には、多くの公立や私立の幼稚園、保育園が点在しており、そのうち公立の保育園はへき地も含め9園設置されている。しかし、その施設配置は旧町村ごとにおいてバラバラであり、公立のみ、保育所のみという旧町村も少なくない。そのため、その問題を解消するため、1施設が保育所型認定こども園となった経緯もある。また、合併となった事で、旧町村ごとそれぞれの園に勤務していた職員同士の人事異動も始まり、現在に至っている。

2. これまでの取り組み

 保育部会は調理員も含めた保育園の職員によって構成され、定期的に役員会や全員学習会に取り組んでいる。その中では、保育をめぐる全体的な問題はもちろん、それぞれの職場における現状などが活発に議論され、それらの意見を集約しながら、各種闘争の中に要求という形であげてきた。主な活動内容としては、人員の確保や施設の老朽化に伴う改善要求をしたり、市の集中改革プランや子育てプランに対して、担当課のみではなく、行政管理室や市長とも話し合いの場を設けたりしてきた。

3. 現在抱えている問題

 新しい年度がスタートしたものの、保育現場からは悲鳴にも似た切実な声が聞かれる。保育部会としてもそれら現場の声を拾っていく中で、目の前に山積する課題は大きく2つに分類されると捉えている。一つは、臨時嘱託職員に関する問題。もう一つは、統廃合や民営化に関する問題である。どちらも一足飛びに解決できるような簡単な問題ではないが、それぞれに関して現在までの情勢も踏まえた上で、今後の取り組みや課題についても提起していきたい。

4. 臨時嘱託職員に関する問題

(1) これまでの経緯
 全国どこの保育現場でもほぼ同様であろうが、豊後大野市内の保育職場も、正規職員と嘱託職員(1年契約)とが一緒に働いている。しかし、旧町村時代から、正規職員の補充が完全に行われていなかった事に加え、合併以降はたとえ退職者があったとしても、保育士の職員採用はゼロのままであり、正規職員数もその割合も減っていく一方である。事実、それぞれの施設運営は、嘱託職員に頼っている所が大であり、現場で動ける正規職員は数名で、残りの職員は全て嘱託職員となっている。またどの園でも、各年齢ごとのクラス担任を正規職員ではなく、嘱託職員がカバーしている。そのような嘱託職員の負担の大きさについて、保育部会としても組合役員の力を借りながら何度となく各種闘争の中で訴え続けてきた。結果、保育士資格を持つ現場の嘱託職員のみ、他の嘱託職員と比べ月額5,000円の上乗せを獲得することができた。また、勤務労働条件についても課題がある。豊後大野市では、嘱託職員の連続雇用は3年までとなっている。それは、資格職場である保育の現場でも同様であり、合併3年目で多くの嘱託職員が次年度からの雇用ができない形となった。現場からの声を受け、市は新規採用者を探しても応募が少なかったことから「再雇用での延長を3年までとし、再々雇用はしない」という内容で継続雇用することとした。嘱託職員に引き続き来てもらえること自体はありがたいが、依然その労働条件は改善の余地がある。

(2) 現在の状況
 2010年度がスタートした時点から現在まで、多くの保育職場で人員不足となっている。理由の一つとして正規職員の退職者分が補充されていない事に加え、主任の園長登用に伴う現場で動ける正規職員数のさらなる減少が理由としてあげられる。その分の人員減は、どの職場においても嘱託職員で補うしかないが、その嘱託職員も職場を離れていっている現状がある。理由は「負担が大きい」「将来が見えない」というものである。「負担が大きい」とは、正規職員と同様にクラス担任、各種書類、時差出勤をこなしていくにも関わらず、正規職員との賃金格差が大きい事があると思われる。正規職員の人数や割合が多ければ、嘱託職員に配慮した勤務や事務量の軽減ができるかと思われるが、この現状ではそれも無理である。また、「将来が見えない」とは、先にも述べた6年を超える再々雇用ができない事が大きく影響していると思われる。このような嘱託職員の減に対し、市は各種組合交渉の場において「人員の確保についてはしっかりと行う」と応えてきたこともあり、ハローワーク等で求人を行っているが、採用できる人数は少ない。豊後大野市全職員に保育士募集のメールを送信したり、人事異動後に再度人事異動を行うという異例の措置を取ったりもしたが、それでもなお人員の不足は生じている。新しく保育の仕事に就こうとする人材がいたにしろ、この不況下、負担も大きく、雇用条件にも不安を抱えるのであれば、私立や他の施設、職場に目が向くのも理解できる。またこれは、新規の嘱託職員だけの問題ではない。合併から今年で6年が経過する。その時点から働いている嘱託職員は、それぞれの園で3~4人。全体では15人強の嘱託職員が来年度以降の継続雇用ができなくなる。嘱託職員にしてみれば、来年度以降の身の振り方について、園としては運営自体の面で、どちらも大きな不安を抱えている。

(3) 今後の課題
 しかしながら、その状況に対して手をこまねいて見ているだけにはいかない。「負担が大きい」の部分に関しては、正規職員の増により改善の可能性はある。これからも引き続き、各種交渉の場で正規職員の補充、採用を訴えていきたいと考える。また、「将来が見えない」に関しては、先の再々雇用の改善を強く訴えていき、なんらかの回答を得なければ、来年度以降の運営自体が成立しないという緊急の課題である。これに関しても、当局をはじめ、担当課等に力強く訴えていく必要がある。

5. 統廃合や民営化に関する問題

(1) これまでの経緯
 今後の豊後大野市のあり方を示す指標として、「集中改革プラン」と称し、5年ごとに計画を策定している。合併して今年で6年を迎えるということは、2005年から2009年までの「第1次集中改革プラン」が終了し、2010年からは2014年までの「第2次集中改革プラン」の実施時期に入ってきている。その「集中改革プラン」の中では、組織改革や職員の削減なども盛り込まれ、もちろん保育園の統廃合や民営化にも触れられている。「第1次集中改革プラン」の中では、民営化も視野に入れながら検討するとあったが、具体的な内容については全く触れられていない。組合交渉の中でも、統廃合や民営化の意思があるのであれば、事前に組合と協議する旨をその都度確認しており、その動きは現在までにおいて確認されていない。

(2) 現在の状況
 今年度からは先にも述べた「第2次集中改革プラン」がスタートしている。本来であれば、昨年度末に議会承認を経てプラン提示となる予定であったが、作業の遅れにより現在も正式な文書が発表されていない。つまり、統廃合や民営化に関して、どのような文言が記載されるのか決定していない状況である。「第1次集中改革プラン」の中で、民営化を含め検討という文言が記載されている限り、民営化を含めた整理統廃合の話はゼロベースではない。県内や全国の各市の状況を見るにあたって、突然の民営化発表があってもおかしくはない。また、へき地の問題もある。豊後大野市は4つのへき地保育園を抱えているが、どの園においても園児数の減少が大きく、現在では補助金の交付もなく、すべて市の持ち出しとなっている。へき地保育園の隣にあった小学校が統廃合で閉校になったり、園児が3人(年度スタート時は2人)という所もあったりして、へき地保育園の存続に関しても厳しい状況となっている。人数の少ないところに、設置基準どおりの職員2人(正規1人、嘱託1人)の配置は、市からの完全な持ち出しの中で、金銭的にどうなのかという問題もある。しかし、それ以上に子どもの育ちを考えるにたって、へき地という立地的な必要性も考えられるが、本当にそれでいいのかという疑問も残る。

(3) 今後の課題
 「第2次集中改革プラン」に関しては、昨今の経済的な情勢を考えてみても、整理統廃合、民営化は避けて通れない道であり、今後具体的な民営化の方向性や実施方法等について、記載されたり提案されたりする可能性が高いと考える。保育部会としては、現状把握も含め、内容がどう盛り込まれるのかを、随時担当課など話し合う機会を持ちながら、しっかりと確認していく必要がある。また同時に、保育部会として、職場で働く一職員として、その提案や文言をどう捉えるのか、その提案に対して最終的にどうするのかを真剣に議論していく必要がある。互いに意見を交わす中で、衝突することもあるかとは思うが、全員学習会等の中で歩むべき道を見出していく事こそが重要ではないだろうか。また、それはへき地に関する問題においても同様であり、様々な情勢を考慮に入れながらも、子ども達の育ちを第一に考え、保育部会としての意見を導き出したいと考える。今後、保育職場の整理統廃合という形が進んでいくのであれば、それは職員のみではなく、利用者である保護者や園児にも直結する問題となる。そのような場面も想定し、これまで全国多くの自治体が取り組まれたように、保護者と一体になった活動も視野に入れておく必要があると考えている。

6. 最後に

 これまで述べてきたように、保育をめぐる問題や課題は山積しており、一つ一つの問題は、それぞれ単体で解決できるようなものではなく、すべてがリンクし、複雑に絡み合い、影響し合っている。抱えているものすべてを一度に解決することは不可能ではあるが、絡み合った糸をひとつひとつ解いていくように、少しでも前へ、少しでもいい方向へと、保育部会全員で進んでいきたいと考えている。