【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

 「食の安産安心」や「地産地消」など野菜の生産流通を取り巻く情勢は変化し続けている。しかし生産現場は、助け合いながら野菜を作り続けている農家や、夢を持って新しく農業に取り組む農家が、日夜泥にまみれながら「元気な野菜」を生産している。そんな野菜を口にするときに「どんな農家が作ってくれたのかな?」と思って食べてもらえるとうれしい。



「みんなぁ もりもり野菜をたべよう
~元気野菜の生産現場から~

鹿児島県本部/鹿児島県関係職員労働組合・肝属支部 小山 只勝

1. はじめに

 「みなさん 野菜を食べていますか?」
 いろいろな場面でよく聞かれる言葉です。
 「野菜を食べないと成人病になるぞー」とか「野菜を食べたらやせるぞー」とかいろいろな方がエライお話をしていただいています。某情報番組で有名司会者が「この野菜をたべるとナントカだ」といえば価格が上がり、新聞、テレビで「野菜は不作だ こんな時こそ規格外の野菜を大事にしよう 曲がったきゅうりもおいしいぞ」と報道されれば、規格にあった野菜より規格外の野菜が高く売れる。それ以外にも「無農薬の野菜が体にいい」とか「異常気象の昨今、植物工場で野菜を作るぞ」とか、野菜をとりまく情勢はめまぐるしく変わっています。最近の農家はこのような情勢の変化を敏感にキャッチして、消費者のニーズにあった野菜を作らなければ今後の野菜農家経営は成り立っていかないというエライ方もいらっしゃいます。
 しかし「今年はトマト 来年はナス」とか「今日から無農薬栽培に切り替えるぞ」というような機敏な(経営方針の定まらない?)農家はほとんどいません。何十年同じ畑に種をまいて、台風が来ても大雨が来ても野菜を作り続けて、野菜をとりまく情勢がどう変わろうと頑固に野菜を作り続けて、「農業に定年なんかないよ」といいながら野菜を作り続けて……。

 今回は、農村でがんばっている元気で頑固な野菜農家の様子を伝えることで、「この野菜はどんな農家が作ってくれたのかな」と思っていただけたら幸いです。

2. 野菜の売り場から

 野菜栽培の現場を伝えるといいましたが、まずここは近所のスーパーの野菜売り場を見てみましょう。
 一昔前と変わったところはどこでしょう。「年中同じような野菜が並んでいる」とか「昔より種類が多くなった」とかありますが、今回は「表示」に注目しましょう。品名と値段以外に必ず書かれている項目があります。それは「原産地」です。この「原産地表示」はJAS法という法律で2004年から義務化されています。よくよくみると全国各地から届いているのがわかると思います(中には海外からの輸入もありますが……)。流通が進歩した今日、全国津々浦々から様々な野菜がスーパーの売り場を賑わせてくれます。
 昨今は「地産地消」とか「身土不二」とかの運動もあります。もっともだと思います。しかし日本のほとんどの県が「農業県」と謳っていることからもわかるように、農業生産地から消費地への農業生産物、特に野菜の流通は農村部の経済にとっても都市部の生活にとっても不可欠です。
 下の図は鹿児島県で生産されるきゅうりの出荷先です。
 9割弱が県外に出荷され、九州以外は約5割にものぼります。新鮮さが求められるきゅうりでさえ、非常に遠くから運ばれて消費地へ届けられます。このように、地方で生産される野菜のほとんどが東京や大阪などの大消費地で消費されるのです。
 野菜農家は「遠くのあなたのために」日夜野菜づくりにがんばっているのです。

3. 野菜畑から

 さて、野菜栽培の生産現場からの報告です。
 各値道府県には農業改良普及員といって農家の栽培技術や農業経営を指導、支援する職員がいます。
 鹿児島県のK普及員がきゅうり農家のYさんのハウスに立ち寄りました。
 K普及員(以下普)ときゅうり農家のYさん(以下農)との会話です。

(普)「こんにちは、きゅうりの出来はどうですか?」
(農)「最近天候不順でなかなか難しいよ でも最近やっと実がなり込んできて収穫が忙しいよ
 注)近年、毎年「天候不順」で農家は非常に困っている。農家からは「平年」がなくなっているとの声も多い。
   温暖化、異常気象に打ち勝つ農業が求められている。

(普)「今日は何時から収穫を始めたんですか?」
(農)「7時半にはハウスに来てずっと収穫だよ。お日様が上がると暑くなるから大変だよ。」
 注)「農作業時間を減らそう」と呼びかけてはいるが作物に合わせた作業が求められるため作業時間、特に野菜の収穫期の作業時間は長くなってしまう。
 下の図はこの農家の1年間の労働時間である。収穫は半年以上に及び、植え付け以降の作業を含めるとほぼ一年中忙しい。また多くの農家が水稲を栽培しており、夏場は水稲の作業も多忙となる。

(農)「ところで最近害虫が発生してきゅうりの葉を食べてるんだよ。あんまり薬もかけたくないしなんかいい方法ないかな?」
(普)「それだったら粘着シートと天敵農薬を組み合わせて使ったら害虫が減るんじゃないですか? でもあまり使っている農家さんはいないですね。でも今後のために試してみますか?」
 注)野菜を栽培する上で最も大きな課題は病気や害虫をいかに減らすかである。人間の健康と同じように野菜も健康であることが一番である。病気や虫には「農薬」という薬を使うのだが、人間と違うところは野菜は使える薬の回数が決められていることである(人間は何回服用しても問題ない……これって野菜より危ないのでは?)。故にこの農家のように「極力農薬を使わない野菜作り」が普及しつつある。ちょっと難しい言葉で言うと「IPM(総合的病害虫管理)」というが簡単にいうと「収量や品質にあまり影響のない程度の病気や害虫の発生に抑えられるような方法で栽培しよう」と言うことである。人間もかつてはちょっと怪我したり軽い咳ぐらいではすぐ病院には行かなかったような……。

(農)「最近、きゅうりの値段が下がってきたけどどうしてかなー? 東京の市況は高いんだけど自分たちの出荷する大阪の市況がいまいちなんだが? 何が原因だと思う?」
(普)「うーん 最近東日本の天気はあまりよくないけど、西日本は全体的に好天が続いているし、大阪の市場に出てくる産地で言うと徳島あたりは作柄がいいみたいですよ。」
(農)「そうか。気象庁の長期予報や天気図なんかを見てもしばらくは良さそうだから価格も安めで推移するのかなぁ。」
 注)最近はインターネットから様々な情報を得る農家が増えている。特に各市場の市況や気象情報、台風情報などは指導者よりもいち早く情報を得ている場合もある。また栽培技術や各種資材の情報も多く持っておりいろいろな質問が飛び出す。しかし情報の分析と選択が出来ない農家もおり、とんでもない農法を実践し、失敗する農家もごくまれに見られる。
   いずれにせよ情報の収集ツールとしてのネットの活用は増えたが、情報発信までには至っていない。

(農)しかし宮崎の口蹄疫は大変だったな どうにか治まったからよかったがいろいろ大変だっただろう。
(普)はい私たちも消毒作業に言ったりして大変でした。でも宮崎の農家は畜産だけじゃなくて野菜農家も影響受けているみたいですよ。
(農)そうか。宮崎もこれからがふんばりどころだな。宮崎にはきゅうり農家も多いし、自分たちも協力できることがあればやらんといかんなぁ。
 注)農業は「つながっている」畜産農家と野菜農家、宮崎と鹿児島、なにかしら「つながっている」
   そのつながりを大切に助け合いながら長い間野菜を栽培してきた。
   これまでも、そしてこれからもかたくなに「頑固な野菜」を作り続けていくであろう。

                                                                 

 さてK普及員、次は県外から移住し新規参入農家として新規品目のカラーピーマン栽培を開始したNさん(以下新)の苗つくりのほ場に来ました。

 近年、新規参入者を含む新規就農者数は増加の傾向にあり昨年度(2009年度)は6.6万人程度で増加傾向です。鹿児島県でも野菜や畜産を中心に新しく農業を始める人が増えています。特に新規参入の場合はほとんどが施設野菜の経営を始めています。経営的に有利な品目や大規模経営での後継者は比較的確保されていますが、中山間地や「限界集落」と呼ばれている地域の後継者はほとんど確保できていません。 

(普)「こんにちは。苗の状況はどうですか?」
(新)「なかなかです。これが正常な生育なのか、これからどう生育するのかなかなか先が読めません。」
(普)「1年目からうまくいく方はほとんどいません。でも毎日観察することでだんだん見えてきますよ。」
(新)「研修施設の時は指導者もいたし他の研修生もいたので話しながらできたのですが、独り立ちすると相談相手もあまりいないのでやっぱり不安ですね。」
 注)鹿児島県もそうだが、ほとんどの都道府県、市町村で新規参入者の研修制度は確立されている。1~2年程度の研修を経た後就農(自立)する。自立後は地域の生産者組織等に加入したりしながら地域で振興する品目を中心に経営を開始する。また直売所等を開設したり、ネット販売、宅配等で販路を拡大する農家も見られる。

(普)「ところでハウスの準備や機械の準備はどんな状況ですか?」
(新)「ハウスは補助事業を活用して整備したのですが、機械がなかなか購入できません。新規で購入したいのですがなにせ高くて 補助事業もなくて今年はとりあえず借りることにしていますが、やはり農家だったらトラクターは持ちたいですよね
(普)「全てを新しくが山々でしょうが、最初は経費をあまり使わないほうがいいですよ。最初の2~3年は生産も不安定になりがちですので、蓄えはあったにこしたことはありません。」
 注)「農業はお金が要る」これは明らかである。農業=企業という概念をしっかり持って就農しなければ安定した経営は見込めない。栽培技術と経営感覚の両方を学びながら農家は成長していく。

(普)「Nさんはどんな農業を目指しているのですか
(新)「私は鹿児島が好きで鹿児島に来ています。鹿児島に人を呼べるような農業をやっていきたいですね
今はカラーピーマンを栽培していますが、将来的にはこの広い畑を使った露地野菜や、可能であれば林産物なんかにも取り組んでみたいですね
(普)「そのビジョンを持ってこれからもがんばっていけば必ずかなうと思いますよ。いまそんな『夢』を持った農家がどんどん増えています。何かの機会があればそういう農家さんと情報交換を行うこともおもしろいですよね。」
(新)「そうですよね。是非話をする機会を作って下さい。」
 注)今、若い農家は『夢』を持っている。「農業」という事業に明確な「ビジョン」を持って取り組みつつある。その農家が『夢』に向かって日夜がんばっている。そんながんばっている農家が作る「元気な野菜」が増えつつある。

4. 最後に

 今、あなたの前のサラダボールのレタスやきゅうり、お鍋のなかの大根や白菜、総菜の煮物に入っているカボチャは、情報端末を駆使し、経営感覚に優れた「農業経営者」が作ったものばかりではないのです。孫の成長に顔がほころぶきゅうり農家、子どもの進路に悩む白菜農家、新たに農業に取り組もうとして泥まみれになっている新しい農家、そんな農家が一つ一つ種をまき、苗を植え、大事に収穫した野菜です。
 「もっと食べて下さい」とか「野菜を高く買って下さい」とかは言いません。
 せめて「この野菜はどこから届けられたのかな?」とか「どんな農家さんが作ってくれたのかな?」と思っていただけるだけで充分です。
 きっと、ちょっとだけ味わいのあるおいしい野菜に生まれ変わると思います。
 そしてあなたの顔がほころべばまた農家は頑張れるのです。