【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

 農地法の概要と藤岡市における耕作放棄地の現状について説明した前回のレポートからほぼ1年、「口先だけでは説得力が全くない」ということに気づきました。農業経験ほぼ0の筆者は自力で耕作放棄地の解消を実践できたのか? 理想と現実の大きさを感じながらレポートしていきます。



耕作放棄地をどうしよう(実践編)


群馬県本部/藤岡市役所職員労働組合・農業委員会事務局 栗原  靖

1. 前回発表の概要 

 2009年6月の自治研究集会では「耕作放棄地をどうしよう -藤岡市における現状-」と題して農地法の成立から現在までの経過と藤岡市における耕作放棄地の現状について報告を行いました。そこでは①これまでの農地法は農業への新規参入について消極的だったため、農業従事者の高齢化が急速に進んでいること、②その結果、全国で耕作放棄地が増加しており、筆者の住む藤岡市でも所在地区を含め耕作放棄地が頻繁に見受けられること、③この様な事態を改善するためには現在行われているハードを中心とする補助金事業の増額だけでは充分な対応策とはならずネットワーク作り・人材育成こそが急務であること、などについて説明しました。

2. 現状は……

 それから約1年、耕作放棄地の現地調査をしたり、地域の住民宅を回って農地管理の重要性を説明したりする中で、「このままではいけない。自分の説明に説得力が感じられない。」と思うようになりました。そもそも普通に農業をやってもほとんど利益が上がらない中、長年放棄されていて雑草も生えやすい耕作放棄地でわざわざ営農を始める人がいようはずもありません。ただ管理するにしても春季から秋季にかけて1ヶ月に1回、夏場は2~3週間に1回除草を行う手間は本人であれ、人に頼むのであれかなりのものです。実際、農家を回っていても「これまで頑張って除草をやっていたが、もう高齢で足腰も動かない。子どもたちは遠方に住んでいるしどうしたらいいのだろう。」という相談を受けたことが少なからずありました。このまま漫然と説明するのでは真面目にやっている人に申し訳ないと思い、学習会等にも参加したりして自分なりに知識を積み重ねていく中で「耕作放棄地解消を自分で実践しない限り、人に勧めることは不可能だ。」と感じるようになりました。

3. 何にせよ実践しなければ説得力がない

 さて思い立ったはいいものの、どういう風に手をつけたらいいものか最初はかなり悩みました。筆者も勤務や組合業務の関係で解消に割ける時間と手間は限られています。「なるべくなら自宅の近くで、あまり手がかからないところがいいな。出来るだけ手間をかけずに、経験0の素人が耕作放棄を解消できればいいモデルになるぞ。」と自分に都合のいい理屈を立てて色々当ってみたところ、2009年12月頃に筆者の現住所の近くで手ごろな耕作放棄地が見つかりました。前回のレポートで紹介した耕作放棄地のすぐ近く、面積は一反(1,000㎡)前後の畑です。
 畑ですと水田とは違って水利費、水路管理等の負担はなく、道路との高低差がないためトラクター等の農業機械を動かすのもあまり手間がかかりません(いずれも地味ですが農業を実際に行うのにあたっては非常に重要な要素です)。すぐ近くに住んでいる所有者と交渉を重ねた結果、自由に使っていいとの許可を取り付けたのが2010年の3月始めでした。対象となる畑はかなり荒れており雑草の丈も高くなって刈り払い機での除草は難しかったため、専門業者にトラクターによる除草・耕運を依頼しました。

4. 何を蒔き、何を収穫するかが問題だ

 耕運が終わった畑に何を蒔くか? 現在の日本では希望すればほとんどの植物の種子は手に入ります。
 土地の交渉を行うのと平行して①播種・育成・収穫に手間がかからず②植えた後にあまり雑草が発生せず③値段があまり高くない作物はないものかと捜し求めた結果、「ヘアリーベッチ」というマメ科の植物に行き当たりました。この植物は牧草という本来の用途の他に、緑肥植物としても育成されています(枯れた後地中に鋤込み)。枯れた後は稲わらと同じような状態になるため、キュウリやスイカをそこで育成するのも可能です。又、周囲に雑草が発生するのを抑制する効果が実験等により実証されています。※参考HPおよび文献参照
 「1年目はこれを蒔いて土壌改善すればいいじゃないか。次に何を蒔くかはその間に考えればいいや。」ということで4月上旬に地元のJAに5キロ注文したところ、1週間ほどで納品されてきました(播種量は1,000㎡あたり3~5キロ)。

5. 実践開始

 そんなこんなで4月中に色々準備をしている間に、業者による除草・耕運もほぼ完了し(画像1および2参照)5月8日の午前中に最後の耕運を行うという連絡があったので、その日の早朝に種まきを行うことに決めました(種を蒔いた後、深さを調節して耕運してもらうと、土をかける手間が省けます)。
 当日は初めての事をする緊張感で午前5時に目が覚めてしまいました。天気は晴れ、ヘアリーベッチの種とバケツを用意し、畑に自転車で向かいます。
 ヘアリーベッチの種は直径2ミリの黒い粒子です。全日雨が降って土も程よく湿っているため、高い発芽率が期待できます。バケツに1キロ投入して蒔き始めたところ、「??蒔いた場所が分からない??」
 種が黒いため土と見分けがつきません。自宅から白い顆粒状肥料を取ってきて種と混ぜて蒔くことにしました(画像3参照)。このような細かい段取りは慣れないと中々うまくいきません。気を取り直して種を蒔いていきます。
 種を蒔いているといろんなことに気づきました。種を蒔きながら真っ直ぐ歩くのは難しいこと(業者さんに畝を立てるよう指示していませんでした)、腰をうまく使わないと種が上手く散らばらないこと(中世ヨーロッパの絵画に農作業のシーンがよく出てきますがあの通りです)、作業を急ぐよりも一定のリズムで続けることが重要なこと。自分がいかに頭だけで考えていたかが分かります。
 作業を続けていると畑の途中で種が終わってしまいました。コツがつかめない内に多く量を蒔きすぎたようです。仕方がないので残りの部分に何を蒔くかは後で考えることにして引き上げることにしました。残った部分に何を蒔くか、楽しんでいる自分がいるのが感じられます。向日葵が一斉に咲いたらとても目立つかもしれない、ソバだったら蒔くのは簡単だけれど収穫から製粉が手間だ、いっそのこと外国産の変わった野菜を複数植えてみようか……。種蒔きをする前だったら、こんなことは全く考えなかったでしょう。

6. まとめ

(1) 「仲間」と「つながり」が何よりも重要
 今回筆者は色々なアドバイスはいただいたものの、自分一人で耕作放棄地解消を始めました。ただし今後組合内、そして藤岡市内でこの事業に賛同してくれる仲間をどんどん見つけていかなければなりません。そうすることによりこの事業も継続して続けられるし、もしかしたら別の場所でも耕作放棄地解消が色々な形で始まるのではないか、そう考えているからです。
 当面は組合内で手伝ってくれる仲間を探すことになります。その経過は来年の自治研究集会で「耕作放棄地をどうしよう(団結編)」として報告をしたいと考えています。

(2) 終わりに
 今回筆者が主体となって耕作放棄地の解消を行うのにあたり、様々な方からアドバイスをいただきました。藤岡市農業委員会の委員の方々、市役所の同僚、酒井建材(耕運を担当してくれた業者)、そして藤岡市内の農家の方々に多大なる感謝の意を捧げたいと思います。

参考HP
☆米倉 賢一「水稲作におけるヘアリーベッチ「まめ助」の雑草抑制と緑肥効果」
http://www.snowseed.co.jp/bokusou_engei/magazine/01_12/01_12_02.pdf
☆渋川市農業委員会HP 遊休農地解消対策 ヘアリーベッチ
http://www.city.shibukawa.gunma.jp/sangyou/sangyoushinkou/nougyou/iinkai/hairyvetch/index.html
☆埼玉県鶴ヶ島市農業委員会HP 「夏の雑草対策」・「冬の埃対策」にヘアリーベッチをまきましょう!
http://www.city.tsurugashima.lg.jp/nougyou_iinkai/n_becchi.html
協力
☆酒井建材(藤岡市藤岡2891)

参考画像  
画像1:対象農地(除草前)。雑草の高さは50センチ以上ある。
画像2:除草後。見晴らしが非常に良くなっている。
画像3:肥料と混合したヘアリーベッチの種。