【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

 2009年8月22日に、糸魚川ジオパークは、洞爺湖有珠山(北海道)、島原半島(長崎県)とともに、日本最初の「世界ジオパーク」に認定されました。「ジオパーク」は、地質資源をはじめとする地域資源を活用した新しい取り組みとして、着実に全国的な広がりを見せています。本レポートでは、ジオパークとは何か、また、糸魚川ジオパークの世界ジオパーク認定までの経緯とその後の取り組みについて紹介します。



ジオパークによる新たな地域づくり
糸魚川ジオパークの世界認定とその後の取り組み

新潟県本部/糸魚川市職員労働組合 大嶋 利幸

1. 世界ジオパークとは

 世界ジオパークとは、ユネスコ(UNESCO、国際連合教育科学文化機関)が支援するプロジェクトで、すぐれた地質遺産や動植物、文化・産業遺産を保護して、教育・研究を行い、観光などを通じて地域振興に役立てることを目的とする活動です。
 ただ単に、地質遺産だけに注目するのではなく、すばらしい景観や貴重な動植物をはじめ、文化や歴史、さらには食べ物や温泉など、大地の上のすべてのものをまるごと楽しもうというもので、ジオパークとは、まさに、人と大地の関係を楽しみながら学習できる自然の公園と言えます。
 また、世界遺産は保全を最重要としており、地域振興を目的としていないのに対し、世界ジオパークは活用のための開発や整備、ジオツーリズムによる地域振興が明確に目的とされており、世界遺産との大きな違いとなっています。
 現在、世界ジオパークには、日本の3地域(糸魚川、洞爺湖有珠山、島原半島)を含め、21か国の66地域が認定されています。また、日本ジオパークには、上記の3地域を含めて全国の11地域が認定されています。
 日本ジオパークに認定されている地域は、世界ジオパークの3地域のほか、アポイ岳(北海道)、南アルプス(長野県)、山陰海岸(京都府、兵庫県、鳥取県)、室戸(高知県)、恐竜渓谷ふくい勝山(福井県)、隠岐(島根県)、阿蘇(熊本県)、天草御所浦(熊本県)となっています。(2010年7月現在)

2. 世界ジオパークを目指すまでの経緯

 地質学のことを英語で「ジオロジー(Geology)」、地形学のことを「ジオグラフィー(Geography)」と言います。「ジオパーク」という言葉は、地球や大地を表す「ジオ(Geo)」と公園を意味する「パーク(Park)」からなる造語です。
 この「ジオパーク」という言葉を、世界で最初に使い始めたのは糸魚川です。世界ジオパークの理念は、「地域の自然資源と文化資源を保護し、教育や研究等に有効活用する」というものですが、これとほとんど同じ考え方の構想がかつて糸魚川で作られました。それは、1987年に策定された「フォッサマグナと地域開発構想」です。この構想に基づき、フォッサマグナなどの地質資源を地域づくりへ活用するため、地質博物館の建設準備と地質見学地の整備が始まりました。地質博物館を中央博物館と、また、地質見学地を野外博物館としていましたが、1991年に市内にある重要な野外博物館を「ジオパーク」と呼び始めました。1994年には中央博物館であるフォッサマグナミュージアムが開館し、現在、糸魚川ジオパークの拠点施設としての役割を果たしています。
 このように、糸魚川ジオパークは、世界に先駆けて「ジオパーク」という言葉を使っており、ジオパーク発祥の地という自負を持って世界ジオパークとなり、さまざまな取り組みを進めています。

3. まちづくりの主要課題に直結するジオパーク

 糸魚川市のまちづくりの目標と施策の大綱を示す「糸魚川市総合計画」には、目標とする都市像として「翠の交流都市 さわやか すこやか 輝きのまち」が掲げられています。
 これを実現するために、健康福祉、教育、生活基盤、産業、生活環境、地域づくり・自治の6つの分野についての基本施策があります。世界ジオパークは、糸魚川市総合計画の6つの分野すべてに関わりを持っており、ジオパークの取り組みを進めることで、多くの分野への優れた効果が期待できます。
 このように、ジオパークは決して新たな取り組みではなく、糸魚川市がこれまで進めてきた各種事業を同じ方向に向け、より大きな効果をもたらす「新たな地域づくり」を進めるキーワードとも言えます。

4. 糸魚川ジオパークの特徴

  糸魚川ジオパークを「糸魚川-静岡構造線」が通ることによって、西南日本と東北日本の対照が明らかになっています。地質の年代幅は5億年以上におよび、日本列島の形成過程を示すことができ、まさに、糸魚川は「地質のデパート」と言えます。
 この多様なジオを分かりやすく来訪者に示すために、テーマをもった24のジオサイト(見どころ)を設定しています。糸魚川ジオパークの中にジオサイトがあり、ジオサイトの中にいくつかの見学地がある、という構造となっています。
姫川に沿う糸魚川-静岡構造線
糸魚川ジオパークの24ジオサイト


 糸魚川ジオパークの5つの大きな特徴を紹介すると、
① 糸魚川-静岡構造線が通る東北日本と西南日本の「境界のまち」であり、地質の差は、地形・生物・文化などの多岐にわたって影響しています。
② 日本海から新潟県最高峰の小蓮華山(2,766m)まで「大きな標高差」があり、これにより多種多様な生態系が生じただけでなく、人間の文化にも大きな影響を与えています。
③ 糸魚川の大地は、古生代から新生代まで、さまざまな時代の岩石でできており、最古のヒスイから約5億年もの「大きな時代の差」があります。
④ 糸魚川の大地は、火成岩・堆積岩・変成岩というように「多種多様な岩石」からできており、生物、特に植物の分布に大きな影響を与えています。
⑤ 古代におけるヒスイや蛇紋岩、近代の金鉱石、石灰岩、白土、レンガなど、「人間と大地の豊かな歴史」があり、世界最古のヒスイ文化では、糸魚川産のヒスイが使われています。

5. 世界認定後の取り組み

 糸魚川ジオパークでは、世界認定を契機として魅力のあるジオパークを目指し、世界ジオパークネットワークの理念に基づき取り組みを進めています。
 地域に住む市民や団体の皆さんと連携を図りつつ各種事業を展開する中で、ガイドの養成やおもてなしの心の醸成をはじめ、ハード・ソフト両面にわたる受入体制の整備を進めていく必要があります。
 以下、いくつかの取り組みを紹介すると、

(1) 市民・団体によるジオパーク関連事業
 糸魚川ジオパークの応援団として、糸魚川ジオパーク市民の会が組織されており、学習会やジオサイトの草刈りなどが行われているほか、ジオクーポン(ジオサイト連携型)の発行、JRと連携したジオパーク号の運転(JR大糸線・ジオサイトガイド付き)、また、糸魚川青年会議所が中心となって「24ジオサイトライスボウル(ジオ丼)」の商品化にも取り組むなど、市民・団体による動きが話題となっています。
学習会の実施
24ジオサイトのライスボウル(ジオ丼)

(2) 糸魚川ジオパーク協議会の事業
 ジオパークの運営母体である糸魚川ジオパーク協議会は、各団体・機関などの代表からなり、総務企画部会、ツーリズム部会、教育研究部会があります。多くの課題に対応するため、部会横断型のワーキンググループを設置し、緊急性の高い課題を検討しています。
 主な事業としては、ジオパークガイドの養成、糸魚川ジオパーク検定の実施、糸魚川ジオパークサテライトオフィスの開設(JR糸魚川駅前)、マスコットキャラクターの誕生、糸魚川ジオパーク大使の任命、ジオパーク切手・年賀はがきの発売、香港ジオパークと姉妹ジオパークを提携、また、子ども体験学習ツアーなども行っています。
糸魚川ジオパーク検定
マスコットキャラクター「ジオまる」と「ぬーな」

6. おわりに

 ジオパークの取り組みは始まったばかりであり、世界ジオパーク効果を検証するには、ある程度の時間が必要ですが、下記のような効果が期待されています。
① 糸魚川の名を国内外にアピールできる。
② ジオツーリズムにより、大勢の見学者が訪れる。
③ 郷土を愛し誇りに思う気持ちが醸成される。
④ 地質・自然系資源と文化系資源の連携により相乗効果が期待できる。

 効果の一例として、糸魚川ジオパークの情報センターである、地球博物館フォッサマグナミュージアムの入館者数は、昨年の認定直後から3月末まで、前年比で約1万人増加しています。また、ジオサイトを巡る定期観光バス「糸魚川ジオま~る号」(25人定員、11月まで土・日・祝日運行)についても、乗車率は認定前年の47%から59%へと増加しています。
 現在、日本ジオパークに認定されている地域は、まだ11地域(世界ジオパークの3地域を含む)しかありません。ジオパークの活動は今始まったばかりです。今後、ジオパークを目指す地域が増え、地方発の新たな地域づくりとして、多く地域で取り組まれ、全国どこへ行ってもジオパークに触れることができるようになることを望んでいます。
「ないものねだり」から「あるものさがし」へ
ジオツアーの様子