【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

 組合員(役場職員)が地域に根ざし、地元を積極(強制)的に使うことで地域の活性化、とりわけ「地方自治(地域)を守る」取り組みであります。そのことが「組合員(公務員)バッシング」を脱する「世論形成」づくりとなればとの思いと、5年間続いた「独自削減」を回避するための1つのツールになればという期待も込めた取り組みであります。



ふるさと購買運動
地域を守るために自治労組合員から「はじめの一歩」

北海道本部/足寄町役場職員組合・副執行委員長 田中 剛己

1. ふるさと購買運動実施への道のり

 2007年末、当たり前のようになりつつある「独自削減」に終止符を労組の側から打つことはできないかと「村上書記長」と模索し出しました。町内購買「強化」運動的なことで、商工店主(商工会)を巻き込んだ取り組みをすれば、世論が変化するのではと思いました。しかし、そのようなことで町内消費が増えるかどうかは不確定であり、職員(組合員)全員が確約されるかの課題が浮き彫りになりました。一層のこと「強制徴収」をして地域通貨的な発想が浮かび上がりました。現金支給の原則・景品法など、法の制約の壁にもブチ当たりました。組合費②としてチェックオフをし、商工会商品券を購入、そして一括して配布することで、町内に限定した消費・購買が可能と判断し、49回に及ぶ執行委員会、2回の職場班会議の議論を重ね方針(案)を策定しました。内容は、2009年4月から11月の8ヶ月間、給与より「3%」を納入(チェックオフ)し、商工会に製作していただく自治労足寄町職員労働組合の名が記載された専用の商品券(商工会員以外(JA店舗など)にも可能)を町職労で一括購入。12月初旬に組合員が納入した額に応じて配布し、年末・年始を迎える12月中旬より6ヶ月間で使用・購入することであります。町外資本の大型店(スーパーフクハラ:北海道最大級のアークスグループ。イエローグローブ:道内中堅ホームセンター。それぞれ商工会加盟により使用可)での使用よりも、町内の小さな商店や入ったことのない商店での積極的使用を推進し、地域における組合員との信頼関係の強化を図る狙いもありました。試算による事業規模は、組合員数173人で、約「1,200万円」であります。
 2009年2月28日(土)小ブロック春闘討論集会の朝食時、北海道新聞(以下:道新)を手に取ると、地方版に「足寄町職員満額支給」と大きく掲載され、6年ぶりの独自削減回避の妥結を大きく(皮肉な表題で)掲載され、丸山委員長・村上書記長と絶句してしまいました。ふるさと購買運動実施がほぼ決定している中といえ、組合バッシングが議会をはじめ多く吹き荒れると予想しました。翌々週より開催の3月定例議会の予算審査時に職員給与費への質問が出されるとの噂も流れ出しました。
 なぜ小さな単組の交渉妥結が新聞に掲載されたかの疑問があると思います。マスコミはこの間、何もしなくても「高い賃金・手厚い待遇」などを思わせる表現で、公務員全体を叩き続けてきています。しかし、道新や十勝毎日新聞(以下:勝毎)の記者とコミュニケーションを図り、地域に働く公務員との違いを理解していただき、組合側の視点による記事の掲載もお願いし、ワイドショー的で騒ぎ立てる表現を控えてほしい旨を話してきました。その矢先の「満額支給」の表現にはかなり裏切られた感じが残りました。しかし、近日中にふるさと購買運動の記事が掲載され、逆風が追風になるようにと期待していました。
 3月14日(土)道新朝刊第2社会面(全道版)と勝毎(1面)にふるさと購買運動が掲載されました。翌週月曜日から開催された定例町議会では、我が方ではない「大物?町議」がこの記事から総括にて「大絶賛」の発言をしました。予想されていた職員給与費への質問・意見も出されませんでした。同日には「2ちゃんねる」に「スレッド」が誕生し、さらには「週刊新潮」の「B級重大ニュース」にも掲載されました。他の自治体首長からも激励や感心をいただき、あまりの「追風」にマスコミの影響力と周りからの注目度合いに驚かされました。とんとん拍子にことが進んでいくことにも驚きましたが、不安な気持ちがほとんどなかったのも不思議でした。
 3月24日臨時大会を開催し、運動方針と追加組合費納入の規約改正を圧倒的多数の賛成にて採択され、長い苦労の末の実りでありました。まだ、スタート地点に立つことができただけですが、足寄町職労の歴史に残る1日になったに違いありません。

2. ふるさと購買運動スタート

(1) ふるさと購買運動積立実施
 ふるさと購買運動の検証・総括を行うためにも、積立中・商品券使用中・使用後における計3回のアンケート実施を組織部にお願いしました。同時期に町の補助金が使われた「プレミアム商品券」が発行されました。小規模店で使用された商品券を店主が商工会への換金手数料を差し引かれることを避けるために、大型店にて使用するという「使いまわし」が横行しているという状況の下、足寄町職労組合員限定商品券は換金手数料が一切なく、町職労の名が記載されていることから、店主が他店にて使いまわすことができないことで、精度の高い「業種別・店舗別」の消費動向が判り、動向調査をしたことがないと言っていた商工会には、格好の材料になると思いました。さらに、そのデータを活用し、商工会や店主への助言・提言の機会を作り、組合員の声や思いも伝えていこうと考えていました。
 4月の給与よりチェックオフが始まり、給与明細に組合費②の項目が増え、周りの組合員から「独自削減ってこんなに引かれていたのかぁ」「ただ捨ててもったいなかった」との多くの声が聞こえてきました。アンケート結果からも同様な意見も目立った一方で、独自削減「慣れ?」のため、生活の変化はない様子もうかがえました。購入予定品目の多数は「食料品・生活用品」でありましたが、「電化製品」「家具」など、多くは町外で購入されていると思われる品目を選んだ人も予想以上にありました。この取り組みが商工店主に「当たり前」と受け止められることや「売り手の努力」など、店主側への意見や注文も目立ちましたが、今回限りではなく「もう1度」「今後も継続」といった意見が54%と半数以上となり、地元購買の意義が理解された結果となりました。しかし、残念なことに自治体職員として質を問われるマイナス的な意見もごく少数出されました。
 11月6日(金)商工会にて「ふるさと購買運動に関する覚書」への調印式を開催しました。月日がたち、町民から忘れられそうな時期でもあったことから、道新・勝毎に取材依頼をしました。新聞以外にも地域コミュニティー紙に掲載されるなど、マスコミ効果により住民への期待、住民からの期待を得ることができました。

(2) ふるさと購買運動購入開始
 12月1日から3日間で商品券の配布を行いました。翌日には道新夕刊(1面)、翌々日には勝毎に、組合員の思いや期待の声も掲載されました。12月10日供用開始、6月9日期限で発行したのですが、誌面を見た「帯広財務事務所」から商工会に電話が入り「前払式証票規制法により6ヶ月間は理解されているようですが、あくまでも発行日=供用開始日で5月31日の期限です。6月9日までだと違法です。」との内容でありました。6ヶ月間を超えると事前に登録が必要になり、予定どおりに施行できなくなることから、12月10日の供用開始日まで、帯広財務事務所と平行線をたどりました。
 12月10日(木)夢物語が現実となる本当の意味の「ふるさと購買運動」がはじまりました。執行委員は特に率先して町内資本や小規模店で使用してもらうよう再度声をかけましたが、どうなることかと不安は残りました。自分も早速商品券での購入を行いました。券を出すときの「イイですかぁ?」という言葉に、現金と同じなのになぜか「遠慮ぎみ」になってしまいました。しかし、ここまでやってくることができた「達成感」がありました。
 2010年1月29日、年末・年始期を終えたことから、中間アンケートを実施いたしました。商品券を6割以上使用した人が45%を超え、30%の組合員が初めての店舗を利用したこととなりました。意見としては「使用できない店舗があった」など、「商工会の指導力不足」「店主の努力不足」という「足寄体質」への批判が目立ちました。時期を同じく、商工会による店舗別中間集計を行ってもらいました。大型店舗(町外資本2店+JA店舗)とその他の店舗の比率が「27:73」となり、運動の趣旨が組合員へ浸透している状況となっていました。「ここはないな!?」と思われた商店での使用もいくつか現れていました(店舗名・使用枚数は田中・村上以外非公開)。

(3) 新たなふるさと購買運動に向けて
 2月10日からの春闘期に定例で開催されている職場班会議にて、アンケートとは別にフリーな意見を出してもらいました。「入店すると買わなければいけない雰囲気がある」「ワンコイン(商品券1枚)商品の開発」「庁舎内販売」「非協力店の排除」など多くの意見が出されました。それらを受けて、次回方針(案)のたたき台を組織部と検討し、執行委員会にて方針(案)を策定しました。
 具体的案は、2010年4月から9月までの6ヶ月間は今回同様「3%」の納入とし、10月から翌年3月までの6ヶ月間で3%分の消費を行う一方で、同期間は納入率を「5%」に上げて、2011年4月からの6ヶ月間の消費で終了するものであります。町長(組織内)との雑談の中で「10%ぐらい購買運動をしたら議会対策も含め独自削減は絶対しないと約束してもイイ」と言われました。一時はより近いパーセンテージも検討しましたが、組合員における過去の独自削減率の最大が6%(新給料表5級在級者)であり、ローンなどで商品券では解決ができない組合員への負担を考えると、5%が限界と判断いたしました。増額消費の時期は夏場ということもあり、町内イベント(ビアガーデン・両国花火大会・かあちゃんの漬物市など)での使用可能とさせることにより、組合員がイベントなどに積極的に参加していただく意味も含めました。試算による事業規模は、組合員数167人で、前回額の倍の約「2,400万円」であります。
 3月29日(月)道新朝刊第3社会面(全道版)に、翌日には道新朝刊(地方版)に掲載され同日の勤務終了後、臨時大会にて決定しました。

3. 第1回ふるさと購買運動終了

 6月9日(水)商品券の有効期限の日となり、早速アンケートを開始いたしました。食料品や生活用品、外食・飲食が56%を占めていましたが、電化製品、家具、その他も30%と各業種に広く使用されたことがうかがえました。はじめて利用した店があるという人の理由の中には「あえて町内の店を利用する(いつもなら帯広で買う)」「運動を契機に多少高いとは思ったが今後のアフターなどのため顔なじみとなることを期待した」「商品券であれば少々高くてもという意識が働く」という意見もあり、積立期の意見にあった「ただ捨ててもったいなかった」という思いから、多少の高いぐらいの金額であれば地元での購入にするという「商品券効果」と、運動の趣旨がしっかりと浸透した結果が表れました。商工会による最終商品券回収結果は、発行金額「11,299,500円」のうち、回収99.2%(73店舗)、未回収0.8%(184枚:92,000円)となりました。未回収分は、4月1日付の人事異動において組合員から管理職となり、教宣紙未取得などによる情報不足から「6月いっぱい」と勘違いした人や「記念にとっておく」という人が現れたことが原因と思われます。使用率は町外資本大型店が30%、町内資本店が70%となり、予想以上の成果にほっとしたのが本音です。商工会からは「年末・年始と重なり、飲食・燃料代に多く使われ地域経済への波及効果は多大であった」とのコメントでありました。
 6月30日(水)商工会・商店主へのプレゼンテーションを開催しました。ふるさと購買運動に至った経緯や経過を説明し、3回実施されたアンケート結果と組合員の声や思いを伝え、意見やアイデアを提言しました。さまざまな年齢層や性別が集まる「労働組合」が提言することで、消費者のニーズや要望が直接商工店主に伝わり、そのことを踏まえたサービスや企画が生み出され、お互いにメリットが出る絶好の場と考えていました。そのことで、商工店主がしのぎを削って商品券を奪い合うような動きが巻き起こり、町内消費が町民全体に定着化され、町内経済がより活発化していく期待も込められていました。しかし、商工会事務局3人+店主10人しか集まらず、依然として「足寄体質」と言われても仕方のない状況でありました。さらに、道新夕刊(1面)に「やめてください 殿様商売」と全く発言していない「殿様商売」が見出しに使われ、マスコミの騒ぎ立てたい姿と裏切りのような記載に怒りを感じました。商工会事務局から道新本別支局へ抗議の電話を行いましたが、記者からは「過去からの取材も含めそう聞こえました」との返答であったようでした。商工会としても「そう書かれても文句も出ない状況も数多く見受けられる」「町内店舗の雰囲気からも記者の思いが入る状況に不思議がないかも……」と話されました。後日、十勝において道新よりも発行部数が圧倒的に多い勝毎が、いつもは公務員バッシング的ですが、事実に基づいたクリーンな掲載となったことから少し気分が紛れました。人勧期職場班会議において、数多くの組合員から道新に対し「しっかり抗議すべき」との意見が出され、7月27日に開催された第26回執行委員会において「記載の訂正」「報道の適正化」を求めることを確認し、翌日道新帯広支社へ抗議文の発送を行いました。後日、激怒した支局記者より徹底的にたたかう旨の電話が執行委員長に入りました。執行部3役による協議の結果、謝罪の記載があったにしても、その後に独自削減回避など、紙面では表向きにはなっていない要素を前面に出される攻撃を避けるためにも、苦渋の選択をせざるを得なく、悔しく残念な結果となるべく取り下げを行いました。
 第1回目のふるさと購買運動は、組合員の努力により目標・目的が達成することができたと思います。しかし、有効手段としてのマスコミ効果への対応が課題となり、新たな手法も検討しなければなりません。

 

4. 足寄町職労の課題と展望

 人件費抑制に伴う採用不補充と賃金合理化の課題であります。5人退職に1人採用という当局方針により「限界行政」がすぐそこに迫ってきています。人は減っても住民からの信頼・信用がより一層求められている中、仕事量が増大しても人件費は抑えられている実態にあります。人事院勧告を上回ることが困難な状況や、新給料表(地域給)が導入され生涯賃金が抑制されてきた中で「ラスパイレス指数」などを口実として、さらなる賃金合理化(独自削減)を余儀なく受け入れてきました。この運動を1つの切り札として展開をしてきた訳ですが、今後において、再度提案が出され妥結せざるを得なくなった場合でも、運動を展開していけるのか。両立となると組合員の意見は分かれ、実施は厳しいものとなるのかと思います。購買運動(商工業者)に限った取り組みだけではなく、仕事や他の自治研活動、さらには定住促進を推進することで、自治(町内)会活動などに積極的に参加し、住民との信頼関係を構築し、組合員(役場職員)が地域に必要だという世論を形成していくことが大切だと思っています。
 おわりに、今回の運動は全てがはじめてで、周囲からの注目も日に日に増し、ことが大きくなっていくことに驚きました。また、マスコミの影響力も実感いたしましたが、ワイドショー的な怖さも痛感いたしました。ただ、足寄町職労の組合員「全員」が1つの取り組みに総結集し成功させたことで、本気で地域を守る「はじめの一歩」を踏み出し、今後の取り組みへの自信となりました。足寄町職労は、自治労総体にすると非常に小さな「点」にしかなりません。全国に点在する多くの単組が、それぞれの運動を積み上げることで、強靱な自治労総運動を創りあげなければなりません。