【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

玖珠町の鳥獣害対策の取り組み


大分県本部/玖珠町職員労働組合・自治研部

1. 玖珠町の被害の現状
↑イノシシ被害

 玖珠町は大分県の西部に位置し、総面積は286.4ある。このうち、水田が17.42畑が5.25、山林が50.34であり、主要作物は米、豊後玖珠牛、しいたけ、トマト、ネギなどであり、1年を通して夏と冬、1日を通して昼と夜の寒暖差が大きいため、玖珠町で収穫した農作物はとてもおいしいと評判である。
 近年、これらの農作物に係るイノシシ、シカ等の野生動物による被害が増え、農家も個人や集落において対策に苦慮をしているところである。被害の激しい中山間地域などの作付け条件の悪い箇所は耕作者の高齢化が進んでいることもあり、耕作放棄地となりその面積も増加している。
 耕作放棄地は1年で藪となる。もともと水田であるため、藪が野生動物の住処や遊び場となり山から里に近づきやすくなる。それがまた、隣接している水田や畑に入り、また、被害を拡大させることになる。
↑万年山のイノシシ被害(牧草地を掘り返している)

 4月~6月の田植時期はシカ、9月~10月の稲刈り時期にイノシシの被害が集中している。また、新たに被害として目立ってきたのが、アオサギ等の鳥類やタヌキやアナグマなどの小型の野生動物など多種に及んでいる。
 特にシカは、田植した直後に稲の新芽を食べ、いつまでたっても稲が成長していないような錯覚を起こさせる。農家の話によると「一度新芽を食べられ、新たに生えた芽を二度食べられると収穫時期にほとんど穂がつかない。」という。
 イノシシは収穫時期に子(ウリボウ)とともに田に入り、1日で壊滅的な稲の食害や踏み倒しをする。半年かけて作った稲を1日で踏み倒されると、農家の耕作意欲は無くなる上、農家の生活に多大な影響を与える。
↑シカによる稲の被害

2. 耕作放棄地のかかえる問題

 耕作放棄地ができやすい農地は、中山間地域の作業効率が悪いところ(機械が入らないところや山と接するところ)である。減反政策や米価の下落もあって、こういう農地はすぐ自己保全管理になってしまい、管理がおろそかになる。1年もすれば藪となり、一度藪になった農地は、耕作者の耕作意欲を著しく低下させ、二度と植え付けをしない農地となる傾向がある。
 また、耕作者の高齢化や若者の耕作離れは、農地の所有者が自治区(集落)からいなくなり、藪になった他人の農地を刈払おうとしても、勝手に人の土地を扱うことが困難になっていることが耕作放棄地を増加させている原因のひとつである。このような、耕作放棄地の解消に向けた取り組みは、農地の所有者の同意が不可欠であるため、対策を行うことは大変難しいが、藪の刈払いには、人力を最小限に行うことができる、家畜の放牧による刈払いの方法があると聞いて、試験的に実証してみた。

3. 玖珠町における対策について

 2008年2月に施行された鳥獣害防止特別措置法の制定に伴い玖珠町でも鳥獣被害防止総合対策事業を行うため、防止計画を作成し鳥獣被害対策協議会を立ち上げた。
 この事業は同計画に基づき協議会が行う、捕獲機材の導入による個体数調整、農作物アドバイザーによる研修会等を行う被害防除、緩衝帯の設置など生息環境管理の取り組み等に対し事業の上限200万円を国が100%の補助で行うことができる事業である。
 本格的な活動を行うため、協議会の総会を開催した上で、わなの製造、先進地視察、ヤギを使った緩衝帯設置、鳥獣害アドバイザーによる講習会を開催した。
 講習会では、講師として、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構近畿中国四国農業研究センター鳥獣害研究チームの江口祐輔氏に来町していただき、「野生鳥獣の行動及び被害防除について」 という演目で講演をしていただいた。講演の内容は以下のとおり。
 人間が収穫した作物を無造作に田畑に放置することや、稲刈り後に生えるヒコバエは、餌が少なくなる冬期においても、野生動物には貴重な栄養源となる。本来なら冬を越せない野生動物の子等も生き延びることができ、野生動物の増加に繋がっている。また、栗、柿等の放任果樹も野生動物の栄養源となるため、早めに収穫をすることや、収穫しない果樹は伐採をし、その農地の周辺に住み着かないようにしなければ、また、次の収穫時には農作物に被害をあたえる可能性がある。
 また、冬場は人も農地に行くことがあまりなく、日が短いため、この時期にイノシシ、シカが里の田畑に入り、里の田畑に慣れてしまう。ここで発見した野生動物をただ見ているだけでなく。ロケット花火等で驚かすと「ヒトは恐ろしい」と認識し、野生動物は田畑に近づかなくなる。
↑講演する江口先生
 また、野生動物に忌避効果があると思われる臭いや音・光の効果は一時的であることや、農地の近くにこれら忌避剤を置いておくと、逆にこの忌避剤の先にエサがあると思わせ、農地に入る誘引のひとつとなる。したがって、間違った対策は逆に被害を増やすことになる。シカ対策に使われている光るテープ(赤と銀色のラインのテープ)も農家の方が言うことには、効果があるといわれているが、先生が実験をした結果、最初のうちは、確かにシカも警戒し、テープに近づこうともしないが、日を重ねるとテープに慣れ、触っても危険性がないと思った瞬間に農地に入るため、本当に一時的な対策といえる。
  また、シカやイノシシはよく跳ぶと言われるが、イノシシもシカも基本は柵を持ち上げて、くぐりぬける方が多く、跳ぶのは、人間に見つかった時や身の危険を感じたときにしか、跳ばないということであった。角の生えたオスシカでも器用に角を使いくぐりぬける映像を見せてもらった。
 柵も有効的に囲まないと、ただの柵となってしまうため、鉄線柵やトタン柵もまず隙間を作らないこと。そして、中にある作物を見えにくくし、金網の網の目は10cm以内のものを使うこと。また、電気柵は、イノシシの足場が舗装道路上(コンクリートやアスファルト)であると電気が通りにくいため効果がない。イノシシが土を踏んで電気柵にあたるようにすることを心がけ、それでも野生動物に侵入された場合は、持っている柵、例えばトタン柵と電気柵など組み合わせるなど工夫を少しするだけで、被害を軽減することができる。
 適切な駆除においては、どんなに、野生動物の嫌がる環境づくり、柵で農地を囲っても、侵入してくる野生動物の個体数を捕獲(駆除)により減少させないと、やはり効果がない。
 この3つのポイントがバランスよく実行できなければ、鳥獣被害は軽減されないとのことであった。

○鳥獣被害を防ぐ3つのポイント
1 野生動物(イノシシ、シカ等)の嫌がる環境を作る。
2 電気柵や鉄線柵などの柵を田畑に効果的に囲むこと。
3 適切な駆除
上記の3つがバランスよく行われなければ効果があがらない。 

4. 玖珠町の具体的な取り組み

(1) 取り組み1 野生動物の嫌がる環境づくり
↑ヤギの放牧
 前述のとおり、江口先生の講義を受け、イノシシ、シカ等の野生動物の生態について学び、野生動物の嫌がる環境づくりを心がけるため、野生動物が生息する本来の山と農地の間にある耕作放棄地を解消する取り組みを行った。イノシシやシカは本来臆病な動物であるため、農地に隣接している耕作放棄地は野生動物が農地に侵入するまでの間、自分の姿が見つかることなく、安全、安心に農地に侵入でき、有事にいつでも逃げる(隠れる)ことができる。そこで、耕作放棄地の藪を無くすことで、今まで利用していた耕作放棄地内の獣道が無くなることでヒトに見つかるかもしれないという不安と警戒心が野生動物にかなりのストレスを与えることができる。
 このような特性を利用し、ヤギを使った耕作放棄地の藪の解消を試験的に行った。まず、最初に行ったことは、ヤギが逃げないようにするための、電気柵の設置を行った。水飲み場の確保と、ヤギが寝る小屋を作成し、ヤギを放牧した。ヤギは何でも食べるため、2ヶ月程である程度の藪がなくなった。

←電気柵の設置
←ヤギの放牧前
←ヤギの放牧後

 

(2) 取り組み2 大分県森林環境税を活用した竹林整備
 玖珠町ではこの他、大分県森林環境税を活用し、竹粉砕機を購入した。竹林の整備を行うことで、荒れた山林を健全な状態にし、また、ヒトが山に入る機会を増やすことで野生動物が里に近づけないようにするために、獣害対策と山林整備を行っている。

(3) 取り組み3 適正な捕獲
 2008年度まで玖珠町では、銃器を持っている会員でないと有害鳥獣の捕獲ができなかったが、銃器のみを使った捕獲だけでは夏場の捕獲が困難であること(ヒトや猟犬の体力の消耗が激しい)捕獲班員の方も仕事があり、すぐに、苦情に対して対応ができないことから、玖珠町猟友会長や各地区の有害鳥獣捕獲班長と協議を行い、わな免許のみの所有者も捕獲班に加入できるように依頼をした。猟友会の方も農作物被害の現状について理解があったため、2009年度から、わな免許のみの所有者でも有害鳥獣捕獲班への加入が認められ、有害鳥獣捕獲を実施できるようになった。その効果もあって、2008年度 イノシシ94頭 シカ28頭が2009年度にはイノシシ240頭 シカ35頭(4月1日~10月31日の実績)と捕獲頭数が増えた。今後も捕獲班への加入者を増やしていき、捕獲頭数を増やしていきたいと考える。

5. 鳥獣被害対策の今後の課題について

↑笹をたべるヤギ
 農林作物を守るために鳥獣害対策を行うには、当事者個人の取り組みでは限界があり、効果もあがらないように思う。被害の多い地域で地域住民がまとまっているところは鳥獣害対策に対して意識が高く、被害もあるが、それほど大規模ではないように感じる。地域住民が共通の課題に対し、みんなで考えることが、鳥獣被害を軽減する最も効率のよい対策だと思う。
 地域事情に詳しい地域の方が鳥獣害対策の先頭に立って行い、行政はあくまでもアドバイスと相談に乗る体制であるのが望ましいと考える。今後の課題として地域住民が自分たちの農地は自分たちで守るという意識を持たせることが行政の行う鳥獣害対策だと思う。
 一方、今後の鳥獣被害の抜本的な解決策として、耕作放棄地を発生させないための担い手不足の解消策として、国はもちろん自治体としての農業政策の転換と新たな試みが必要であることは言うまでもない。