【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第7分科会 貧困社会におけるセーフティネットのあり方

 一昨年秋のリーマン・ショック以降、派遣切り等にあった労働者が失職と同時に住居を失いホームレスになってしまう、凡そ先進国では考えられない事態が今なお延々と続いている。国の緊急対策としての「第2のセーフティネット」は使い勝手が悪く住居を喪失した人の多くが生活保護を頼り、生活保護受給世帯は過去最多を更新し続け自治体財政も逼迫している。雇用施策としての新たなセーフティネットの再構築を現場から提起する。



新たなセーフティネットの再構築で住居喪失者の
自立支援を
 

東京都本部/新宿区職員労働組合・新宿区福祉事務所 嘉山 隆司

1. はじめに

 一昨年の年末の「年越し派遣村」は、派遣切りなどで労働者が失職と同時に住居を失い路上に放り出されるというおよそ先進国では考えられない貧困を可視化し、雇用・住宅などのセーフティネットの脆弱さを露呈した。そして1年後、年越し派遣村が必要にならないよう、国は緊急雇用対策に基づき就労、住宅、生活相談を1か所で実施するワンストップ・サービス・デイ(2009年11月30日、12月21日の2回:試行実施)や「年末年始の生活総合相談」が実施され、東京都のみが国の要請で「公設派遣村」を設置した。
 自治労東京都本部は、一昨年の「年越し派遣村」の教訓を踏まえ、昨年11月に困窮者支援のため「ワンストップ・サービス・デイ」等困窮者支援対策委員会を立ち上げた。そして、昨年10月に出そろった「第2のセーフティネット」の改善や手続きのワンストップ化、シェルターの確保、特定の自治体に課題が集中しないよう全国的な取り組みとする、年末のイベント化ではなく通年体制の取り組み、人員などの実施体制の整備、そして何よりも労働者派遣法の抜本改正など労働法制の整備や雇用充実への経済政策策定などの改善を東京都や自治労本部・連合東京を通じて国へ要請してきた。
 ワンストップ・サービス・デイや「年末年始総合相談」としての「公設派遣村」は多くの課題を残した。以下、自治労東京都本部の取り組みから雇用不安定化での貧困への新たなセーフティネットをどう再構築するのか、三度年末年始対策が必要とならないよう、本稿では主に住居を喪失した求職中の貧困・困窮者に関わる緊急かつ短期的課題についての改善策を提起する。

2. ワンストップ・サービス・デイ、公設派遣村から見えてきた課題

(1) 生活保護への過度の負担
 一昨年秋のリーマン・ショック以降、派遣切りなどで失職と同時に住居を失う非正規労働者や解雇・倒産等で生活困窮に陥った人が福祉事務所に支援を求め、その結果、生活保護世帯は急増し180万人を超え過去最多を更新し続けている。特徴的なのは、高齢者や傷病・障害でもない稼働能力のある「その他世帯」の増加が著しく、失業対策の様相をおびてきていることだ。彼らのほとんどが「第1のセーフティネット」である雇用保険の加入適用外(2010年4月から加入要件が31日以上雇用見込み、1週当たり労働時間20時間以上に拡大)のため、次の職が見つかる前に蓄えが尽きればホームレスになってしまう。それらが2度の「派遣村」で顕在化し、いまなお常態化している。住居のある人、とりわけ若年層の申請も増加しており、雇用・住宅といったセーフティネットの不十分さを生活保護が延々と救済している構図になっている。
 生活保護の現場では、国の標準数(一人当たりの担当世帯数80)を守るどころか、それを大きく上回り、ケースワーカーは新規開始や支援困難世帯への対応に追われ、生活保護の目的である「自立助長(就労・生活支援)」が機能しないなどの問題も指摘されている。生活保護費の25%は自治体負担であり、生活保護申請の増加に、不況による住民税減収が拍車をかけ、自治体財政をさらに逼迫させている。地方からの流入者の生活保護申請が集中している大阪市や東京23区の特別区議会議長会などは実態に合わせ生活保護費の全額国庫負担や有期保護制度を含む生活保護制度改革の実施を国に要請するなど、危機感を募らせている。

(2) 十分機能しない「第2のセーフティネット」
 国もこうした事態に対して、「最後のセーフティネット=生活保護」の前の新たなセーフティネットとして、2008年2月に雇用保険未加入者のための制度として「就職安定資金融資(リストラによる離職に伴い住居喪失した人に住居入居費、家賃等を貸し付ける)」をスタートさせた。しかし、状況はさらに悪化し2008年末の「年越し派遣村」は雇用・住宅などのセーフティネットの脆弱さを露呈した。国は2009年7月に「訓練・生活支援給付」、8月に「長期失業者支援事業」、9月に「就職活動困難者支援事業」、10月には「新たなセーフティネット」として「住宅手当緊急特別措置事業(住宅手当・最長6カ月の家賃補助)」「総合支援資金貸付(失職により住居を喪失した人の生活再建を支援する住居入居費・生活支援費の貸付)」「臨時特例つなぎ資金(貸付金支給までのつなぎ資金10万円の貸付)」をつくり、緊急経済対策としての「第2のセーフティネット」と呼ばれる制度が出そろった。
 当初、画期的と言われた住宅手当、そして住居喪失者向けの住居入居初期費用貸付金等だが、生活保護に比べ周知度が低く、窓口がばらばら、手続きが煩雑、要件が厳しい、決定までの期間が長い、ほとんど返済が必要な貸付等から使い勝手が悪い、とされ2009年末~2010年初頭の「公設派遣村」入所者のほとんどが生活保護を申請し、これら制度の課題も浮き彫りになった(入所者860人中344人が自主・強制退所し、残り516人中482人(93%)が生活保護、住宅手当10人、臨時特例つなぎ資金13人、総合支援資金1人等)。
 具体的には以下の問題点が挙げられる。

図1 <厚生労働省発表数値>
住宅手当利用実績(全国)
累計(2009年10月~2010年3月)
申 請 件 数 
25,811人
   住宅喪失者
5,728人(22.2%)
   住宅喪失の恐れのある者
20,083人(77.8%)
決 定 件 数 
19,771人
   住宅喪失者
3,063人(15.5%)
   住宅喪失の恐れのある者
16,688人(84.5%)
 

① 周知されない制度
  住居喪失者は派遣切り等で失職した時点では一定の蓄えがあり、仕事を求め東京などの大都市へ移動し、カプセルホテル、サウナ、ネットカフェ、漫画喫茶、24時間営業の飲食店等に身を置きながら求職活動をする。蓄えが僅か又は無くなってから福祉事務所やハローワークに相談に来て初めて制度を知るのがほとんどだ。相談の現場から見ると、当座の生活費を所持している時に制度に結びついていれば、少なくともホームレス状態にならず住居を確保することができたと思われる人も相当数いる。
② 不十分で使い勝手が悪い内容
  金融機関口座がない人や離職証明がとれない人は申請すらできない。申請後は貸付金の審査が長く、住居入居までに3週間から1ヶ月要し、さらに生活支援費と一時生活再建費(家財等購入費)の貸付まで3週間から1ヶ月要するため、アパートに入居しても生活費がない。また3ヶ月先でも失業手当支給見込みがあれば総合支援資金の貸付対象にならないなど、住居喪失者にスピーディーに住居確保させる仕組みになっていない。
③ 就労に結びつかない現状
  住宅手当の目的は「家賃補てん」ではなく「就労」である。受給中の要件として、就労に向けハローワークでの月1回以上の職業相談及び月2回以上の自治体での面接相談があるものの、就労に結びつかず生活保護を申請するケースも出てきている。東京都内の利用実績(図2)は就労支援の困難さを示している。雇用情勢も厳しいうえに、住居喪失=貧困に陥った過程も多様であり、住居確保してもスムーズに就職に結びつかないといえる。
図2 住宅手当利用実績 累計(東京都内 2009年10月~2010年3月)

3. 新たなセーフティネットの再構築を

(1) 「第2のセーフティネット」の改善
 現場の意向等を踏まえ、2010年度に住宅手当の支給要件が緩和されたが(①支給期間最長6カ月→最長9カ月、②収入要件:単身世帯、月84,000円以下→84,000円に1ヶ月当たりの家賃額(53,700円上限)を加算した金額未満、③収入要件判定時期:申請月の属する月→離職により申請月の翌月から無収入になることが明らかな場合も支給対象に追加、④離職時期要件:申請前2年以内→2007年10月1日以降、⑤世帯主要件:離職前に世帯主→離職時に世帯主ではなかったが、離婚等により申請時に世帯主である者)、住居喪失者の住居確保に欠かせない住居貸付費などの総合支援資金の貸付要件や煩雑な手続き、審査期間の短縮、シェルターの確保などは何一つ改善されないままだ。以下、待ったなしの改善策を提起したい。
① 窓口のワンストップ化と制度周知を
  失職により路上生活を余儀なくされている人には就労意欲があるうちに住居と当面の生活を確保し支援することが重要だ。「住宅手当」は自治体、「つなぎ資金」「総合支援資金」は社会福祉協議会、求職申し込みはハローワーク。心身ともに疲弊しきった住居喪失者が地図を片手に3か所を回り、さらに離職証明を解雇先に取りに行かないと申請ができないというのではあまりにも酷である。
  2009年11月30日全国17都道府県で試行実施されたワンストップ・サービス・デイの利用者アンケートでは実施について約8割の人が「よかった」と回答、「1か所で仕事・住まい・生活の相談を行えたメリットについて」も約8割の人が感じた、と回答。新しいセーフティネットの感想については約6割が分かりやすかった、と回答した。バラバラの住居・生活・就労相談窓口を一本化し、制度周知を徹底することが必要だ。新宿区では制度実施以来、生活保護の相談を行う福祉事務所と隣接の分館に住宅手当窓口を設置し、さらに貸付を担う社会福祉協議会が同じカウンターに並び(ハローワークも10数分の徒歩圏内にある)、まさに「ワンストップ・サービス」を行っている。そうした工夫もあり、住宅手当申請件数は東京都内で最も多く、東京23区の12%を占めている(2010年3月末時点)。
② 制度内容の改善を
  再就職が厳しい雇用状況を踏まえ、住宅手当の支給要件のさらなる緩和や貸付金の要件緩和、審査期間の短縮、アパート入居までのシェルターの確保が必要だ。東京都・特別区では2009年12月から「住宅手当」申請の住居喪失者等を対象に借り上げ施設(カプセルホテル等)に入所させ、生活費を支給し自立を支援する路上生活者緊急宿泊事業を導入した。各ブロック30人(5ブロック)と数は少ないが、これによりアパート入居までの住まいが無料で提供され、就職活動に踏み出すことができる。「第2のセーフティネット」の隙間(不備)を埋め、生活保護に頼る前に自立する手助けをするこうした仕組みは、住居喪失状態の相談者を励まし、「住宅手当」や貸付金を利用し自力で生活再建しようとする人の増加にも繋がっている。申請後、路上で決定を待ちアパートに入居したケースと、申請後に借り上げ施設に入りスムーズにアパートに入居したケースとでは、心身の疲労具合等からその後の就労への意欲に大きな差が出てくることは容易に想像できる。
  さらに「貸付型」から「給付型(資金、礼金等の住居入居初期費用も住宅手当対象とする)」へ制度の根幹を変えることが、返済や再就職への不安を感じている住居喪失者を支援し制度の最終目的である「就労」に結びつく可能性も増し、こうした改善が「第2のセーフティネット」を使いやすくすることになるだろう。
③ 実態に合わせた住宅確保を
  短期間での住宅確保には就労・生活支援付きの現物給付型が相応しい。一例として、2004年、東京都・特別区がハウジング・ファースト(住居第一)の考え方に基づいて実施した「ホームレス地域生活移行支援事業」がある。この事業は自治体が業界団体と契約し借り上げたアパート物件をストックし、都内大規模公園で生活しているホームレスで希望した人に月額3,000円で2年間提供(定期借家契約)した後、本来の家賃契約に切り替えるか、別の民間アパートに転居するというシステムで、既に約2,000人もの人が地域に定着し暮らしている。希望者は物件を見て承諾すればすぐ入居でき、自分で物件を探す必要がないことと、さらに一定額の家財購入費が支給され行政(NPO等)による入居後の生活サポート等が加わったことが定着した理由ともいえるだろう。アパート物件を借り上げるこうした仕組みは行政に契約期間中のリスクをもたらすため、国が先頭にたち、東京都・特別区が実施した事業を参考に自治体が容易に実施できる新たな仕組みをつくるべきだろう。総務省の2008年の統計では賃貸住宅の空き家率は過去最高の13.1%で賃料も下落傾向だという(2009年11月28日付朝日新聞)。
  「就職安定資金融資」では会社経営者と不動産業者が結託してハローワークに提出する書類を偽造したり、被解雇者になりすましたりして不正に融資を受ける詐欺事件も起きており、こうした貧困ビジネスを封じることにもなり、2011年度限りとされている住宅手当制度等の恒久化への理解も得やすくなるだろう(2010年6月14日付朝日新聞 )。
④ 就労支援の強化を
  住宅手当制度の最終目的は「家賃の補てん」ではなく「就労」であることから、住宅手当の受給者には、ハローワークでの月1回以上の職業相談及び自治体での月2回以上の面接相談が要件となっている。しかし、要件を満たすことを目的とする活動のみを行い、就職に向け求人先への応募、面接等を行わない可能性が指摘され、2010年度からは就職活動要件に「原則週1回以上の求人先への応募等」が追加された(生活と福祉 2010年4月 全社協)
  最近、住宅手当、住居・生活資金貸付を受け住宅を確保したが、就労に結びつかず生活保護を申請するケースも増えてきている。ある自治体の住宅手当担当者は、住宅手当支給決定者の就職者数が圧倒的に少ない理由について、家族関係も断たれ社会的に孤立している人、自分が抱えている問題を認識できない人、メンタル面での問題を抱えた人などもおり、面接相談や職業紹介を粘り強く行っても採用されにくいのが現実だという。また、アパート入居したがために社会から孤立してしまったり、路上生活しながらの住居探しでエネルギーを使い果たし先に進まないケースもあるという。
  住居喪失に至ったプロセスも複雑・多様化している中、要件を厳格にするだけでなく、メンタル面も含め個々人の状況に応じた生活・就労支援を中・長期的に行う仕組みを作らなければ、早晩この制度は生活保護へのたんなる迂回路になってしまうだろう。

(2) 各都道府県に通年型の生活・就労支援センターの確保
 大都市部の自治体には「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づく「緊急一時保護センター」、「自立支援センター」が設置されホームレスの自立に成果を上げている。緊急一時保護センターで詳細なアセスメントを行い、短期的自立が可能な人は自立支援センターへ移行し、最大4カ月の期間で入所者の概ね5割が自立している(自立支援センターに移行できない中・長期的支援が必要な人には生活保護等での支援を行うことになっている)。個室でない(新たに設置される新型自立支援センターは準個室)、規則が厳しい等の指摘があるが、就労支援という面に限れば生活保護以上の手厚いケアがされている。
 こうした従来のホームレス支援策や福祉施策を参考にしながら、新たに「雇用施策」として都道府県単位での生活(生活訓練含む)・就労(職業訓練含む)支援機能を持つ支援センター(個室宿泊型、通所型)を設置し、失職で路上生活に陥った人への「パーナル・サポート・サービス」を展開し、就労・住居確保・生活支援を継続的に行い、地域や社会での居場所を確保していくことが必要だ。

(3) 住宅セーフティネット
 従来から言われているが、派遣切り・雇止め、解雇などで失職後も引き続き社員寮(住居)の提供を継続する雇用主を支援する制度や公務員住宅、旧公団住宅などの空室や借り上げ住宅への入居、家賃補助制度など住居喪失及び喪失の可能性のある人への支援を充実させることが必要だ。

4. まとめ

 生活保護の現場では保護世帯が急増し、支援にあたるケースワーカーの増員も追いつかず、一人あたり担当世帯数は国の標準数(80世帯)を大きく上回り、100世帯以上は当たり前になってきている。社会経済状況の大きな変化により、精神疾患、DV、行き場のない高齢者、発達障害の若者、刑務所出所者など様々な問題を抱えた支援困難な人々も増加しており、施設などの社会資源が不足する中、地域での生活を支えることも困難になってきている。 
 一昨年秋以降は、「稼働能力」がありながら貧困に陥った人が増えている。貧困に至るプロセスも複雑・多様化している中、貧困解消の解決策を「最低生活保障」の名のもとに全て「生活保護」で、という今のやり方は実施体制一つとっても無理が生じてきている。他法他施策(生活保護法第4条で「他の法律に定める扶助(年金や手当等)は生活保護に優先して活用すること」と規定されている)に該当しない使い勝手の悪い制度をいくら作っても、それらはあまり利用されず、最初から使い勝手のいい「最後のセーフティネット=生活保護」が頼られているのが実態だ。
 新たなセーフティネットを構築しないで、生活保護で全て救済しろ、というのであれば、かかる費用の全額を全て国が負担し、就労や生活支援など自立支援ができるようケースワーカーを大幅に増員するべきだろう、というのが現場の率直な思いだ。一昨年末の「日比谷派遣村」のテレビの映像はまさに震災後の現場を彷彿させるものだった。震災には震災対策ではないのか。労働者派遣法などの労働政策の失敗による住居喪失者支援は労働政策できちんと行うのが筋だろう。三度「派遣村」ができないよう「新たなセーフティネット」の再構築は急務である。