【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

 平成の大合併が始まってから10年余りが経過、北海道の212市町村は、現在179市町村となり各自治体における行財政運営もかなり落ち着きを見せたものと推察されます。合併によるメリットは多数ありますが、その半面、地域住民の苦労も相当あったものと感じております。両地域の活力を保ち続けるため、合併した町職員同士が一つになり、お互いの地域コミュニティ活動等を支えている現状をレポートします。



合併町村とコミュニティ活動
~地域イベントを通した住民との交流~

北海道本部/自治労枝幸町役場職員組合

1. 「森」と「海」の町「枝幸町」

 2006年3月20日、旧「枝幸町」と「歌登町」が新設合併し、新たな「枝幸町」としてスタートを切ってから、早くも4年余りが経過しました。
 広大なオホーツク海に面する枝幸地区は、豊富な水産資源を有し、「毛ガニ」の水揚げ日本一を誇る水産業の盛んな地区です。また、豊富な緑と森林に囲まれた歌登地区は、酪農業を中心とし、保養施設やゴルフ場など、広大な大地を生かした産業が盛んです。
 一見、対照的な地域のように思えますが、豊かな森や川があるからこそ豊かな海が育まれるものであり、歌登地区と枝幸地区は、その昔から密接につながり、現在の繁栄をもたらしてきたといえます。
 また、枝幸町は、宗谷管内では、唯一の合併町村で、日本では、最北の合併市町村でもあります。総面積は1,115.67平方㎞、南北54㎞、東西43㎞に及び、北海道でも有数の面積を有する自然豊かな町で、豊富な水産資源や大自然を生かしたイベントも積極的に行っています。中でも日本一の水揚げを誇る毛ガニをメインとした「枝幸かにまつり」や、ブランド品のメジカサケをメインとした「よくばりフェスタ」等、道内外から多数のご来場をいただき好評を得ているところです。

2. 市町村合併のもたらす課題と取り組み

 役場レベルでの行財政運営については、事務事業の統一を図ることで順調に進められ、一定の成果が表れてきておりますが、お互いの町が何十年にもわたり培ってきた、地域コミュニティ、文化や伝統の違いについては、一朝一夕に解決するものではなく、合併当初は、一つの町になったという意識が非常に薄かったものと感じております。
 中でも、お互いの町の地域イベントでは、住民が行き来することは少なく、職員間においても、「他の町の仕事」的な感覚だったと記憶しております。
 このようなことは、他の町の合併事例でも課題として挙げられておりますが、如何にお互いの垣根をとりはらって、一つの町の住民であるという意識を高めていくかが、将来にわたって活力ある町づくりを進めていくカギとなるものと考えております。
 お互いの町の住民が笑顔で語り合うことのできる町にするには、まず、私たち合併した役場職員同士の意識改革が重要であり、枝幸町では、職員組合の活動を通し、除々にではありますが、地域イベント等に積極的に参加してきました。その結果、4年経過した現在では、職員組合内での意識統一は概ね図られ、お互いの町の活動にも理解を示し、積極的に参加しあうようになってきました。
 自治研活動というには、余りに物足りない、一般的なことではありますが、地域イベント等を通し、住民と一緒に町を盛り上げていくことで、私たち職員と住民が将来に向けた町づくりや地域活性化について、共に模索していけるきっかけになればと考えております。

3. 地域イベントを通じた住民との交流

(1) 短い夏を住民とともに楽しむイベント
 枝幸の夏はあっという間に通り過ぎていきます。日本一遅い海開きとして知られている「はまなす海水浴場」は、7月下旬にオープンし、3日間しか泳げない年もあるくらいです。
 そんな短い夏を住民とともに盛り上げていく地域イベントとして、仮装盆踊りや子どもフェスタが開催されます。広大な面積にもかかわらず、人口はわずか9千人程の町ですから、イベントのスタッフや参加者を募ることもままならない状況ですが、住民に少しでも楽しんでもらい、活力ある町づくりを進めるため、合併した両町の職員が一つになって、その準備から運営に携わっています。
 仮装盆踊りでは、「今年の役場は何をやってくれるのか!?」という期待もあり、なかなか手を抜くわけにはいきません。約2週間前から企画構想を練り、仕事終了後、深夜まで製作を行います。当然、元気のでる水を飲みながらの作業となりますが、仕事外の作業は心身ともに疲れることは言うまでもありません。また、当初は、合併前の職員のみの作業でしたが、現在では、両地区の職員が積極的に製作や運営にかかわってくれています。
 イベントは、一夜限りですが、多くの住民が会場へ集い、ビールを飲み、焼き鳥を食べ、仮装盆踊りを楽しんでくれます。子どもたちは、奇抜な仮装に泣いたり笑ったり、そんな表情を見ると、準備にかけた疲れも吹き飛んでしまうくらい嬉しいものです。
 当日は、盆踊りのスタッフに加え、職員組合として屋台を出したりと大忙しの一日になりますが、住民とコミュニケーションを深める絶好の機会でもあります。

(2) 厳しい冬を乗り切るイベント
 豊富な海の幸、豊かな山々等、大自然に包まれた枝幸町ですが、冬は一転してその表情を変えます。11月には雪が降り始め、1月下旬からは流氷接岸により一面の銀世界、厳寒の季節が訪れます。
 この時期は、基幹産業である漁業活動ができないことから、水産加工業等の関連産業も一休みとなり、町はひっそりと息をひそめた状態になります。
 そんな中、厳しい冬を乗り切り、逆に冬を楽しんでもらおうと開催しているのが、「えさし流氷フェスタ」です。
 小さな雪まつりですから、もちろん観光客などおりません。住民が住民のために実施する地域イベントとして定着しています。
 会場への雪搬入など、1カ月前から準備が始まり、10日間ほどかけて、メインとなる雪像を製作します。札幌雪まつりのように とはいきませんが、役場職員をはじめ、商工会や小学校、サークル団体、警察署までが一緒に雪像を作ってくれます。
 この時期、夜間はマイナス10度以下にもなり、仕事後の作業は大変つらいものとなりますが、住民とともに、一つの目標に向かい作業を行うことで連帯感がうまれ、地域コミュニティの活性化に大きく貢献していると考えております。
  さて、イベント当日ですが、合併した両町職員の応援のもと、食べ物の屋台をだしたり、ジャンボ滑り台で子どもたちの相手をしたりと、私たち職員組合も大忙しです。
 たった4時間程度のお祭りですが、子どもたちも大人たちも絶えず笑顔で楽しんでくれることが、私たちの励みとなっており、長い準備期間の疲れをいやしてくれます。
 このイベントが終わるとともに3月の海明を迎え、町も一気に賑わいを見せ始めます。

 


(3) 「日本一」自慢のイベント
  前述した地域コミュニティ型のイベントに積極的に参加することによって、住民と役場の距離を縮めながら、今後の町づくりにつなげていこうというのが、私たちの目的でもありますが、地域外からのお客様を呼ぶための「枝幸かにまつり」も当町自慢のイベントです。
 「毛ガニ」の水揚げ日本一を誇るイベント「枝幸かにまつり」では、漁業関係者、商工業者、役場職員等、全町をあげてその運営にあたっており、まさしく官民一体となった協働イベントでもあります。
 道立自然公園ウスタイベ千畳岩を会場とし、毎年7月の第一土・日曜日に開催されますが、地元住民をはじめ、道内はもとより遠くは九州からもお客様が訪れ、その数は、人口の2倍を超える2万人にものぼります。
 会場内では、メインとなる毛ガニをはじめ、タラバガニのほか、枝幸で水揚げされる新鮮な魚介類などが格安で販売されるほか、できたてのカニ飯やカニ汁を味わうことができ、まさしく海の幸三昧です。何年も続けて訪れているリピーターのお客様が大変多いことからも、その人気ぶりが窺えるところです。
 また、かにまつりは、食べるだけのイベントではありません。歌謡ショーを楽しんだり、当町自慢の「よさこいソーランチーム~夢想連えさし~」の演舞等も観賞することができます。ちなみに、本年度の枝幸チームは、札幌で開催された第19回よさこいソーラン祭りで見事「大賞」に輝き、日本一の毛ガニの町から、日本一のよさこいソーランチームが誕生することとなりました。おめでとうございます!!
 さらに、食べる・見るだけではなく、参加型イベントとして人気なのが、「カニの早食い競争」です。最近は、各地で似たような催しを行っていますが、枝幸のカニ早食いは、43年の歴史を持つ「元祖早食い」ゲームと自負しております。
 このゲームは、1尾丸ごとの毛ガニを2分間でどれだけ多く食べることができるかという単純なゲームですが、トゲだらけのカニを食べるわけですから、そう簡単にはいきません。顔じゅうカニみそだらけにしながら、中には口を切って血だらけ?(注:そんなに危なくはありません。)になる参加者も。参加者よりも見ている方が面白い大変ユニークなゲームです。そのせいか、30人の募集に何百人もの人が行列をつくるほどで、運営側としては嬉しいような、困るような……複雑な心境でもあります。
 とにかく、小さな町にしては盛大なイベントですので、このレポートをお読みになられた方も是非一度「枝幸かにまつり」を訪れてみてはいかがでしょうか。

4. 住民と共に歩む行政の実現に向けて

 自治研活動と聞くと私もそうですが、非常に難しく堅苦しいことのように思えます。地域が抱える政策課題などについて、地域住民や市民グループと検討や研究を重ね、それを提案・実践する場等々……。活動先進地では、まさにこのような取り組みを行っており、相当の成果をあげているとも聞き及んでおります。
 しかし、数ある労働組合において積極的に活動が行われているかというと、私はそう簡単なものではないと思っています。現実、私たちの町でもレポートで紹介させていただいたような、地域コミュニティ的イベントに参加するのみで、政策課題等を検討する場や機会を設けることは大変難しいと考えております。
 特に合併した町にあっては、一つの町の住民であるという意識の醸成に数年はかかるのではないかと考えます。ですから、私たち合併した労働組合職員が、住民に積極的に溶け込み、お互いのコミュニティ活動に積極的に参加することによって、真の意味で自治研活動に取り組んでいく大きな契機になるものと思います。
 この十数年で社会情勢も変化し、私たち労働組合を取り巻く環境・住民感情も大きく様変わりしたと感じています。そのためには、組合活動はどうあるべきなのか、旧態依然の労働組合でいいのか、まずは基本に立ち返るとともに、組織全般を含め、大きく見直さなければならない時期にきたのではないかと思います。
 そして、先にご紹介したとおり、どこにでもある、ほんの小さなイベント活動ではありますが、今後も積極的に取り組みながら地域の活力を維持していくとともに、将来を担う子どもたちの笑顔を絶やさず、「合併してよかった」、「枝幸町は良い町だ」と声を大きくして言える、そんな活動ができればと考えております。