【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

 2007年8月、大阪市職員労働組合は三津屋商店街振興組合の協力を得て、淀川区三津屋商店街の空き店舗を利用して、市民交流スペース「みつや交流亭」を開設した。開設後の取り組みを紹介しつつ、市民と自治体労働組合の協働とはどうあるべきか、さらに地域の多様な主体が集まり、交流する「プラットフォーム」の形成の意義について考えたい。



市民交流スペース「みつや交流亭」の取り組み
自治体労働組合と地域・市民の協働をめざして

大阪府本部/大阪市職関係労働組合 福田  弘

はじめに

 いわゆる「職員厚遇問題」への対応の過程で、「市役所のカウンターを超えて」市民協働・地域協働に取り組んでいた大阪市職員労働組合(大阪市職)は、商店街振興組合の協力を得て、2007年8月、大阪市淀川区三津屋商店街に空き店舗を活用した市民交流スペース「みつや交流亭」を開設した。同スペース開設にいたる経緯については、第32回北海道自治研集会の自主レポートで紹介しているところである。本レポートでは、みつや交流亭の開設後3年間の活動、そこで得られた経験、同時に明らかになってきた課題について報告したい。

1. 特定非営利活動法人「みつや交流亭」の発足

聴衆参加の落語会

 開設以降「みつや交流亭」は、地域に開かれた交流スペースとして、商店街来訪者へ休憩スペースを提供し、誰もが参加できる落語会や音楽会などのイベントや勉強会(後述)などを開催してきた(イベントや勉強会の後には「交流会」を設定、忌憚のない意見交換や立場を越えた交流を行っている)。落語会は「笑福亭仁勇の落語deカルチャ!」と銘打ち、毎回テーマを決めて関連した演目の落語とカルチャー講師とのコラボレーションで開催しており、テーマによっては専門知識を持った大阪市職組合員も講師として出演している。これらの企画は、大阪市職・商店街に加え多彩な地元メンバーで構成される「まだまだよくなろ・みつや倶楽部」が、月1回の企画会議でアイデアを出し合い考えてきた。日常的にも、地域団体の会合や地元グループの催しにスペースが利用されている。また後述するように、交流亭の「店番」も兼ね、平日昼間は子育てサークルによる親子の交流事業にも使われることとなった(土曜日は大阪市職組合員が「店番」を担当)。
 このように「みつや交流亭」の活動は、開設3年目を迎えるころには地域にもかなり認知され、実質的な日常運営も軌道に乗ってきたが、運営体制の明確化は交流亭の開設当時からの大きな課題だった。開設準備期および開設当初は、大阪市職と商店街、さらには様々な地元組織との多様な関係を模索し、またそのあり方を柔軟なものにするためにも、あえて運営体制を明確に定めてこなかった。しかし、運営が軌道に乗り始めた時点で、内外にわかりやすく説明できるよう形式的にも運営体制を明確にすべき時期が来たとの判断であった。そこで、2009年より特定非営利活動促進法に基づく特定非営利活動法人化をめざして手続き等を進めてきたが、2010年1月、大阪府より特定非営利活動法人の認証を受けた(同年2月1日法人登記)。法人化に伴い、大阪市職の担当者も法人理事として参加し、また大阪市職も組織として「大口団体会員」となることによって関わりを明確に位置づけることになった。なお法人役員(下表参照)は、主に「まだまだよくなろ・みつや倶楽部」メンバーで構成することになった。


特定非営利活動法人みつや交流亭役員(2010年8月現在)
理事長 
  片寄 俊秀(大阪人間科学大学特任教授・まちづくり道場主)
副理事長 
  辻本みゆき(子育てサークル「育児&育自“この指と~まれ”」代表)
副理事長 
  濱西 正次(三津屋商店街振興組合前理事長)
理 事
  味方 愼一(特定非営利活動法人「もみじ」代表・1級建築士)
理 事 
  岡田 明美(社会福祉士)
理 事 
  片山 留美(日本労働者協同組合連合会センター事業団大阪西事業所副所長)
理 事 
  笑福亭仁勇(落語家)
理 事 
  中井 勇介(高知県本山町地域おこし協力隊員)
理 事
  成田 吉哉(社会福祉法人博愛社デイサービスセンター「生活屋(いきいきや)」施設管理者)
理 事 
  乃美 夏絵(タウン誌『ザ・淀川』編集長)
理 事
  山口 勝己(大阪市職員労働組合副執行委員長)
理 事
  福田  弘(大阪市職員労働組合政策局書記)
監 事 
  直田 春夫(特定非営利活動法人「NPO政策研究所」理事)
監 事 
  山下 博司(大阪市職員労働組合前執行委員長)

2. 大阪市職「みつや・まちづくりゼミナール」の活動

 大阪市職では、大阪市職市政改革推進委員会(委員長・政策担当副執行委員長)のもとに、「みつや・まちづくりゼミナール」、「今里地域防災まちづくり」、「釜ヶ崎まちづくり」、「ecoラボねっと」の4つのワーキングチーム(WT)を設置している。それぞれのWTでは、市民協働のまちづくり、木造密集市街地の地域防災、日雇い労働者の街・釜ヶ崎のまちづくり、市民と協働した環境保全活動をテーマに、各支部組合員の参加のもとで政策研究活動に取り組んでいる。
 「みつや・まちづくりゼミナール」では、みつや交流亭における活動をその中心としつつ、広くまちづくり全般に視野をひろげた活動に取り組んでいる。「まちゼミ」は、特定非営利活動法人みつや交流亭理事長で大阪人間科学大学教授の片寄俊秀さん、特定非営利法人NPO政策研究所理事長の直田春夫さんをアドバイザーとして、下表のような組合員メンバーで構成されている。
 「まちゼミ」では、単にメンバーが集まって「座学」によるまちづくり研究を行うのではなく、町会や商店街のみなさんと勉強会を開催し(行政職員の立場では聞けない、地域の本音などが聞けて非常に有益だった)、地域イベントに参加するなど、実際に地域に出て活動してきた。2010年3月には、歴史地理学が専門の西部均大阪市政調査会研究員の案内で、「三津屋地域まち歩き(歴史編)」を開催し、「まちゼミ」メンバーに加えて、地元町会をはじめとした住民のみなさんに同行いただきつつ、古地図や文献をたどりながら三津屋地域の歴史的なポイントを見て歩いた。さらに、その成果を三津屋地域の各町会、商店街、地域団体のメンバーで構成する「三津屋中地区まちづくり研究会」(1) で報告したところである。

「まちゼミ」勉強会
「まち歩き」の様子

「みつや・まちづくりゼミナール」メンバー
<アドバイザー>    
 片寄 俊秀(大阪人間科学大学教授、特定非営利活動法人みつや交流亭理事長)
 直田 春夫(特定非営利法人NPO政策研究所理事長)
<大阪市職組合員メンバー>    
 中野 剛志(教育支部)   高橋 英嗣(西淀川区役所支部)
 山添 克裕(都市整備局支部)   平島 大輔(淀川区役所支部)
 松崎富士子(都市整備局支部)   鎌田 高彰(阿倍野区役所支部)
 豊島 弘明(建設局支部)   市川 一夫(住吉区役所支部)
 宮永 真紀(ゆとりとみどり振興局支部)    

3. 協働の「プラットフォーム」としての「みつや交流亭」

(1) 「ぼうさい朝市&昼市」の開催
 2008年11月2日および2009年11月1日に、商店街近くの神崎川河川敷で「ぼうさい(防災)朝市&昼市」が開催された。かつての北前船ルートにある全国の商店街が連携したイベントに、地元町会が「防災訓練」と位置づけて参加、会場設営(避難所設営)・物産販売(救援物資配布)・会場警備を行うとともに、国・大阪府・市の行政担当者、NPO、大阪市職がサポートするという、様々な主体が参加するイベントとなった。交流亭では「ぼうさい朝市&昼市」開催に先立って、意識の共有化を目的として、内閣府中央防災会議専門委員の室﨑益輝関西学院大学教授を招き、「地域にねざし、地域を育み、地域ぐるみの防災」をテーマとした防災セミナーを開催した。
 元来は外部から持ち込まれ、内閣府の「地方の元気再生事業」による本事業において重要だったのは、地元町会、商店街、行政担当者、NPO、大阪市職と様々なメンバーが交流亭に集まって事業の企画や打ち合わせを何度も行い、その過程で協力関係が構築されていったことである。その結果、災害時に互いに支援し合うための商店街のネットワークづくりを主目的とした「物産市」の性格が強かったイベントの企画に、当初は想定されていなかった、地元町会の防災訓練としての参加というアイデアが加わることになった。これによって、「避難所設営」と見立てた会場設営と「救援物資の配布」と見立てた物産販売を町内会・女性会が行うこととなり、防災という観点からより厚みを増したイベントとなった(このアイデアは、2010年1月に大阪市西区阿波座で開催された「ぼうさい朝市&昼市」でも活かされ、西区地元連合町会・女性会が参加して会場設営・物産販売が行われた)。
 最近「協働」という言葉がよく用いられるようになっているが、やはり「ぼうさい朝市&昼市」のように立場が異なるもの同士の協働には、困難が伴うことが多い。文字通りの“coproduction”――すなわち、協力して具体的な何かを生み出すという意味での協働を試みる場合には、なおさらそうである。当時商店街理事長だった濱西さんから、商店街の夏のイベントである「三津屋どんたく」に地元町会の参加を求めた際、活動への参加が非営利を基本とする地域から営利団体としてみなされ、それが障害になったとの指摘があった。「なぜ、商店街の営利活動に地元住民が無償で協力しなければならないのか」という疑問が寄せられたのである。しかし、交流亭のような様々な立場の主体が参加する「場」を媒介することによって、地域と商店街の協力が容易になるとのことであった。
 また、行政が設定する場では、どうしてもそれぞれが立場を背負ってしまい、議論が制約されてしまうことが多い。しかし、交流亭においては、互いにどのような立場にいるか認識していながらも、まずは一個人として参加しているという雰囲気がある。それぞれの知識や経験、人脈などを尊重しながらも、「立場」に逃げ込むのではなく対等な議論をする。交流亭がネットワークをつなぐ「場」――流行の言葉を使うならば協働の「プラットフォーム」――としての機能を果たすことができたのではないかと考えている。
 この「雰囲気」についてであるが、例えば行政施設の会議室を使用すると、それだけで参加者それぞれが「立場」を意識してしまう。それは町内会の会館や労働組合の会議室を用いても、「立場」の意識のされ方が異なるだけで同様かもしれない。しかし、交流亭の「雰囲気」は、開設に至る経緯、その後の様々な主体による参加の過程、さらには建物(打ち合わせは2階の和室で行われることが多く、正式な会議というより「寄り合い」という感がある)などから、自然と生まれたものである。文脈的に形成されたその場独自の「雰囲気づくり」は、交流スペースの運営において非常に重要な要素ではないかと感じている。

地元町会による「避難所」設営
地元女性会による「救援物資」配布
大阪市職組合員による設営支援
交流亭での会議

(2) プラットフォームと自治体労働組合の立場
 これは、みつや交流亭の開設時にも議論になったのだが、自治体労働組合が地域に入って活動する場合、地域からはまず行政職員としてみられてしまう。同時に行政職員としての立場を持つ組合員が、どんなスタンスで地域と接すればよいのかという問題もある。しかし、自治体労働者はそれぞれの立場が対立し、時には板ばさみになることがあったとしても、行政職員であると同時に地域住民、市民でもある。そこに交流亭という「場」「プラットフォーム」があることで、自治体労働組合・労働者の特有の多面的な関係が、例えば地域住民と行政担当者の「つなぎ役」となるように、有効に機能することが期待できるのである。
 一方で、このような交流スペースの開設・運営は、行政施策に位置づけていくべき(自治体組合としては当局に政策要求すべき)ではないか、という意見もある。これについては、まず行政の関与が小さい方が、先に述べたような空間の「雰囲気づくり」がしやすいという面がある。もちろん、大阪市東成区役所のスペースを利用して開設された市民協働ステーション「ふれ愛パンジー」のような例もあるが、その場合でも市民主体の運営委員会にできるかぎり運営を委ねようとさまざまに工夫しているようである(なお、同スペースの開設・運営で中心的な役割を果たしたのは、大阪市職執行委員として「みつや交流亭」および「まちゼミ」に関わってきた職員である)。
 また、行政組織はその性格上、一律・画一的な施策展開とならざるを得ない面が否めない。しかも、大阪市は常住人口260万人を超える大都市である。全市的に一律の施策展開をしようとすれば、当然施策実現は遅くなる(地域・市民と日常的に接しているのは区役所であるが、これまで大阪市の行政区には十分な権限・財源が移譲されているとは言いがたく、対応に制約があるという面もあった)。しかし、自治体労働組合は、それぞれの専門分野を持ち、しかも日常的に市民と接して業務を行っている自治体行政職員を組織しながら、同時に行政組織にはない「フットワーク」の軽さと柔軟性とを持っている。大阪市も2007年11月の平松邦夫・現市政の誕生以降、「市民協働」を市政運営の柱として取り組みを進めているが、労働組合としての強さを生かして、大阪市職自らが市民協働を実践していこうということでもある。

(3) 多様な人が集まり、交流することで新しい活力が生まれる
 自治体労働組合としても、社会貢献はもちろんのこと、交流亭という市民と身近に接することができる「異質な」空間があると、従来とは異なった組合員がそこに参加することによって、人材の発掘・育成にもなり、ひいては組織の活性化に資すると考えている。また、そこでともに活動した経験は、とりわけ大阪市のような大組織で深刻な縦割り意識を、組合のレベルから克服することも期待できる。なお、交流亭で行われる様々な活動への参加は、いわゆる「動員」形式ではなく、自発的参加を基本としている。
 一方、子育てサークル「育児&育自“この指と~まれ!”」は、「大阪市つどいの広場事業」(2)を受託、交流亭を拠点として2008年10月から運営を開始した。これによって、商店街への来訪者が交流亭に立ち寄るだけでなく、子育て世代という新規の交流亭への来訪者が商店街に立ち寄ることになった。これによって、子育てサークルとしては拠点の確保、「みつや交流亭」としては「店番」確保、商店街としては集客、というwin-winの関係が期待できる。2008年3月には、交流亭を来訪した研究者の縁で、大阪市立大学の学生が空き店舗を活用した期間限定カフェ「color×color」を開設した。学生にとって企画にはじまり、店舗改装、行政手続き、仕入れ(商店街から食材を調達)、接客、経理など立ち上げから運営を実際に経験できたと同時に、これもまた高齢者と子どもが中心であった商店街に、これまでにない層の来訪者を呼び込むことになった。
 「ぼうさい朝市&昼市」終了後の「反省会」で、地元連合町会長から私たちの活動に対して「地域に異質なものを積極的に取り入れよう。それによって地域が活性化するはず」との言葉があった。商店街に異質な空間をつくることによって、多様な集客を実現し、そこから活性化のきっかけが生まれる可能性があるのではないだろうか。

今後の課題

 交流亭が開設してから現在まで、運営組織の充実や「店番」の確保など実質的な運営体制の確立に取り組み、ようやくNPO法人の設立にいたった。法人への会員募集を通じて、引き続き地域、商店街、NPO、組合員へと参加の輪を広げていくことにしたい。とりわけ組合員の参加についてであるが、交流亭の活動は実際に体験してみないと理解することが難しい。これは異質な者がともに活動し、これまでにない新たな価値を創造するという、「協働」の持つ本質的な特徴かもしれない。まずは様々な活動に参加してもらうという努力と仕掛けづくりが必要であり、より有効な工夫がないか様々考えているところである。
 また、今年4月には、大阪市内各地でまちづくりや地域活性化のための交流スペースを開設しているグループが集まり活動紹介と意見交換を行うことを目的として、東成区役所市民協働ステーション「ふれ愛パンジー」で開催された「まちづくりサミット」に参加し、交流を深めたところである。「みつや交流亭」とほぼ同時期に市内各地で、NPOや行政など様々な主体が関わって運営される「市民交流スペース」が開設されており、それらとのネットワークづくりにも取り組んでいきたいと考えている。
 なお、現在は交流亭の家賃を大阪市職が負担しているが(商店街会費などの経費は交流亭のイベント収入・スペース賃貸料等で賄っている)、会員の拡大等を通じた財政的な自立も目指して、今後も持続的な運営体制の構築に取り組んでいきたい。 




(1) 大阪市各区役所を相談・申請の窓口とし、認定審査会の審査に基づき認定された「認定まちづくり推進団体」。認定により、計画調整局からの活動費助成・コンサルタント派遣、区役所からの助言・支援を得ることができる。
(2) 国の「児童環境づくり基盤整備事業」の「ひろば型」として位置づけ、大阪市を実施主体に民間事業者に委託し「主に乳幼児(0~3歳)をもつ親とその子どもが気軽に集い、うち解けた雰囲気の中で語り合い、交流を図り、育児相談などを行う場を身近な地域に設置すること」(「大阪市つどいの広場事業募集要項」)を目的とした事業。