【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

 群馬県は、標高14~1,400mの高原に至る農地で多様な農業が営まれ、豊富な農産物が生産されている。また、豊かな自然景観や豊富な温泉など天然資源にも恵まれていることから、年間を通じて来訪者も多い。しかし、県外において群馬の認知度は全国最下位という状況にあるため、本県農業・農村の持つ実力を検証するとともに、対外的・効果的なアピール方法を検討する。



本県の農業・農村の実力再発見と、
その情報発信方法を考える

群馬県本部/群馬県職員労働組合・農業農村研究会

1. はじめに

 群馬県在住者に対し、群馬県の住み心地、あるいは自然環境などについて問いかけると、総じて肯定的(良いところ)という回答が寄せられる。
 また、首都圏に隣接し、高速交通網を利用できる観光地という位置づけと、豊富な自然や温泉資源を求めての入り込み客数も現在は減少傾向にあるものの、評価はされている。
 しかし、日経リサーチが2008年に実施した地域ブランド力調査・都道府県別ランキングにおいて、北関東地方というカテゴリーに分類される茨城、栃木とともに、堂々の最下位にランキング(2006年は43位)され、県民としては非常に不本意な結果が示された。
 このことから、「なぜ群馬の知名度は下がったのか?」。また、「今後、全国的に知名度を高めるために必要なものは何か」をキーワードとして、研究に取り組んだ。

2. 本県の知名度

(1) 地域ブランド力調査から
 日経リサーチの地域ブランド力調査結果によれば、本県の評価は独自性、愛着度、地域の商品購入希望割合、訪問希望の4項目において下位にランキングされている。
 この傾向は、栃木、茨城と比較しても大差はないが、居住希望割合を見ると、下位ではあるものの、他の項目に比して上位に位置づけられている。
 これは、県民も感じている「住みやすさ」という面が評価されてのことではないかと推察されるが、他県から群馬に越してきた人の意見を集約すると、「冬の風が冷たい」という評価が多かった(県外から県内の大学へ進学した学生からの聞き取りによる)。
 

群馬

栃木

茨城

独自性があるか

45

44

46

愛着があるか

44

43

42

地域の商品を買いたいか

42

44

40

行きたいか

45

44

47

住みたいか

35

46

42

※日経リサーチ「地域ブランド力調査」より。数値は47都道府県内の順位
 矢印は前回(2006年)調査結果からの変化
 このことからすると、群馬の居住環境は他から見て「ある程度の魅力」を備えていると推察されるが、日経リサーチの調査結果には回答者の年齢や職業別の集計などが発表されていないため、「どのような世代が、どんな形を魅力として捉えているか?」は不明である。
群馬県庁ホームページより
  群馬の産業構造は、第3次産業が最も多く、次いで第2次産業、第1次産業の順であり、全国的な傾向に近いと思われる。
 県内の2次産業は、リーマンショックにより大きな打撃を受けたが、それまでの有効求人倍率は全国平均を上回る水準で推移していたことから、景気の回復動向によっては居住を希望する人々の受け皿となり得る。
 一方、本県には二毛作が可能な平地水田とおいしい野菜や畜産物を生み出す農地がある。
 高原地帯の嬬恋村で生産される夏秋キャベツ、板倉町のキュウリ、甘楽富岡地域と利根沼田周辺に代表されるコンニャクイモの生産量は、全国1位を誇っている。
 近年では、家庭菜園やオーナー制度への参加を通 じて農業に親しむ傾向も高まっており、輸入農作物や加工品への不安を抱える人々の第1次産業への回帰熱も高まっていると思われ、農業者の高齢化や過疎化によって地域力の低下が進む中山間地域を受け皿として用意できれば、「田舎暮らし」という形での定住受け入れも可能である。
 このほか、高速交通網を利用することで都心部への通勤も可能な条件にあることから、居住環境の整備があれば、ブランド力を高めることにもつながると推察される。

(2) 群馬の知名度はなぜ低い?
  研究会では、上記ブランド力調査の中で、なぜ群馬県の知名度が低かったのか? について、その原因を推察するべくブレーンストーミングを行い、それらの関連性について系図を作成して処理し、それらを並べてキーワードとしてひもといた結果は、以下のようになった。

問題点として挙げたもの

① 歴史に関するもの
 ・戦国時代や明治維新等に際し、歴史に名を残すような人物が少なく、歴史ドラマの舞台として描かれる機会も少ない。
 ・江戸時代はいくつかの小藩や天領に分割されていたため、現在に至るまで地域の間に壁があるのでは?
 ・歴史はあっても、有名な寺社仏閣は思い浮かばない。
② PR方式に関するもの
 ・「嬬恋」、「草津」、「伊香保」等の固有地名は名が通っているが、群馬という名称と一体的に認知されていない。 
 ・県民自身が、それぞれの出身地を自慢しない。
 ・ホームページ、ブログ等を利用したPRが少ないのではないか?
 ・県民同士の結束感(一体感)に乏しく、出身地域以外の情報提供が少ない
③ 食べ物に関するもの
 ・群馬を代表するような料理の情報が乏しい。
 ・郷土食の演出がなされていない。(温泉地に宿泊しても、群馬ならでは……というメニューはない)
 ・ブランド牛、ブランド豚も出てきているが、そのブランドの浸透は薄い。
 ・「焼きまんじゅう」は、県外での評判があまり良くない。
 ・おいしい野菜があっても、それを調理して提供する店が少ない
 ・農家レストランのような形態が少ない


3. 知名度向上に向けたアプローチ

(1) 期待される成果
 問題点として整理されたものには、必ずそこに至った原因がある。今回3つに分類した項目についても、そうなった経緯と原因を明らかにすることにより、対応策の検討も容易となる。
 問題点として拾い上げ、ここには掲載しなかったものは多岐にわたるが、ほとんどの問題に共通するものは、「地域間の結びつきの乏しさ」、「熱しやすく冷めやすい県民性」、「口ベタでシャイな性格」、「平均的な考え方」などではないだろうか?
 問題点とその原因は、知名度を上げていく上での課題として見ることが可能であり、それを裏返すことによって得られる成果が浮かび上がり、活動の検討につながっていく。
 整理された活動内容は、問題点へのアプローチ手法に始まり、裨益者の絞り込み、得られる成果に対する潜在的反対者(EX:農産物直売所が増加すると野菜類の売り上げが減少する商店)の見極めも可能となる。
 ただし、歴史を書き直すことや巻き戻すことは不可能なため、これについては対策を検討する中から除外することとした。

期待される成果

① 歴史に関するもの
 ※検討対象から除外
② PR方式に関するもの
 ・「嬬恋」、「草津」、「伊香保」等の固有地名が、必ず群馬という名称と一体的に使用される。 
 ・県民自身が、それぞれの出身地を自慢している。
 ・ホームページ、ブログ等を利用したPRがこれまで以上に多チャンネルで展開される。
 ・県民同士の結束感(一体感)を高め、出身地域以外の情報を得られる工夫が行われる。
③ 食べ物に関するもの
 ・群馬を代表するような料理が決定される。
 ・郷土食の演出を心がけ、宿泊施設での工夫がなされる。
 ・ブランド牛、ブランド豚の浸透が図れるイベントを消費者の多い場所で展開される。
 ・「焼きまんじゅう」が、一般的な「群馬みやげ」として定着している。
 ・おいしい野菜を調理して提供する地産地消の店が増える。
 ・各県民局単位程度で、農家レストランのような形態をもったレストランが設立される。

 実際には、一朝一夕で成果を得られるものではないが、上記の様な成果を得るための活動を検討する中で、関係者が「ふるさと群馬」をより学ぶことも可能と思われる。

(2) 成果達成に向けた提案
 前項で掲げた「期待される成果」を達成するためには、2つのアプローチ手法を検討し、その活動計画を整理する必要がある。
 第一は「本県のPR方式の検討」であり、第二は農業・農村を全面に出した検討である。本県の都市的地域や温泉が主体の観光地を除き、農村地域の一番の資源は「土地」である。
 他県からの移住希望者や地域を守る人々の暮らしを守るために産業を創り上げようとした場合、農産物を生み出せる土地を有効に活用する農業が最も適していると考える。
 このことから、本研究のメインテーマである本県農業の魅力再発見とその情報発信という面から、成果を得るための活動方向を提案したい。
 なお、本検討には、農業という産業及びこれと連なる産業に関係する「人づくり」も大きなテーマとなるが、これについてはアプローチ手法が異なると判断し、別の機会を設けて検討することとした。

活動計画の提案

① 本県を有効にPRする手法
  ・県民一人一人が、本県のPR大使として活動するよう働きかける。
  ・それぞれの地域で、「地域自慢」を発信する。
  ・地域別の情報を共有できるシステムを構築し、迅速に情報の更新がなされる。
  ・県民が共通認識にたって自慢できる核となるものを設定する(ぐんまちゃん家 or 県出身タレント)
② 地域食材提供システムの構築
  ・姉妹提携都市などの交流活動を通じ、本県産農作物を学校給食の食材として提供(販売)する。
  ・その学校の児童生徒、保護者等による生産地訪問やふれあい交流イベントなどを通じ、農業生産現場の見学会を開催する。
  ・農家自身も知見を拡大し、「こだわり」と「物語」を持った農作物の生産に取り組む
  (ex:低農薬有機栽培までの道のり、病害虫とのたたかいなどを語る)
  ・農家から、生産食材の食べ方や組み合わせなどを消費者に提案する。
  ・品質の維持に向けて、地域住民も生産活動を支援する。

 上記の提案は研究メンバー内だけで検討したものであることから、ほんの一例に過ぎないが、こういった手法とワークショップなどを組み合わせ、一体感を醸成していくことで成功の鍵が見つかるのではないかと期待している。
 なお、今回の研究においては、「潜在的な反対者」の選別とそれに対するアプローチ手法に関しての検討を行っていないが、本来であればしっかりと検討し、対応策まで含めた検討が求められる。

4. まとめ

 本研究は、非常に大きく、また成果を得るまでに時間を要する課題であったことや、我々自身が群馬のことをよく知らないという知識不足も手伝って、全体を取りまとめるまでにかなりの検討時間を要した。
 また、全体的に検討不足であることも否めず、満足のいく結果とはならなかったが、自らの「ふるさと群馬」を自慢したいという気持ちはしっかりと高まった。
 今後、機会あるごとに群馬の良い部分、悪い部分を他県からの来訪者に対して説明できるよう、我々のスキルアップも必要であると実感したことを白状しまとめとしたい。