【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

「豊後森機関庫」の調査結果と活用の取り組み


大分県本部/大分県職員連合労働組合・豊後森機関庫活用推進協議会・事務局次長 岩田 政勝

1. はじめに

 「豊後森機関庫」保存の取り組みについて昨年報告させていただいたが、昨年の6月15日に多くの民間団体(豊後森機関庫保存委員会、建築士会玖珠支部、大分県防水・外壁改修工事業協同組合、国鉄OB会)の協力を頂いて建物の改修・保存方法およびその費用等を検討するため現地調査を行い、その結果がまとまったので今年も報告させていただく。また、新たな組織を作り豊後森機関庫の活用に向けた取り組みを始めたので、それも含めて報告させていただく。
高所作業車を使っての調査風景 

2. 調査状況

① 調査内容
 ア 屋上防水と下地の劣化状況調査
 イ 内壁の劣化状況調査
 ウ 外壁の劣化状況調査
 エ 天井の劣化状況調査
 オ 柱のコンクリート強度および劣化状況調査
③ 使用機材
  高所作業車 3台
④ 調査参加者 45人                     

3. 調査結果

① 屋上の既存防水は無くなり、躯体内部へ雨水が浸透しており、防水をやり直す必要がある。
② 外壁の劣化をこれ以上進行させないためには、露筋部の錆止めとコンクリートの撥水処理は最低限必要である。
③ 柱のコンクリートは十分な強度を有しており、扇形という特性も考慮すれば直ぐに崩壊することは考えられず、長期的な保存は十分可能である。
④ 縦どいの破損により外部柱のコンクリートが洗い流されており、早急に縦どいの改修が必要である
⑤ 外壁6通りから8通りに直径約20㎝、深さ約5㎝の機銃掃射の弾痕が12ヶ所確認された。

直径20㎝、深さ5㎝の機銃掃射の弾痕が
12ヶ所確認された。(外壁6通~8通間)
 
  下図:弾痕の詳細な図面 
 
   
柱のコンクリートは十分な
強度を有していることが判明した。 

4. 機関庫活用に向けた取り組み

 昨年10月12日にくすメルサンホールにて調査報告会を開催し、町内外から約50人の参加がありその会で多くの方から活用に向けた取り組みの必要性が訴えられた。その声を受け、私たちは11月26日に「豊後森機関庫活用推進協議会」を設立し、
① 活用方法・改修方法の検討
② 維持保全活動
③ 観光ガイド、イベントの開催支援
を行い、機関庫を活用することにより、豊後森機関庫を保存していく取り組みを開始した。
 推進協議会では3月4日に玖珠町長へ活用推進要請を行い、4月24日には協議会の発車式および草刈り、清掃活動を行った。
 また、4月16日には大分大学の佐藤嘉昭教授に依頼し、コンクリート強度の調査を行った。その結果、十分なコンクリート強度を有することが詳細な調査によっても判明した。
 協議会の会員は現在160人を超えており、6月からは玖珠町観光協会と連携し、団体観光客へのガイドを始め、豊後森機関庫の魅力をより多くの方に伝えている。
 協議会の当面の活動として、本年度に玖珠町が作成する10ヶ年計画の中に機関庫の活用を明確に盛り込むよう働きかけていきたい。

5. 活用方法の提案

 今回の調査の結果、柱のコンクリートは十分な強度を有していることが判明し、1975年の大分県中部地震など数度の地震を経ているものの、柱や壁にはせん断クラックは見られなかった。このことから、地震で直ちに崩壊するようなことは考えられず、本体の利用も十分可能であると言える。現に豊後森機関庫と同時期に建設された同じ扇形機関庫である京都の梅小路機関庫と岡山の津山機関庫は特段の耐震補強を行うことなく今も機関庫として活躍している。
 活用の例としては次のようなものを提案したい。
① 三島公園にある蒸気機関車「クロちゃん」を移設、宮原線で活躍し今は門司にあるディージェル機関車「キハ07」を譲り受け、鉄道博物館として整備する。外部は公園として整備し、ミニSL機関車用のレールを設け、機関庫を発着駅とし、ミニSLマニアが利用できるようにする。そこには子ども連れの家族が集まりにぎわいがよみがえる。もちろん転車台も動くようにする。(ミニSL広場の実例は愛知県刈谷市の「フローランスガーデンさよみ」がある。)
② 大空間の屋内施設であることを活用した展示会や集会、コンサートを行う多目的イベントホール「(仮称)豊後森機関庫メッセ」として、広く町民、県民に開放する。もちろん「日本童話祭」の会場とする。
③ JR久大線にSLを走らせるのである。近々開通する九州新幹線と接続し、山間を縫うようにSLの旅をのんびり楽しんでもらう。そして、豊後森機関庫が本来の役割であるSLの機関庫となるのである。これには多くのハードルがあり、究極の夢ではあるが私たちは一歩でも近づきたいと思っている。
  活用方法については多くの方々を巻き込んで議論を行って決めることが必要であり、そのことにより豊後森機関庫をこれまで以上に町民から愛され、利用される施設にすることができる。
  機関庫の保存・活用を議論する時、まず問題になるのが費用の点である。老朽化し痛んだ建物を保存し使えるようにするには莫大な費用がかかり無駄だとの意見が必ず出る。しかし、この意見は漠然としたもので、根拠のあるものではなかったと思う。
  私たちは、今回の調査を基に概算ではあるが改修費用を算定した。
  ① 屋上防水改修工事  2,625万円(ほぼ実際の工事費と考えて良い)
  ② 躯体保護工事    約3,000万円
  ③ 窓枠ガラス・土間改修、電気・衛生設備その他工事  6千万円程度

 私たちは1億2千万円程度で利用可能な建築物に改修できると試算しており、これは、新たに博物館や多目的ホールを建設する費用に比較すれば大幅に小さい数字であり、豊後森機関庫を保存・活用することは経費の面からも有用である。

6. 結 び

 玖珠町には目玉となる集客施設はなく、玖珠町のシンボル的施設を創り育てていく必要がある。私たちはそれが豊後森機関庫であると考えている。そして、隣の九重町の「夢大吊り橋」、湯布院、黒川と面的で回遊可能な整備を行う必要があると考えており、今回の現地調査と活用推進協議会の取り組みが豊後森機関庫の保存・活用につながり、さらに玖珠町全体の活性化につながることを切に願っている。

 最後に今回の調査にボランティアで参加して頂いた建築士会玖珠支部、県玖珠土木事務所、大分県防水工事業協同組合、大分県外壁改修工事業協同組合、豊後森機関庫保存委員会、地元自治会・商工会、国鉄OBのみなさん、また調査の様子を詳細に報道して頂いたテレビ・新聞社の方々に感謝いたします。