【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

竹田市におけるグリーン・ツーリズムの取り組みと
その方向性について
~農村回帰宣言市が目指す、官民協働・農商連携の農村づくり~

大分県本部/竹田市職員労働組合 関口 恵介・後藤 祥司

1. はじめに

 竹田市では近年、農村交流に力を入れています。
 後継者不足や高齢化の急激な進行により、農村を取り巻く状況は決して明るいものではありませんが、それぞれの特色を生かした農村交流活動を実践している地区や個人の方々が増えつつあります。
 新たな顧客の開拓や新しい収入の確保を模索すると同時に、都市住民との交流を通じた地域の活性化を目指す市民の取り組みを紹介したいと思います。

2. 地区の概要

 竹田市は、大分県の南西部に位置し、南は祖母・傾山系を挟んで宮崎県に、西は阿蘇外輪山の東斜面を境に熊本県に接しています。また、北には九州の屋根といわれる久住山、大船山などのくじゅう山系があります。標高は250から600m以上の準高冷地に属し、年平均気温14.4℃、年間降水量1,778mmとなっています。
 竹田市の農業産出額(2005年)は、県全体の13%を占め、その構成は畜産46%、園芸32%、米20%となっています。特に夏秋トマトは県全体の50%を占めています。
 竹田市におけるグリーン・ツーリズム*1への取り組み状況については、竹田地域(旧竹田市地域)においては以前より活発で、都市の消費者を対象とした農作業体験交流に積極的に取り組んでおり、1997年5月には行政・農協・関係農業者が主体となった「水の国・竹田のふるさと体験をすすめる会」を設立し、モデル地域への事業支援や助言を行ってきました。モデル地域は4地区(入田・城原・九重野・神原)あり、当時結成された地域の推進協議会が現在も中心となり、各種事業に取り組んでいます。
 合併前から竹田地域の取り組みはさかんであったものの荻地域・久住地域・直入地域(旧直入郡地域)においてはグリーン・ツーリズムという言葉でさえまだまだ浸透されていない現状がありました。しかしながら、行政主導型ではあったものの、学習会等での周知を徹底することによりグリーン・ツーリズムに興味がある人間、人材の掘り起こしの成果が徐々に姿を見せ始めました。
 竹田市全体を見た場合、グリーン・ツーリズムの拠点はある地域(点)はあるものの全体(面)としての動きはグリーン・ツーリズムに取り組まれている他地域と比較するとかなり遅れている感があります。そこに高齢化という問題が拍車をかけており、「取り組みたいけどできない」「後継者がいないので継続が難しい」との声もよく聞かれます。 しかしながら、ネガティブな現状をポジティブな将来にもっていくため従来の取り組みにとらわれず、次々と新しい企画を立案している地域もあることから、地元の人間の地域連携システムもさることながら、やはり自らの地域を自らの手で支えていこう、担っていこうとする心の持ち方が今一番求められているものではないかと思われます。

3. 2000年から現在までの10年間の取り組み

 今から10年前の竹田市での都市交流事業は、主としてイベントによる誘導日帰り型を積極的に取り組んでいました。

(1) 「カボス列車で行く竹田の味と夜神楽の旅」
 市内の城原地区での取り組みで、JRと共同企画として臨時列車を運行し、カボスの収穫体験や道の駅での餅つき・民工芸体験などを行い、夜は地区の神社で幻想的な雰囲気の中、夜神楽を楽しんでいただくという企画で、地域の祭りと併せての開催で、多くの地元の人間と触れ合っていただき、城原地区のファンを作ろうというコンセプトで実施していました。

(2) 「水の国竹田・夏休みわくわく体験in入田」
 入田地区の貸し農園を利用した交流事業で、一般の参加者に加え農園の利用者も参加しての交流会を開催し、農園での収穫に加え、とうもろこしの収穫体験や地区内の名水プールで子どもたちが遊びながら大人たちは地元との食事会で交流を深めるといった内容でリピーターも多く、現在でも田植え体験、夏休み体験、収穫体験と年に3回のイベントが続いています。

(3) 「町とムラを結ぶ 九重野in緩木森林公園祭り」
 九重野地区で毎年開催される緩木森林公園祭りに、収穫体験や炭焼き体験を併せて開催しており、大分市内からバスで送迎をし、地元とのふれあいや地域産品のPRを目的として開催されていました。
 現在では形を変えつつも継続しており、APUの学生を宿泊させての田植え体験や農産加工品の手作り、伝統芸能体験などを通じての交流をはかるなどの取り組みが行われました。

(4) 「秋の竹田路と秘境料理の旅」
 祖母山の麓に位置する神原地区での取り組みで、地元家庭に民泊し、地区内の名所案内や地元の特産である椎茸の収穫やコマ打ち体験、地元料理を囲んでの交流会など1泊2日での開催で地元ファンを増やす取り組みとして行われていました。この地区では里山コンサートや昔ながらの結婚式を再現した「ヨイヤナ祝言」(大分市の夫婦が実際に結婚式を行いニュースでも取り上げられました)など、都市住民を呼び込むためのさまざまな企画を行っています。中でも民泊への関心が高く、昨年立ち上がった「来ちょくれ竹田研究会」の中心となるメンバーが多く在住している地域でもあります。
 こうした取り組みを行政も積極的に支援しながら行ってきましたが、日帰り企画から宿泊を入れた取り組みへと移行する流れもあり、近隣他都市からさらに離れた都会の住民とも関わりを持てるよう、民泊への関心が高まり、新たな取り組みを模索するための協議機関の設立が求められるようになりました。

4. 来ちょくれ竹田研究会の設立について

 これまでの経緯を踏まえ、農家民宿開業者やグリーン・ツーリズムに興味のある方から是非竹田市においても研究会を設立し、個々ではなく全体でお客様をおもてなししていきたいという声が多く出るようになってきました。竹田市としてはこのような声に積極的に応えるべく、大分県並びに先駆者でありこれまで指導を仰いできた安心院グリーンツーリズム研修会の意見を参考にしながら、研究会の設立に前向きに取り組みました。設立にむけての準備会の会合を重ねる中で、以前から農家民宿の取り組みをされていた方と近年、農家民宿の許可を取り開業された方、これから許可を取得し開業しようと思われている方との間で、研究会としてどのようなスタイルでお客様をお迎えするのか、どのような層に対して営業をしていくのか、官民協働で運営していく上での行政の役割は何かなど、数回にわたり遅くまで協議を重ねました。研究会の設立に大きな期待をよせる反面、これから本当にやっていけるんだろうかという不安も多かったとは思われますが、なんとか全員一致で意思確認ができ2009年4月に研究会を設立することができました。

5. 来ちょくれ竹田研究会の取り組みについて

 研究会発足後、竹田市における取り組みを広くPRしていきたいという思いから、まず大分県グリーンツーリズム研究会への加入をしました。大分県グリーンツーリズム研究会とは、大分県内で同じような取り組みをする研究会が加入する団体で、仲間の間での情報交換や交流の場になっています。大分県グリーンツーリズム研究会は、取り組みの内容を充実していくため、5つの目標を掲げています。その中には、来ちょくれ竹田研究会の理念と同一である、①グリーンツーリズム(GT)を志す人たちのネットワークを形成し、親睦・情報の交換・地産地消を基本に、農林漁業体験・農産加工(直売)・農泊(農村民泊)など、質の向上を目指す ②GTは感動産業であり、老若男女の技を活かしながら都市との交流を深め、農山漁村の自立を促し、子どもたちが誇れ、残れる村づくりを目指す という2つの目標が含まれており、大分県内の仲間とともにグリーンツーリズムに取り組むきっかけとなりました。
 その後、研究会としての具体的な取り組みが始まりました。偶数月には役員会、奇数月にはテーマを決めて会員を対象にした学習会を開催し、おのおののスキルアップをはかってきました。学習会の内容は、食品衛生の基本についてや集客の方法、教育旅行受け入れ時の対応についてなど多岐にわたっています。時には財団法人都市農山漁村交流活性化機構(通称:まちむら交流きこう)*2から講師を招き、子ども農山漁村交流プロジェクト*3についての講演会を開催するなど積極的な姿勢がみられています。
 解消しなければならない問題点もあります。それは、竹田市は他の地域から比べると取り組みが遅かったのではないかとの意見が多いことです。事実、出遅れた感がある中で、どのような形で他地域との差別化をはかっていくことができるか議論を深めました。その中で出た意見がインバウンドという海外からのお客様の受け入れを重点的に行っていこうというものでした。実際、昨年は韓国からのお客様が主となりましたが、言葉が通じない中での身振り、手振りを用いた心の交流は、これから農家民宿を継続していく上での自信につながるものになりました。
 また、竹田市においてはインターン制度というものがあり、大学生が竹田において学習・滞在するメニューに農家民宿における宿泊や田舎体験、農作業体験を盛り込むなど、商工観光課とタイアップした取り組みもありました。竹田体験をしたインターン生による竹田の町づくりや村づくりの魅力や人情味あふれる住民についての情報発信が期待されています。

6. これからの展望

 竹田市における都市と農村の交流を考えた場合、来ちょくれ竹田研究会すなわち、農家民宿の存在や取り組みは避けてとおれないと思います。竹田市は2009年7月に「農村回帰宣言市」*4となりました。このような動きの中で、当初は農業の副収入的な意味合いで始まった農家民宿というものの考え方は農業的分野のみならず、観光的分野を取り込んだ産業となりつつあります。第6次産業という言葉が聞かれるようになって久しいですが、まさしく農商が連携したスタイルが農村の活性化の一歩を踏み出す手段であると思います。行政としてはこれまでどおり官民協働の動きを大切に、竹田市の観光の窓口を担う竹田市観光ツーリズム協会とも連携をはかりながらさらなる活性化をはかっていくとともに、来ちょくれ竹田研究会が中心となった「あたたかい心、やさしいおもてなしの心」の充実した受入体制の基盤強化による国内外からの交流人口の増加が望まれます。





*1 グリーン・ツーリズム
   農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動です。
   欧州では、農村に滞在しバカンスを過ごすという余暇の過ごし方が普及しています。英国ではルーラル・ツーリズム、グリーン・ツーリズム、フランスではツーリズム・ベール(緑の旅行)と呼ばれています。
*2 財団法人都市農山漁村交流活性化機構(通称:まちむら交流きこう)
   2001年4月1日、(財)農林漁業体験協会と、(財)ふるさと情報センターと、(財)21世紀村づくり塾は、1つになり、(財)都市農山漁村交流活性化機構に生まれ変わりました。
   (財)都市農山漁村交流活性化機構は、都市住民の自然・ふるさと志向とこれに対応して豊かなむらづくりを進めようとする農山漁村の意向を踏まえて、 都市と農山漁村の交流を積極的に推進するとともに、都市と農山漁村が一体となった地域活性化のための国民的規模の運動を展開し、もって農山漁村の活性化を図り、国土の均衡ある発展及び自然と調和のとれた豊かでうるおいのある社会の実現に資することを目的とします。
*3 子ども農山漁村交流プロジェクト
   このプロジェクトは、2008年度から5年間で、農山漁村での1週間程度の宿泊体験活動(農林漁家での宿泊体験を含む)を、全国2万3千校の小学校1学年(5年生)程度の参加を目標に推進するものです。これは、2007年6月に「都市と農山漁村の共生・対流に関するプロジェクトチーム(副大臣PT)」が打ち出したもので、総務省、文部科学省、農林水産省が連携施策として取り組んでいます。
*4 「農村回帰宣言市」
   担い手の確保と育成を図り、消費者に安全・安心・新鮮な農産物・加工品を提供できる農業のブランド化及び知産知消に取り組み、地場素材を使った商品開発のできる施設の整備、アグリビジネスへの挑戦、高齢化する農業者が元気で営農活動ができるシステムを整備します。