【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第7分科会 貧困社会におけるセーフティネットのあり方

生活支援


大分県本部/大分県地方自治研究センター・社会保障専門部会・生活支援グループ

 
第1のセーフティネット
 
第2のセーフティネット
 
第3のセーフティネット
 
第4のセーフティネット

1. 第1のセーフティネット=「雇用」

 日本的雇用システムの崩壊。
 終身雇用制、年功序列賃金制、企業別組合という「三種の神器」を特徴とする日本的雇用システムが、バブル崩壊後、新規採用の大幅な抑制と非正規雇用化、さらに経済のグローバル化のもと職務給や成果主義賃金を導入して景気変動に合わせて柔軟に雇用調整できる雇用システムへと変化。働いても最低生活を満たすことのできないワーキングプアの大量出現を招いた。

2. 第2のセーフティネット=「社会保障」※防貧機能

 公的年金、医療保険、雇用保険で最低限生活保障機能が非常に弱い。例えば老齢基礎年金を例にとると、40年払い続けても月66,008円で生活保護規準以下。医療保険にある傷病手当金は給料の3分の2の保障しかなく、国民健康保険には傷病手当制度さえない。病気になったとたん、生活保護基準を圧倒的に下回ってしまう。
 つまり保険料を営々と払い続けても、まさかのときに生活保護基準以下の保障しか受けられない。今や全雇用者の3分の1を占める非正規雇用者は、その社会保障の網からも抜け落ちている。

3. 第3のセーフティネット=「公的扶助(生活保護)」※救貧機能

 第1、第2のセーフティネットから漏れた失業者、ワーキングプア世帯また生活基盤の弱い高齢者や母子世帯が生活保護に直結しているわけである。一旦制度の適用を受ければ他の社会保障制度が機能すべき保障もすべて生活保護制度が丸抱えとなり、その財政的負担が自治体財政を大きく圧迫している。翻って、生活保護の利用には厳格な資力調査が必要で、要保護状態にあってもその利用に結びつかない場合も多くあり、補足率(生活保護基準以下の生活者のうちの保護受給者の割合。ドイツ:85~90% 英国:87%)は19.7%と推定されている。

 自分自身の努力によっても雇用は安定せず、→貯蓄は目減りし家族や親族の支えも期待できず、→社会保障制度も利用しにくく、→生活するに十分な給付が準備されているわけではなく、→最後の砦である生活保護制度に陥る生活困窮者が著しく増加している。失業や病気など、思わぬ生活危機に見舞われた時、相談や一時的に必要十分な何らかの扶助が受けられれば、立ち直るきっかけが出来るわけだが、それができずに最底辺に滑り落ち、気がつくと、生活保護という制度に行き着いている。そのうち現状に満足し、「生活保護」が手段から目的へと意識が変化してくる。一度足を踏み入れた生活保護での生活から自立へ向かうことは、よほどの強い意志がない限り至難の業であり、更にそのうしろ姿を見ながら成長する子どもにとっての影響は大きい。二代三代にわたって生活保護世帯という世帯が増えてきている傾向があり、現在の市町村財政に大きな負担となっていることは言うまでもないが、次世代に悪影響を及ぼしていることが憂慮される。


被保護世帯数、被保護人員、保護率の年次推移


被保護実人員、世帯類型別被保護世帯数の対前年同月伸び率の推移

生活保護の受給期間の構成(H22年3月末現在)<別府市>
受給年数
1年未満
1年~10年
11年~20年
21年~30年
31年~40年
40年以上
合 計
世帯数
395
1,615
444
266
103
23
2,846
構成比
13.9
56.7
15.6
9.3
3.6
0.8
100

4. 第4のセーフティネット=……なんでしょう?

(1) 生活困窮に至る理由
 生活困窮に至る理由は、失業、就労収入の減少、事業不振・倒産、貯金等の減少・喪失、病気けが、離婚、高齢、借金等々、あるいはそれらが複合的に重なり合っている。さらに、精神疾患(自殺を企図する、うつ状態で引きこもる等)、アルコール依存症、認知症(徘徊、不衛生行為、失火、金銭管理ができない)、DV(虐待やネグレクト)、社会適応力の欠如した(人格障害)方の周囲とのトラブル、犯罪累犯者、多重債務など深刻な問題が内在するケースも多く見られる。そして、これらの問題のために周囲から見放され、社会生活そのものを営む事が出来なくなり、生活困窮に至るケースが確実に増えている。そして最終的には孤立し、自殺や孤独死に至るケースもある。
 こういった問題の多くは、今日の社会の支えあう力の欠如や対立・摩擦あるいは無関心といった状況から発生すると考えられるが、自殺や孤独死といった極端な形で現れたとき、初めて顕在化することが少なくなく、通常は孤立化したドアの中で「見えない形」をとっている。

(2) 問題が解決できない理由
① 個人、家庭、地域、働く場の要因
  従来、自助・共助として、個別の問題を受け止め、解決してきた家庭や地域のつながりが希薄化し、働く場(企業)における援助機能も脆弱化している。また一方で、個人が家庭や地域等との接触・交流なしで生活できる社会になっていることも確かである。
  その結果、個々の問題がますます外から見えにくく、解決が困難になっている。
② 実施主体の要因
 ・社会保障制度整備の充実のために、実施主体の側において業務の専門性が高まる反面、その制度の枠の中でしか問題を捉えられなくなってしまい、制度の谷間に落ちるケースを見過ごす傾向が強くなっている。
 ・実施主体に排除意識や、縄張り意識が存在。

(3) 問題の解決に向けて
① つながりの再構築
  民生委員や社会福祉協議会、地域包括支援センター、自治会、NPO、生協、農協、ボランティア団体、各種民間団体等の連絡会による情報交換の「場」を設け、孤立した人への見守り的介入を行う。
  また、問題を有する人々がいつでも相談できたり、共通の問題を抱える人々の交流のための「場」の提供を行う。
② 行政の取り組み
  従来のような行政の窓口で待つ「消極的」な関わりではなく、地域に「積極的」に出向くアウトリーチの取り組み


  ●地域支援員制度の創設:(例)佐伯市地域支援員「ゆうゆうサポーター」制度
〈目的〉地域包括支援センターの総合相談支援事業を地域住民全般に拡げ、地域支援員を設置。地域支援員が地域の巡回相談を行う。
〈対応〉社会福祉士、社会保険労務士、市町村の相談支援業務OB等専門知識のある者を地域支援員として任命。地域住民と行政との橋渡しを行う。
〈効果〉地域住民の潜在的なリスクが掌握され、リスクが顕在化する前に未然に生活支援を行うことができる。
  ●行政外部(事業)者等との連携
   社会から孤立した人々を発見するため、水道、電気、ガス等の公共料金事業者等との情報提供共有制度や新聞、郵便等の配達人、家主などからの通報を受ける体制の確立。
  ●生活支援のための総合窓口の設置
   「ワンストップサービス」を市町村役場内に常設する。
〈目的〉社会保障制度について、誰でもが知る(周知する)ことができ、必要に応じ即座に利用できること。
    各実施機関の対象者情報および、市町村役場の住民情報を利用可能とし、即応体制を作る。
〈効果〉相談者(利用者)の生活リスクが体系的に把握でき、第二のセーフティネット(社会保障制度)の目的である防貧的機能を利用することにより最低生活(生活保護世帯)に陥る前に自立支援ができる。


5. 最後に

 住民に一番近い場所にいる自治体職員に何ができ、何をなすべきか。
 一つ目に住民の立場に立って考えること。住民で、役場に好んで行く人はあまりいない。例えば、何か困った時や人生における節目であったり、経済活動の準備、不慣れな事をするとき等がおおよその理由であろう。不慣れで困っている人に積極的に声をかけ、話に耳を傾け一緒に考えることはあたりまえの行いではないだろうか。その結果、住民との間に役場に行けば相談が出来るという信頼関係を築くことができると思う。
 二つ目に工夫をすること。知らないとか、担当ではない、法に書いていない、役場の仕事ではないと言い訳をする前に、自分が知らなければ関連部署に問い合わせたり、制度上困難であれば違う方法を工夫してみるなど、てだてはきっとある。法から利用者を見るのではなく利用者の立場から法の利用を考えてみたい。
 このように私たち自治体職員の僅かな努力が、地域住民との信頼関係を築き、「つながりのある社会」の基盤となり、本当の「生活支援」へと発展していくのではないだろうか。